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ストバーラ帝国編
ストバーラ帝国入国
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乗合馬車でやることは決まっている。ひたすら黙って旅路を快適にする魔法の開発だ。それしかやることがない。
じっとりする暑さにうんざりした気分になる。座っているだけなのに服が汗を吸って不快だ。
僕は無心でとにかく快適になることを考えるのであった。
「兄さん、僕の開発した魔法、ひんやりエアークッションはどうだった?」
「快適すぎだ。あれはだめになってしまう」
「でもあれなしで夏の旅乗り越えられる?」
「無理だ」
「一緒にだめになろうよー」
「そうだな」
乗合馬車で特に何も起きず、僕達はルヨザの街に到着した。
長かった。乗り継ぎがあって途中で足止めされたとはいえ、3週間は本当に長かった。しかし得るものもあった。
快適な旅路のための魔法を開発できたのだ。その名も《ひんやりエアークッション》だ。あと人目がないところで《ミストシャワー》も使っている。そっちは繊細な魔力制御が求められるので修行にもちょうどいい。
「今日は冒険者ギルド寄らないでしょ?どこ行こうか」
「不動産屋に行こう」
「この街にはそんなに長く滞在しないでしょ。宿屋じゃだめ?」
「だめだ。ルカが足りない」
兄さんはそう言うと僕の手を引っ張って不動産屋まで行った。
そしてその手を繋いだまま物件を選びトリフェの街と同じような条件の家を即決で借りた。もちろん兄さんの笑顔は3割り増しだ。
店員さんが明らかに引いていた。2回目なので僕はすっかり慣れてしまった。
この家はトリフェの街の家より少し狭いかな。ベッドも狭い。
「ベッド狭くない?一緒に寝られる?」
「問題ない」
お茶を飲んで一息つく。冷やした紅茶の試作品だ。
「香りが薄いが飲みやすくて美味いな」
僕に付き合っているうちに、兄さんも紅茶を嗜むようになった。今ではトールよりも味にうるさいかもしれない。
「うーん、もっと美味しく淹れられる気がする」
「十分だと思うが」
「いろいろ試してみる」
「楽しみだ」
紅茶を飲みながら次に行く予定の国について話をする。
「順調にいけば秋にはストバーラ帝国かぁ。楽しみだ」
「ルカは海を見たいって言ってたな」
「兄さんは見たことある?」
「ない」
「そっか、ワクワクするね」
「ああ」
「イーザリア王国で銅級になりたかったけど無理だったね」
「ルカならいずれなれるさ」
「ありがとう」
夜中、あまりの寝苦しさに起きてしまった。やっぱりベッドが狭い。夏なのに密着してるから暑い。でも兄さんの寝顔があまりにも幸せそうだから、この家にいる間は我慢しようと思った。
結局ルヨザの街では仕事を全くせずに、ずっと兄さんとふたりダラダラしていた。
日々の鍛練は欠かさず続けたが、それ以外はずっと借家にいた。
トラブルがあったわけではない。なぜそうなったかというと、あまりの寝苦しさに冷房の魔法を開発してしまったからだ。
「兄さん、冷房の魔法は封印しよう。快適すぎる。家から出られない」
「ああ、これは危険だ」
ぐだぐだと過ごした夏が終わり季節は秋になったばかり。僕達は現在ストバーラ帝国にいる。
「バチードの街まであと少しだね」
「そうだな」
これからどんな出会いが待っているんだろう、期待に胸を膨らませる。
バチードの街はストバーラ帝国でも有数の港町だ。乗合馬車が進むにつれ独特の香りが鼻腔をくすぐる。
潮の香りだ、懐かしい
初めて嗅ぐ香りなのになぜ懐かしいのか、僕にはよくわからなかった。
「兄さん!海だよ!あれが全部水なんだって!」
「ああ」
「青くてキラキラしてる!大きいね!」
「そうだな」
乗合馬車の乗客が、微笑ましいものを見る目で僕達を見ている。
はしゃぎすぎてしまった。急に恥ずかしくなってきた。馬車が目的地に着くまで大人しくしていよう。
街全体が潮の香りだ。頭上には真昼の太陽がさんさんと降り注いでいる。
無事、バチードの街に到着した。朝は賑わいを見せているであろう市場も、今は閑散としている。
初めての街に着いたら何をしたいか。兄さんに聞かなくてもわかるようになってしまった。
「不動産屋行こうか」
「そうしよう」
不動産屋で兄さんはあいかわらずだった。3回目なのでもう慣れっこだ。
不動産屋でのやりとりが終わったら、旅の疲れがどっと出た。今日は無理せず拠点でくつろぐことにした。
「やっとバチードの街に着いたね」
「長かった」
「長かったね。できればバチードの街近くにあるダンジョンに行ってみたいな」
「ここから近いダンジョンは、初心者向けだったな」
「そうそう、ガチガチに攻略するつもりはないしちょうどいいかなって」
「ルカが銅級になるまでは、この街に滞在か」
「1年経っても上がらなかったら別の国に行こうか」
「わかった」
とりあえずの目標も決まった。明日から階級を上げるために地道に依頼を受けていこう。ルヨザで怠けた分を取り戻さなくては……。
それに1年もいればわかるかもしれない。なぜ初めて見たはずの海を見て、懐かしいと思ったのか。
じっとりする暑さにうんざりした気分になる。座っているだけなのに服が汗を吸って不快だ。
僕は無心でとにかく快適になることを考えるのであった。
「兄さん、僕の開発した魔法、ひんやりエアークッションはどうだった?」
「快適すぎだ。あれはだめになってしまう」
「でもあれなしで夏の旅乗り越えられる?」
「無理だ」
「一緒にだめになろうよー」
「そうだな」
乗合馬車で特に何も起きず、僕達はルヨザの街に到着した。
長かった。乗り継ぎがあって途中で足止めされたとはいえ、3週間は本当に長かった。しかし得るものもあった。
快適な旅路のための魔法を開発できたのだ。その名も《ひんやりエアークッション》だ。あと人目がないところで《ミストシャワー》も使っている。そっちは繊細な魔力制御が求められるので修行にもちょうどいい。
「今日は冒険者ギルド寄らないでしょ?どこ行こうか」
「不動産屋に行こう」
「この街にはそんなに長く滞在しないでしょ。宿屋じゃだめ?」
「だめだ。ルカが足りない」
兄さんはそう言うと僕の手を引っ張って不動産屋まで行った。
そしてその手を繋いだまま物件を選びトリフェの街と同じような条件の家を即決で借りた。もちろん兄さんの笑顔は3割り増しだ。
店員さんが明らかに引いていた。2回目なので僕はすっかり慣れてしまった。
この家はトリフェの街の家より少し狭いかな。ベッドも狭い。
「ベッド狭くない?一緒に寝られる?」
「問題ない」
お茶を飲んで一息つく。冷やした紅茶の試作品だ。
「香りが薄いが飲みやすくて美味いな」
僕に付き合っているうちに、兄さんも紅茶を嗜むようになった。今ではトールよりも味にうるさいかもしれない。
「うーん、もっと美味しく淹れられる気がする」
「十分だと思うが」
「いろいろ試してみる」
「楽しみだ」
紅茶を飲みながら次に行く予定の国について話をする。
「順調にいけば秋にはストバーラ帝国かぁ。楽しみだ」
「ルカは海を見たいって言ってたな」
「兄さんは見たことある?」
「ない」
「そっか、ワクワクするね」
「ああ」
「イーザリア王国で銅級になりたかったけど無理だったね」
「ルカならいずれなれるさ」
「ありがとう」
夜中、あまりの寝苦しさに起きてしまった。やっぱりベッドが狭い。夏なのに密着してるから暑い。でも兄さんの寝顔があまりにも幸せそうだから、この家にいる間は我慢しようと思った。
結局ルヨザの街では仕事を全くせずに、ずっと兄さんとふたりダラダラしていた。
日々の鍛練は欠かさず続けたが、それ以外はずっと借家にいた。
トラブルがあったわけではない。なぜそうなったかというと、あまりの寝苦しさに冷房の魔法を開発してしまったからだ。
「兄さん、冷房の魔法は封印しよう。快適すぎる。家から出られない」
「ああ、これは危険だ」
ぐだぐだと過ごした夏が終わり季節は秋になったばかり。僕達は現在ストバーラ帝国にいる。
「バチードの街まであと少しだね」
「そうだな」
これからどんな出会いが待っているんだろう、期待に胸を膨らませる。
バチードの街はストバーラ帝国でも有数の港町だ。乗合馬車が進むにつれ独特の香りが鼻腔をくすぐる。
潮の香りだ、懐かしい
初めて嗅ぐ香りなのになぜ懐かしいのか、僕にはよくわからなかった。
「兄さん!海だよ!あれが全部水なんだって!」
「ああ」
「青くてキラキラしてる!大きいね!」
「そうだな」
乗合馬車の乗客が、微笑ましいものを見る目で僕達を見ている。
はしゃぎすぎてしまった。急に恥ずかしくなってきた。馬車が目的地に着くまで大人しくしていよう。
街全体が潮の香りだ。頭上には真昼の太陽がさんさんと降り注いでいる。
無事、バチードの街に到着した。朝は賑わいを見せているであろう市場も、今は閑散としている。
初めての街に着いたら何をしたいか。兄さんに聞かなくてもわかるようになってしまった。
「不動産屋行こうか」
「そうしよう」
不動産屋で兄さんはあいかわらずだった。3回目なのでもう慣れっこだ。
不動産屋でのやりとりが終わったら、旅の疲れがどっと出た。今日は無理せず拠点でくつろぐことにした。
「やっとバチードの街に着いたね」
「長かった」
「長かったね。できればバチードの街近くにあるダンジョンに行ってみたいな」
「ここから近いダンジョンは、初心者向けだったな」
「そうそう、ガチガチに攻略するつもりはないしちょうどいいかなって」
「ルカが銅級になるまでは、この街に滞在か」
「1年経っても上がらなかったら別の国に行こうか」
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