原っぱの中で

紫奈

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 私はインフルエンザにかかった。A型だった。
受験が終わっていて本当によかった。
結局君のところに行くのは先延ばしにした。君に移してしまうのは申し訳ない。

2日間ほど体力的にきつい日が続いた。
夢の中で、過去の記憶に蝕まれた。痛い経験が私の身体を串刺しにした。

小学5年生の学習発表会の日、1人の女の子がふざけて私に小道具の帽子をかぶせてきた。その帽子をかぶる役の男の子は、'汚えな、菌がうつる'と言った。
小学6年生の時、友達と学校のバザーに行く約束をしていた。約束の場所に行くと、数人のクラスメイトを引き連れた友達に'私ちゃんは家にいなよ、この子達と行くから'と言われた。
中1の時、隣のクラスの男女1人ずつ、休み時間になるごとに私のクラスへ押しかけ、'こいつがいなければもっと平和なのに'と罵声を浴びせたり、殴ったり蹴ったりしてきた。同じクラスの女の子が、私ともうひとりをターゲットにした気持ちの悪い小説を書き、授業中回し合ってはくすくすと笑っていた。当時流行っていたアメーバ〇グというサイトで私を題材にした誹謗中傷の歌をブログにアップしていた。私の靴箱はゴミ溜め。ちょくちょく物も失くなった。
高1、受験に失敗した私は二次募集で引っかかった高校へ進学した。続けようと思っていたトランペットの道は閉ざされ、新しくはじめたダンスではぶかれ。私は行きたくもなかった高校で完全に浮いた存在だった。だんだん学校へ行けなくなった。学校に行かなきゃいけない時間はベッドから下りることが出来なかった。真昼間、窓からさす光の影に手を重ね1人で誰かの帰りを待った。何かをする気力もなく、そんな毎日が無限に続くのではないかという錯覚に陥った。

そんな自分が嫌になり、心機一転を試みて親元を離れ、新しい環境に身をおいてみたが、そこでもずるずると間違った方向に流れてしまった。



薄く小さなことも、私にとって大きなことも渦の中から度々私に飛んできた。刺さっては消え刺さっては消えを繰り返し、血の出ない傷口は広がるばかりだ。誰もいない空間で、誰にも届かない声をあげるのは虚しい。

夢から覚めた時の虚無感が嫌いだ。夢と現実の境目にいる瞬間が嫌いだ。隣に誰もいない時、それは何より恐怖を煽り、弱い部分からじりじりと侵食してくる。

だんだんと自分を殺すようになった。何度も何度も、出てきたいと叫ぶ内側の私を見殺しにした。人とずれた感覚をもつ自覚はある。だが私にはそれを理解するほどの自信も、知性も、環境も、持ち合わせていなかった。
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