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第2話 ソード王国崩壊

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 レベル-9999になりカンストを迎えたルーガは、カンストを迎えて初めてソード王国に帰還した。
 まず最初に大勢の冒険者や住民がこちらを見てげひた笑い声をあげて。

「スライムハンターのお出ましだぜ」

「また、スライムでも狩ってきたのかしらね」

「それでも元勇者かよ」

 いつもの罵倒が浴びせられた。 
 ルーガはきょとんとしながら歩きだした。
 異変は唐突に起きた。
 ルーガが通り過ぎた建物が次から次へと崩壊していったのだ。

「あれ……」

「ぎゃあああ、建物が」

「こっちは犬が暴れて」

「た、たすけてくれええええ、ネズミの大軍があああ」

「川が氾濫したぞおおおお」

「し、城が崩壊していくぞ」

「隕石が落ちてきたああああ」

 ソード王国の大勢の住民たちが次から次へと悲鳴を上げて、ソード王国から逃げていく。
 ある者は沢山の財産を馬車に詰め込むが馬車が崩壊し、ある者は愛しの婚約者を背負うが、婚約者に振られ、ある者は食べ物を持とうとするがネズミの大軍に襲われ。

「何が起きてるんだ?」

 ルーガが歩けば歩く程、被害は拡大していく。
 いつしか、ソード王国から住民はいなくなる。
 城は崩壊し、かつて王様であった王様は王様でなくなった。

 現在ルーガは朽ち果てた玉座の元で唖然と穴の開いた天井の空を見上げていた。

「ふ、ふははははははははは、そうか、俺はどうやら最高に呪われてしまったようだな」

 ルーガは自問自答した結果結論に至る。

【スキル:超不幸】というものがどんなものかを理解したのだ。

 それから1ヵ月、ルーガは朽ち果てたソード王国で一人ぼっちの生活をしていた。
 人と一緒に住む事は不可能、なぜならその人物を超不幸にしてしまうから。
 なぜか自分自身に対しては超不幸は発動しない。

 動物やモンスターにも超不幸は発動するし、虫にも超不幸は発動する。

 全ての生物から拒絶された気分になったルーガ。
 ただし自然物には効果がない。

 彼は1人で朽ち果てたソード王国で暮らしながら自分の能力について研究していた。
 風が吹き、雨が降り、雪が降り、雷が降り、空が晴れる。
 そうやってまた1年、2年と経過し、しばらくたつ頃には33歳へと至っていた。

 ルーガは無精ひげを生やし、服はぼろぼろで、農作物で生きてきた。
 自然物には超不幸は発動しない、色々な実験の結果意識があるものに超不幸が発動する事が分かってきた。

 彼の瞳から希望の光は失われ、怒りの光も失われ、朽ち果てたソード王国を知るものはおらず。
 もはやルーガは仙人のように生きていた。

 そんな時、ミシリという音が響いた。
 人の気配を感じた。
 1人の女性だった。
 髪の毛は漆黒に艶がかった色をしていた。
 ロングヘアーでまとめられていた。
 彼女はこちらを見つけるとにこりと会釈した。

「まて、こっちに来るな」

「どうしてですの?」

 その女性の瞳は真っ黒で、こちらの心の奥底まで覗いてくるような輝きだった。
 
 ルーガはいつしか、呼吸を忘れて、彼女が目の前に立っている事に驚いていた。

「な、なぜだ。なぜ、君には超不幸が発動しないんだ」

「それは、きっと私がスキル:超幸運があるからですわ」

「そんなものがあったのか」

「私は全てを失いました。あなたが1人でいると聞いてやってきましたわ」

「なぜ、俺なんかの為に」

「あなたが1人だからですわ、私も1人だからです。私はあなたに超幸運の光を差し上げたいのです」

「なぜだ」

「かつて、あなたに命を救われた。小娘だからです。あなたが勇者になるずっと昔の話ですわ」

「そんなことが」

「私がいれば、あなたはこの朽ち果てたソード王国から出る事が出来ますわ」

「だが意味などない」

「何かやりたいことを忘れているのではないのですか? あなたは私に熱く語ってくれたでしょう、魔王を滅ぼすのは俺だって」

「お、お前はメーナなのか」

「ようやく思い出しましたわね」

 ルーガがかつて小さな村にいたころ、自分より小さいメーナという不思議な少女と話をよくしていた。
 その子は大きな病にかかっており、数年しか生きられないはずだった。
 なのにその子は大きく成長していた。

「だが俺は人を超不幸にしてしまう」

「私がいれば超幸運で相打ちですわ」

「だがレベル-9999でスライムにも殺される」

「なら超不幸の力をコントロールすればいいのですわ、私がいれば相打ちでコントロールできますから」

「そういうものなのか?」

「はい、そういうものです」

 メーナはくすりと笑うと、はにかみながらこくんと頷いた。

「ものは試しです。近くの山賊の根城に行きましょう」

「俺達殺されるぞ」

「大丈夫ですわ、あなたがいますもの」

 メーナは気丈にふるまいながら、白いワンピースをひらりと風に揺らしていた。
 まるで光そのものだと感じたルーガ。

「やってみるか」

 ルーガは数年ぶりに朽ち果てたソード王国から出発した。
 向かった先は近くの山賊の根城。
 山賊は20名程しかいないが、今のルーガでは1人ですら勝利する事は不可能だろう。

「そこまで怯えなくてもいいですわ、たかが山賊です」

「その山賊に殺されると思うぞ、メーナは逃げておけ」

「逃げませんわ、だって、私がいないとルーガさんは相手を皆殺しにしてしまいますもの」

「それはどういう」

 山賊の根城が見えてきた。

 そこはかつてのルーガの故郷であった。

 記憶から忘れ去られていた故郷。

 父親も母親もいたのだろうか、そんな記憶すらなくなっている。

 友達もいたのだろうか。

 沢山の槍の穂先には村人達の首が突き刺さっていた。
 彼等の頭は恐怖の顔に引きつっており。

 そこにはかつての知り合いがいた。

 怒りが増幅される。
 あまりの怒りの増幅に自分自身を抑える事が出来なくなりそうになる。
 体から闇のようなオーラが噴出してくる。

 その時メーナの白い光が黒い光を抑え込む。

 動機が激しい、空気を何度も吸い上げる。

「ね、その力はあなたの感情に従います。できれば捕まえたいのです。殺しはダメですよ勇者さん」

「ああ、すまない」

 ルーガとメーナは堂々と山賊がいる村に入っていく。
 もちろん山賊達はこちらの気配に気づき、警報のような鐘を鳴らす。

「侵入者だ。しかも1人は女だぞ!」

「侵入者を殺せー」

「女は奴隷だああああ」

「男は装備をはぎ取れええええ」

 山賊達に囲まれたルーガ達。

 ルーガはきょとんとしながら辺りを見回す。
 彼等の武器は斧と剣が主流のようだ。

 勇者としての技術はある。
 だが圧倒的レベル差。
 あちらがレベル1あるだけでも、こちらからしたらレベル10000上の相手と戦う事になる。
 はっきり言って勝利はほぼない。

「ルーガ、意識を集中して、怒りの気持ちを1人に向けて見た。あそこのカツラのようなおっさんにね」

「ああ、やってみる」

 ルーガは意識を集中していく。
 呼吸を整えて、知り合いを殺された怒りをそいつに向けていく。
 体の中から黒い物が流れて行き、それがその男にまとわりつくと。

 空から鳥のフンが落ちてきた。

 おっさんのカツラに命中し。

「うお、俺の勝負カツラがああああ」

 おっさんはカツラを脱ぐと、次に隣にあった朽ち果てた建物の板にぶつかる。
 建物が雪崩のように落下し、おっさんの体にのしかかり。

「ぐああああああ」

 勝手に自滅した。

「何が起きたああああ」

「ルーガ、次は全員に不幸を伸ばしてみて」

「ああ、分かった」

 そこかしこにいる全ての山賊達に向かって黒い物を伸ばしていく。
 1人また1人と謎の現象が起こり、身動きが取れなくなっていく。

 基本的に朽ち果てた建物が崩壊してその下敷きになっていく。

 1人だけ無事だった。

 そいつはどうやらリーダー格のようで。
 こちらを凝視している。

「お、お前は、ま、まさか、ソード王国を崩壊させた勇者ルーガか、称号はスライムハンターの」

「そんな話が広がっているのか」

「ああ、そして、お前を捕まえたら、大金が入って来るぜ」

「そうか、じゃあ、君も」

「うるせい」

 山賊のリーダーは斧を振り回してこちらに向かって走ってくる。

 途中でぶっこけて、顔面を岩にぶつけて気絶した。

「これってさ本当に俺の力なのか?」

 それもそうだろう、全て偶然か知らんが、勝手に自滅してくれるのだから。

「そうね、怒りが強いと他者を超不幸で殺してしまうから気を付けてね」

「ああ、でも俺、物凄くチート感があって、むなしいぞ」

「そうでもないわよ、それもルーガの力よ、じゃあ、彼等に奴隷の首輪をつけて連行しましょう」

「奴隷の首輪なんてもってるのか?」

「いえ、こいつらの奴隷の首輪を再利用てことですわ」

「さすが、メーナ、賢いな」

 ルーガはうんうんと頷き、ルーガなりの決意を証明するために、メーナの足元に膝をついた。

「何をしているのですか?」

「いや、これは決意だ。君を幸せにすると誓おう、君の瞳に幸せが無い事は気付いている」

「プロポーズですか?」

「それとは違うかもしれない、とりあえず、俺は君に救われた。だから次は俺が君を救う番だ」

「そうですか、それはとても嬉しい事ですね」

 メーナはくつくつと心の底がかゆいように笑った。

 かくしてルーガは超不幸の力をコントロールする術を見つけた。
 次に山賊達を近くの街に連行する事になった。


 
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