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2章 ヘルエイムの章

第13話 闇神師【ダークゴッド】

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 アシュレイは八流の剣を構える。
 まだ八本の剣まで分離する事は出来ていない。
 しかし、今出来るのは二本の剣までと言う事。

「ドンストは言った。剣とはダンスだと、ドンストは言った。剣とは技術ではなく流れるという事を、これぞ20蓮華、喰らうがいい、オーガというモンスター、俺の3人の父の1人、ドンストが秘奥義が1つ」

 空気が歪む。
 
「ななんだとおおおお」

 闇神師は戸惑う。

 その気力の強さ。

「気力だけで空間を捻じ曲げているのか」

 アシュレイは地面を蹴り上げた。
 コンマ数秒で闇神師の背後に到達。

「うごおおおおお」

 1本目の剣が闇神師の背中を突き破った。即座に抜き取り容赦はしない。
 2撃目、3撃目、4撃目、5撃目と続き、闇神師は空中にくるくると吹き飛ばされる。

 アシュレイは闇神師の真上に瞬間的に移動し、6撃目と7撃目と8撃目と9撃目と10撃目を腹に刺しまくる。
 
 そのまま闇神師は地面に叩きつけられる。
 アシュレイは地面に着地し、11撃目から20撃目まで斬り刻む。

 闇神師は動かなくなった。

 アシュレイははっとなった。

「しまった。怒りに任せて殺してしまった。こんなに弱い者なのか、伝説の12人は」

 だが、異変は唐突に訪れた。

「俺がなんで闇神師なんて呼ばれてるかわかるか? 俺の体の中には悪魔が10人いる。今、悪魔を1人殺しただけだ、君は」

 ゆっくりと闇神師は立ち上がる。
 彼の体に斬り刻まれた。傷は消滅していた。

「さて、これからが本番だ。闇の極意でも浴びせてくれようて」

 闇神師【ダークゴッド】の体が悪魔そのものに変容する。

「うごおおおおおおおおおおおおおおお」

「あ、まずいですねぇ」

 守衛のマーカスこと、1秒のマーカスが呟いた。

「王様達逃げますよ、ああなったら見境ないですからねぇ」

 マーカスは王様達を誘導し始めた。
 アシュレイは剣を構えながらその様子を見ていた。
 肉体から突き破る悪魔の体。
 もはや人間ではなかった。

 ドンスト達はこんな化け物と戦ったのか。
 今、アシュレイの心の中を支配するのは恐怖ではなかった。
 ワクワク感と楽しみ感が充満に満ち溢れていた。

「次はルッティの秘奥義、俺がお前の変身をただただ見ている訳がないだろう」

「ルッティは言った。この魔法は大切な人を守る時に使えと。ルッティは言った。この魔法は己の心を守る為に使えと。さぁ、くらえ、エレメンタルヴォイス」

 アシュレイの言葉、アシュレイの意思、アシュレイの行動。
 全てを併せ持ち、それは声となって発する。火水風土の効果を持つため、エレメンタルと名付けられた魔法。

 それを無詠唱と発動させ、悪魔となった闇神師を取り押さえる。
 
「ぐがああああああ」

 闇神師の悲鳴が轟く中、アシュレイはひたすら歌を歌っていた。

 記憶の中に宿るもの。
 ドンストは笑い、ルッティは本を読み、スクワッドはけらけらしている。

「ああ、家族、ああ、大事な家族、お前らはお前らはそれを俺から奪ったんだあああああ」

 記憶に宿るもう1つの意識。

「復讐はするなだったな」

 アシュレイは2本の剣をみねうちに構える。

「ぐおおおおおお、いいかげん、この歌をやめろおおおおおおお」

「やめないぜぜえええ、俺のロックンロールでも聞いとけええええええ」

「スクワッドは言った。最高な狩りとは最高な獲物がいてこそだ。スクワッドが言った。最高な武器に宿るのは最高な職人ではなく最高な化学だと。いみわからねええええ、これな、爆弾って言うんだぜ」

 スクワッドに教わった化学。
 未知の領域の技術。
 アシュレイは大きなボールを闇神師に10個程投擲した。
 次の瞬間、盛大な爆発音を響かせ、闇神師に甚大なるダメージを与える。

「うごおおおおおおおおお、後、8体だ、はぁはぁ、そんな簡単に悪魔が2体も殺されてたまるかああ、俺は、俺は父上と母上を奪ったモンスターを支配したいだけだああああ」

「俺だってモンスターに家族を奪われた。それは人間がそう仕向け、モンスターは人間を殺す事でしか生きていけない、そういう仕組みだからだ。冒険者のシステムが先だったのか? それともモンスターが人間を殺したのが先だったのか、そんなのは分かっちゃいない、でもわかりあえる。俺がいれば分かり合える。だけど俺の力を悪用する奴は、この俺が許さねえええ」

「はっはははは、モンスター等支配されて家畜になればいい、家畜はなずっと牧場にいられて子供をつくって死んでいけばいい、肉は出荷されて、食べられて、モンスターはたんなる動物以下だ」

「俺の父親達は動物以下だといいたいのかああああああ」

「そうだ、ぼけえええええええ」

 闇神師が悪魔の体となりて地面を蹴り上げた。
 城中が地響きを立てて揺れた。
 アシュレイの真横を通り過ぎた。
 彼の回避スピードが速すぎた。
 城を突き破って、城を破壊して、闇神師は街の方に飛んで行った。

 多くの民衆の悲鳴が聞こえ、多くの兵士達が武器を構える音がした。

「まずいな」

 アシュレイは道化の仮面をつけると、地面を蹴り上げた。

 そこは地獄絵図だった。
 大勢の兵士達が伝説の12人の1人だと思わず、闇神師に攻撃をしている。
 その結果、闇神師は悪魔の体を使って、兵士を殺しまくっている。
 民衆はパニックとなり、吹き飛ばされた兵士が家に激突し家が崩壊する。
 多くの冒険者が出てくるも、闇神師の力が圧倒的すぎて太刀打ちできない。
 
 アシュレイはゆっくりと街に続く階段を下りながら、闇神師に告げる。

「お前の今の姿、モンスターのそれだぞ、お前が嫌っていたモンスターそのものだぞ」

「うるさいうるさい、いいから、さっさとお前を支配させろ」

「そう簡単に支配できないから人間楽しいんだろうが」

 闇神師は建物の壁を走りながら、こちらに向かってくる。
 アシュレイは峰内の状態で武器を構え、悪魔の姿の闇神師の顔をぶん殴る。

「ちょっと甘いが、16蓮華だ」

 1撃目と2撃目、3撃目と4撃目。
 その時点で闇神師の顔はぼこぼこになり、後ろに高速で吹き飛ぶ。
 アシュレイはそれに追従する形で、何度もみねうちの斬撃をあびせる。
 5撃目と6撃目、7撃目と8撃目、一気に16撃目までっと。

「あがあああああああ」

 闇神師の体は大きな建物に突っ込んでいった。
 そこは貴族の邸宅らしい。

 中から素っ裸のおっさんが出てきて、腰を抜かしている。
 どうやらお風呂の最中だったらしい。
 
「うごおお、残り4体だ。このままじゃ、俺は死ぬぞ、嫌だ。死にたくない、死にたくないんだ。俺はモンスターを支配するんだあああ」

「最初から殺すつもりなんてねーよばーか」
 
 アシュレイは体を回転させながら地面に落下する。

「ドンスト秘奥義が1つ、流星雨」

 体を高速で回転し、星のように落下する。
 何度も何度も峰内で闇神師の体を穿つ。

「ばばばああああああ、全部の悪魔があああああ」

 闇神師は沈黙したと思った。
 しかしそいつはけたけたと笑い出した。

「闇の帝王がいる。契約しよう、我が命を授けてこいつをぶっ殺す。いいか、もうモンスター支配なんてどうでもいい、お前がむかつくんだよおおおおおお」

「ま、まて」

 ドスンと黒いオーラが辺りを支配した。
 闇神師の体が膨張しだす。
 そして縮小しだす。
 ごくんと何かが飲まれた音がする。
 次の瞬間、闇神師の体が霧のように蒸発した。

 殺気どころではない、この世の終わりを感じた。
 空を見上げる。
 巨大な何かがこちらに落下してくる。
 地面にドスンと足を付ける。 
 そいつは50メートルくらいの大きさ。
 見るからに悪魔そのもの。
 そいつはこちらを覗き見てにんまりと笑う。

「あいつが闇の帝王で、闇神師なのか」

「ひーーーーひゃはやはやあああ、皆殺しだあああああ」

 闇の帝王が口から何かを吐き出す。
 それは沢山の悪魔達。
 もはやモンスターとかのレベルじゃない。
 魔界に住まう悪魔達だ。

「おめーーーらいっぱい人間喰らっていいでえええええええ」

 コツコツと言う音が聞こえた。
 後ろを振り返ると、ガンドギルドマスターと守衛のマーカスがいた。

「すまねぇ、お前がモンスタースレイブだとは知らなかった」

「いえ、教えてませんから」

「モンスタースレイブにお願いがある。あいつを助けてやってくれ」

「もう無理ですよ」

「違う、殺して解き放ってやってくれ魂を、あのままこの国を亡ぼすとあいつの魂はずっと苦しむ。殺してやってくれ」

「いいんですか? そこのマーカスさんも」

「はい、構いません、あのお方は少し暴走しましたし、あなたがモンスタースレイブだと分かっただけで、三老人様にご報告できます。いえ、敵対するつもりはありません、三老人は中立ですから、しかし他の伝説の12人は違うかもしれませんが」

「そうですか、はぁ、なんか、疲れるな、他の悪魔達は冒険者さん達でなんとかなります? ガンドギルドマスター」

「それは任せてくれ」

「父さん達、力を貸してくれよ、ちょっくら本気だしてくるわ」

 アシュレイはぱんぱんと体を払って、真上を見た。
 そこには口から悪魔達を吐き続ける闇神師【ダークゴッド】がいた。
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