【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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イーザリア王国編

チンピラ

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 優しい風が頬を撫でる。季節は春。恐れていた季節がやってきた。
 ミゲルの言ったことは本当だった。想像以上に人が増えた。混雑を避けるためいつもより遅い時間に冒険者ギルドに行くようになった。
 鉄級で割りのいい仕事は遠出になることが多い。遠出の依頼は基本受けないので、遅れて行っても問題ない。
 小競り合いはたしかに多い。夜にギルドの酒場に行くのはしばらく中止だ。いつ巻き込まれてもおかしくない。

 今のところ絡まれることなく過ごせている。しばらくしたら落ち着くだろう。それまでの辛抱だ。
「すごく気持ちいい天気だね。今日も人が多そうだ」
「だろうな」
 うんざりしながらギルドの扉を開ける。人は多いが許容範囲だ。
「今日は何しようか?もうホーンラビット狩りは飽きたなぁ」
「森に行ってコボルトを狩るか?」
「いいね、じゃあ 」

「よう、お前がアイザックか?」
 会話の途中で絡まれた。声の持ち主を確認すると、そこには金髪長身の槍使いがいた。
「おい!返事しろよ!銅級風情が舐めたマネしやがって」
 兄さんが金髪槍使いを無視すると、その態度に怒って胸ぐらを掴んできた。

「離せ」
「お前がアイザックか?」
「そうだ」
「チッ。めんどくせえ。さっさと答えろや」
 掴んだ手を離したと思ったら、即殴りかかってきた。兄さんはそれを最小限の動きで避ける。
「クソがっ!舐めやがって!」
「何の用だ?」
「チッ!……お前、ワイバーンを単独で討伐したって本当か?」
「ワイバーンの幼体だったら討伐した」
「別に幼体かどうかはどうでいいんだよ。なぁ、俺と決闘しようぜ」
「断る」
「は?」
「お断りだ。俺は誰とも決闘しない」
「金級冒険者ソーン様の申し出を断るとか舐めてるのか?ぶち殺すぞ!」
「危ないっ!」

 ソーンがいきなり槍を振り上げ兄さんに襲いかかる。僕は思わず雷撃の魔法を使ってしまった。
 ソーンは痛みに驚き槍を落とす。そして僕を思いっきり睨みつけた。
「てめぇ!このガキ!邪魔しやがって、ただじゃおかねぇ!」
 ソーンが僕に掴み掛かろうとするが、その前に動きが止まる。兄さんがソーンの両肩をギリギリと握りしめていた。
「ルカに手を出してみろ。お前を殺す。決闘なんて面倒だ、今すぐ殺してやる」
「クソッ!離しやがれ!」
 ソーンが兄さんの手から逃れようと身体を捩るがびくともしない。

「今日のところは勘弁してやる。これくらいで済んでよかったなぁ?」
 兄さんの剣幕と全く動かない身体に焦ったのだろう。ソーンは捨て台詞を吐くとそのままギルドから出て行った。
 なんだあのチンピラは。怖かった。心臓がドキドキしてる。
「ルカ!怪我はないか!」
「僕は平気。兄さんこそ大丈夫?すごく乱暴な人だったけど」
「俺は大丈夫だ。怖い思いをさせてすまない」
「兄さんのせいじゃないよ」
「なんだったんだあの男は?」
「金級冒険者って言ってたね。有名な人かも。情報を集めてみよう」

 エイダンさんにソーンの話を聞いたところ、実力は確かだが素行に問題のある冒険者だと教えてもらった。特に僕はあいつに近づかないよう注意された。
 その後僕達は予定通りコボルト討伐の依頼を達成し、その日は終了した。

「あのソーンに絡まれるとは災難だったっすね」
 翌日、ミゲルが拠点に遊びに来てくれたのでついでにソーンの話をすると同情された。

「ソーンはトリフェ支部内で、最も白金級に近い金級と言われている実力者っす。整った顔立ちにそぐわない輩っぷりで冒険者からも恐れられてるっす」
「びっくりした。言動がチンピラなんだもん」
「顔と言動が合ってなさすぎて驚くっすよねー」
「あいつはなぜ俺に決闘を申し込んだ」
「あいつの趣味だからっす。あいつは自分とそこそこやり合えそうな相手を見つけたら、片っ端から声をかけて決闘を申し込むっす。最終的にその相手を痛めつけて楽しむのがいつもの流れっす」

 なんだそりゃ。めちゃくちゃ迷惑なやつじゃん。
「決闘を申し込むと言っても乗り気じゃない人もいるでしょ?」
「あいつは手段を選ばず脅迫して、必ず決闘に持ち込むっす。過去には家族を人質に取られて無理矢理決闘させられた人もいるから、ルカは用心したほうがいいっす」
「ひどいね。ちゃんと警戒しないと」
「ルカは俺が守る」
「俺も知り合いに声をかけて、ソーンを見張ってもらうようにお願いするっす。ダリオも昔あいつにやられて怪我でしばらく動けなくなって……許せないっす」

 ミゲルが怒っている顔を見るのは初めてだ。それだけダリオが酷い目にあったのだろう。
 そこに僕達まで被害にあったと聞いて憤慨している。

「俺も協力するっす!とりあえず情報が入ったらすぐ伝えるっす!幸いあいつは指名依頼が入って、遠出の長期任務になったから、しばらくは何もできないっす!」
 それを聞いてホッとした。一先ず安心だ。
 僕達はミゲルが持ってきたクッキーをつまみながら、その後の対策を話し合った。
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