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第1章裏ダンジョン攻略

10話 第三ラウンド

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 そこは三つ目の大きな部屋だった。
 そこにどんなモンスターがいるのか? どんな試練を与えてくれるのか?
 とてつもなく嫌だった。

「痛みつってもめっちゃいてーしな、僕は基本的にMではないけど、いじめという経験が痛みへの耐性を強くしてくれる。その点では織田君にも感謝しているけどな、どこにいるんだろうな、いじめを感謝していっる人って、たぶん僕くらいだよな、はは」


 と乾いた笑い声をあげながら、
 扉を開くわけだ。
 その先に何がいるのか、それは今の天童にはわからないことだ。
 一匹の魚がぴちぴちと地面をはねているだけであった。

 天童はわけのわからない目をそのぴちぴちとはねている魚に向けた。

 気づけば部屋の中に入っており、
 後ろでは扉がゆっくりとしまるわけだ。


 だが敵がこんな魚とは、
 鑑定をして、鑑定結果がでればおそらくここのボスではないだろう。

―――――――
鑑定不能
―――――――

 という表示がされており、
 つまり、そういうことだ。

「容赦しねーぞ」

 走った。
 魚の一匹くらい簡単に倒せる。 
 そう高をくくっていた。

 その魚は突如水そのものに化けるかのように変わった。
 だが魚の水そのものでさきほの魚がただ色のついた水そのものだと理解することとなる。

 次に目の前の水の魚が変化をたどったのは、
 水のサメそのものだった。
 大きさも変化しており、色を化ける時間もないのか、すべてが水色となっている。

 そのことから天童はこの水色の物体のことを【化けるスライム】と名付けることとする。
 どんな人であれ、どんな人間であれ、

 目の前の敵がどのような生き物かを把握することは絶対とは言えないができるだろう、
 姿形を変形させる。つまり化けるみたいな、
 さらにその姿は時間こそかければ色をも化けることもできるのだろうけど、
 だけど時間がないと、本来の色の水色そのものになっているのだから。

【化けるスライム】はこちらに突進してくる。
 そのサメの牙もきっとスライムだからと、ここでも油断していた。

 頭を噛み千切られて、
 天童の頭はもしゃりもしゃりと食われていたのだ。

 次の瞬間、そこはブラックアウトし、
 ネシネイちゃんが一生懸命、道具をつくっていた。

「あら、また死んだの」

「とほほ、油断してたよ」
「次はどんな敵と戦っているの、あなたが死ぬの楽しみに待ってた」
「それすごく悲しいことだと思うよ、僕が死ぬことを喜ぶ人なんて君くらいさ、いじめっこたちは僕のこと見殺しにしたけど」
「何を言ってるの? あたしはあなたが死なないとわかっているから、死ぬのをつまり、会える事を楽しみにしてたの、だってあたしを仲間にするんでしょ? そう簡単にくたばったら呪うわよ」
「はは、これまた手厳しい淑女だ」
「あたしは淑女じゃないよ、あたしはどちらかというとゴリラウーマンみたいなものだよ」
「君は十分こぶりでかわいいと思うよ、僕さ、あまり人の容姿を誉めたことないけどさ、君はすっごく可愛いよ」


 ぽっとまたネシネイちゃんは顔を赤くして喜んでくれているようだ。

「ちょっと休憩するかな、話も聞きたいだろ?」
「うん!」

 天童は勝手に名付け【化けるスライム】のことを説明して聞かせた。
 ドワーフの職業病なのか知らないけど、武具や道具を造りながらではないと落ち着かないらしい、そりゃ何年もずっと武具と道具を造っていたらそうなるよなと、

 このときの僕はただ頷いていた。
 
 スライムがサメと呼ばれる肉食の生き物に化けたとき、天童は油断していた。がぶりと一発であの世に逝ったこと、首をいっきに噛み千切られたので、痛みを感じる前に首が落ちていたことを彼女はわくわくしながら目はきらきらに輝かせていた。

 最初会った頃は死んだような目つきをしていたのに、
 人とは変わるものなのだなとか考えていた。

「もう僕いくよ」
「うん、次死ぬときはもっとネタをもってきて」
「はは、頑張るよ」

「さて二回戦といこうか」

 覚えた道順どおりに突き進む、とはいえ別れ道があったとしても結局は同じところになっている。なんだかこの人をあざ笑った態度のダンジョそのものがまさしく裏ダンジョンだなとか思った。

その扉はうっそうと閉じられていた。そこをゆっくりと開けると、
 魚が泳いでいた。さきほどまではぴちぴとと地面をはねていただけなのに、
 次は空気中を浮いていたのだ。
 その原理がよくわからないのだが、

 天童はアレドロスの長剣を握りしめている。
 その握り手がどんどん固くなっていくのがわかる。
【分裂魔法レベル1】を使用することにする。
 現在20人までを分裂させることができる。
 この分裂魔法のいいところは、2体に増えたら本体が半分になるとかではなく、
 新しく誕生させるということだ。

 まぁ簡単に言えば自分自身の分身を召喚すると思ったほうが納得できるだろう。
 まぁそれで天童は自分を納得させている。

 本当にわけのわからない魔法なのだから。

「容赦はしないよ」

 分裂した20人と本体である天童が走り出す。
 全員が両手を突き出し、
 まるで手から火炎放射でも発射させるかのようにだった。

 しかしこの距離からやると、仲間にヒットしかねない、
 頭を使って使うところを見誤らないようにと、
 冷静に敵を分析しつつ、
 やはり魚は空中を泳いでいるだけだ。
 こちらに対しての危機感はなかった。


 そして天童は本当に敵を舐めていた。
 分裂ができるのは何も、一人だけではないということ、
 そしてスライムとは分裂ができる生き物とされてきた。
 まぁゲーム情報だが、
 よくゲームだとスライム同士が合体したり分裂したり、
 そういうアニメもよく見てきた。

 それを天童は完全に頭からはずしていて、
 気づいたときには遅かった。
 一気に10体の分裂した自分自身が消滅した。
 そのどれものが心臓を撃ち抜かれたようになり、消滅していったのだ。

 そこにはピラニアのような魚が10匹いたのだ。
 そしてそのピラニアたちが融合していくと、
 一つの巨大なサメとなる。
 
 ピラニアの姿はちゃんと色はあった。つまり長い時間ここに潜伏していたと考えるべきだろう、
 おそらくピラニアたちは地面に横になって真上に天童の分身たちが通りかかるのをひたすら待っていたようだ。

 そして現在目の前には一体のサメがいる。
 この部屋にはフィールド要素、つまり水だらけというわけではない、
 なのにこの負けっぷり、
 ゲーマーとしてダメだとか思ったりした。
 ここがもし水フィールドなら天童に勝ち目はなかった。
 ただそれは水フィールドだったらだ、現在ここのフィールドは普通の床、フローリングと例えてもいいほどの綺麗な石たちの四角い部屋なのだ。

「されど10体消えた、されど10体残った。さて、勝負だ」

 いつしか虐めとか復讐とか報復とかドワーフ娘の笑顔をみたいとか、
 そういったことを忘れ、痛みもわすれ、この戦いを楽しんでいたのは、
 天童自身であった。

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