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イーザリア王国編
お花見
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夜、眠る直前兄さんが僕を抱きしめる。その顔はひどく焦っているように見えた。
「ルカは俺が守る、だから大丈夫だ」
「無理しないで、僕だって兄さんを守りたいよ」
「駄目だ。もうあいつから決闘を申し込まれたら受けてもいいんじゃないか」
「……それはミゲルも言ってたでしょ。決闘したら兄さんが勝つかもしれないけど、逆恨みされるって」
「じゃあこの街から出るか」
「今は得策じゃないよ。あいつは依頼でこの国最大の港町にいる。伝手で情報も集まるから移動したらすぐバレる。そしたら確実に追いつかれる」
「話し合った通り決闘は避けて、あいつがダンジョンに篭る秋まで耐えるしかないのか」
「ダンジョンじゃ情報を集めても外に出られないからね。さすがに国外に出たらソーンも追いかけないみたいだし。寂しいけど秋になったらイーザリアから出よう」
「そうだな」
秋になったらイーザリア王国を出る。これはもう決めたことだ。
寂しいがほとぼりが冷めたらまた遊びにいけばいい。
「ルカ、ひとりで行動するのは控えてくれ。必ず誰かと一緒にいてほしい」
「わかった。兄さんも気をつけてね」
「ああ」
今日も抱き合いながら寝ることになるだろう。すっかり習慣になってしまった。
兄さんの鼓動が早い。僕を守らなければと必死になっているのかな。その気持ちは嬉しいし頼もしいが、淋しい。
僕達は相棒なのに
今の兄さんに言っても響かないだろう。いつかちゃんと伝わればいいな。
ここ最近は平穏な日々が続いている。ソーンに決闘を申し込まれたと噂になったことで、逆に他の冒険者に絡まれることがなくなったから楽になった。
冬に比べると春は依頼も多く気候もいい。人の多さを無視したら最高の季節だ。
この世界の暦は世界共通のものだ。季節は春夏秋冬。1日は24時間。
春の1の月、2の月、3の月といったように季節ごとに3つの月が存在する。
1月は28日。7日×4週で1月となる。
また夏の3の月と秋の1の月の間に創造神と女神の月が入る。
春夏秋冬の12ヶ月と創造神と女神の月を合わせて、1年は364日。閏年や閏月はない。前世の暦とは違うが、大きな違いはないのですぐに受け入れられた。
この世界は通貨や言語、暦など共通のものが多い。その原因はダンジョンだ。ダンジョンは世界各国平等に出現する。
そしてダンジョンからは全く同じ通貨がドロップし、同じ言語で注意書き等が書かれ、暦通りに時間が経過する。
世界を旅するのに楽でいいなと思っていた仕組みはダンジョンのおかげだった。それに気づいたのは最近だ。大変興味深い。
早く銅級になってダンジョンに行ってみたいなと思う。
「兄さん明日お花見しない?」
「お花見?」
「花を見ながらピクニックするの。過ごしやすい季節だからさ、のんびりしたくて。お弁当作るよ」
「いいな。カツサンドが食べたい」
「兄さん好きだね」
「ああ」
兄さんはワイバーンカツレツ以来、カツにハマりよくリクエストするようになった。普段は、前世の豚肉と味が変わらないオーク肉を使っている。オーク肉もオリーブオイルも安いのでついつい作ってしまう。
いつかカツ丼を食べさせてあげたいな。兄さんが絶対好きな味だ。
翌日、僕達はいつもホーンラビット狩りをしている草原の奥の方にある丘の上に立っていた。
「見晴らしが良くて気持ちいいね。丘を少し下ったところに、花畑があるからもうちょっと歩こうか」
「春だな」
「春だねぇ」
そんな話をしていると目的地の花畑に到着した。
辺り一面、色とりどりの花が咲き乱れる絶景に心を奪われる。原色の花が多くてまるで南国のようだ。
お花見といえば、淡い色の花弁が儚く舞い散るあの場面が頭に浮かんでしまう。目の前の光景だけに集中したいのに。
まだまだ先の話なのに別れを意識して、センチメンタルな気持ちになっているのかも。そんな記憶の片鱗を掻き消すように兄さんに話しかける。
「綺麗な花畑だね。適当な場所に座ろうか」
「そうだな」
「もうカツサンド食べちゃう?」
「そうしよう」
カツサンドが入ったバスケットを手渡すと兄さんはバクバクと食べ始めた。ひと口の大きさが僕と全然違う。
「兄さんも飽きないね」
「毎日カツでもいいくらいだ」
「太るよ?」
「問題ない」
世の女性が羨ましがる発言だ。兄さんの場合、毎日それだけ動いてるってことだけど。
しばらくしてカツサンドを食べ終わると兄さんがいきなりゴロンと横になった。
「心地よくて眠ってしまいそうだ」
「僕達はお花見に来たんだからもうちょっと花を見ようよ、ほら」
僕は立ち上がり花畑の中に入るとその場で手を大きく広げた。はしゃぎすぎたかなと思ったが、兄さん以外誰も見てないからいいだろう。
「ほら、兄さん。綺麗でしょ?」
兄さんは眩しいものを見るように目を細めて、噛み締めるように言葉を紡いだ。
「ああ、綺麗だ……すごく」
あまりにも普段とは違う表情だった。だからその言葉が何の花を見て出たものなのか、僕にはよくわからなかった。
「ルカは俺が守る、だから大丈夫だ」
「無理しないで、僕だって兄さんを守りたいよ」
「駄目だ。もうあいつから決闘を申し込まれたら受けてもいいんじゃないか」
「……それはミゲルも言ってたでしょ。決闘したら兄さんが勝つかもしれないけど、逆恨みされるって」
「じゃあこの街から出るか」
「今は得策じゃないよ。あいつは依頼でこの国最大の港町にいる。伝手で情報も集まるから移動したらすぐバレる。そしたら確実に追いつかれる」
「話し合った通り決闘は避けて、あいつがダンジョンに篭る秋まで耐えるしかないのか」
「ダンジョンじゃ情報を集めても外に出られないからね。さすがに国外に出たらソーンも追いかけないみたいだし。寂しいけど秋になったらイーザリアから出よう」
「そうだな」
秋になったらイーザリア王国を出る。これはもう決めたことだ。
寂しいがほとぼりが冷めたらまた遊びにいけばいい。
「ルカ、ひとりで行動するのは控えてくれ。必ず誰かと一緒にいてほしい」
「わかった。兄さんも気をつけてね」
「ああ」
今日も抱き合いながら寝ることになるだろう。すっかり習慣になってしまった。
兄さんの鼓動が早い。僕を守らなければと必死になっているのかな。その気持ちは嬉しいし頼もしいが、淋しい。
僕達は相棒なのに
今の兄さんに言っても響かないだろう。いつかちゃんと伝わればいいな。
ここ最近は平穏な日々が続いている。ソーンに決闘を申し込まれたと噂になったことで、逆に他の冒険者に絡まれることがなくなったから楽になった。
冬に比べると春は依頼も多く気候もいい。人の多さを無視したら最高の季節だ。
この世界の暦は世界共通のものだ。季節は春夏秋冬。1日は24時間。
春の1の月、2の月、3の月といったように季節ごとに3つの月が存在する。
1月は28日。7日×4週で1月となる。
また夏の3の月と秋の1の月の間に創造神と女神の月が入る。
春夏秋冬の12ヶ月と創造神と女神の月を合わせて、1年は364日。閏年や閏月はない。前世の暦とは違うが、大きな違いはないのですぐに受け入れられた。
この世界は通貨や言語、暦など共通のものが多い。その原因はダンジョンだ。ダンジョンは世界各国平等に出現する。
そしてダンジョンからは全く同じ通貨がドロップし、同じ言語で注意書き等が書かれ、暦通りに時間が経過する。
世界を旅するのに楽でいいなと思っていた仕組みはダンジョンのおかげだった。それに気づいたのは最近だ。大変興味深い。
早く銅級になってダンジョンに行ってみたいなと思う。
「兄さん明日お花見しない?」
「お花見?」
「花を見ながらピクニックするの。過ごしやすい季節だからさ、のんびりしたくて。お弁当作るよ」
「いいな。カツサンドが食べたい」
「兄さん好きだね」
「ああ」
兄さんはワイバーンカツレツ以来、カツにハマりよくリクエストするようになった。普段は、前世の豚肉と味が変わらないオーク肉を使っている。オーク肉もオリーブオイルも安いのでついつい作ってしまう。
いつかカツ丼を食べさせてあげたいな。兄さんが絶対好きな味だ。
翌日、僕達はいつもホーンラビット狩りをしている草原の奥の方にある丘の上に立っていた。
「見晴らしが良くて気持ちいいね。丘を少し下ったところに、花畑があるからもうちょっと歩こうか」
「春だな」
「春だねぇ」
そんな話をしていると目的地の花畑に到着した。
辺り一面、色とりどりの花が咲き乱れる絶景に心を奪われる。原色の花が多くてまるで南国のようだ。
お花見といえば、淡い色の花弁が儚く舞い散るあの場面が頭に浮かんでしまう。目の前の光景だけに集中したいのに。
まだまだ先の話なのに別れを意識して、センチメンタルな気持ちになっているのかも。そんな記憶の片鱗を掻き消すように兄さんに話しかける。
「綺麗な花畑だね。適当な場所に座ろうか」
「そうだな」
「もうカツサンド食べちゃう?」
「そうしよう」
カツサンドが入ったバスケットを手渡すと兄さんはバクバクと食べ始めた。ひと口の大きさが僕と全然違う。
「兄さんも飽きないね」
「毎日カツでもいいくらいだ」
「太るよ?」
「問題ない」
世の女性が羨ましがる発言だ。兄さんの場合、毎日それだけ動いてるってことだけど。
しばらくしてカツサンドを食べ終わると兄さんがいきなりゴロンと横になった。
「心地よくて眠ってしまいそうだ」
「僕達はお花見に来たんだからもうちょっと花を見ようよ、ほら」
僕は立ち上がり花畑の中に入るとその場で手を大きく広げた。はしゃぎすぎたかなと思ったが、兄さん以外誰も見てないからいいだろう。
「ほら、兄さん。綺麗でしょ?」
兄さんは眩しいものを見るように目を細めて、噛み締めるように言葉を紡いだ。
「ああ、綺麗だ……すごく」
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