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魔王逆襲の章

17話民衆結束

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 嵐の国の首都でメイド長のメイーヌはてんてこまいだった。
 宰相であるムルネは嵐の国の街という街、村という村に兵士募集を掲げた。
 兵士はあっというまに集まった。


 あとは訓練方法だが、これは勇者が残していった訓練方法にすることとなる。

 数日がたち、兵士たちはいっそうたくましくなる。
 その光景をみながらメイーヌはほほ笑み、彼らにおいしい食事を届けるのであった。


 最強兵士 1000名
 レベル500
 スキル【武器強化】【防具強化】【竜巻斬り】【バックステップ】【鬼の形相】【奮闘】【上級魔法】【コンビネーション】


 彼等のステータスは異常といっていいほどの強さになった。


「は~い、三番テーブル肉焼きね」
「は~い、五番テーブルデザートよ」


 とたくさんのメイドたちは東の海岸にて食事を提供していた。


「俺も戦うんだ!」


 と怒声が聞こえてきた。見張り兵が一人の子供をつれてくる。見たところ十歳くらいだろうか? メイーヌはほほ笑んで見つめていた。


 最強兵士長であるビクは巨大な盾をもち巨大な鎧をつけ、クマのような巨躯だった。
 彼はにこりとほほ笑んで子供のもとにいく。


「坊主、父ちゃんと母ちゃんに心配かけるだろう? ここは潔くぼくたちに任せてみないかい?」
「そんなのわかってるんだい、俺は俺の祖先に戦わせる!」


 とメイーヌもビクもわけの分からない声を発する。


「俺の一族は代々ゴーストマスターをやっている。父ちゃんが病気になって昨日死んだ。死んだのは運命でその力を俺にくれた。それが」

「ゴーストマスターだって?」


 とそこに突如として現れたのはムルネだった。彼はこちらにやってくると、にこりと会釈する。


「隊長、その子はわたしがあずかろう、ゴーストマスターこっちにきてくれ、テントの中だ」
「うん、おじちゃん」


 メイーヌは気になったので一緒に歩き、ビク隊長も気になっているのか一緒に歩きだした。
 テントの中は瓶やら飲み物や薬がたくさん貯蔵されている。
 

「少年、名前は?」
「チャコブだ」
「何歳だ?」
「十歳くらい」
「なぜくらいなのだ?」
「ゴーストとシンクロするのに意識世界で五十年を過ごした」
「ふう」


 ムルネは額に冷や汗をかいている。


「どうやらおぬしは反逆王の子孫のようだ」
「宰相、それはどういうことなのですか?」
「メイーヌに、ビクか、いまから語ることは他言無用だ」
「はいです」
「うむ」


「遥か昔、嵐の国では腐った王が登場した。最近までのこの国のようなものだ。それを反逆王が王を殺し、その息子を支配しながら国を乗っ取った。そして国は反逆王のものとなった。だがそこに先代の勇者様があらわれ、反逆王を退治し、正当なる血筋の王家に戻した。という歴史があるのだ」


 メイーヌとビクは冷汗をかきながら。


「このことは勇者様には?」
「もう伝えてある。あの方はこの世界にきてまだ日が浅かったからな。そしてチャコブとやら、お主は現在この国の王家へと一番近い人だ」
「うん、わかってる。意識世界でたくさんの祖先に言われた」
「ならはやい、我らが王になってくれるか? このことは勇者様から許可をいただいている。現在、この国は勇者に乗っ取られている形だ。だがあの腐った豚が王になるより血筋を探せと密命で指令されていた。どうやら腐った豚王には血筋がない、あるのはあなたのみ」
「我が祖先は先王の弟だったそうです。それが反逆の王となる。俺にまかせてよ、おじちゃんたちとおねえさん」
「わかるわねぇ」


 とメイーヌがほほ笑むと。


「きた」


 と反逆王であるチャコブはつぶやいた。



   ――チャコブ【反逆王】――


 突然、チャコブの全身がまばゆく光る。意識をすべてに通す、兵士1000名にその他200名くらい、全体に意識と呼ばれるゴーストをとばし意思疎通を図る。


【みなさん、魔王が東の空から三体きます。みなさんは戦いに備えてください、これだけはわすれず一人で一つの世界を亡ぼせます】

【こ、これはなんだ。体のなかが透き通るような】
【ムルネおじちゃん、おじちゃんたちにあるゴーストと通信してるんです。範囲はこの海岸のみ、広げることができますが俺の能力が減るので我慢してください、援軍きました】


 1通の青い鳥が飛んでくる、それがムルネの肩にとまった。


 手紙をみてムルネは歓声をあげた。


「魔王軍が援軍としてきます!」


「伝令、その勢力は数えきれません、ありえない数です。なので魔王軍は二人の将軍だけをこの海岸に来させてくれるそうです、他は周囲に守備を固めます」


「伝令、しばらく休め」

「はい! ですが」
「よい、もう駒はそろいつつある」


 目の前に降り立ったのは3人の魔王だった。
 彼らはこちらを見てにこりとわらった。
 3人と相対するように魔物の将軍が二人、チャコブのとなりで武器をかちゃかちゃいわせている。


「坊主、俺はウェイシャール、ゴーレム族だおぬし只者ではないな」
「坊主、俺はパットット、ケンタウロス族だ、遠距離なら任せろ」
「二人の将軍には俺の援護をたのみたい、これからあなたたちが見る景色はありえないものだと断言させてもらおう、ねぇ、お父様、お爺様、そしてひいお爺様、曽祖父さま、永遠に続く、反逆の王様の伝説、さぁ、踊れ、ゴースト」


 空が地面が、次は海が、空間が、すべての空間から半透明の骸骨騎士がでてくる。その数、数千はくだらない。


「ふ、数でせめようともこの、鳥【王】にかてるものか」
「魔王のおじちゃん、よーくみるんだよ」


 チャコブがもっていたナイフが、どんどんゴーストを吸いこむ、いつしか、チャコブの全身をゴーストの鎧がとりまき、次にはゴーストの浮いている剣。数は数千、しまいには盾も浮いている。


 鳥【王】は只者ではないとようやく気付き、冷や汗を拭いている。


「じゃあ、おじちゃんたち、はじめよう」


 それを合図に、チャコブとゴーレム隊長、ケンタウロス隊長の戦争がはじまる。


 チャコブは宙に全身をあずけると、体が勝手に空をとぶ、雲【王】らしき魔王が、全身に白い煙を身に着け、空の中に消える。チャコブは空を飛びながら、雲をぶった切る。


 ナイフの大きさは6メートルくらいで、人たちだけで雲が両断し、衝撃波で霧散する。


 うしろに殺意を感じたと思ったら、そいつは雷【王】で電撃をゴーストの鎧で受け止める。すべてはじき終わると、雷【王】は全身に雷をまとわせながら落下していく、ケンタウロス隊長の矢が当たったようだ。地上は彼らに任せる。


「記憶したかぎり、この世界に雲【王】なる魔王はいない、おそらく別世界だと認定する。そうなのだろう?」


 すると雲【王】は笑う。


「お前が俺様を狙ったことに称賛を与えよう、そうさ、この魔王は天気を操作できる。まぁ雲だけにかぎられるがな、この人数で、最強な雹を降らせたら人間どもはどう思うだろうなぁ?」


「それをやらせるまえに俺が吹き飛ばす」
「勇者でもなんでもないやつに負けられるかよ、それも10歳のガキに」
「精神年齢は50才だけどね」


 空中戦がはじまり、ゴーストの鎧が変形して背中からまるで天使のような白いゴースト羽が出現する。


 雲の中に入った瞬間、全身に向けられる悪意にたいして長大なナイフでもって片端から斬りとばす。1回きり飛ばすたんびに世界が揺れる。空間を斬り、ゴースト界をもきる。そこからドラゴンのゴーストが出現し、即座に吸収する。


 ゴースト界、つまりあの世、あの世ではゴーストと呼ばれる化け物たちが支配している。
 そのゴースト界では人々はいるのだが、天界と地獄があり、その中間がゴースト界とされる。


 たくさんのゴーストたちは人や生き物、無残にやり残したという成仏できない魂があつまる。この世界では異世界も通じているという話をたまにきく、このドラゴンをみたとき、初めてみたから驚いた。この世界ではドラゴンという話をあまり聞かなかった。まぁ無知なだけかもしれないが、きっと異世界からきたのだろう、吸収したときにいろいろな記憶が脳裏をよぎる。



 空気を吸いこみ、チャコブは意識を鮮明にする。
 たくさんの矢が飛んでくる。


 ケンタウロス族隊長のパットットの援護射撃、その矢にはたくさんのフェアリーゴーストがしがみつき、それらが傷をおったゴーストの鎧を補修していく。


 ありがとうの手をふり、雲【王】に向かい撃つ。



    ――ゴーレム隊長【ウェイシャール】――

 気づいたらこの世に誕生していた。

 人間でいえば赤子のころに生まれたものたちは大人になるにつれてそのときの記憶が消えていくといわれている。だがこのゴーレムは誕生したときから鮮明に記憶している。


 まず博士である人がウェイシャールと名付け、その場で死んだ。つぎにうしろには数百のゴーレムたちが誕生する間際だった。ということで500のゴーレム部隊はウェイシャールがリーダーとなり、部下たちには名前すらなく、博士ののこした。データを毎日みながら魔王様に仕えることなった。


 現在ウェイシャールは右手と左手を上空に向けて、飛ばす。


「ゴーレムパンチだ」


 狙うは雷【王】だ。やつは全身の雷の光で空を飛んでいる。正確には雷が飛ぶ方向に飛んでいるだけ、この原理は博士の記録に残っている。


「しっつこい、パンチねぇ」


 と女性の魔王はこちらに雷を吹き飛ばし、すぐ手前までやってくる。


「残念だ」


 雷はゴーレムには効かなかった。


 ゴーレムは雷【王】を戻ってきた両手でしっかりとつかんだ。

 
 しかし雷が空に向かったため目の前から消えた。
 つぎの瞬間には上空でいったりきたりしながら、ゴーレムの弱点をさがしているようだった。


「あたしねぇ、あんたきらい」
「奇遇だな博士の次にお前が好きだ」
「それは愛の告白?」
「それは死の宣告だよ、魔王よ」


「きゃっははっは」
「いつまでわらっていられる?」
「りぃっりぃ、そっれはこちらのぜりふだあああ」


 雲から出現したのは長大な剣だった。それがあの子供のものだとわかる。その後ろから雲【王】が出現し、ケンタウロス隊長が援護射撃、それを雲【王】はよけ、一つの雲が雷【王】をおおい、その雲が消滅したと思った瞬間。



 そこには50メートルはあろうかといえるちょうだいな雷の槍だった。


「りぃっりぃ、これでもくらいなぁあああああ」


 ゴーレムはこの世の絶望を知った。
 これだから、これだから。


 全身が槍に貫かれ、ゴーレムは爆散した。


 そこには石ころとなったゴーレムの死体があった。


「りぃっりぃ」


 と雷【王】が笑うのを聞きながら、ゴーレムは思う。


「これだから不死身はこまる」


 とゴーレムの頭だけでしゃべる。
 体中の部品が勝手に接合し、そこには元に戻ったゴーレムがいた。回りのゴーレム部隊はあるものを作らせていた。


「隊長できました」
「よくやった」

 ゴーレムたちにつくらせていたもの、それは。


「確か博士はこう記していた。ゴムは電気を通さないと」


 巨大なゴムのゴーレムパンチの完成だった。


 6個のゴーレムのパンチによる攻撃にさらされる雷【王】は笑っている。


「きゃはっははは、お前は不死身か―なら粉々にしてやる、いくらパンチが4個増えようとも、6個だろうともあたしは大丈夫なのだあああ」


 フードが現れになり、金色の髪の毛、金色の妖精のような肌。そしてとても小さかった。
 フード自体がでかかったようだ。


 一発の拳がヒットする。魔王は失笑して何が起きたのか理解できないような表情で海に落下していった。


 そりゃゴムだからなぁ。


 海からばちばちと鳴り響き、巨大な水柱ができる。

 
 その水柱は巨大な水の塊と水の電気だった。


「まったく、わたくしがこなかったらどうするつもりだったの?」
「水【王】助かったぜぇい、あたしとあんたのコンビネーション見せてやろうぜぇい」


 新たな魔王が追加された。きっと次から次へと魔王がやってくる。それはここだけの話ではないのかもしれない。



 その魔王は水色の下着のようなものをみにつけ、胸は大きかった。だがゴーレムにとってこの手の胸のおおきさはよくわからない、髪の毛は水色で、妖精でいうところウンディーネに見えなくもない。


 ゴーレムは失笑しながら。


「やっぱり50人の魔王ってのは本当なのかね?」


「あたし、あんたに嫌味ができたわ、正解です、あたしのあとにはたくさんの魔王がまってまーす」
「わたくし、そのような下種なまねはしたくないのよ? ここで負けてくれないかしら? 私の美貌で? 美にはあるやつには勝てないけどね」

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