死神が合理的に魂を狩る物語

MIZAWA

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2話リュウシンの過去

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 死神になって何を後悔したことがあるのだろうかとふと考えていたことがある。

 それは当たり前なことだった。

 人の魂を狩るとき狩り終わったらその記憶が消えると神様に言われた。

 神様は全身が光っている光人間だ。

 それが神様だと思うかは君次第だといわれた。

 死神歴でまだ入ったばかり、最近生徒をもつようになった。



 一人は聖徳太子の生まれ変わりのロフト。

 二人目がジャンヌ・ダルクの生まれ変わりのネリル。

 死神には過去の記憶が一切ない、ロフトやネリルのように思い出すことはある。

 だがリュウシンはまったく思いだせなかった。

 覚えているのは死神として誕生したことだ。



 この世界には天性というものがある。

 一般は幽霊から死神訓練をして死神になる。

 だがリュウシンは幽霊にならず、死んだ瞬間死神となった。

 それだけは覚えている。



 だがなぜ死んだのかは分からない。

 それでも胸をはって二人の少年少女たちに自分は正しいことをやっています。

 といえるのだろうか?



 人の魂を狩、その記憶がない、他の死神たちも同じだった。

 人を狩るとき骸骨の仮面をつける。



 その骸骨の仮面に不思議な力があるのではないだろうかと疑心暗鬼したこともあった。

 現実世界で生きている人たちは、毎日を一生懸命いきていることだろう。ごくまれに、寿命を通り越して生きている人がいる。または不正なスピリットマネーのやり取りがあったらそれを捕まえるのがスピリットポリスの役目だ。



 だが違反して長生きしてしまった人を殺すのが、死神の仕事。

 リュウシンは巨大なビルの屋上でうずくまっていた。

 心に恐怖がやってくる。

 人を殺す。



 そうネリルとロフトを殺したように。

 殺したことは覚えていない。

 神様が特別に、この二名だけは教えてくれた。

 リュウシンは涙を流す。過呼吸になる。



 今日のターゲットは家族を大事にするお母さんで、一人娘と一人息子を育てている。

 父親は殺されたそうだ。

 殺害容疑でつかまったのはおやじ狩りをした少年たちだった。

 妻はただ涙を流して死にゆく夫を見ていたのだろう。



 その二人の子供のいる母親を、今日は自分が、この手で殺すのだ。

 嗚咽が紛れる。

 自分がやれば必ず死ぬ。

 そして見逃せば、神が自分を殺す。



 それが掟、涙をぬぐって、腰にさしてあるのは巨大なブラックシミターだった。

 円を描くように少々曲がったシミターを構えると、屋上からジャンプした。

 風は冷たく、今が春ごろだと悟る。

 六階のベランダにひっそり到達する。



 足首には痛みはない、あるのは心の痛み。

 死神にとって天敵とは悪魔たちだ。

 そのほかは天敵になりえない。

 死神はガラスの壁をすり抜ける。



 死神には肉体がない、あるのはスピリットマネーという塊だ。

 すやすやと眠っていたのは子供二名だ。

 母親は椅子に座って家計簿を計算していた。

 ようく見ると、顎に手をあてて眠っている。



 口許から涎が流れていた。

 大きな口にお風呂後なのだろうか髪の毛がつやつやしていた。

 とても寂しい。

 シミターを構え、思いっきり首を両断したはずだった。



 気づいたらベッドにいた。

 目をこすってベッドの横においてあったシミターを見て涙を流す。



「また仕事したのか、ご苦労さん自分」



 記憶はない、だけどわかるのは一人の魂が狩られたということだ。

 涙は流れない、何に共感していいか分からない。

 朝は二人の弟子を育てて、夜になるとまた仕事がくる。



 リュウシンは椅子に座っていた。そこには二人の少年少女たちの姿はなかった。

 一通の手紙、そこには狩る人の名前が書かれてある。

 また心が苦しくなる。

 自分は、自分は本当に死神として戦っていいのだろうか。

 苦し紛れの悲しみの感情が、自分を奮い立たせる。



 なぜ悲しいと奮いたつのか、リュウシンでもわからないことであった。



 今日の狩る予定の人は、まだ小学生の男の子だった。彼は双子で片方が弟だ。弟はスピリットマネーが膨大にあって大丈夫、だが兄のほうはスピリットマネーがオーバーしていた。不正を働いたわけではない、膨大な弟のスピリットマネーが兄に伝わっている。これは違法ではない、しかしほおっておけばいたるところから魂を吸い上げる危険があった。

 なのでその少年を狩ることとなった。



 現在小学校で授業を受けているターゲットは元気よく手をあげては先生に関心させられていた。

 死神は普通の人の目では見えない。なのでぶらさがりながら彼の授業の受け方を眺めていた。



 リュウシンは涙が流れてくる。

 あの笑顔は今日で終わる。

 今日から弟の笑顔はないかもしれない、なにせ兄が突然死するのだから。

 頭の魂を体から両断することで生命維持がとぎれる。



「僕の夢、たくさんのことを勉強して消防署で働いて、たくさんの人を助けてあげたいです」



 と元気強く子供が叫んだ。

 みんなが拍手して次の人が夢を語る。

 君の夢は今日で終わる。

 すべての授業が終わるまで、リュウシンは彼の活躍ぶりを見ていた。

 悲しみはなくなり、彼が家に帰る途中を狙った。

 彼はこちらを見た。

 普通の交差点だ。

 彼はこちらを凝視した。



 カラスのようなマントをはおって帽子をかぶったリュウシンに気付いた。彼は普通に歩いていた。こちらに近づく。

 あともう少し、あともう少し。

 そして触れ合った瞬間、記憶が消えた。



 目がさめるとそこはとても鮮明な景色だった。オーロラのような空は不思議とここが日本ではないようだった。

 だがあたりを窺うと、どうやら日本人しかいなかった。

 ここはおそらく日本のどこかだろう。

 リュウシンはあたりを窺う。全員がオーロラを見て涙を流しながら嗚咽をかみしめていた。

 そこには神様がいた。彼はこちらの隣にやってきた。



「さて、君はノルマをクリアした。次のステージに行こう、二人の子供たちは生まれ変わった。彼らなりに修行をした。スピリットマネーも百年はいけるほどたまった。普通は八十だがな、この二人は才能があった。しかも死神になるという夢を抱いた少年は現在も死神のことを半分しか忘れていない。さて、これから君はまたというが次のステージにいく」

「なにをやればいいのですか? 神様」



 神様の全身は光り輝き、人間のシルエットしか見えないし、男なのか女のかも分からない、男説のほうが広まっていた。



「君を人間界に追放する」

「えええええ?」

「君は今日から放浪死神として働いてもらう」

「はぁ」

「なんだねその元気のない返事は」

「はい」

「元気良すぎ、つば飛ぶから」

「どっちやねん」

「まぁまぁ、君に与えられた任務は、百人の魂を狩れ、合理的に魂を狩る許可を与えよう。君が問題あると判定したら殺せ」

「まちがったらどうすれば?」

「それはない、お前の脳に分析脳を付与しておいた。これで死神界で人々を分析している人の力まで君は手にいれてくれた。これで神様として少し負担が減るわい」



 リュウシンはにこやかに笑って、幽霊状態となりながら、街を徘徊していた。

 誰にも見られることもなく、誰にもその姿を認識されず。幽霊のように徘徊するしかない。

 ふと気づいた。

 そうだ。そうだ。



 と自分に言い聞かせた。腰には相棒のブラックシミターがつけられている。

 これはチャンスなのだとこの死神という人生によって楽しいと感じられることが一つだけある。そうロフトを助けよう。ロフトを死神にしてやろう。

 彼の夢は死神なのだから。



 ロフトがこっちを見てにこりと笑う、そんな気持ちになりたかった。

 なぜネリルがでてこなかったのか、きっとロフトを追えばネリルは近づいてくる。

 そんな気がした。

 リュウシンは涙をぬぐった。

 ある建物にはいる。アパートの建物で二つの部屋にロフトのお父さんとお母さんがいた。ふたりとも仲睦まじい関係のようだ。



 赤子のロフトを見た。

 彼は薄くなっている髪の毛など気にもせず、よちよちと歩いていた。

 リュウシンはただひたすら彼が成長していくのを見守った。

 百の魂を狩るのは制限時間がないため三百年でも放浪するつもりだ。

 だがリュウシンは七年近く少年を見守った。

 幼稚園に彼が入ったとき、ロングヘアーのとてもかわいい女性と恋に落ちた。



 そのときのロフトは彼女がネリルだと気づいていない。

 ネリルもロフトを認識しておらず、恋はロフトの一方通行だった。

 ロフトの異変は少しづつ生まれてきた。

 まず幽霊が見えるようになってきたようで、死神の自分も見えているようだった。



 毎日見守るだけのリュウシンを幸運の死神と思ってくれたこと。

 なにより彼にはリュウシンの記憶が少しだけ残っていた。

 それでも話すまでは能力開花していなかった。

 だからただぼんやりとロフトを見続ける死神が見える程度であり、放浪の幽霊を見て、笑っていた。



 放浪の幽霊は、スピリットマネーがたっぷりあるのに死んだ人が、残ったスピリットマネーを使うために幽霊となり放浪した地縛霊となる。

 彼らを即座に救うためにはリュウシンのような死神の道具にて殺すこと。今のリュウシンにとってその幽霊は宝そのもの。



 その宝とは放浪の幽霊の魂なのだから。

 だがリュウシンは本来の役目を思い出す。

 ロフトを見守る。そしていっぱしの死神にしてやる。

 それが死神リュウシンに与えられ夢だった。

 いつしか幼稚園児から小学生になった。



 ロフトの父親がとてもサッカーが上手くて、教えてくれるそうだ。

 どんどんとサッカーの技術を飲み込んでいく、すると回りでもロフトは有名となった。

 サッカーのうまい小学生といえば自分と数名があがったほどだった。

 その名誉にあだ名す敵がいた。

 それは嫉妬だった。



 ロフトの友達が突然裏切る。

 ロフトはそれが当たり前だと思って、その裏切りを正当化してしまう。

 たとえば、近道しようと誘った友達が穴に落ちる。それを助けると、全部お前のせいだという、ロフトは頷きその子の靴の汚れをジャンバーでふくと、その子の母親に謝りに行く。



 ロフトはそれが当たり前だと思った。

 死神は、友達をぶち殺そうと思った。

 この手でぶち殺そう。



 だがそんなことをすると自分も神様に消されるのでできない、スピリットマネーはじゃっかん少なかった友達を見逃した。

 ロフトは泣きもせず、それが当たり前なのだと思いこんでいた。

 いわゆる人がいいといわれるようになるロフト、ロフトはすぐに言いくるめられる。お人よしだった。



 死神リュウシンにとってロフトは宝の子であった。

 彼が悲しめば、多少なりとも嫌がらせをその友達に与えていた。

 その痛みがロフトの痛みだと教えることはできない、だが彼等は何かしらの報復を受ける、ロフトの意志とは関係なく。



 ロフトはひたすらサッカーをしていた。

 サッカーがすべてだった。

 だが勉強もまぁまぁできた。

 勉強が嫌いなわけではない、サッカーが好きだったのだろう。



 死神はそこまで観察して、自分はそろそろ必要ないかな? 

 と思って去ろうとすると、こちらを凝視しているロフトと出会った。

 目の前にいるロフトは死神を指さしてつぶやいた。



「あなたはリュウシン殿ですか?」



 ここまでくるのに何年待った?

 ずっと見守った。

 涙が枯れるほど泣いた。

 少年はにこにこしながら死神を指さす。



「僕の遠い先祖ですか?」

「まぁそんなところだ。死神リュウシンと呼んでくれ」

「なら友達になってください、初めての友達」



 そのことを聞いて絶句した。

 ロフトの回りにはたくさんの子供たちが群がる。

 よく群がり、誰と遊ぼうと、誰と遊ばないとそういった取捨選択が難しく喧嘩になることがある。



 時にはロフトが遊びに誘っても断られることがあるが、別の仲間に入ることもある。

 だが彼はそこに、そこに、彼の友達は一人もいなかった。



 そこにいるのは同じ人間という肉体をもった入れ物たち、少年は彼らを友達だと思ったことは一度もない。

 そして死神リュウシンこそが友達だとわかっていた。



「そう、そうだよ、そう、おまえとえぐっ、前と俺は友達だ」



 死神は初めて涙が流れた。

 頬をこすっても涙は止まらない少年はハンカチで死神の頬をぬぐってくれた。



「触れる?」



 この時初めてリュウシンは驚愕した。



「お前、俺に触れるのか?」

「うん触れる。覚えているよ夢の中でやってきたヒーローリュウシン先生って呼んでた。友達だけど先生だね」

「そうだな、その前にロフト、一回目をつぶってくれ」

「うん」



 その瞬間、四方には悪霊が湧き出ていた。その数三十。

 幽霊のほうまだましだ。悪霊は幽霊を食べて成長する。共食いで動物に多い、たまに霊力が高い人、つまりスピリットマネーが高いものを食べる習性があり時には人をくらうこともある。ここは町中なのだけど一通りが少ない、それを狙っていたのだろ。



 彼等は無言のまま飛び上がった。

 一瞬でそこにいた悪霊は蒸発した。

 沢山のスピリットマネーが死神ではなくなぜかロフトに吸収された。

 一体?



「なんか力が湧き出る」



 死神リュウシンのほうにはスピリットマネーが入らないため、百個の魂にすら該当しなかった。だが明らかにロフトのスピリットマネーが跳ね上がった。

 目をこすった。普通に百歳は生きられるマネーだった。



 少年はいろんなことを語ってくれた。語りながら悪霊がよってくるので片端から抹殺した。どうやら死神というスピリットマネーがでかいのと、少年なのにとんでもないでかさのスピリットマネーがぶつかりあって悪霊を集めているようなので、神社の片隅で語り合った。神社にはスピリットマネーを無効化する力があり、スピリットマネーの塊でくらうことしかしない悪霊は近づけない、ただし幽霊にはたまり場となっている。



 幽霊たちも悪霊に食われたくないのだ。

 なので少年と語り合いながら、大勢の幽霊たちが爆笑していた。



 少年が語ると、漫才でもしているかのようにリュウシンが突っ込むので、それを聞いた幽霊ども、おもに爺婆たちだった。たまには子供もいたけどこちらを怖がって近づいてこない。

 ロフトはにこりと笑ってみせると、此方を見た。



「それでリュウシン先生はあの世での僕のことを覚えてくれた。僕は半分だからとても大切な女性のことを思い出せない、でも先生は覚えていた。僕は死神になる。先生ご指導のほどを」

「そうだな、青年になるまでいまの環境でがんばって生きてみろ、生きることができたら、それから特訓だ」



 少年はにこりとほほ笑んでいた。




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