上 下
1 / 6

第1話 レベル-9999の勇者

しおりを挟む
「勇者ルーガよ魔王を討伐しこの世界を救いたまえ」
 
 そう神官から告げられたのは1週間前。
 現在あるダンジョンにてある宝を開けたルーガメンバー。
 魔法使いのジョン
 戦士のハバード
 ヒーラーのルルル
 4人パーティーで魔王を討伐するありきたりで世界にとって大切な仕事をこなすはずであったルーガ。

 宝箱を開けるまでは。

 宝箱を開けた瞬間。
 
 体に何か霧のようなものが吹きかかった。

【レベル下げの奇病にかかりました】

 ルーガはきょとんとして意味が分からない顔をしてみせた。
 仲間達も何が起きたか理解していないようだった。

 その時、大きな猪型のモンスターが襲い掛かってきた。
 ルーガ達は当たり前のように討伐した。
 仲間達がレベルアップしたが。

【レベルが下がりました。レベル19になりました】


「は、はいいいいいい」

 ルーガは眼玉が飛び出てしまうのではないかと思えるくらいぎょっとしていた。

「どうしたルーガ」

 魔法使いのジョンが尋ねてくる。

「いや、レベルが下がる奇病にかかったみたいで」

「そりゃ大変だ。ルルル、状態異常回復魔法をかけてくれ」

「うん、やるのだ」

 そういってルルルが状態異常回復をかけてくれたのだが。

「……」

 何も変わらなかった。

「ま、なんとかなるさ」

 戦士のハバードが元気づけるように声をかけてくれた。
 それからルーガ達の旅は続いた。
 ひたすらモンスターを倒し、ひたすらダンジョンをクリアし、仲間達はレベルが上がっていく。
 しかしルーガのレベルは下がり続けた。

 さすがにレベル0にはならないだろうなと思っていたのだが。
 残念な事にレベル0になろうとしていた。

 そして今レベル0になってしまった訳だ。

「なぁ、ルーガ、あまり言いにくいんだがよ、お前がいると足手まといだから、俺達で魔王を討伐するけど、新しい勇者も見つかったんだよ」

「戦士として申し訳ないが、お前は足手まといだ」

「ルルルもそう思うの」

 かつて魔王を一緒に討伐しようと誓った仲間達は、新しい勇者ヒデに付き従っていた。

 勇者ヒデはルーガとは違い、異世界から召喚された勇者であった。
 ヒデはこちらをげらげらと笑って言った。

「お前バカなの、レベル下がる勇者って聞いたことねーし、ゲームじゃ雑魚キャラよ」

 意味の分からない事を勇者ヒデは言っていた。

 ルーガは1人で旅に出る事すら不可能となっていた。
 ゴブリンやオーガは楽勝で倒せていたのだが、今倒す事も出来ないだろう。

 今唯一倒せる事が出来るのはスライムだけだ。
 そう今、ルーガの標的になってるのはスライムだ。

 魔王討伐の旅に出たはずなのに、スタートポイントのソード王国にまで逆戻りしてしまった。

 ソード王国の草原地帯。
 スライムが大量発生している。
 ルーガはひたすらスライムを倒し続けた。
 
 1年が経ち、2年が経ち、3年が経ち、4年が経ち、10年が経った。
 ルーガは28歳になろうとしていた。
 旅に出た時は18歳だったのに、あと、まだ魔王は討伐されていない。
 勇者ヒデは意外と苦戦していた。

「あの人スライムハンターだよね」

「あまり指さすんじゃない」

「あの人スライムしか倒せないんだってー」

「あまりいじめるなよ」

「あの人バカなんじゃないの」

「たぶんバカだからほうっておけ」

 かつては勇者様と言われて皆から期待の目で見られたルーガ。
 今ではスライムハンターと呼ばれる変態になっている。

 ルーガは最後のスライムを討伐した。
 なぜ最後かというと。

「レベル-9999でカンストか」

 ルーガはスライムを狩りつくしてレベル-9999になってしまったのだ。

「はは、ははははははっははあは、いつか、いつかレベルが上がるんじゃないかって思っていたのに、レベルは下がり続けた。しかもカンストを迎えた。俺の人生は終わりだ」

 ルーガの絶望の声。
 彼はふと気づいた。
 体のまわりに禍々しい黒いオーラのようなものが身についているという事に。

「俺、勇者だよな?」

 だがその姿はまるで魔王のようだ。

 貴族の馬車が通りかかった。
 突如として馬車の車輪が腐って壊れた。
 そのまま木々に衝突した。
 木々からハチの巣が落ちて、貴族の馬車に入った。
 中から数名の貴族が走り出して逃げていく。

 ルーガは思わず笑ってしまった。

 貴族はこちらを見て怒って剣を抜いた。
 ちなみにルーガの力では貴族1人も勝てない、たぶん人差し指だけでルーガは死ぬ。

 だが貴族は突如地面の穴に落下した。
 そこはモンスターの巣穴でもうモンスターはいなかった。

「た、たすけてくれえええええええ」

 付き添いの衛兵が助けようとする。
 
 ルーガは爆笑する。

 衛兵が剣を引き抜き近づいてくる。
 すると衛兵がすってんころりんと転がって穴に落ちる。貴族事落下した。

「なんだ。これ」

【超不幸スキルを手に入れました】

「なんかやべーな」

 不思議とルーガは気持ちのいい気分になり歩き出した。

 だがルーガは思い知る事になる。
 彼がソード王国に戻るという事は。
 ソード王国を滅ぼすという事に。

しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

『華原朋美さん』

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

浮気を繰り返す彼氏とそれに疲れた私

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:4

性癖

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

魔力ゼロ聖女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:24

処理中です...