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真昼の月と、再会のくちづけ
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「ルーナ、本当にこれでいいの?」
ウミガメのリティが心配そうに問う。
ルーナは今、リティと連れ立って陸近くの海面に顔を出していた。
「いいのよ。私は、クレアさえ助けられればそれでいいのだから」
「でも……」
泣きそうになったリティを見てさすがに心が咎めるが、もう決めたのだ。
「王子は来てくれるかしら……」
「大丈夫だよ、ルーナ。あんなに何度も手紙をくれてたじゃない。会いたい、って」
「そうだけど……」
「ほら、そろそろ約束の刻限だよ」
ルーナはリティに別れを告げると、意を決して陸へ上がった。彼を助けたとき以来、六年ぶりの上陸だ。
握りしめていた掌を開くと、そこにはルーナの瞳と同じ赤珊瑚色をした液体の入った小瓶がある。
栓を引き抜き、いっきに呷った。やがて体が――特に鱗に包まれた下半身が熱くなり、頭が朦朧としてくる。
(――熱い。怖い……!!)
体が痙攣し、自然と涙が溢れてきた。
ルーナが今口にした魔法薬――人間の足を得る魔法薬は、そこまで危険なものではない。永続的に効果が続くわけではないが、死の危険があるようなものではない筈だ。
それでも、今まで病気ひとつしたことのないルーナにとって、自らの体の変化はとても恐ろしく感じられたのだ。
(クレア……! 私を護って……!)
体が更に熱くなり、意識を保てそうにない。波打ち際に体を横たえたルーナは、そのまま意識を失ったのだった。
「ん……んぅ……」
くちびるに、何か温かいものが触れている。とても――心地がいい。
ルーナはうっとりとして、意識が戻ったのちも目を伏せていた。ルーナの体を、すんなりと伸びた両脚をさらう波が、さぁさぁと音をたて寄せては返す。
触れられているのが人のくちびるだと気づいたのは、ちゅ、ちゅ、と角度を変えてくちづけられ始めてからだ。
(だ……誰?)
さすがに意識がはっきりとする。慌てたルーナは身を引こうとするも、今度は両のくちびるの隙間を縫って、ぬるりと温かい塊が侵入してきた。
「んく……ん……ん……」
上顎の内側を刺激され自然と唾液が溢れる。それを今度は、音をたてて情熱的に吸われた。
(だめ……私は王子を……レナートさまを……)
ふたたび混濁しそうになる意識のはざまで、その名を思い出した。ルーナは瞳を見開いて、相手を見定めようとした。
「……!」
浅瀬の海と同じ澄んだアクアマリンの瞳が、静かな情熱をたたえてルーナを見つめている。あの日助けた彼と瞳を交わした時のことが、まざまざと思い出される。
ルーナはふたたび瞳を閉じた。これが彼ならば――なにも恐れることはないのだ。
舌を絡め、貪られ、ルーナは必死にそれに応えた。何度も何度も、深いくちづけを交わし合う。
やがて。ようやくくちびるを離したその人物は、やはりあの時ルーナが助けた彼だった。そして、二年前からはリティを通して手紙を寄越してくれていた彼――海辺の国サイナールの王子・レナートだ。
「やっと逢えたね……! この脚、僕のためなんだよね?」
身を離したレナートが、開口するなり感極まったように告げる。それはルーナとて同じだった。
「ええ。私も逢いたかった……」
ルーナがそう応えると、レナートはやさしくルーナを抱きしめてくれた。そうして、こう言ったのだ。
「僕のところへ来てくれるよね? ……クレア」
ルーナは胸の痛みをこらえながら、だがはっきりと応えて言った。
「はい。レナートさま」
その上空にはあの日と同じ、昼間の三日月が輝いていた。
ルーナは王子――レナートのマントに包まれ、抱きあげられた。
「あ、歩けるわ……」
「きみは足を得たばかりじゃないの? 無理はしないほうがいいよ。それに……」
「それに?」
首を傾げるルーナに、レナートはいたずらっぽく微笑んで言った。
「悪いがドレスを忘れたんだ。きみの美しい素足を、人目に晒したくない」
美しいと言われ頬を赤く染めたルーナをレナートは抱きかかえたまま、海沿いの道に停めた馬車まで運んだ。
そして馬車は一路、王宮へと向かったのだった。
ウミガメのリティが心配そうに問う。
ルーナは今、リティと連れ立って陸近くの海面に顔を出していた。
「いいのよ。私は、クレアさえ助けられればそれでいいのだから」
「でも……」
泣きそうになったリティを見てさすがに心が咎めるが、もう決めたのだ。
「王子は来てくれるかしら……」
「大丈夫だよ、ルーナ。あんなに何度も手紙をくれてたじゃない。会いたい、って」
「そうだけど……」
「ほら、そろそろ約束の刻限だよ」
ルーナはリティに別れを告げると、意を決して陸へ上がった。彼を助けたとき以来、六年ぶりの上陸だ。
握りしめていた掌を開くと、そこにはルーナの瞳と同じ赤珊瑚色をした液体の入った小瓶がある。
栓を引き抜き、いっきに呷った。やがて体が――特に鱗に包まれた下半身が熱くなり、頭が朦朧としてくる。
(――熱い。怖い……!!)
体が痙攣し、自然と涙が溢れてきた。
ルーナが今口にした魔法薬――人間の足を得る魔法薬は、そこまで危険なものではない。永続的に効果が続くわけではないが、死の危険があるようなものではない筈だ。
それでも、今まで病気ひとつしたことのないルーナにとって、自らの体の変化はとても恐ろしく感じられたのだ。
(クレア……! 私を護って……!)
体が更に熱くなり、意識を保てそうにない。波打ち際に体を横たえたルーナは、そのまま意識を失ったのだった。
「ん……んぅ……」
くちびるに、何か温かいものが触れている。とても――心地がいい。
ルーナはうっとりとして、意識が戻ったのちも目を伏せていた。ルーナの体を、すんなりと伸びた両脚をさらう波が、さぁさぁと音をたて寄せては返す。
触れられているのが人のくちびるだと気づいたのは、ちゅ、ちゅ、と角度を変えてくちづけられ始めてからだ。
(だ……誰?)
さすがに意識がはっきりとする。慌てたルーナは身を引こうとするも、今度は両のくちびるの隙間を縫って、ぬるりと温かい塊が侵入してきた。
「んく……ん……ん……」
上顎の内側を刺激され自然と唾液が溢れる。それを今度は、音をたてて情熱的に吸われた。
(だめ……私は王子を……レナートさまを……)
ふたたび混濁しそうになる意識のはざまで、その名を思い出した。ルーナは瞳を見開いて、相手を見定めようとした。
「……!」
浅瀬の海と同じ澄んだアクアマリンの瞳が、静かな情熱をたたえてルーナを見つめている。あの日助けた彼と瞳を交わした時のことが、まざまざと思い出される。
ルーナはふたたび瞳を閉じた。これが彼ならば――なにも恐れることはないのだ。
舌を絡め、貪られ、ルーナは必死にそれに応えた。何度も何度も、深いくちづけを交わし合う。
やがて。ようやくくちびるを離したその人物は、やはりあの時ルーナが助けた彼だった。そして、二年前からはリティを通して手紙を寄越してくれていた彼――海辺の国サイナールの王子・レナートだ。
「やっと逢えたね……! この脚、僕のためなんだよね?」
身を離したレナートが、開口するなり感極まったように告げる。それはルーナとて同じだった。
「ええ。私も逢いたかった……」
ルーナがそう応えると、レナートはやさしくルーナを抱きしめてくれた。そうして、こう言ったのだ。
「僕のところへ来てくれるよね? ……クレア」
ルーナは胸の痛みをこらえながら、だがはっきりと応えて言った。
「はい。レナートさま」
その上空にはあの日と同じ、昼間の三日月が輝いていた。
ルーナは王子――レナートのマントに包まれ、抱きあげられた。
「あ、歩けるわ……」
「きみは足を得たばかりじゃないの? 無理はしないほうがいいよ。それに……」
「それに?」
首を傾げるルーナに、レナートはいたずらっぽく微笑んで言った。
「悪いがドレスを忘れたんだ。きみの美しい素足を、人目に晒したくない」
美しいと言われ頬を赤く染めたルーナをレナートは抱きかかえたまま、海沿いの道に停めた馬車まで運んだ。
そして馬車は一路、王宮へと向かったのだった。
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