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3章 オレタチの終着点

第45話 集結

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「何事かと思っていましたが、骨の姿に戻りました。美しいわしの姿を見せられないのは心苦しいのう」

 勇者イルカスの後ろからボーン・スレイブ卿がゆったりとした動作でやってくる。

「勇者候補生、しかと皆殺しにしてきました。皆不思議な名前と不思議な力を使いました。いやはや、最後の一人が異世界渡ラバーで奇妙な事を叫んでいましたのう、異世界異種族には強すぎてこちらに渡るのに時間が掛かっている真の覇王、闇人族ジンガダンがいると」

「ははははは、何それ、患ってるでしょ名前的にでもそういうのいいね」

 勇者イルカスが笑う。

「だから、それが今、ほれ真上に」

 空間が切れている。
 ミシミシと音を立てる。
 多くの人間と異種族は城の中へと避難する。
 数えきれない民。
 なぜかこの時の為に、城には地下施設があり、そこに避難したようだ。

 オメガが皇帝陛下に止めを刺せそうな時、火破りにされそうになった異種族を助けるため、走ったとき、地下施設に気付いた。

 そしてそれはドワーフが作ったものだと。
 それもダークドワーフの魔力を感じた。

 オメガは意識を戻してボーン卿の指さす方角を見る。

 現在勇者イルカスのレベルは20兆に到達している。

 空の亀裂が破られ、一人の人間が落下してくる。
 全身が闇色に包まれている。
 耳が尖がっているが。
 それは紛れもなく、ダークドワーフと共に滅びた種族ダークエルフだった。

「やぁ、久しぶりの我が故郷、おダンツィじゃないか、ダークキングドワーフのお久しぶりだね、今この地上から人間を滅ぼして異種族の楽園をって、僕以外全滅やんー」

 その場が唖然としている。
 妙にノリのいいダークエルフは黒い肌を隠そうともしないし、見た目は女性だ。
 胸もちゃんとあるし。三つ編みにしている。

 その時、異空間からゴーレムのチャクターが出現する。

「あれは、かつて古代魔王として君臨したダンツィの相棒のダークエルフのジンガダンです」

「全てが意味不明なんだが」

 オメガは頭に手を当てて悩む。

「あれ、ダンツィいないの? なんで、ダンツィの為に色々と準備したんだよ1日1日数えた。1億年もがんばったんだよ、僕たち長生きでしょ、ねぇ、ダンツィどこにいんのよ、愛しいダンツィいいいいいいいい」

「団長、非常にまずいかと」

 魔王ルウガサーが耳打ちする。

「いや、わかるよ、鑑定したら、レベルがさ、もはや0とかの表記じゃないよね狂ってるよね、∞てなんなんだ」

「8って事では?」

「ルウガサー8は縦だ横だと意味不明なんだよ」

「うーむ、∞、これはなんでしょうか」

 ヴァンロードが神妙に考えて。
 魔法族のレインボーが申し訳なさそうに。

「古代語で無限を∞とする。つまり超越しているってこと。もはや数字に表記できない」

「それってさぁ」

 ガニーがふふふと。

 ゲニーがしりもちついて。

「勝敗ないじゃん、団長、逃げましょう」

「よ、よし、もれが囮に」

「グスタファー落ち着け、腰が震えてるぞ」

「お、終わりです」

 リナテイクがあわわとなり。

「皆トランプで逃げましょう」

 ペロンクが叫ぶが。

「いや、逃げないよ」

 オメガがそう叫んだ。

「ここで逃げたら、人間も異種族も終わりだ。人間はジンガダンが殺し、異種族はイルカスが殺す。相打ちしたって巻き込まれるのは戦えない人達だ」

【……】

 全員が沈黙に包まれ。

「わしはもうちょい動きますかのう」

 ボーン卿がゆったりとボーンスカイソードを構える。

「かっこいい骨の顔を見せてあげましょうぞ」

 その時だった。空から1人のエルフが翼を生やして降りてくる。
 ジンガダンはそれを見て涙を流し。

「イェロー生きてたんだね」

「たぶん、そのイェローではありません」

「そうか、君は転生したんだ神から」

 エルフの姫、リャナイ姫はオメガの前に降り立ち微笑む。

「戦う方法はあります。あなたが古代魔王になるんです」

「は」

「それはやめたほうが」

 人形の形をしたブレイクが心臓から絞り出すように声を出す。

「大丈夫です。今のオメガさんの心なら」

「俺が古代魔王」

「柱はブレイクとツイフォンと殺戮王を除いて7本あります。きっかけは心の開き」

 オメガは心の奥底にいる自分に問いかける。
 ドワーフ村。
 ごく普通の鍛冶職人で武器屋防具を作るのが大好きだった。
 多くの仲間たちに囲まれていた。家族はいつの間にかいなかったけど。
 それが人間達のせいで、1人また1人と死んでいった。
 見ていられなかった。精神に異常をきたし狂っていった。
 そして辿りついた先は殺戮だった。
 人間を殺し、殺して残虐に無慈悲に殺し、同じ同胞を見つけては殺しを繰り返した。
 仲間は増え、1人また1人と増えた。

 仲間が見せてくれた人間と異種族の楽しい笑い。
 すぐ壊れるかもしれない。
 それでも中には共存を望む人間もいるのだと知った。
 いや知っていた。忘れていた。

 古代魔王の事もダンツィの事も知らない。
 ジンガダンは1億年生きて、勇者イルカスはレベル20兆を超えている。
 ここから逃げて、この2人が殺し合えば、確実に人も異種族も死ぬ。
 なら、古代魔王のダンツィになるのもいいのかもしれない。

 心の中にあるもやもやが少しずつ無くなっていくと。
 心の奥底にこちらを睨んで笑っている父親がいた。

「だから秘宝を使えと言っておる」

「使いたくなかった。一部は使ったけど、全部使うと、貴方との繋がりが無くなってしまうような」

「大丈夫じゃ、わしとの繋がりが無くても、もう一杯繋がっているじゃろう」

 父親が消滅していく。心の中の城が崩壊し、雪崩のように埋め尽くす。
 そこに地面の底から手がゾンビのように飛び出る。
 心が振動のようになり、7つの柱が生まれる。
 柱にはかつての英雄達がいる。ブレイクとツイフォンだけが除かれている。

 心の世界は闇に包まれる。
 大きな大きなお月様が空を支配して。
 心の世界と現実の世界の狭間が揺れ動き。
 現実の肉体へと古代魔王が侵食していく。

 ダークドワーフの姿は黒は黒でもうっすらと肌色があった。
 ダークエルフの姿はかっては黒は黒でも肌色が混ざっていた。

 今、古代魔王ダンツィの意思を引き継いだ漆黒の肌をしたオメガがいた。
 それはダークエルフであるジンガダンは肌色が混じるのではなく漆黒であった。
 
「やぁ、おかえり、ダンツィじゃないけどオメガ君」

「やぁ、ジンガダン、あなたの記憶はあるよ、ダンツィの記憶もだけど俺はオメガだ」

「さぁてと、役者が揃った事ですし」

「役者はこれだけじゃない、俺達は全員で戦う。これが傭兵団、いや異団の傭兵団がお相手する」

 オメガの後ろにはガニー、ゲニー、魔王ルウガサー、ペロンク、ボーン卿、リナテイク、ブレイク、ヴァンロード、グスタファー、レインボー、剣のツイフォンが立っていた。


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