原っぱの中で

紫奈

文字の大きさ
上 下
10 / 12

しおりを挟む
それからしばらく君と連絡を取らなかった。私から連絡しなければ君からくることはない。私はそれを知っている。

だが君は不安定で弱い。もしかしたら、という嫌な想像さえ頭をよぎる。私はなんとなく君の現状を想像することが出来る。本当になんとなくだし、何の根拠もない。だが、今は安定しているのかな、とか、今君は不安定だなくらいのことはわかるし、私がしてあげられることがないのもわかっている。

君の言葉はいつだって私を引き上げる。君はいつだって私に救いの手を差し伸べる。必ずだ。
それなのに私は君に何もあげられない。逆効果だ。君は辛い時に私を頼ってくれない。私を頼ることがない。
私と君は傾いた天秤の中で固定され辛うじて繋がっているだけなのだ。つり合っているわけでもない、傾きが変動することもない。ただこの位置関係を守る以外に方法もない。

君と私は長く続く関係ではない。君はずっとその事に気づいていた。私は気づけなかった。いつまでも君と続けばいいなんて思っていた。
脆い糸の端をお互いに掴んでいただけなのだ。
関係がこれ以上に発展することはない。

君と私の話はここで止まってしまっている。
あれから数カ月が過ぎた今も、距離は変わらず、進むことも遅れることもないまま、ただ停止している。
私が声をかけたら何かが変わるのだろうか。君の世界に私は存在させてもらえるのだろうか。答えはいくら考えたって出てこない。


君がいないなら私も生きたくはない。君がいないと困るし、君を必要としていたい。でも君がいなくても生きていけてしまうのも事実だ。
そんなものだ。全てそんなものなのだ。そんなもの、で片付いてしまうくらいのものだ。世界はそんなもの、で溢れていて、きっと君はその意味を理解しているのだと思う。私が気づくよりずっと前に。たった一つの歳の差を、君が'私さんは俺と同期でしょ、笑'と笑った歳の差を、私はこれからも埋めることは出来ないのだろう。





人はみんな生きているしみんなそのうち死ぬ。
誰もが分かりきったことで、大半の人が焦点を当てないことで、そこにピントを合わせた君は、綺麗に見えて当然なのだと思う。
しおりを挟む

処理中です...