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第1章 幽元師誕生

第4話 無敵の壁発動

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 997階、俺は目の前のモンスターを見据えていた。



「あれはやばいんじゃなくてです?」

「ああ、やばいだろうな」



 そこは寺院のような建物の中であった。

 等身大くらいの仏像が1体立っている。

 普通と違うのは腕が100本以上ある事だ。



 現在俺の右手には魂の剣となっている伝説のジャックが装備されている。

 左手には死神リナが死神の鎌として装備されている。

 衣服は剣豪のそれに変貌している。



 魂のオーラが全身からふわふわと漲る中で百本腕仏像はゆっくりとこちらに距離を詰めていた。



【百本観音というモンスターです。近距離より遠距離攻撃のほうをお勧めしますが】



「ああ、残念だな、俺は遠距離攻撃を覚えていねーんだよ」



【そうでございましたか】



 ゴーストの声はまるで嬉しがっているように意気揚々としていた。

 俺は地面を蹴り上げた。

 疾駆を発動させると、魔眼も発動している。



 百本観音のレベルは2300となっている。

 こんなのはありえない次元としか言えないだろう。

 冒険者はレベル10くらいの狩場で、スライムやらゴブリンを一生懸命倒し、ようやくレベルが20になったころには、洞窟の中で冒険したりする。



 俺はレベル2から現在200レベルとなっているわけで、冒険者が通る道を通り過ぎてしまっていた。



 地面を走り続ける。

 それは生き物が認識できないレベルに達し、音速を超えたころ。



 俺は100本の拳によって弾かれていた。

 後ろに吹き飛ばされながら、寺の建物を破壊しつくしていく。

 瓦礫の中俺は立ち上がった。



「やるじゃねーか」



 俺は埃をぽんぽんと払い落すと。

 魂の剣を百本観音に向ける。



「てめーぶち殺すぜ」



 俺は地面を蹴った。

 また疾駆を発動させる。地面を蹴り上げるスピードが跳ね上がった。

 その時また100本の拳により体が弾かれる。

 まるで防御されているかのようだ。



「しかたねー、ならこれなら」



 俺の目の前に展開したスキルは無敵の壁だ。

 無敵の壁というスキルは30秒間無敵になる。

 魂の剣をさらに巨大化させると、ぶんぶんと振り回して。



「これで、しめーだ」



 またもや疾駆を発動させ、百本観音の至近距離に到達した。



「へ、おわりだぜ、無敵斬り!」



 百本の拳が飛来する。

 しかし無敵効果により全てを弾く、俺は巨大になった魂の剣でもって、百本観音をめった刺しにしている。



 無敵の壁は魂の剣にも作用されていた。

 さらに死神の鎌にも作用され。

 圧倒的に死神の鎌が百本観音の寿命を削っていった。

 そうして消滅したわけだ。



 あとはお決まりの報告が始まる。



【モンスターの魂を喰らいました。経験値5倍の効果が発動します】

【おめでとうございます。レベルが300になりました】

【百連撃:百回連続攻撃を行うを覚えました】

【剣術レベル250になりました】

【跳躍レベル300になりました】

【度胸レベル1000になりました】

【防御力レベル200になりました】



==========

996階=900階

==========



 幽霊の状態となった伝説のジャックと人間の姿となった死神リナが後ろから付いてくる。

 俺はゴーストの声を頼りに階段を上り続けていた。

 このダンジョンの最上階に到達する事が出来れば、きっとそこには俺という人間は原型もなくなっているのだろう。



 きっと何か別のリュウフェイになっているに違いない。

 しかし今はそんな事を考えている暇はない。

 ひたすら階層を上っていくことが、今の俺に出来る事なのだと思う。



「何か振動しませぬか、リュウ殿」



「なんか揺れてるわね」



「ああ、念のためジャックは今のうち喰らっておく」

「御意でござる」



「わても武器化しておきますかな」

「そうしてくれると助かるリナ」



 光がぱっと輝くと、右手には長大な剣が装備され、左手には漆黒の鎌が握られている。

 階段を登りきると、いつもの大きな扉が現れた。

 扉をゆっくりと開くと。その光景に絶句した。



 まずダンジョンとは1階とか2階とかに区切られているものだと思っていた。

 そこは今も振動が続き、建物を変形させていた。

 太陽もないのに青空の下にいるかのようだった。

 なぜか雲まで浮いていた。



 空というか遥かな天井には無数の鳥のモンスターがいた。

 その広さはもはや壮大としか言えず。



【どうやら996階から900階まで融合してしまったようですな、このダンジョンはまるで生き物みたいです】



「ゴースト、ここのモンスターは全部倒す必要はあるのか?」



【はい、全て倒さねば次の階層にはいけませぬなぁ】



「だが俺は空を飛べん」



「そんなことならわてにまかしんしゃい」



「リナ出来るのか」



「伊達に死神やってないわよ」



【死神の翼と言った所ですかな】



「じゃあ、行くわよ、死神翼モード」



 死神リナの声を聞きながら、俺の背中には黒い翼が生えていた。

 左手に装備していた死神の鎌は消滅しており、全ての力を俺の背中の翼に集中しているようだ。



「さぁ、飛翔してみなさい、リュウちゃん」



「そのリュウちゃんという呼び名はやめてくれ」



「あら、意外といいものかと思ったけどね」



 頭の中に新しい神経系が生まれたような、不思議な感覚を味わっていた。

 背中の翼が体の一部分となり、俺はゆっくりと空を飛翔していた。



「そんなスピードじゃ、空を支配できないわよ、リュウちゃん」

「はいはい」



 空をイメージする。

 小さい頃から空を飛翔する鳥を見てきた。

 彼らが支配する空は自由そのものだった。

 しかし天敵はどこにでも存在している。



 飛翔スピードがぐんぐんと跳ね上がっていく。



【現在980階の高さです、現在970階の高さです、現在940階の高さです。モンスターは無限竜でございます。全てで20体おりますので、ちなみに1体レベルが3000を超えておりますので】



「ああ、わかってるさ」



 俺は魂の剣を展開させると、左手には魂の盾を装着していた。



 1体の無限竜に激突する寸前で、盾を前に突き出した。

 盾は無限竜の頭を破壊して、消滅させた。

 他の無限竜が咆哮を発すると、俺は右手に握りしめている魂の剣を振り回した。

 背中にある死神の翼で上手く空を飛翔し続ける。

 まるで風と親友になったような不思議な感覚を感じさせてくれる。



 魂の剣は次から次へと巨大な無限竜を倒していく。

 無限竜は1体一軒家が2軒合体するような感じだ。



 最後の無限竜に止めを刺したとき。それは起きた。



「すごい魂が来るぞ」

「ジャック、それはどういうことだ」



「言葉のままだ。これは次元を突破してくる」



 なぜ無限竜なのかその時ようやく理解した。

 空間に巨大な切れ目が出現すると。

 次から次へと無限竜が現れる。

 そも無限かと言えるくらいの量のモンスターがこちらの世界にやってくる。



 20カ所に亀裂が生まれ、20カ所からモンスターがわき続ける。



「これってさ倒した無限竜から無限に発生するのでは」



【その通りでございます。奴らを倒すには1度に全てを倒す必要があります」

「それこそ無茶な話じゃないか」

【あなたはこれまで沢山の魂を喰らいました。経験値となる他に力となる事を学ぶのです】

「ゴーストの声、分かりやすく教えてくれ」

【つまりあなたには使っていない魂がるのです。それを使いましょう】

「ああ、なんとなく、なんとなくだけど分かるよ」



 辺りを支配する無限竜達の群れ。

 俺は絶望に暮れる事なく、ひたすら思考をつづけた。

 これまで数体のモンスターを倒し魂を喰らってきた。

 それは経験値となったりスキルとなったりする。

 だがその魂は使い切っていないという。



 まてよ今まで喰らった魂を伝説のジャックに与えたらどうだろうか。

 そしたら、ジャックは最強になるのでは。



「伝説のジャック、魂を喰らえ」

「御意」



 伝説のジャックは一瞬にして俺の体内にある魂を喰らってしまった。

 その魂たちは今まで吸収してきた魂だ。

 そこにはハデスの魂でさえある。



 心臓がばくんと脈打った。

 伝説のジャックが強大になっていく事が、体を通して感じる。

 次の瞬間イメージしていた通りの魂の弓が完成していた。



「わしは、弓も出来るでござるぞ」



「ああ、ぶっ放そうぜ」



 矢は使い捨ての魂の力。

 狙いを定める必要はない、全てはジャックがしてくれる。

 俺はただ弓を引き絞り、解き放つだけ。

 無数の矢が飛来した。

 その数は数万本を超えている。



 気づいたその時には無限に出現している無限竜の全てに矢は突き立っていた。

 同時に無限竜が蒸発していく中。

 俺はほっと一安心した。



【モンスターの魂を喰らいました。経験値5倍の効果が発動します】

【おめでとうございます。レベルが500になりました】

【増殖:自分の体を増やす事が出来るを覚えました】

【死神シンクロ率50%になりました】

【死神リナはレベル400になりました】

【伝説のジャック:魂レベル200になりました】







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