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第13話 人生初の筋肉痛

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 人は生きている時、必ずと言っていいほど、筋肉痛になるものだ。
 だが、この俺こと脱力賢者は人生において筋肉痛になった事がない。
 ラガオを倒した後、俺は気絶した。その後目が覚めた俺は。

 色々と考えたりしたものだが、考えるより体が動いていたのだ。
 次から次へと突き出される鬼のような課題または復活条件。

 俺はゴッドスライムのティナちゃんの優しい笑顔を見たい。
 俺はダークエルフのルルちゃんの大人な女性の微笑を見たい。

 その気持ちの中で、俺はそこに呆然と倒れていたのだ。

「どうしたのですの、いったい、この水たまりは、これは汗なのね、ビンプはやく来て頂戴、ラファリアル様が大変なことに」
「これは、これは」

 俺の意識はちゃんとはっきりと覚醒していた。
 しかし俺がやらねばならない課題はまだクリアしていない。
 なぜならば、今回の課題はありえないからだ。

 俺はビンプに運ばれて【平和の広場】にやってきている。
 建物がちらほらあり、俺とかセセラギやビンプが暮らしている。
 ダンジョンモンスター達はほとんど自由だが、侵入者が入ると、モンスター達は強制的にダンジョンへ召喚される。

 だが今の平和の広場は物音ひとつしないほど静かであった。

「まったく、無理はなさらないでください」
「それにしても体が動かんぞ、動かずと滅茶苦茶痛いんだが、これは何だ。未知の感覚だぞ」

「まったく、あなたは筋肉痛も分からないのですか」
「それは気持ちよい痛みなのか」

「違いますわよ、生き物は動けば筋肉が破壊され、また再構築される。その時の痛み等らしいけど詳しい事は知りませんわ、そういうのは医者にきけですわ」
「すれはすまない、それにしてもダンジョンボスを復活させる課題はありえないね」

「どのくらいなのですわ」

「ティナちゃんが腹筋10000回でルルちゃんが腕立て伏せ20000万回ね、やっと半分てとこだ」
「あなた死ぬわよ」

「はは、こんなにめんどくさいと思わないのは久しぶりなんだ。ティナちゃんもルルちゃんもその他のモンスター達も早く復活させたいんだ。神殿の復活項目はとても厳しいけど、その後に待っている祝福を考えると、やる気が出てくるんだよ」
「あなたからそのような人間らしい言葉を聞けるとは、案外接して見るものね」

「じゃ、とりあえず、筋肉痛だろうが関係ないんだよな」
「ちょ、まってくださいの、それ以上やると体が崩壊しますわよ」

「男にはやらなくてはいけない時がある。きっと師匠はこういう時にやれという意味で言ったんだな」

 俺はセセラギの静止とビンプの静止を払って、一歩一歩と体中の筋肉が悲鳴を上げて行く中、開けた場所で腹筋を始めるのであった。

 腹の筋肉が悲鳴をあげる。まるで筋肉の繊維が踊っているようだ。
 踊り狂った繊維が何かに再構築される。
 破壊と回復を繰り返す。

 いつしか痛みが気持ちよさになってくる。
 あっちのほうに目覚めた訳ではない。

 汗を流し続けていた。
 だが不思議と体の温かみは消えなかった。
 水分が足りなくなればそれは脱水症状になる。
 しかし水分は足りなくならなかった。

 後ろを振り返ってみると、セセラギが俺に向かって回復魔法をひたすら付与してくれていた。

 回復魔法は細胞を活性化させ、水分を空気中から肉体へ取り入れている。
 なので脱水症状になる事にはならない。

 ひたすら腹筋を続ける。
 内臓がかきまわされている感じがする。

 普通なら死んでいる。
 そう仲間達はもう死んだ。
 しかし神殿が俺に自然の摂理を破壊させた。
 
 使者は蘇るのだから。
 厳しすぎる条件が整えば。

 そして俺はそこに至る。

 俺の眼の前に神々のような光を発している1人の幼女がいた。
 両足と両手がぶよぶよしているスライムであり、ティナちゃんはこちらを見てにかりと笑ってくれた。

「お兄ちゃん、復活させてくれてありがとう、もっとがんばるね」
「ティナちゃん」

「でも、大丈夫? すごく疲れていそうだよ」
「そうでもないんだ。ただ。よし、次いくぞ」

 それから腕立て伏せも同じ要領で繰り返し。
 
 俺の眼の前に出現したルルちゃんは、相変わらず大きな胸と大きなお尻の持ち主であった。

「あらまぁ、これはぁ、死んでいたのですわねぇ、復活させてくれてありがとぅ」
「いいってことさ、よし、他の仲間達も」

 その後、数日をかけてあらゆる課題をクリアしていった。
 結果、死亡した仲間のモンスター達は全部が復活した。
 全てのモンスター達はいつもの生活に戻るだけだ。
 平和の広場でわいわいして、ダンジョンで遊んだり、まだ封鎖中だから冒険者はこないけど。

「そろそろ神殿以外にも設備をちゃんと整えたいのだが、そこで働く要因も必要だし、きっとダンジョンブックにあるだろうからなぁ」
「そうですわね、ですが、あなたはやらなければならない事があるのをお分かりですか?」
「なんだね?」
「筋肉を越えて全身の細胞が引き裂かれ、一歩間違えれば死ぬところでしたのよ、わたくしが、回復魔法の達人だから良かったですけど」

「ああ、あれは凄く助かったよ、ありがとなセセラギ」
「もう、仕方ありませんわねぇ、次は無茶しないでください」

「その保証はないかもしれないが、善処するよ」
「そうですわよ、このダンジョンがなくなるとわたくしの居場所がなくなるのですわ」

「へぇ、セセラギの居場所になってるんだね」
「そうですわよ、きっと父上はどこかで生きている。そう信じ、わたくしはあなたの所でわいわいとするのですわ」

「それはそれでいい幸せだな、俺はぐーたら出来るし、いっそのことこのダンジョンを経営してみない?」
「それをあなたが言いますか、ここはあなたのダンジョンですよ」

 その時、俺は心の中に暖かい気持ちが芽生える事が分かった。 
 無暗にモンスターを殺害する事が違うのではと述べた。その結果勇者パーティーを追放され、冒険者ギルドからも追放され、王国からも追放された。

 俺に暖かい気持ちを抱かせる何かが消えていた。
 そして俺はこのダンジョンで暖かい気持ちを掴んだ。

 その時だった。

【緊急事態です。ダンジョンの外に大勢の冒険者がいます。その数30を超えます】
「封鎖してるから大丈夫なのでは?」
【それが封鎖を解く魔女を見つけたようで】

「その魔女って」
【はい、あなたの記憶にある大事な人、ジェイクス王国の宿屋でコック長をしているテテニカ様です】

「何気に人の情報を調べるなよ、おめーは探偵か」
【あなたが夢で見ている映像です】

「おめーはひと様の怠惰な夢を見るのかよ」
「そのテテニカとは誰なの」

「てかダンジョンの声聞こえんのかよ」
【ええ、彼女はダンジョンマスターの補佐ですので】

「洒落にならんわ、テテニカを助ける方法はあるか」
【色々と騙されている模様です、ここに来ればあなたと合えると】

「てかジェイクス王国は俺がここにいる事知ってんのかよ」
【おそらくこの前の冒険者が数名戻っていますがあなたを目撃したのはラガオと数名だけです】

「それもろもろ聞きてー事あるから、招待してやろうぜ」
【あなたは戦える状況ではありません】

「あちらがダンジョンのルールを破るのだからこちらもダンジョンのルールをやぶるのみ、全てのモンスターをあのラガオのせいで崩壊した闘技場に移動させろ、もちろん冒険者30名もだ。テテニカの力で封鎖が解かれる前に準備するぞ」
【了解しました。テテニカ様がダンジョンの封鎖を解除したら即座に闘技場に移動させます。それまでにティナちゃんとルルさんを上手く説明してやってください】

「わたくし2人を呼んできますわ」
「そうしてくれ、俺は動けねー」

 俺の頭の中では色々な事が脳裏をよぎった。
 あのテテニカにダンジョンの封鎖機能を解除する力がある。
 そもそも俺もダンジョンに封鎖機能があるなんて初めてしった。

 ダンジョンにも事情はありそうだが、俺が特別なのかもしれない。
 その特別なダンジョンの封鎖を解除してしまうテテニカは何ものなのだろうか。

 俺はティナちゃんとルルちゃんが入って来るのを見てにやりとほくそ笑んだ。

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