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2章ぜってーに死んでやる、死が俺様を呼んでいる⑧

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 そうこれは、馬車の外につながっている砲台であった。入ったときはなかったのに、メロムという水を放射している。大丈夫か? これ、使うたんびに食料がなくなるぞ、いや、飲料水だけどね。


 窓に顔を近づけ、外を見る、もちろん前方をヒカルは後ろを任される。もちろん挟み撃ちで。ヒカルはどうどうと真ん中に陣取り、大きなレバーをひく。ちょいまってくれ、これ以上つかったら、水が水が!!!


 そんな願いなど容赦しないように、また前を見る。窓から見えるのは半分ほどでしかない、前方にある御者席からのほうがよく見えるが、断じてそこからは見ない、流れ矢が当たったら死にます。


 たくさんの矢が飛来しているのだが、カウボーイの前を水が覆う。それはゴッツァンが手のひらで操作しているようである。ゴッツァンはすごい男なのかもしれない。
 かもしれないのは断定できないから。


 なぜなら、カウボーイの足にたくさんの矢が飛来して、その先どうなってるのか見えなかったから、よくわからない、もしかしたら、足はないのかもとか考えたけど、なんとなく、馬車で武装しているのだとわかるし、それに、もしも、ゴッツァンがそんな無常なことをしたら、俺様怒ります。


 「我怒ったなり、容赦せんぞ」
 「容赦するつもりもないだろお前、遊ぶ気たっぷりじゃねーか」
 「も・ち・ろ・ん」
 「よし、全隊員、あいつを生かして返すな殺す気でやれ、思う存分やれ、やって、やって、死んでしまえ」
 「隊長、本当に死にますよ、カウボーイが」
 そこはちゃんと訂正しておく。
 「大丈夫だ、おそらく、武装している」
 「おそらくってなんですか、勘ですか、カウボーイさん、大丈夫ですか」


 俺様ながらに、まっとうなことを呟いてしまった。
 しかし、驚くべき答えが返ってきた。


 「もちろん、平気だとも、ミーナの子よ、さて、はじめよう変形はできないから、お前たちの腕前さ、俺は、ただただ、耐えるだけさ」


 耐えるってなにから? 足が絶えるの間違えじゃないの?


 「もちろん、武装しているが、タイヤでな、お前たちからは見えないだろうが、ちゃんと一部を操作して、足に馬車とタイヤを武装している。だから安心しろ、ということで、ゴッツァン、後は任せたぜ」



 それ、死ぬ気ある人の言葉じゃないか。


 「あとは任されない、なぜなら、後は任されるものではなく、後は引き継ぐものだからだと自負しているし、それともなに? 気が変わったと、ということはつまり、そういうことか、カウボーイ、お前やるな」


 いや、あんた途中から独り言になってるぞ、ゴッツァンさん。
 今度は後ろを振り返る。もちろん窓から見える景色で、そこには大量の水が糸を引くように、落下し、フルクターたちを消滅させている。


 とてつもないスピードで減るフルクターたちは、もはや、圧倒的な暴力であった。それをやっているのが、ヒカルであり、彼女の笑い声が聞こえるのは気持ち悪かった。
 ヒカルの声はやはり、どこか哀しみというか吹っ切れてますね、完全に、もはや、考えられないくらいに、大きな声で笑ってます。後ろのレバーを引きまくってます、君、飲料水がなくなるぞ、飲み物は大事にね、と思っていたのだが。どうやらその心配はないようだ。


 大きな津波が後ろから追っかけてくるのだから、おかしい、あの津波はどっからやってきた、書物でしか見たことがないぞ、もしかしたら、そうか、ゴッツァンさんが操作しているのか、ゴッツァンさんの顔を見た、彼と目が交差した。そして、彼が微笑んだ。


 右手でカウボーイを守り、左手で後ろの水と吐き出した水を操作し、すべてを樽にまき戻しているのだろう、もはや、これは。


 殺戮だ!!!!!


 メロムの水が、大量に、津波のようになるせいで、フルクターたちが次々と消滅している。もはや残っていない。そして、前方には後ろに下がりながら、ジェッカーが、矢を放ちまくっている。その矢は大きな壁のようなフルクターであり、影が、のっそりと動くのは気持ち悪いのだが、スピードが速すぎるせいか見ているだけで、怖気が走り、背筋に冷たいものがのっそりと上がってくる。


 それでも馬車の動くスピードは変わらない。
 どんどんと前に突き進む。ひたすら、一歩ずつ、ゆっくりと、一歩ずつ。まるで登山しているように。みんなが協力して、ひたすら、レバーを引きまくる、標準を合わせているのはどうやらカウボーイであることから、彼の力がとびきりすばらしいことがわかる。


 それでも、彼らが一生懸命にここまでやって、戦うのは一重に遥な山に囲われた国を守るためである。みんなが一生懸命やってるのに、自分だけ何もしないのはおかしい、いまさらながらに、フルクターが消滅している理由が理解できないので、また後ろを振り返る。


 「テンリュウ、あれは、消滅しているんじゃない、土の中に戻って力を蓄えているんだ」


 ロウマン隊長がそう諭してくれた。
 もう中で顔を合わせて話していいほど、ゴッツァンさんのガードが馬車を包み込むのが分かる。矢は飛来してきていたものがなくなり、ヒカルには当たらなかった。ヒカルの後ろには大きな木材の壁ができていた。そこに突き立っていた。
 ヒカルは一生懸命に後ろの敵を倒しまくっていたし。俺様も隊長の顔を見て、話すから、あまり気にしない。


 「土の中にはなにがあるんですか?」
 「土の中には、どうやら、船がある。だから、そこに近づけば力が蓄えるのかもしれない」
 「つまり、国には入れなくても、近づけば、フルクターは強くなるってことですか、だって、国の周りの城壁にはメロムがあるじゃないですか」
 「ああ、あるさ、だけど、いまはやつによって、いろいろと開放されている。だから、ほぼ、敵のほうが強い」


 その言葉には重たい言葉が乗せかかり、背中にじっとりとやってきた。確かに城壁はぶっ壊されてる。それでも、俺様は勝てると思う、こんな遊び、遊びまくってやるぜ。


 とか心の中で叫んでみても、もはや、笑えるほど弱い自分がそこにはいた。

 敵が中心部に行けば行くほど強くなるということがわかる。そうして、俺様は、いつまでも後ろに下がっている、フルクターを見据え、何かを考えていた。そう、ここでこそ俺様はいつもながら目立ってきた。いつも、起死回生のことをしてきた(いままで死んだことしかしていない)という訂正はいらないのだが。事実である。


 俺様は窓をがらりと開けると、外に出る。そうして馬車の上に上ると、レイピアを腰から引き抜いた。それを目の前の巨大な敵に向ける。風が顔をなぶる、唇がなぶられる。頬が、くびくびといっている、服がばたばたといっている。落ち着け、足がぶるぶると震える。それは寒いから、おびえているからじゃない、簡単に寒いからだ。


 レイピアを目の前に突き刺すように向ける。意識を統一し、心の中で叫んだ。言葉にはスピリットが宿る。


 「俺様は、この世界で一番かっこよく死ねる男だ」


 すると、白い閃光のようなものが、自分のレイピアの先から現れた。それが、自分の影の中からうごめくように、大切なものを守りたいと願うように、そうして、俺様は、レイピアの目の前にいつもの彼が出現するのを見届けた。


 『我、答える、汝、答えを持っているか?』
 「ああ、もっている、俺様はここで死ぬわけにはいかねーんだ」
 『汝、それ、答えになっている、つまり、我を扱うことに炊けるものなり』
 「炊ける? ご飯でも? なんでも炊いてやろうじゃないか、さぁて、やろうぜ、相棒」
 『構えろ、汝の心を具現化しろ』
 「心ね、なにがいいかな」


 構える。そうして、意識を芽生えさせる。昔本を見た。それはまるで不思議な世界、その本は、人々の理想を具現化するものである。それをまさに。


 ―フェニックス―


 そいつは、赤い羽をもち、その羽には不老不死の力があり、呑むものに力を与え、永遠の命を与える。それは、いまの人類には必要のないことであり、それが、もしかしたら人類のことをさしていたのか、炎となって、よみがえる不死鳥。


 「ふぇえええええええにっくすううううう」


 そう叫んだ。
 レイピアがまるで、自分の心を反映するように姿をかえる。羽のようなものが、突き出る。持つところに二本の赤い羽根が、そして、次にヤイバが三十になって、翼の羽毛のようになる。二本に分裂すると、片方と片方と握りもち。
 足の奮えがやんでしまった。
 いま俺様には守りたいものが大きなものがある。そして、夢がある。


 「いざ、参ろう」
 『うむ、汝』


 体が浮いた。三十の羽が、微動している。すばやい動きで、目の前を馬車が通りすぎる。自分もそれを追いかけるようにして、すばやく飛翔する。隼のように、だが、これはフェニックスなのである。目の前に飛来し、大きなフルクターのおなかに穴が開いた。向きを変え、また、飛ぶ。何回も同じことを繰り返す。大きなスズメバチのように、ぶんぶんと飛び回る。風が気持ちよかった。体には一瞬足りともフルクターは触れなかった。


 ジェッカーが振り落とされ、空中で、大きな鎌を構える。そうして、背中からフルクターの翼を生やすと、併走してきた。隣を飛ぶ。馬車は無事、遠い山中に入っていく。
 だが、俺様は取り残されることなく、馬車を追いかける。もちろんジェッカーも追いかける。


 「きみって、面白い、面白い、ナイスガイだ」
 「お前もなジェッカー、お前はイタズラ小僧で、ナイスガイだ」
 「でさ、お前って、フルクターを操るわけだから、予知死だろう、いつ死ぬのかな?」
 「ああ、安心しろ、今日だ」


 瞼の裏側、いや、目の前に、死亡日が刻まれている、それは今日を指差していた。あと数時間で明日になる。


 「なら、死に近いことをしてあげる」


 その冷たい声を聞き。身震いすると、ジェッカーの大鎌が飛来してくる、ブーメランのように飛ぶさまは、死神が投げたようである。足元をすらりとよける。風が、冷たい。落ち着け。血がほとばしる。治ることはなかった。

 そう、俺様の右足がすっぱりと切断されていたのである。そこから見るもおぞましい血が大量に噴出している。落ち着け。レイピアを構え。ジェッカーの元へ矢の弾道のように、飛来、一心突きを食らわせる。レイピアが、彼の体に突っ込み、二本が、ずらりとぶるぶると、微動する。内部から内臓を食らわせる音が響く。

 ジェッカーが身震いし、そこには影のガードがひしめき、内臓などぶっ壊していなかった。落ち着け。とにかく落ち着け。

 首をはねようと持ち上げると、さきほどのブーメラン鎌が戻ってくる。右わき腹をえぐられた。鎌を握った。ジェッカーが微笑み、そうして、頭を踏みつけると、蹴った。体が、ぶるっと、痙攣し、落下し、馬車の上に堕ちた。ナイスタイミングでカウボーイが操作していた。だが、それで、攻撃は終わることはなかった。

 彼ら、自由部隊は普通ではないのである。変形が始まる。馬車の上に、大きな大砲が突き出た。身の丈五メートルはあるだろうか。そこにまたがっていたのは、カルテルである。彼はこちらに微笑み、ハルスとペリージェが、自分を抱えて、中に引っ張る。

 階段の上を見つめ。そこでカルテルが、ゴーグルをかぶり、相手を見据えている。

 ジェッカーが、飛来してきたそのとき、大砲が、振動とともに、動き、さきほどの津波のすべてを吐き出すようにして、周り全体に網のように、飛来、ジェッカーの体をしばり、身動きとれずに落下し、俺様は窓から見た。ジェッカーの体から煙のようなものが噴出し、体が動かないようになっている。びりびりと痺れている。

 「雷を加えたのか?」
 「そうだぜ、成長とは細胞のイオンとマイナスとプラスを合成することによって、水に力を与えることができる、覚えておけこのやろう」


 カルテルが、階段をくだり、ロウマン隊長が、赤黒いボタンを押すと。扉がしまり、すべての変形が終わった。そうして、平和な行軍が始まった。
 右足からは血が流れ続けている。チェッカーが、縄を取り出し、右足を縛り付けると。血が止まった。不思議だった、肉が見えるのに、血が止まる。


 「退化だよ、血液循環を退化させた。いまのお前の右足は腐ってもいないし、簡単に冬眠状態だよ」
 「次はわき腹を頼む」


 わき腹には、数本の針と糸が差し込まれ、簡単な治療を受ける。チェッカーの腕裁きはとてつもなく奇麗で、見るものを、驚かせるのではなく、意表をつくというのがあうだろうか、ひよこが鶏になる前だとかそんな感じ。空気が冷たくて、お腹が痛くて、激痛に苦しみもだえながら。俺様は、意識がとおくなるのを、こらえていた。


 「兄さん、目が閉じそうだよ」
 「弟よ、そういう時は音色だ、音色だぜと呟くのだ」


 ハルスとペリージェの声が聞こえる。意識が遠くにいきそうであり、右手を握っているのは、ヒカルであった。ヒカルは微笑みながら、時間を確認している。
 あと三十分すれば、自己再生が始まる。それまでの辛抱である。
 ロウマン隊長が、タバコをふかしながら、こちらを見て微笑んだ。

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