学園BLゲームの主人公に転生したけど友情エンドを目指したい

ひなた

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第十七話 本番

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 演武の発表まであと一週間に迫った日の放課後、俺は息を切らしながら膝に手をついていた。

「おい、貧弱ピンク」
「ムキムキオレンジが何か言ってる」
「あ?」
「やべっ。すみません、ひねりがなさすぎましたね」
「そうじゃなくて、ムキムキオレンジって言ったこと謝れよ! ……げ、自分で言った」

 俺がゲラゲラ笑うとロラン君が肩パンしてきた。普通に痛え。

「まあ、いいわ。それよりも演武の期日が迫ってきたな」
「そうですね。結構焦ってます」
「仕方ないから今回は特別にオレの固有魔法をお前にかけてやる」
「どうぞどうぞ。すぐかけてください。ありがとうございます」
「躊躇なさすぎだろ」

 手を広げていつでも魔法を受け入れる準備をする。固有魔法はロマンがあるから好きだ。
 ロラン君は何か呪文のようなものを呟き、俺の頭を叩いた。

「かけたぞ」
「なんか雑」
「丁寧にかけてやったわ。さっさと構えろ」
「どこが変わったとか教えてくれないんですか?」
「やってりゃわかる。ほら、構えろ」
「はい!」

 相対して構える。なんだろう、普段よりしっかりと自分の足で立ててる気がする。
 ロラン君が振り下ろした木剣を受け止め、回り込み攻撃する。

「え?」
「危ねっ」
 剣がロラン君に命中する寸前、驚異的な反射神経でかわされた。
 おかしい。いつもならこんな鋭い剣筋にならないはず——

「バルデウス侯爵家の固有魔法『身体強化』だ。馴染むまでやるぞ」
「すげー! かっけー! ありがとうございます!」
「悪い気はしないな」

 嬉しくて剣をぶん回したら「動きが甘い!」と言われて投げ飛ばされた。こっちの剣術って頭突きとか蹴りとか普通にしてくるから怖い。
 本来は盾とかも装備するらしいけど、今回の演武は剣一本だ。本当に助かった。盾とか投げられたら対処できない。

 結局、身体強化があってもガチのロラン君にはまるで敵わなかった。
 でも演習で披露する予定の動きはほぼ完璧に再現することができた。これなら成績も問題ないはずだ。

「なんでもっと早くかけてくれなかったんですか?」
「あー、代償がちょっとな。筋力がある程度ないと危険だから」
「え? 大丈夫なんですか? 大丈夫ですよね!?」
「魔法が切れたら筋肉痛が一気にドバッと……わるい、忘れてくれ」
「怖い怖い怖い。嘘だと言ってくださいよ」

 露骨に目を逸らされた。今後一週間自分がどんな目に遭うか簡単に予想できて、俺は強化された足で逃走してやろうかと本気で考えた。



 地獄に地獄を重ねた訓練がやっと終わり、ようやく演習の日になった。
 周囲は自分たちの番を控えている人、すでに終わって解放感に浸っている人がごっちゃになって、それぞれ違う種類のざわめきを生んでいる。
 目の前で披露される剣術は素晴らしく洗練されているように見えて、あんなに訓練を重ねたのに自信をなくしてしまう。

「すごいですね」
「今のがか? 普通だぞ」
 隣にいるロラン君に話しかけたら怪訝な顔をされてしまった。
「でも自分と比べちゃって落ち込みます」
「そりゃ一ヶ月ガチでやっただけのやつと、小さいうちからやってたやつ比べたらそうなるだろ。あいつら騎士の家系だ。落ち込むだけ無駄だって」
「励ましてくれたのは嬉しいですけど、そこは『そうだな。不安だよな』と共感してほしかったです」
「面倒くせえ」

 本気で面倒に思ったのか、ロラン君は椅子の背もたれに深くもたれると腕を組みはじめた。
 俺は生徒たちの剣術を見ながら、緊張で乾いた喉を潤すため水を飲み続けた。



 名前を呼ばれ所定の場所まで早足で向かう。鼓動が早い。歩き方が妙にぎこちなく感じる。
「緊張しすぎ」
「痛っ」
 木剣でケツを叩かれた。振り返って抗議の目を向けると、ロラン君が口角を上げて笑っていた。

「楽しむんだろ?」
「はいっ!」
 その一言で緊張がほぐれ、ふっと魔力が流れ込むのを感じた。ロラン君が身体強化の魔法をかけてくれたみたいだ。

 見物席のざわめきが遠くに聞こえるなか、俺はロラン君と対峙する。二人同時に剣を掲げ、軽く一礼した。
 ロラン君が体の横で剣を構え、俺は腰を落とした低い構えをとる。

「始め!」
 教官の合図とほぼ同時にロラン君が踏み込んできた。一歩目から振り下ろされる鋭い一太刀を訓練通りに受け止める。
 カンッという木がぶつかる音と共に火花のような光が散る。なかなかリアルに再現できた。真剣でやり合ってるみたいでわくわくする。

 ロラン君の攻撃は止まらない。上段、下段、右から、突き——どれも正確で力強い。まさに教本通りの理想的な剣筋だ。
 おかげで魔法を合わせやすい。タイミングを見計らって、ロラン君の木剣に赤い炎のような光を纏わせる。彼が目を細めて笑うのが見えた。
 わかるよ。かっこいいとテンション上がるよね。

 数合打ち合ったあと、ロラン君が「これで最後」とでも言いたげに、大きく木剣を振りかぶった。俺は真正面から受け止め、なんとか体勢を整える。

 次は俺の番だ。
 訓練で繰り返してきた型を、丁寧に繰り出していく。ロラン君はそれを軽やかに受け流し、時折フェイントを入れてくる。
 事前の打ち合わせだと受け流すだけという話だったのに。

「ロラン様、ちょっと」
「早く振れよ」
 あ、だめだこれ。完全に熱くなってる。
 こんな状況で会話を続けたら舌を噛みそうだ。不安を振り切って、剣を振り下ろす。

「あ」
「やべ」

 力が入りすぎて剣が弾かれた。木剣が宙を舞い、予定になかった動きに、俺もロラン君も一瞬素に戻る。

 やばい。俺が勝って終わる予定だったのに、このままじゃ負ける。とにかく剣を取り戻さないと。

 先に動いたのは俺だった。風魔法で宙に浮いた剣を一瞬だけ空中に止め、そのまま後方へ跳躍する。

 すると、ロラン君が剣を構えたまま突進してきた。どうやら予定を変更して本気で決着をつけるつもりらしい。

 身体強化のおかげで体が軽い。足の裏がしっかりと地面に接地しているのを感じる。助走をつけて勢いよく地面を蹴ると、体が浮いた感覚がした。

 空中で浮かんでいる剣を掴む。すると、視線がしっかりとぶつかった。
 ロラン君の目は予想外の展開に驚きつつも、どこか楽しそうに光っている。

 俺も今この瞬間がすごく楽しい。

 そのまま彼の背後に着地し、そっと首筋に剣先を当てる。

「そこまで!」
 教官の声が響き、演武が終了した。


「ありがとうございました」
 礼をして息を整える。今すぐこの場に座り込みたいくらい疲れた。
 ロラン君はむしろ物足りないという目をしていて、体力の差をありありと感じる。

 さざめきがどよめきになり、教官の一喝でまた静かになる。それほどロラン君が負け役になったことが衝撃だったのだろう。

 教官に呼ばれ、俺たちは姿勢を正して並んだ。
「ロラン、素晴らしい剣技だった。殻を破ったな。次は攻撃のバリエーションを増やしてみるといい。トーナメント戦も期待している」
「ありがとうございます!」
 ロラン君が嬉しそうに返事をする。よかった。俺が足を引っ張って彼の評価を下げるかもしれないと心配していたから。

「キースは……」
 教官が難しい顔で腕を組む。
「どうでした? けっこういい線いったと思うのですが」
「悪くはないが……良寄りの可、といったところか」
「良寄りの可!?」
 結構頑張ったつもりだったからちょっと落ち込む。この学院では評価が秀・優・良・可・不可の順番だったはず。可ということは、ギリギリ合格ってことだよな。

「いや、落第寸前だったのが一ヶ月でよく頑張ったと思うぞ。それと魔法は素晴らしい出来だった。ただ、剣を空中で止めるのはやめてくれ。あれを剣術として評価するのは難しい」
「はい、すみません。ありがとうございました」

 ぐうの音も出ないや。それにしても俺、落第ギリギリだったのか。ロラン君が組んでくれなかったら詰んでたな。
 感謝の意味を込めてロラン君を見ると、教官に隠れて笑っていた。感謝の気持ちが少し薄れた。


 教官に一礼して見物席に戻る。途中、ロラン君が「ありがとな」と小さな声で言った。
「ロラン様?」
「お前のおかげで一皮むけたというか、とにかく楽しかった」
「俺もすごい楽しかったです! ロラン様の剣がシュッときて、それをパァンって返した時なんて」
「わけわからん擬音をやめろ。あとその敬語も」
「え……」
 ロラン君は少し照れくさそうに頬を掻いている。

「いちいち様とかつけなくていい」
「いいんですか?」
「学院内でならいい。てかそういうやつら結構いるし」
 たしかに、同級生がタメ口で話してる場面をよく見かける。でもそれは家格がほぼ同じくらいの場合だ。

「俺庶子ですよ」
「知ってる。でも関係ない。あー、俺たち、その……友達だから」
 目の前に手が差し出される。いつも真っ直ぐに俺を見る目は、今はわずかに逸らされていた。

「これからもよろしく! ロラン!」
 握り返すと思いっきり握り返された。仕返しにぶんぶんと振り回す。
「おい、やめろ。キース」
「そっちこそさっさと離せよ」
 二人で言い合いながら見物席に戻る。ふとカイの方を見ると、目立たないようにサムズアップしていた。

 これは好感度が上がったってことだよな。まあ、隣を見たら一目瞭然だけど。

 ロランの笑顔が陽光を受けて輝いている。俺も似たような顔をしているはずで、それがなんだか嬉しかった。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

虎太郎
2025.11.28 虎太郎

面白いです。友達エンドで先生攻略ですか?🥰

2026.02.26 ひなた

ご感想ありがとうございます!

解除

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