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第十話
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私が事前に連絡を、と言ったとおり、バルクォーツ女侯爵は使いの人間を走らせて、明後日訪ねるからと私へ伝えてきました。
私は店を片付け、語学の本だけでなく政治の本や歴史書を用意しておきました。どちらの国のことも書いてあって、どちらの国の言葉の本も揃えて、お茶も用意して、準備は万端です。
別に私は、バルクォーツ女侯爵に気に入られたいわけではありません。やましいことはしていないと認めてもらい、アスタニア帝国の市民権獲得のために悪い印象を与えないようにしたいのです。
そのためには真っ当な商売をしていると証明しなくてはなりません。わざわざ足を運んでくるのですから、向こうも収穫は欲しいでしょう。
そんな打算を弾きつつ、できるだけ穏便に済ませて帰ってもらうよう、私は気を遣います。
からんからん、と店のドアのベルが鳴りました。すぐにバルクォーツ女侯爵が一人で入ってきます。
「邪魔をするぞ。おお、床から天井まで本だらけだな!」
今日も変わらず凛々しいバルクォーツ女侯爵は、店の壁一面の本棚を見て、驚いていました。床に積んだ本はできるだけ少なくしたのですが、それでも店の半分は占められています。
「ようこそおいでくださいました。どうぞ、こちらへ」
私は椅子を出し、座るよう勧めました。
「ああ、気を遣わなくていい。しかし、思ったより本格的で、とてもカルタバージュに来たばかりとは思えないな。ここに来てどのくらい経った?」
「三ヶ月ほどでしょうか。カルタバージュの方々は偏見がなく受け入れてくださるので、とても助かっています」
「そうだろう、そうだろう。アスタニア帝国でもカルタバージュは栄えているほうだからな、帝都ほどどは行かずともしがらみの少ない都会の気風はあるだろう」
バルクォーツ女侯爵はご機嫌です。自分の街が褒められて嬉しいのでしょう。
実際に、カルタバージュは外国人の私でも住みやすい都市です。もっと排斥されるものかと思っていましたが、アスタニア帝国は広大で、どこから来たかなどあまり気にしないのです。私がワグノリス王国のアンカーソン伯爵家と縁を切ってきた元貴族の娘だ、などと言う必要はどこにもなく、誰も過去を掘り返そうとなどしない。私はもうすっかり、ワグノリス王国での出来事——婚約を破棄され、妹に乗り換えられたことなど、忘れかけていました。今の生活が楽しくて、どうでもよくなっていたのです。マギニス先生に言われたとおり、私は今一人で生きていくことができていると実感しています。
そんな私へ、バルクォーツ女侯爵はこんなことを口にしました。
「エミー、一つ提案があるのだが、私の使いとして古都エンリシュへ行かないか?」
私は店を片付け、語学の本だけでなく政治の本や歴史書を用意しておきました。どちらの国のことも書いてあって、どちらの国の言葉の本も揃えて、お茶も用意して、準備は万端です。
別に私は、バルクォーツ女侯爵に気に入られたいわけではありません。やましいことはしていないと認めてもらい、アスタニア帝国の市民権獲得のために悪い印象を与えないようにしたいのです。
そのためには真っ当な商売をしていると証明しなくてはなりません。わざわざ足を運んでくるのですから、向こうも収穫は欲しいでしょう。
そんな打算を弾きつつ、できるだけ穏便に済ませて帰ってもらうよう、私は気を遣います。
からんからん、と店のドアのベルが鳴りました。すぐにバルクォーツ女侯爵が一人で入ってきます。
「邪魔をするぞ。おお、床から天井まで本だらけだな!」
今日も変わらず凛々しいバルクォーツ女侯爵は、店の壁一面の本棚を見て、驚いていました。床に積んだ本はできるだけ少なくしたのですが、それでも店の半分は占められています。
「ようこそおいでくださいました。どうぞ、こちらへ」
私は椅子を出し、座るよう勧めました。
「ああ、気を遣わなくていい。しかし、思ったより本格的で、とてもカルタバージュに来たばかりとは思えないな。ここに来てどのくらい経った?」
「三ヶ月ほどでしょうか。カルタバージュの方々は偏見がなく受け入れてくださるので、とても助かっています」
「そうだろう、そうだろう。アスタニア帝国でもカルタバージュは栄えているほうだからな、帝都ほどどは行かずともしがらみの少ない都会の気風はあるだろう」
バルクォーツ女侯爵はご機嫌です。自分の街が褒められて嬉しいのでしょう。
実際に、カルタバージュは外国人の私でも住みやすい都市です。もっと排斥されるものかと思っていましたが、アスタニア帝国は広大で、どこから来たかなどあまり気にしないのです。私がワグノリス王国のアンカーソン伯爵家と縁を切ってきた元貴族の娘だ、などと言う必要はどこにもなく、誰も過去を掘り返そうとなどしない。私はもうすっかり、ワグノリス王国での出来事——婚約を破棄され、妹に乗り換えられたことなど、忘れかけていました。今の生活が楽しくて、どうでもよくなっていたのです。マギニス先生に言われたとおり、私は今一人で生きていくことができていると実感しています。
そんな私へ、バルクォーツ女侯爵はこんなことを口にしました。
「エミー、一つ提案があるのだが、私の使いとして古都エンリシュへ行かないか?」
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