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3章 オレタチの終着点

第44話 形勢逆転

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 大勢の奴隷達が火破りに会いそうになっている。
 異種族の奴隷達は恐怖の悲鳴を上げる力すらなくなっている。
 人間達は彼等を一人一人柱に繋ぎ止めていく。

 地面に落ちている小さなトランプが巨大化する。
 体が小さくてしぶいオオカミの顔をしたコボルト族のペロンクが到来する。

 一方で空からは巨大な蝙蝠の翼の姿をしてやってきたヴァンロードがくる。 
 彼はBGMをかき鳴らして、多くの人間達を魅了した。
 2人が異種族の奴隷と人間の狭間に立つと。

 ただ叫んだ。

「おいおめーら」

「ちょっとすとーっぷ」

「お前達異種族は皇帝陛下様を殺そうとした」

「それは人間達への宣戦布告だ」

「戦争は始まっているが、お前らは違うとおもっていたのに」

「俺達だって異種族と争いたくねー」

「一部の人間だけなんだよ」

 人間達の悲痛な心の叫び。
 ペロンクとヴァンロードは知っていた。

 ペロンクはサーカス団で笑いながら父親の道化師役を見て喜んでくれた人達を。
 ヴァンロードは人間から血を飲まないようにがんばった同胞を。
 
 2人共に共通しているのは、人間と仲良くなりたかったから。

「なぁ、ペロンク」

「だね、ヴァンロード」

 ペロンクはその場で四方にトランプを飛ばす。
 ヴァンロードはBGMをスキルでかき鳴らす。

「スキル:楽園BGMよーく聞いてくれ」

 世界が暖かい音色に包まれた。
 人間達がうっとりとして聞き、1人また1人と踊りだす。
 ペロンクが一瞬で道化の姿に変身すると、子供達が笑う。
 それもそうだろう渋すぎるオオカミの顔をした道化なのだから。

 あちこちのトランプから飛び跳ねては飛び出て、人々をからかう。
 ヴァンロードは【スキル:舞台俳優】を発動させる。

 わざとみんなの前で恥ずかしがる事で、発動条件を満たし。
 音楽を奏でイメージ力でなりたい自分になる。

 ペロンクの隣には道化の姿をしたヴァンロードがおり。
 2人して馬鹿騒ぎして空を地面を駆け回る。

 人間王国のすさんだ空気が一瞬にしてなくなり、大勢の子供が大人が老人が手拍子を始める。

 それを唖然とした顔をで見ているオメガ。

「これはなんだ?」

 オメガは口を大きく開けている。

「急いで来たら皆お祭り騒ぎだ。これはなんだ?」

 魔王ルウガサーがふふと笑い。

「これも共存の力ですよ」

「そうなのか、俺は間違っていたのか」

「団長は間違ってないさ」

 ガニーが赤い鱗を光らせながら。

「でも間違ってるかもねー」

 ゲニーが笑う。

 その時だ。城門が吹き飛んだ。

 そこには英雄の一人ツイフォンと笑って追いかける何かがいた。

「あれは、勇者イルカス」

 オメガが呟き。

 ツイフォンが走り。

「レインボー今すぐ人々を逃げさせろ、こいつはまずい、全員殺された」

「は、どういう事だツイフォン」

「こいつレベル10兆だ。もう00表記とかじゃねー10兆て出てるし、今も上がった。12兆だ」

「は」

 レインボーが意味不明な表情をする剣だけど。

「お、一杯人間がお祭り騒ぎだねー、俺からのささやかなプレゼントだよ【破壊の拳】」

 勇者イルカスの右拳が消滅すると。
 空から巨大な拳が飛来する。
 
「うそだろ」

 オメガは仰天した。
 そこにはペロンクもヴァンロードもいる。
 仲間を助けなくちゃいけない。
 それでも人間を助ける嫌悪感もある。
 だが、今、人間と異種族は遊んでいる。
 火破りにされそうになっていた異種族奴隷達も解放されて遊んでいる。

「もう、いいのかもな」

 オメガは走り出す。

【あ、団長】

 他のメンバーも動き出すがオメガのスピードは速すぎた。
 地面を蹴り上げて空中にてイベントリから防具を取り出す。

「レベル99999:転移の盾」

 普通の盾が巨大化し破壊の拳を別な場所に落下させる。
 遥か彼方にある山が爆発したのはその時だった。

「ふむ、ドワーフ君に借りを返したいけど、そういうのは中二病とかって言われそうだけど、まぁもう、そう、中二病で何が悪いなんだよ」

 勇者イルカスはこちらをじっくりと見ている。

「なんで」

「なんでお前が俺たちを助ける」

「恨みがあるんだろ」

「皇帝陛下を殺そうとした」

 人間達が罵り始める。

「そんものはもういい、お前達が笑って遊んでるの見たら俺がバカみたいじゃないか」

 するとそこにいた異種族も人間も団員もげらげらと笑いだす。

「剣のツイフォン、力を貸してくれないか」

 オメガが手を差し伸べる。

「ああ、仲間の仇だ」

「そういうのはもういいんだ」

「そうか」

「殺戮王はどうした?」

「消滅したよこの世界から、神族と相対してな」

「ふむ」

「異世界異種族なら皆殺しにしたよ、ついでに賛同したこの世界の異種族もね」

「勇者イルカス、お前に何があったのか」

「人は進化するものさ」

 剣のツイフォンが声を荒げると。

「あいつのスキルの数は1億を超えています。その中に恐らく時間が経過するとレベルが上がるスキルがあるようです。時間が経てば経つほど不利となります」

「じゃあ、みんな行くぞ」

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