美月 ~芸能界の物語~

鎌倉結希

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【芸能界 デビュタント編】 第五章 ツバサプリンセス

36 バイオリニスト宇都宮楓

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また美月はツバサプリンセスの演技があって、その朝彼女はツバサタウンとの会議に参加しなければならないので、別れたあと私は祖父母の家に行った。空いたのでここにあそびに来たと祖父母に言うと、家に入った瞬間に上の階からかバイオリンのメロディが聞こえて、舞の言った通りにレッスンがあった。私は聞いた。「ちょっと見に行ってもいいですか」
  「いいよ。えっと、書斎ね、一緒に行くよ」

  マジか、私……

  祖父の導きで、朝の日差しで明るくなった階段を上って二階の部屋のドアはもう開いていたが、祖父はノックして入るとバイオリンを持って立っている従弟と教師がいた。私がちょっとレッスンを見たいと祖父は言うと、この教師は笑顔でうなずいた。「こっち、どうぞ。瑛斗のお兄さん?」
  「あ、従兄です」私は答えた。
  そして十歳になる瑛斗、私の従弟が言った。「彰、なんで来ると言わなかったの。宿題、助けてもらいたいけど」
  そう彼が言ったのは去年から、いつも私は彼と会うと英語と数学の宿題を完成まで助けたからだった。私は答えた。「え、あとでその質問をメッセージで送ってもいいよ」
  この人が教師か、本当に彼女はきれいだ。窓から差し込んだ明るさのせいか彼女の長い髪の毛が茶色く、そこから彼女の顔を見るとなぜか眩しいと感じた。彼女のセーターとロングスカート姿も大人らしくて、舞が言ったのは彼女は二十四歳だった。祖父が書斎を出ると、私は瑛斗と教師から少し離れたデスクの椅子へすわりに行った。実はここには本が多くて、ちゃんと本棚に目をやるといろんなジャンルのなかに祖父が好きなフランス語原作の小説もあった。
  レッスンが進むと、ただ四本の弦でメロディを演奏して、いつもピアノとかよりバイオリンの方がもっと簡単だと思うが、バロック時代の曲の何回も同じ個所で繰り返し練習している瑛斗を見ると意外と大変そうだった。しばらく先生は彼を観察するとうなずいて言った。「これ、家でちゃんと練習してね。遅くて、できる限りクリアなメロディーにして、録音して聞いてもいいし。来週また会ったら期待してるね……はい?」
  「僕は今週青森に行くけど、そんなに時間があるかな」
  瑛斗は言うと、彼女は微笑んだ。「大丈夫よ。ね、宿題みたいに言ったけど、宿題なんて考えないで。バイオリンってさ、ほかの楽器もね、上手くなったら本当に楽しいよ。例えばこの曲ね、こう演奏する人もいるし……あとはこうもできる」
  答えたあと、彼女は譜面を見ずに自分のバイオリンを取って演奏していた。多分さっき瑛斗が練習していた一ページ分で、久しぶりにバイオリンの近くに立った私はメロディーが心まで響いたようだった。滑らかで美しく、私はうっとりして彼女を眺めながら、演奏が終わると瑛斗も感嘆して言った。「先生すごい!」
  「すごくないよ。初めて練習したとき私も退屈だったね、でももっと経験があればいろいろできてくる……ね、瑛斗さん」
  「はい」
  「結局これは音楽だよ。練習して保護者などの前で演奏するためじゃなくて、ある日自分もその曲をわかるように、自分は音楽になるように、だからただ覚えて演奏したらだめね。そして、自分もその美しい音楽を作れたらいいでしょ。そのときはさ、自由だよね」
  瑛斗はなんと答えたか気づかなかった私は、長く先生を見ていたせいかと思った。彼女は言った。
  「はい、頑張ってね。次ね、さっきこのスタッカートまたしてくれる?」
  先生が私の存在を無視したらしいが、十一時半レッスンが終わるときに彼女は笑顔で私に向いて、バイオリンに興味があるかと聞くと、私は答えた。「あ、はい。ここに来て、偶然にレッスンがあると聞いて見に来ました」
  「いいよ。私ね今水曜、あと土曜に時間があって……音楽を勉強したことある?初心者の生徒なら他にもいるよ」
  なんと答えようかと考えながら、瑛斗が言った。「彰は島根に住んでますよ」
  彼女はちょっと目を大きく見開いた。「そうなの?」
  私はうなずいた。「はい、たまに上京しますね」
  「じゃあ、いいよ。将来東京に住んだら、またバイオリンを勉強したい人を知っていたら。実は私はフルートも教えられるけどね……これ、私の名刺」
  「この電話番号……」
  「うん、私の携帯だよ」
  人生で初めての名刺を見ると、ただ飾りのない白い紙に黒い字で、バイオリン教師とかも書かなくて、ただ宇都宮楓という名前、あとは番号とメールアドレスだった。「そうですか。私の名前は松島彰です……いえ、覚えなくてもいいです」
  「松島彰さんね……彰と呼んでもいい?」
  「大丈夫です」
  「よろしくね!」
  彼女はまた微笑んだ。

  最初もう彼女に連絡するつもりはなかったが、レッスンのあと長く話したからか、空港にいたとき私はもう島根に帰るとメールを宇都宮さんに送った。周りの通りすがりの人を見ながらまた返事がすぐに来たので驚いた。『私は島根に行ったことないね。なにかあったら連絡してくれたら嬉しいな』とメールの最後に書かれていた。
  フレンドリーな口調だからか、二日後にまた彼女に元気かとメールを送ると、意外とやり取りが続いて、気づいたら私は彼女のチャットアプリのQRコードを聞いた。
  ドキドキして待ちながら、その夜宇都宮さんが本当にコードを送ってくれて友だちに追加できた。もう邪魔しないつもりだったが、十一時くらいまでやり取りしていて、ほとんど島根の話で、その間彼女は『私も三重出身だ。多分彰の地元を想像できるかな』と送った。
  次の日の夕方、私の住んでいる市にはあまりレストランがないという話に、冗談として彼女は豪華な洋風の料理の写真を送った。自分で撮った写真らしいそれは、聞くと彼女の誕生日の食事で、一月で彼女が二十五歳になったとわかった。




――――――――――――――――――――
つまり、宇都宮楓は彰より9つ上です……!


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