【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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ラウリア王国編

こだわり

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 第三王子襲撃事件の翌日、冒険者ギルドから呼び出しを受けた。案内された個室で、1週間後に特別褒賞金をもらえると説明された。
 あの王子仕事が早い。しかも僕達とバーナデットが協力し、凶悪な魔物から王子を守った功績で褒賞金がもらえることになっていた。
 バーナデットは今回の功績を認められ王子の配下になったという話が出来上がっていて、こちらとしては大変ありがたい。
 これなら主に活躍したのはバーナデットになるから、僕達が変に目立つこともないだろう。バーナデットは主人に恵まれたようだ。あの王子はかなり曲者だと思うけど。

 褒賞金を待つまでの間に何をするか。そんなの決まってる。引越し準備だ。なんだかミヅホ以外、逃げるように国から脱出している気がする。
 かなり慎重に、目立たず、ほとんど問題行動を起こすことなく冒険者生活を送っているはずなのにどうしてこうなるのだろうか。無限収納の魔法を開発して本当によかった。

 横にいる兄さんに意識を向けると、ため息をついているのがわかった。最近、兄さんはよくため息をつくようになった。
 理由を聞いてもはぐらかされるので、励ますこともできない。自分の無力さにモヤモヤとした気持ちが湧いてくる。早く兄さんが元気になってほしいと願わずにはいられない。

「兄さん、次に行く国どうする?」
「何も考えてなかった」
「気分転換になるし東大陸へ行ってみない?西大陸で治安がよくて温暖で大きい国はだいたい行ったからさ」
「それはいいな。まずはどこに行く?」
「アファルータ共和国、別名東大陸の玄関口って呼ばれてる国に行こう。気候が穏やかな地域が多いらしいよ」
「わかった」

 その後、冒険者ギルドを出て港に向かった。運航情報を確認すると、アファルータ行きの船はしばらく出ないと言われ焦ってしまった。
 幸運なことにミヅホ行きの船が1週間後の昼に出るらしいので即座に予約した。この国から一刻も早く出たいだけで、急ぎの旅でもない。のんびりとアファルータ共和国を目指すことにしよう。

 褒賞金受け取りまであと3日。引越し準備はほぼ完璧に終わった。逆にやることがなくなってしまった。時間が余ったので、兄さんは庭でひたすら鍛練をしている。
 今日もすごく蒸し暑い。こんな日は冷たいものが飲みたくなる。そこでアイスティーを淹れることを思いついた。ふたりとも紅茶は好きだし、いい息抜きになるだろう。
 ラウリア王国は茶葉の産地でもある。香辛料を購入するついでに、茶葉もいろいろ揃えておいた。

 既に数種類の中からアイスティーに最も合う茶葉を選定済みだ。
 前世に味わった紅茶と比べると、このお茶の味や香りはアールグレイに似ている気がする。茶葉の名前は全くかすりもしないけど、由来を考えたら当然かもしれない。

 実は最近アイスティー作りに行き詰まっていた。淹れ方は何回も試行して、納得がいく味を出せるようになった。
 何が問題かというと、冷やす段階で紅茶が白く濁るのだ。
 たしか『クリームダウン』という現象だったはずだ。冷やされることで紅茶の成分が結合して濁ってしまうと前世の本に書いてあった。
 濁ったところで、品質や味はそこまで変わらないように思える。だから別に気にする必要はないのだが、せっかくだから見た目もこだわりたい。
 冷やす前に紅茶を甘くしたら濁らないことはわかっているが、なんだか負けたような気がするから却下だ。

 こっちは氷にまでこだわっているのだ。溶けにくい氷を作るため、水に含まれている空気や不純物を魔法で取り除き、ゆっくり時間をかけて凍らせている。
 兄さんに何でそこまで?って顔をされたし、直接質問もされた。そんなの美味しい紅茶を飲みたいからに決まっている。そう答えた時の兄さんの顔が忘れられない。
 これはもう僕と紅茶との戦いなのだ。途中で諦めるなんて負けを認めたも同然だ。
 勝利に向けて、しばらくアイスティー作りは封印し魔力制御の鍛練に総力を上げていた。今度こそ成功させてみせる。

 水を沸騰させ、きっちり量を計った茶葉と氷を容器に入れる。そこにお湯を入れて蒸らしかき混ぜる。そして紅茶を漉して氷が入った容器に注ぐ。
 濁りそうになったら魔法の出番だ。火・水属性複合魔法で紅茶の温度を調節する。この魔法は水の温度を操作して熱湯や氷を作るためのものだ。
 その応用で紅茶の温度を操作しているが、紅茶の成分という余分なものが混じっているせいで、とんでもなく繊細な魔力制御が求められる。
 しばらく紅茶の濁りに注視していたが、問題ないようだ。意外とあっさり成功した。やはり魔法は不可能なことを可能にしてくれる便利な力だ。これからもどんどん活用していこう。

 達成感に酔いしれていたら、兄さんが鍛練から戻ってきた。すかさずアイスティーを差し出す。
「兄さんお疲れ様。アイスティー作ったから飲んで」
「ありがとう」
 今日はかなり暑かったから、兄さんも喉が渇いていたのだろう。大きめのコップ1杯分の量を10秒で飲み干した。
「おかわり」
「……わかった」

 兄さんは悪くない。悪くないのだが、こうも一気に飲まれると微妙な気持ちになる。
 でもこうなることはわかっていた。兄さんが見た目に気づかないのは当然だ。だって紅茶が入ってる容器がガラスではなく濃い色の陶器だから。
 この世界、まだガラスが庶民にまで普及しておらず贅沢品の扱いだ。
 もちろん僕はガラスのグラスを購入したがサイズが小さいので、兄さんはたくさん量が入る陶器のほうを好んで使う。

 兄さんにとって紅茶は味と香りが大事なので、見た目にこだわりがないのだ。
 これは趣味みたいなものだから、ひとりで楽しむことにしよう。
「ガラスに入れたのか?」
「うん。色がわかりやすいから」
「たしかに綺麗な色だ」
「えっ!わかる?」
「いつもと違うなと思っていた。すぐに飲んでしまったが」
 兄さんのことを誤解してたみたいだ。まさか気づいてくれたとは。嬉しくなってこれまでの苦労を一気に語った。
 兄さんは最初微笑ましいという様子で僕の話を聞いていたが、最後の方は困惑した顔をしていた。なんとなくだけど、今から何を聞かれるかわかってしまった。

「何でそこまで?」
「美味しい紅茶を飲みたいからだよ」

 過去の記憶と全く変わらない兄さんの表情に思わず吹き出しそうになったが、なんとか我慢できた。
 グラスの中で氷がからんと鳴った。夏を感じるその音に急かされた気分になり、残っていたアイスティーを一気に飲み干した。
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