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イーザリア王国編
別れ
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痛そうだな
ソーンの身体を見た率直な感想だ。事情を知らなければ、とんでもない大事故に巻き込まれたかわいそうなやつだと同情していた。とりあえず急いで回復しなければ。
全身骨折しまくりだ。特に左足がひどい。内臓もダメージを受けている。剣で斬られた傷も深い。
なぜまだ生きているのかと、疑問に思うくらい酷い怪我だった。まるで交通事故にあって重傷を負った人のようだ。
大剣で斬りつけただけでこの怪我はありえない。兄さんはソーンをどうやって倒したんだろう。
兄さんが要求した決闘の報酬はソーンの槍と命だ。エイダンさんが教えてくれた。
せっかく兄さんが僕のために頑張ってくれたんだ。できるだけ望みを叶えてあげたい。
とりあえず生命の危機は去ったので、治療費が金貨200枚くらいになるよう調整する。重大な後遺症が残らないように治してあげたから、それでいいだろう。
完治までどれくらいかかるか、後は本人の努力次第だ。深く考えずに命を賭けた報いを受けるといい。
「終わった?」
ダリオが周りにバレないように、人目を避けて確認してくれた。
「終わった。あとは聖職者様がやってくれるよ」
「そうか、よかった」
「兄さんは?」
「エイダンとギルドへの報告書を作ってる。1時間くらいで終わるんじゃないかな」
「そっか」
「なあ、ひとつ聞いていいか」
「どうしたの?」
「お前何者だ」
「カミラにも同じこと聞かれたなぁ」
「お前は俺が知ってるルカなのか?」
「僕は僕だよ。鉄級で冒険者歴7ヶ月目のお荷物くん。趣味は食べ歩きで最近紅茶にハマってる」
「嘘つけ、最近は菓子だろ」
「カミラはこれで納得してくれたのに」
「俺は納得できない」
怒らせてしまったみたいだ。だが僕の様子を見て諦めたのか、ダリオは大きく息を吐くと険しい顔になった。
「アイザックさんとの関係、ルカはどう思ってるんだ?」
「どういうこと?」
「普通の兄弟関係に思えなかった。あれじゃまるで、アイザックさんが、その」
「僕にべったり依存してる?」
「それ」
「別に構わないよ。僕も兄さんと似たようなものだし」
「でも俺はアイザックさんが病的に思えた。初めて会った時にさ、ルカに恋人ができたら捨てられるって言ったこと、後悔した」
「あの時のこと兄さんは怒ってないよ。ありがとう気にかけてくれて」
「別に……悪い。ふたりがいいなら俺が口出すことじゃないな。ルカ達はこれからどうするんだ?」
「ソーンの逆恨みが怖いからね。他国を目指してまずはこの国の南部に行く。冒険者ギルドに顔を出すのは、今日が最後かな」
「見送りに行く。『銀色の風』全員で」
「ありがとう。出発の時間は明日伝えるね」
「ミゲルの予知でわかりそうだけど」
「たしかに。試してみる?」
突然訪れた別れから目を背けるように、僕とダリオは笑い合った。
冒険者ギルドでお世話になった人達に挨拶をしていたら、すっかり遅くなってしまった。
皆別れを惜しんでくれた。エイダンさんは号泣していた。見事な男泣きだった。
たった半年の滞在だったけど、いつのまにか知り合いが増えていた。
「兄さん」
「どうした?」
「またこの街に戻ってこようね。何年かかるかわからないけど」
「そうだな、いい街だった」
最初すぐに出て行こうとしたくせに、なんて野暮なことは言わない。
僕達の気持ちとは裏腹に、空には星がキラキラと輝いていた。
冒険者ギルドで挨拶をした日から2日後、僕達はイーザリア王国南部にあるルヨザの街を目指すことにした。
乗合馬車の受付前で、僕達は『銀色の風』と最後の会話を楽しんでいた。
「ル゛カ゛ー!ざびじいっずー!」
「僕も寂しいよ。ミゲルまた遊ぼうね」
「また戻ってきなさいよ!その時はいろいろ話をしましょ」
「そうだねカミラ。たくさん話題を仕入れてくるよ」
「キンキンに冷えた紅茶、次会った時、楽しみにしてる」
「約束ね!いろんな国の紅茶で試して最高に美味しいものを淹れるから!」
「元気でな」
「ダリオもね」
「うわーん!やっぱりさみしいっす!行かないでほしいっす!」
ミゲルが僕の胸元を掴み引っ張る。服が伸びちゃう。旅の1日目で服がビロンビロンになるのは避けたい。
「バカ!ルカが困ってるわよ!」
「ガキかお前は」
「ミゲル、迷惑だめ」
「ミゲル……そういえば僕と仲良くなると予知が強化されるって話、結局力になれなかった。ごめんね」
「俺の予知は百発百中っす!だから次に会う時に強くなるはずっす!俺は何年だって待つっすよ」
「うん、僕も何か方法がないか考えてみる!強くなって帰ってくるよ」
「楽しみにしてるっす!」
「ルカ、そろそろ」
「うん」
「アイザックさん!俺もっと強くなって次に手合わせをする時はあんたの本気を引き出してみせます!」
「俺も強くなるぞ。でも楽しみにしてる」
「はい!」
「ルカー!また会おうっすー!!」
『銀色の風』の姿が遠ざかっていく。次に会う時皆がどんな風に変わっているのか、とても楽しみだ。
寂しいけどいつかまた戻ってくるから
バイバイ、トリフェの街
ソーンの身体を見た率直な感想だ。事情を知らなければ、とんでもない大事故に巻き込まれたかわいそうなやつだと同情していた。とりあえず急いで回復しなければ。
全身骨折しまくりだ。特に左足がひどい。内臓もダメージを受けている。剣で斬られた傷も深い。
なぜまだ生きているのかと、疑問に思うくらい酷い怪我だった。まるで交通事故にあって重傷を負った人のようだ。
大剣で斬りつけただけでこの怪我はありえない。兄さんはソーンをどうやって倒したんだろう。
兄さんが要求した決闘の報酬はソーンの槍と命だ。エイダンさんが教えてくれた。
せっかく兄さんが僕のために頑張ってくれたんだ。できるだけ望みを叶えてあげたい。
とりあえず生命の危機は去ったので、治療費が金貨200枚くらいになるよう調整する。重大な後遺症が残らないように治してあげたから、それでいいだろう。
完治までどれくらいかかるか、後は本人の努力次第だ。深く考えずに命を賭けた報いを受けるといい。
「終わった?」
ダリオが周りにバレないように、人目を避けて確認してくれた。
「終わった。あとは聖職者様がやってくれるよ」
「そうか、よかった」
「兄さんは?」
「エイダンとギルドへの報告書を作ってる。1時間くらいで終わるんじゃないかな」
「そっか」
「なあ、ひとつ聞いていいか」
「どうしたの?」
「お前何者だ」
「カミラにも同じこと聞かれたなぁ」
「お前は俺が知ってるルカなのか?」
「僕は僕だよ。鉄級で冒険者歴7ヶ月目のお荷物くん。趣味は食べ歩きで最近紅茶にハマってる」
「嘘つけ、最近は菓子だろ」
「カミラはこれで納得してくれたのに」
「俺は納得できない」
怒らせてしまったみたいだ。だが僕の様子を見て諦めたのか、ダリオは大きく息を吐くと険しい顔になった。
「アイザックさんとの関係、ルカはどう思ってるんだ?」
「どういうこと?」
「普通の兄弟関係に思えなかった。あれじゃまるで、アイザックさんが、その」
「僕にべったり依存してる?」
「それ」
「別に構わないよ。僕も兄さんと似たようなものだし」
「でも俺はアイザックさんが病的に思えた。初めて会った時にさ、ルカに恋人ができたら捨てられるって言ったこと、後悔した」
「あの時のこと兄さんは怒ってないよ。ありがとう気にかけてくれて」
「別に……悪い。ふたりがいいなら俺が口出すことじゃないな。ルカ達はこれからどうするんだ?」
「ソーンの逆恨みが怖いからね。他国を目指してまずはこの国の南部に行く。冒険者ギルドに顔を出すのは、今日が最後かな」
「見送りに行く。『銀色の風』全員で」
「ありがとう。出発の時間は明日伝えるね」
「ミゲルの予知でわかりそうだけど」
「たしかに。試してみる?」
突然訪れた別れから目を背けるように、僕とダリオは笑い合った。
冒険者ギルドでお世話になった人達に挨拶をしていたら、すっかり遅くなってしまった。
皆別れを惜しんでくれた。エイダンさんは号泣していた。見事な男泣きだった。
たった半年の滞在だったけど、いつのまにか知り合いが増えていた。
「兄さん」
「どうした?」
「またこの街に戻ってこようね。何年かかるかわからないけど」
「そうだな、いい街だった」
最初すぐに出て行こうとしたくせに、なんて野暮なことは言わない。
僕達の気持ちとは裏腹に、空には星がキラキラと輝いていた。
冒険者ギルドで挨拶をした日から2日後、僕達はイーザリア王国南部にあるルヨザの街を目指すことにした。
乗合馬車の受付前で、僕達は『銀色の風』と最後の会話を楽しんでいた。
「ル゛カ゛ー!ざびじいっずー!」
「僕も寂しいよ。ミゲルまた遊ぼうね」
「また戻ってきなさいよ!その時はいろいろ話をしましょ」
「そうだねカミラ。たくさん話題を仕入れてくるよ」
「キンキンに冷えた紅茶、次会った時、楽しみにしてる」
「約束ね!いろんな国の紅茶で試して最高に美味しいものを淹れるから!」
「元気でな」
「ダリオもね」
「うわーん!やっぱりさみしいっす!行かないでほしいっす!」
ミゲルが僕の胸元を掴み引っ張る。服が伸びちゃう。旅の1日目で服がビロンビロンになるのは避けたい。
「バカ!ルカが困ってるわよ!」
「ガキかお前は」
「ミゲル、迷惑だめ」
「ミゲル……そういえば僕と仲良くなると予知が強化されるって話、結局力になれなかった。ごめんね」
「俺の予知は百発百中っす!だから次に会う時に強くなるはずっす!俺は何年だって待つっすよ」
「うん、僕も何か方法がないか考えてみる!強くなって帰ってくるよ」
「楽しみにしてるっす!」
「ルカ、そろそろ」
「うん」
「アイザックさん!俺もっと強くなって次に手合わせをする時はあんたの本気を引き出してみせます!」
「俺も強くなるぞ。でも楽しみにしてる」
「はい!」
「ルカー!また会おうっすー!!」
『銀色の風』の姿が遠ざかっていく。次に会う時皆がどんな風に変わっているのか、とても楽しみだ。
寂しいけどいつかまた戻ってくるから
バイバイ、トリフェの街
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