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第1章裏ダンジョン攻略

16話 7体目のボスは巨人かもしれない

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 そこは長方形の形をした部屋だった。
 小学校の体育館を四つ合わせて、
 真上の天井をとてつもなく長くしたような感じだ。

 目の前にいるのは札幌の大通にあるテレビ塔と同じくらいの巨人だった。

 その巨人の頭はまるで鬼そのものであり、
 どす黒い殺気を覚えるようなものだった。

 次の瞬間に戦闘が劇的に始まる。

 巨人の名前をビッグさんという名前にしておいて。


 ビッグさんは何度も何度も天童を踏みつぶそうとしてくる。
 足が落下してくるスピードは車がもうスピードで追いかける感じに似ている。

 どすんと地面が踏み鳴らされ、
 さきほど天童がいた場所の埃が舞い散る。

 もしあそこに天童がいたら、踏みつぶされていただろう、
 話に聞くところによると、圧死というのはとても苦痛をともなう死に方らしいのだ。

 天童は身震いをしつつも、
 アレドロスの長剣を腰の鞘から引き抜く、
 ビッグさんは足で踏みつぶすのをあきらめたのか、
 しばらく呆然と立っている。

 おそらくこのモンスターはずっと立って暮らしてきたのであろう。
 この部屋の横幅的には巨人が横になるスペースが存在しないことから、そう予測する。

 ビッグさんは休憩が終わったのだろう、
 またこちらを見て歯ぎしりをする。
 そういうところを見るといかにも人間らしさが醸し出されているようだなと、
 思ったり思わなかったり。

 それでもこいつらのモンスターたちはどこか人間に近いところを持っているのではないだろうか?
 そういう気持ちにこちらがなってもおかしくないと思った。

 次は壁にくくりつけられた。杖を引っこ抜くと、
 その巨大な杖でこちらをつっつこうとする。

 それを縦横無尽に走ることにより杖攻撃を避けるのだが、

 さすがにいつまでもこのようなことばかりをしている場合ではない。
 何か方策がないだろうか?
 弱点はないだろうか?

 足元を何度も攻撃するという方策も考えられた。
 しかしそれはやめたほうがいいだろうという結論になる。
 なぜなら奴のズボンと靴はまるで鉄の鎧のようにびっしりと防御されている。

 こちらから頭をみると、
 その鬼のような頭の角など、顔とか首が無防備になっている。

 そこが弱点だということはわかっているのだが、どうやってあそこまで登るかだった。
 そして天童は気づいた。
 ついさっき覚えたスキルを。
 まだ。練習はしていないが、ぶっつけ本番といこうか」


 意識を集中する。
 呼吸を乱れさせないように。
 ゆっくりとゆっくりと。
 すーはーすはーと空気を吐き出し、

「きた」

 杖がこちらを突っつこうときた。
 瞬間空をまるで大型バッタのようにジャンプした。
 ジャンプのまま天井に向かって【飛翔】スキルを発動させている。
 天井にさかさまで着地する。


「まだコントロールできてねーな」

 突然、地面にいて蟻のように殺せる存在だったそいつが、
 現在ビッグさんより上の天井に足をついている。

 その異常事態に、ビッグさんの顔がぐちゃぐちゃにゆがむ。

「ちゃんと見たらお前の顔ってぶさいくだよな」

 言葉の意味など奴には理解できない、
 だが、テレビ塔ほどもある巨人は何かしらで馬鹿にされたのだと悟った。

 杖を半分に折ると、
 もはや暴れまわることしかしない、
 壁が陥没したり、天井に穴があいたり、
 もう暴れ放題。

「ここからだせって叫んでそうだぜ」

 きっとそういうわけではないのだろう。
 現在天童は空中にいる。
 ただただ落下しているだけ、

 なので結構なスピードになり、我をわすれて暴れているビッグさんはこちらに攻撃を当てる事すらできない。

 空中にテレポ石を投げる。
 四方に散ったテレポ石は巨人の頭の周囲に到達している。
 そのまま放っておけばそのまま落下していく。
 
 そんなもったいないことは天童はしないのだ。

 杖を二つに折ったビッグさんはこちらに向けて、思いっきりこちらに突き刺す。

 そこにいた天童の姿が消滅する。
 それはテレポ石に移動したこと。

 テレビ塔くらいのビッグさんの頭が何かで思いっきり殴られる。

【強化レベル1】により普通のパンチがムキムキマッチョが放ったパンチ並みに威力が上がっている。

「グラッシング」

 と意味の分からない声で叫ぶ。
 何度何度もビッグさんの後ろをぶん殴る。そのスピード0.5秒とされ、

 ビッグさんは何が起きたか理解できる前に、
 頭ごと吹き飛ばされる。

【爆発の手】での最後の右手と左手の爆発するパンチをくらってビッグさんはゆっくりとゆっくりと地面に足をついた。
 それが初めての出来事なのだとばかりに、

 次の瞬間遠吠えが始まった。

 ビッグさんは泣いていた。とても悲しそうな鳴き声。
 心の底から震える鳴き声。それだけど、こいつはモンスターなのだ。
 モンスターと人間との区切り、

 そしてここは裏ダンジョン、
 ダンジョンにいるモンスターは何度も何度も殺される。
 そのダンジョンからコアが亡くならない限り、
 ほぼ永遠的にモンスターたちは沸いてくる。

 ふと天童は気づく、
 今まで殺したモンスターが沸いていること、それが当たり前だと思っていた。

 もしかしたら同一人物が何度も沸いていただけなのではないだろうか?

 そこを気づかせるための裏ダンジョンのようなもの、
 なぜなら裏ダンジョンでは立場が逆になるのだから。

 裏ダンジョンで死んだ冒険者は何度も何度もよみがえりボスモンスターを倒すまで繰り返される。

 そしてダンジョンにいるモンスターたちは何度も何度も殺され、何度もよみがえる。
 そこにゴールがあるのかもしれないが、
 もしかしたらゴールそのものを考える力を失っているのではないだろうか?


「つまり裏ダンジョンは逆になるんだ。ダンジョンではモンスターが蘇り、裏ダンジョンでは冒険者が蘇る。なぜなら、ダンジョンで死ねば永遠にその命は失われるのだから。」

 いまだに遠吠えを叫び続ける巨人。
 こいつはずっとずっとここで立って暮らしていかなければならない。

「僕が倒してやる。また沸いたとしても、僕には何もできないけど、だけど、僕はここを通ってあいつらをぼっこぼこにしないと気がすまないんだよ」

 次の瞬間巨人の目が確実に空中を漂う天童の目と視線が合った。
 その時背中がぞわりと逆立つ変な感触に襲われた。
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