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2章 ヘルエイムの章

第14話 友達

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「大変です。ガンドギルドマスター、四方から大軍のモンスターが押し寄せてきています」

「わしもそれは見た。ありえんぞ、というかアシュレイ殿がモンスタースレイブじゃったとは、ふぉふぉふぉ」

 受付嬢ルルフとジャン老人がやってきていた。
 アシュレイはそれを見る事もせずに告げる。

「城門を開けてください」

「何を言ってるんだ」

 ガンドギルドマスターが血相を抱えていた。

「友達です。皆俺の友達です。だから人間達を守ってくれます」

「信じていいんだな?」

「はい、今からモンスタースレイブの技を1つ見せます。これでこの国の中ではモンスターと人間の言葉は意思疎通が出来ます」

「す、すごい」

 その時1体のゴブリンシーフが走ってくる。

「あるじーあるじー連れてきましたよ、念話で言われたときはあせりました」

 そこにいたガンドギルドマスターと守衛のマーカスと受付嬢ルルフとジャン老人は唖然と口を開いていた。
 
 どうやらゴブリンシーフの言葉を理解出来た事に驚きを隠せないようだ。

「ガンドギルドマスター早く情報伝達を、誤射でモンスター達が殺されるなら、俺はモンスターの側に着きますよ」

「そ、それは失礼」

 ガンドギルドマスターが念話らしきものを使用している。

「ゴブリンシーフ、東のレッドドラゴンのマブチと南のトレントのゾニーと西のリッチのウゴーと北のサンダーバードのチキンに伝えろ、人間を何が何でも攻撃するなと」

「まかせてくだちいいいいい」

 ゴブリンシーフは目にもとまらぬスピードで走っている。

「皆さん、驚いている暇はありません、俺は行きます」

 後ろで皆が見守っている姿を想像して。アシュレイは地面を蹴り上げた。
 そこにタイミングよくレッドドラゴンのマブチが到着する。
 アシュレイはマブチの背中に乗ると。

「主よ、こんな超絶化物と戦える事、やはりお主についてきてよかったと、今思ったぞ」
「マブチ、出来るだけ高速で移動してくれ」

「了解であります。主よ」

 レッドドラゴンのマブチ。彼は翼を負傷していた。
 もう空を飛べる事はない程の傷だった。
 しかしスクワッドの化学の力とルッティの回復魔法のおかげで治療する事に成功した。

 その時からマブチはアシュレイに首ったけになり、絶対なる忠誠を誓っているが、アシュレイは「友達だから当然だ。俺が困ったら友達として助けてくれ」と言うものだから、マブチは困り果てたそうだ。

「来るぞマブチ」
「了解でございます」

 闇の帝王に魂を売った闇神師は右手と左手を合わせると、地面から無数の鎖の手が出現した。

「お前は、捕まえて、なぶり殺しにしてやる、そのレッドドラゴンと共にな」

 闇神師の声は不思議と冷静沈着のものだった。
 どうやら闇の帝王とシンクロしてきたようだ。

「出来るかマブチ」
「何を言うか、このレッドドラゴンに出来ない事などないわ!」

 無数の鎖。
 マブチは飛翔しながら翼を匠に動かし。
 次から次へとやってくる鎖の手を避け続ける。
 空を飛び続け、時にはさかさまに飛翔しながら、アシュレイは落下しないようにする。

 その時ヘルエイム王国の姿が見えた。
 大勢の人間とモンスターが共闘して悪魔達を討伐している。
 ジャン老人が一番活躍しているなぁと思いつつ。

 心がぐさりと響いた。
 これがオーガのドンスト、トロールのルッティ、ゴブリンのスクワッドが求めていた。人間とモンスターの共存という事なのだろうか。

 アシュレイの瞳から熱い涙がぽつりぽつりと落下し。
 
「主殿?」

「いや、ドンスト達を思い出していた」

「そうですか、あなたの父上達ですね」

「最高な家族だ。いくぞ」

「空の事なら任せてくださいこのマブチに」

 闇の帝王は鎖ではアシュレイを捕まえる事は不可能だと悟り、方法を切り替えた。
 それは高速で動く素手で捕まえるという事。
 それも30本くらい出現する腕。
 もはやそれは悪魔そのものだった。
 
「あれは少し厳しいです主殿」

「問題ない、俺がフォローする」

「なら大丈夫ですね」

「マブチ頼りにしてるぞ」

「あたぼーよ」

 無数の手が飛来する。 
 アシュレイは既にみねうちをする事を止めている。
 ドワーフのリリカットが一生懸命魂を使って造ってくれた剣。
 1本の剣の形だが8本まで分解できる。
 それは自分の技術があがっていくと自然に分解されていくと認識している。

「ここは重装備の方がいいかと」

 その声は喜悦の鎧だった。

「ありがとう」

 現在軽装備だ。重装備にする事で弾かれて落下を防ぐというものだ。
 即座に装備タイプを変更すると。青色の鎧へと変貌する。

「主よ、面白い防具をもっておりますな」

「一応こいつもモンスターだ。喜悦の鎧って名前」

「ほむほむ、よろしく頼むぞ、喜悦殿」

「よろしくお願いするマブチ」

 アシュレイはレッドドラゴンのマブチの背中の上に立ち上がる。 
 四方から迫りくる手と腕を次から次へと両断して見せる。
 一撃一撃ととてつもなく重たい斬撃だった。

 ドンストはよく言っていた。無駄な一撃を作るなら、無駄な一撃を全てなくし、最良な一撃をあみ出せ。

 全ての斬撃は最良な一撃へとなる。

 アシュレイの斬撃には沢山の思いがこもっていた。

「ぐぬぬぬぬ」

 闇の帝王の腕の数はいつしか2本だけになった。

「ふははははははは」

 突如闇の帝王が笑い出すと、体がみるみる内に小さくなっていく。
 そこにいたのは1人の少年だった。
 少年は空を見上げる。そこにはレッドドラゴンのマブチに乗っていたアシュレイがいる。

「後は任せろ、マブチは他の奴等を助けてやってくれ」

「了解、死ぬなよ相棒」

「当たり前だ」

 地面に向かって跳躍すると、軽装備に切り替える。赤い色に変わると。
 地面に着地する。
 土煙が上がる中。眼の前の少年はこちらを見てにんまりとほくそ笑む。

「さて、お前が苦しむ方法が分かった」

「なんだと」

「関係ない人を殺す事だ。闇魔法」

 右手と左手をかざし、闇魔法を炸裂させる。
 対象はアシュレイではなく、人間とモンスター達だ。
 大勢の人間とモンスター達が大怪我を負い、死んでいく。

「やめろろおおおおおおおおお」

「やっぱりそうだ。お前は自分より他者が傷つくのが怖いだけのあまちゃんだ」

 すると1つまた1つと足音が聞こえる。
 ゆっくりと集う仲間達。

「なぁ、主、こいつ殺していい?」

 そこには骸骨の頭をしたリッチのウゴーがいた。
 別方角からは木の姿をした人間のトレントのゾニーがいた。
 また別の方角からはサンダーバードのチキンがやってきて、次にレッドドラゴンのマブチがやってくる。しまいにはジャン老人とガンドギルドマスターまでやってくるしまつ。守衛のマーカスまでいる。

「お前ら、お前らから殺してやる、闇魔法」

「闇? 闇闇闇? このリッチ様に向かって闇? バカ? アホ? ちぬ? 殺していい? ダメ? どうしよう、闇魔法はこういう物ですよ」

 リッチのウゴーは生き返りたかった。
 だが生前の記憶がなかった。ただただ墓場を彷徨う始末。
 そんな時アシュレイが酒瓶を持ってきて兄弟の契りを交わした。

「闇は暗い、とても暗い、苦しい、それが闇だよ」

 リッチは辺りを支配する光のフィールドを形成。

「だが闇は光にもなれる。わたくし、実は神父だったという記憶が蘇りまして、闇と光の兼用をしている最高な男こそリッチです。主よあなたの好きなようにしてください」

「助かる」

「この、なんでだ。闇魔法が発動しない、ふざけるなあああああ」

「お前さ、剣術も出来るんだろ」

「ああ、出来るぞ」

「一騎打ちしよう」

「はぁ?」

「それで終わりだ!」

 アシュレイは地面を蹴り上げる。
 闇の帝王も剣を引き抜く。
 2人の剣撃は高速を通り越してカマイタチのように見えない斬撃になった。
 2人は殺し合いをしている訳ではなかった。
 ただただ自分の強さをひけらかしているだけだった。
 それでも気を緩めば死ぬという事を2人は知っていた。

 闇神師の記憶が流れてくる。
 アシュレイの記憶が闇神師に流れていく。
 同調現象が発動されていた。
 同調現象とは武人同士が命をかけて戦う時発動されるもの。

 1人の少年は路地裏でうずくまっていた。
 彼の視線の先には幸せそうな家族が映り込む。
 その度に殺してやりたいと思う。
 それはモンスターを。
 父親と母親を奪ったモンスターを。
 憎悪は力となり、あらゆる修行をして、命を賭して、たどり着いた闇神師。
 彼の本当の名前は。

「ゴザス!」
「アシュレイ!」

 2人は分かりあえた。
 だけど、ゴザスの体は液体のようにとろけていった。

「はは、ようやくわかったのに、お前がなんでそんなにあの3人のモンスターを愛したのか」

「お前がどれだけ辛かったかもな」

「なぁ、お前、意外といけんじゃねーのモンスターとの共存」

「出来るといいな」

「なぁ、そこに俺はいるんだろうな」

「ああ、いるぜ」

「良かった。なんか心が優しくなれた気が……」

 思わずアシュレイは液体になったゴザスの体を抱きしめた。 
 ゴザスは大きな口を開けて鳴き声を上げた。
 彼の体は蒸発し、無くなっていった。

 アシュレイが抱きしめていたのは空気となった。

 悪魔達が次から次へと蒸発していく。
 人間とモンスター達はともにゲラゲラ笑い。

 その日、ようやく、本当の意味で安全地帯となったヘルエイム王国。
 王様からモンスターと冒険者達に褒美が下されるとなったが、モンスター達は興味がなく立ち去っていった。
 
 彼等が一様に言うのは、主に褒美をくだされだった。
 この世界から伝説の12人の1人が消滅した。
 死体も残さない程に。

 アシュレイは復讐で殺したのではなく、ゴザスの記憶を見る事でなんとなく許せる事が出来た。

 レッドドラゴンのマブチ、リッチのウゴー、トレントのゾニー、サンダーバードのチキン。

 トレントのゾニーはある旅人が小さい苗木を燃やそうとしていたのを助けたら、それが巨大化してトレントとなった。それからゾニーはアシュレイを友達だと思っている。

 サンダーバードのチキンは冒険者に掴まって食われそうになっていたのを助けた。
 その時は小さな鳥だったが、成長するとなんと伝説のサンダーバードだったという落ちだった。

 この4体のモンスターはもっとも信頼のおける友達または仲間だった。

「俺達は秘密の王国に戻る、あとはがんばれよ」

「闇、光、それとも真ん中? その時は光で照らしましょう、まぁ神父だからだけどリッチなんですけどね、殺していいときは殺していい? と尋ねます」

「薪に困ったら呼べよ」

「鶏肉はたべるんじゃないわよ、私が食われそうだから」

 アシュレイはみんなを見て笑い。

「皆も秘密の王国で元気でな、しばらく戻れないからさ、また何かあったら召集かけるから」

 4体のモンスターは頭を下げて。

 その場から立ち去った。

 現在アシュレイは道化の仮面をつけていない。
 かといって顔の形を道化の顔で変えているわけではない。
 今アシュレイは指名手配されている素顔で出ている。

「楽しそうですね」

 受付嬢ルルフがにこりと笑ってやってきた。
 その隣にはジャン老人がいた。

「まったく、信じられない光景だ。モンスターとの意思疎通の魔法が消えたからモンスターの言葉は分からないが、それでもお主とモンスターの信頼は暖かいものじゃて」

「次の国に行くんですか?」

 受付嬢ルルフは悲しそうにこちらを見ていた。

「一緒に来ますか?」

「え」

「ルルフさんと話すの面白いですから」

「なら、行きます」

「はいいいいいい」
 
 近くにいたガンドギルドマスターが戸惑う。

「お前受付嬢だろうがあああああ」

「うるさいです。こう見えても、元A級の冒険者なんですから、ガンドギルドマスター、冒険者に戻ります」

「は、はは、いいね、お前がんばれよ」

「じゃあ、わしもお主についていこうかのう」

「ジャン老人がいれば頼もしいです」

「その前に国王に会ってくる」

「そらならうちも行くわ」

「わしも興味があるのう」

「とほほ」

 ガンドギルドマスターが悲しそうにしていると。
 3人の新しい冒険者パーティーはヘルエイム王国の国王の下に向かって歩き出した。

 人間とモンスターの共存の第一歩が始まろうとしていた。
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