再び交わる僕らの思い

ほっとけぇき

文字の大きさ
20 / 41
第二章

目覚めから ≪光希視点≫

しおりを挟む
≪光希視点≫
 病室で一度目を開けてから、眠気にあらがうことができずに再び目を閉じた。なぜだか体が鉛のように重い。

 一度意識が覚醒してからは背中のズキズキとした痛みで思うように眠ることができなかった。体は眠っているのに意識だけは覚醒しているという状態だ。

 それでも体は休息を必要としていたようで、浅い眠りに就くか激痛で目を覚ますことの繰り返しはしばらく続いた。

 そして、次にはっきりと意識が覚醒したときは不思議と痛みは感じなかった。しかし、体は鉛のように重く起き上がることすらままならない。

 動くことができないとついつい余計なことまで考えてしまう。そのせいで、外で降る雨の音が余計にこびりついてやまない。

 それからは、ただぼーっとしていた。まさしく抜け殻というにふさわしい様だ。眠ろうにも眠たくならないし、だからと言って何かを考えたり、思い出したりするのも嫌だった。

 端的に言えばこの無情な現実から逃避したかったのかもしれない。

 静寂のままに無駄に時間が経っていった。それとともにだんだんと思考が冴えてくる。思考がさえたことによって、あの日の……彼女のことがフラッシュバックしてしまう。目に見える景色がほとんど灰色だという事実が、僕の気分をさらに下降させるのだ。

 「弱くて、ごめん……せせらぎ」

 一言、たった一言だけど弱音が出ると口から出る言葉すべてが弱音へと変わっていく。

 いつもそうだ。僕は人の優しさを受け取るだけ受け取ってそれをないがしろにすることしかできない。

 せせらぎに出会ったときも、村で友人ができたときもそうだ。彼らはどうなった?みんな、みんな深い傷を負って今も治りきっていなかったり、せせらぎに関しては生死すら分からなくなっている。

 僕は彼らに貰う分だけ貰って何も返せていない。甘えすぎていたのだ。与えられることに慣れて、一瞬で奪われる現実から逃げ続けた。このけがの痛みも、せせらぎがいなくなってしまったこともすべて、すべて……。

 「僕が、関わってしまったから。」

 拳を握りしめようにも力が入らない。それが歯がゆくて、歯がゆくて仕方がない。無機色な病室は今の僕に薄暗く感じて、さらに気持ちが沈んでいく。

 謝りたい人はここにはいない。悔やんでいても時は戻らない。そんなことは分かっている。分かっていても、どうしても、縋っていしまう、悔やみ続けてしまう。こんな愚かで姦しい自分自身が本当に嫌になる。

 譫言のようにつぶやき続けた言葉はやがて涙に変わり、とどめなく流れ続ける。こんな自業自得な状況で泣いて言い訳ないのに、一度泣きだしたら止まらなかった。否、止められなかったのだ。

 ドアをノックする音が聞こえる。

 「光希ー。……やっぱ、起きてねぇか。」
 
 そう自嘲気味に言いながら入ってきたのは病室に入ってきたのは涼介だった。どうやら彼は僕のお見舞いに来たらしい。彼の様子からすると僕は相当な時間を眠りに費やしていたのだろう。

 彼は快活とまではいかないけど、辛いことを笑い飛ばしてくれるような奴だ。そんな彼が目元に隈を拵えて、なおかつ、ため息をついている姿が彼の気持ちを代弁している。もう一息、彼がため息を吐くとこちら側に近づいてきた。

 勘弁してほしい。今のこのどんよりとした空気を換えるという意味ではありがたい。

 だが、今はどうしても彼には……彼にだけは会いたくなかった。彼に見つめられると、僕のすべてを見透かされたような気分になる。

 彼はいつも僕の真意を的確に見抜く。そして、僕を立ち上がらせようとする。でも、今は僕には何もない。
 
 コツリ、コツリと彼はゆっくりと近づいてくる。それに比例するように僕の鼓動はどんどん高まっていく。

 焦燥からなのか、汗で首元の髪の毛がまとわりついて気になって堪らない。どうにか目をつぶろうにも、外で降る雨がノイズになって頭で反響して眠れない。

 彼の足音が止んだ。静寂が戻ってきたようだ。それでも僕は彼を見ることができなかった。

 彼は今自分のことをどんな顔で見ているのだろう。他の看護師でもいいから、誰か来てほしい。僕にはこの沈黙が耐えられない。

 「なぁ、光希……お前、起きているよな?」

 先に沈黙を破ったのは涼介だった。どうにもこの静寂は彼にとっても煩わしいものだったらしい。彼はどこか確信じみた口調で言う。ただ、彼の声がほんの少しだけ震えているのは気のせいだろうか?僕には目を開けるしか選択肢が残っていなかった。

 「…………なんで、わかった。」
 「瞼が、……瞼が震えてたんだよ。俺が近づくたびに反応するもんだから分かりやすかったわ。……はぁ、でも本当に良かった。」
 「りょう、すけ」
 「もう、目覚めないかと……思った。……生きて、生きて戻ってきてくれてありがとう。」

 目を開けても彼から視線を逸らしたままだった。彼と目を合わせてしまうと、すべてを吐き出してしまいそうになるからだ。恐る恐る彼の方に目を向けてしまったら、ダメだった。

 彼は泣いているようだった。彼の目からはぽろぽろと涙が零れ落ちる。やがてそれらは僕の布団の上でシミとなる。布団の方に目をやるとつかむ手は強く震えている。それからもう一度彼の方に目をやると、彼は笑っていた。僕を愛おしいとでも思うような目で見つめながら笑っている。

 「あっ、ナースコールを押さないと。……自分で押せないわな。」

 そう言ってから、彼は枕元に置かれているナースコールのボタンを押した。そこで初めて自分の腕が思うように動かないことに気づく。俺があたふたしている様子をみて、彼はやれやれと言いたげな顔で僕のことを見た。

 「お前な、そりゃ1か月も寝てりゃ、腕も動かねぇに決まっているだろ。」
 「は?……まじか、そりゃ、こんな声、ガサガサなわけだ。」

 1か月……そんなに寝ていたのか。そりゃあ、彼があんなに暗い顔をするわけだ。それにしても、この腕の違和感は一体何なんだろうか?

 「俺の……腕」
 「ん?どうした?腕、痛いのか?」
 「ち、違う。左腕、何か……変。」
 「それな……お前、左腕が折れてるからだぞ。しっかりと固定されているから、違和感程度で済んでるけど、運ばれたときは本当にやばかった。」
 「やばかった。」

 さっきまでは笑っていた彼が、スンと真顔になりながら言った。博識で話すときにはどこか難しい言葉ばかり使う彼が、その語彙力を溶かすような発言をするくらいだから、どれほど衝撃的な姿だったのだろうか。

 聞きたい気持ちもあるが、なぜだか聞いてはいけない気がした。パンドラの箱を開けるような末恐ろしいものを感じたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...