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アファルータ共和国編
アファルータ共和国入国
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結局ラウリア王国からミヅホまでの船旅で、兄さんの魔法に進展は見られなかった。
本当にあと一歩というところまで来ている。一度コツを掴めばその後は完全に使えるようになるだろう。兄さんもそれを感じているのか、ひたすら鍛練を続けている。
ミヅホには1週間滞在したが、特に何をすることもなくのんびりと過ごした。温泉付きの宿を借りたので、貸切風呂を利用しようと誘ったら兄さんに断られてしまった。
今回は僕と兄さんだけなのに、なぜか断固拒否された。強行するほど入りたいわけでもないので、今回も温泉に入るのは見送った。
兄さんは魔物狩りに支障が出ないよう、匂いが残ることを気にして常に清潔を心掛けている。だからお風呂が嫌いなわけではないと思うのに、頑なに拒否する理由がわからない。
でも焦ることはない。時間はたくさんあるから、いつか兄さんを説得して一緒に温泉に入ろう。
早いもので、アファルータ共和国行きの船に乗ってから1週間が経過した。船は順調に進んでいる。大きなトラブルがなければ予定通り1週間後に到着するだろう。
「出来た!ルカ見てくれ!!」
遠くまで響き渡るような声だった。よっぽど嬉しかったのだろう。僕が返事をする前に兄さんが駆け寄ってきた。
「やっと使えるようになった!何回か試したが完璧だ!」
「おめでとう!!よく頑張ったね」
「ありがとう」
兄さんの満面の笑みを見ると、僕まで嬉しい気持ちになる。
さっそく身体強化と硬化の魔法を同時に使うところを見せてもらった。
魔力の巡りもスムーズだし、途切れているところもない。発動も速く正確だ。
実戦でも十分使えるレベルだ。魔力が放出できない体質でなければ、兄さんは凄腕の魔法使いになっていただろう。
「兄さん完璧だね!本当にすごいよ」
僕が大きな拍手を送ると、兄さんが照れを隠すように頭をかいた。
「ルカは俺の師匠だな」
「弟子が優秀で鼻が高いよ」
「ありがとう。俺の魔法はどうだった?」
「素晴らしいよ。魔力制御だけでいうと金級冒険者レベルかも。実戦を重ねたらもっと強くなるね」
僕の言葉に兄さんが目を輝かせたが、すぐに意を決したような面持ちになった。
「あいつ……弟子のヒスイよりすごいか?」
「なんでヒスイ?ヒスイの今の実力がわからないから何とも言えないけど、兄さんの方が魔力制御のレベルは上だと思うよ」
いきなり兄さんの口からヒスイの名前が出たので驚いた。回復魔法を教えて以来師匠と呼ばれるようになったから、兄さんはヒスイのことを僕の弟子と認識しているのだろう。
懐かしいな。彼女は今も癒しの巫女になるため日々鍛練に励んでいることだろう。
「じゃあ俺が一番弟子だな」
「え?」
「俺の方が実力が上ならルカの一番弟子を名乗っても問題ないはずだ」
「一番弟子?」
「他人がルカの一番になるのは不快だからな。大変だったが頑張ってよかった」
兄さんの顔は真剣そのもので、本当にそのためだけに魔法の鍛練をしていたことが伝わった。
たしかにミヅホを発つ時、ヒスイが「師匠の一番弟子になれるよう頑張る」と言っていたような。
思い返せば、兄さんは病気になるのではと心配するほど魔力制御の鍛練をしていた。
身体強化と硬化の魔法を同時に使おうとして魔力が暴走し、身体強化が強くかかったせいで、何度か魔物を肉片に変えたこともあった。暴走の反動で腕が傷ついても、兄さんは気にせず魔法を使い続けるから、心を鬼にして叱ったこともある。
それが全部僕の一番弟子を名乗るための努力だったなんて……。
笑いと気恥ずかしい思いが交互に襲ってくる。勝手に口角が上がるを止められない。
僕の様子を見ていた兄さんが、眉尻を下げて不安そうにネックレスをいじっている。
これ以上にやにやしていると兄さんを傷つけてしまう。僕は急いで口元を引き締めた。
「やはり一番弟子は言い過ぎか」
「変な顔してごめん。嬉しくてつい笑っちゃった。僕の一番弟子は兄さんだよ」
「よかった」
一生の相棒で一番弟子か。この様子だと今後も肩書きが増えそうだ。そう考えるとなんだかわくわくしてきた。
「そうだ。よかったら僕にミスリルナイフの使い方教えてよ」
「別にかまわないが。いきなりどうした?」
「僕も兄さんの一番弟子になりたいから。本当は大剣がいいけど、魔法との兼ね合いが難しいからナイフの方がいいかなって」
「わかった」
兄さんの口角が上がっている。その表情になんとなく嫌な予感がした。
その後、船がアファルータ共和国に到着するまでナイフの鍛練が続いた。兄さんの指導は予想通りスパルタだった。抗議したら「ルカには負ける」と返されて面食らった。
たしかにほんの少しだけ、僕の指導は厳しかったかもしれない。寝ながら魔法発動はやりすぎだったかも。
居心地の悪さに鍛練の手を止め、兄さんとお揃いのミスリルナイフを見つめる。さすが総ミスリルだ。刃が猛省を促すように鋭く光っていた。
アファルータ共和国の土地を踏んだ瞬間、開放感に満たされて走り出しそうになる。
兄さんもラウリア王国の時に同じ気持ちになったのだろうか。恐ろしくて聞けそうにない。
夏真っ盛りだというのに、爽やかな風が通り過ぎて肩の力が抜ける。過ごしやすい気候は、人々に癒しと活力を与えるのかもしれない。
アファルータ共和国最大の港町は、穏やかな気候を享受して活気に溢れていた。
「海と山に囲まれた港町か。歩いているだけでも楽しいね」
「そうだな。だが人が多いから気をつけないといけない」
「さすが東大陸の玄関口。ここで冒険者生活はできそうにないね」
「そのほうがいいな。人が多すぎるギルドは避けよう。情報を集めたらすぐに移動しないと」
「賛成。しばらく宿屋暮らしかぁ」
ラウリア王国の王都で事件に巻き込まれたからね。流石にしばらくはのんびり過ごしたい。
できれば1年中暖かいところがいいな。いつもと変わらない僕の希望を、兄さんは静かに笑って受け入れてくれた。
本当にあと一歩というところまで来ている。一度コツを掴めばその後は完全に使えるようになるだろう。兄さんもそれを感じているのか、ひたすら鍛練を続けている。
ミヅホには1週間滞在したが、特に何をすることもなくのんびりと過ごした。温泉付きの宿を借りたので、貸切風呂を利用しようと誘ったら兄さんに断られてしまった。
今回は僕と兄さんだけなのに、なぜか断固拒否された。強行するほど入りたいわけでもないので、今回も温泉に入るのは見送った。
兄さんは魔物狩りに支障が出ないよう、匂いが残ることを気にして常に清潔を心掛けている。だからお風呂が嫌いなわけではないと思うのに、頑なに拒否する理由がわからない。
でも焦ることはない。時間はたくさんあるから、いつか兄さんを説得して一緒に温泉に入ろう。
早いもので、アファルータ共和国行きの船に乗ってから1週間が経過した。船は順調に進んでいる。大きなトラブルがなければ予定通り1週間後に到着するだろう。
「出来た!ルカ見てくれ!!」
遠くまで響き渡るような声だった。よっぽど嬉しかったのだろう。僕が返事をする前に兄さんが駆け寄ってきた。
「やっと使えるようになった!何回か試したが完璧だ!」
「おめでとう!!よく頑張ったね」
「ありがとう」
兄さんの満面の笑みを見ると、僕まで嬉しい気持ちになる。
さっそく身体強化と硬化の魔法を同時に使うところを見せてもらった。
魔力の巡りもスムーズだし、途切れているところもない。発動も速く正確だ。
実戦でも十分使えるレベルだ。魔力が放出できない体質でなければ、兄さんは凄腕の魔法使いになっていただろう。
「兄さん完璧だね!本当にすごいよ」
僕が大きな拍手を送ると、兄さんが照れを隠すように頭をかいた。
「ルカは俺の師匠だな」
「弟子が優秀で鼻が高いよ」
「ありがとう。俺の魔法はどうだった?」
「素晴らしいよ。魔力制御だけでいうと金級冒険者レベルかも。実戦を重ねたらもっと強くなるね」
僕の言葉に兄さんが目を輝かせたが、すぐに意を決したような面持ちになった。
「あいつ……弟子のヒスイよりすごいか?」
「なんでヒスイ?ヒスイの今の実力がわからないから何とも言えないけど、兄さんの方が魔力制御のレベルは上だと思うよ」
いきなり兄さんの口からヒスイの名前が出たので驚いた。回復魔法を教えて以来師匠と呼ばれるようになったから、兄さんはヒスイのことを僕の弟子と認識しているのだろう。
懐かしいな。彼女は今も癒しの巫女になるため日々鍛練に励んでいることだろう。
「じゃあ俺が一番弟子だな」
「え?」
「俺の方が実力が上ならルカの一番弟子を名乗っても問題ないはずだ」
「一番弟子?」
「他人がルカの一番になるのは不快だからな。大変だったが頑張ってよかった」
兄さんの顔は真剣そのもので、本当にそのためだけに魔法の鍛練をしていたことが伝わった。
たしかにミヅホを発つ時、ヒスイが「師匠の一番弟子になれるよう頑張る」と言っていたような。
思い返せば、兄さんは病気になるのではと心配するほど魔力制御の鍛練をしていた。
身体強化と硬化の魔法を同時に使おうとして魔力が暴走し、身体強化が強くかかったせいで、何度か魔物を肉片に変えたこともあった。暴走の反動で腕が傷ついても、兄さんは気にせず魔法を使い続けるから、心を鬼にして叱ったこともある。
それが全部僕の一番弟子を名乗るための努力だったなんて……。
笑いと気恥ずかしい思いが交互に襲ってくる。勝手に口角が上がるを止められない。
僕の様子を見ていた兄さんが、眉尻を下げて不安そうにネックレスをいじっている。
これ以上にやにやしていると兄さんを傷つけてしまう。僕は急いで口元を引き締めた。
「やはり一番弟子は言い過ぎか」
「変な顔してごめん。嬉しくてつい笑っちゃった。僕の一番弟子は兄さんだよ」
「よかった」
一生の相棒で一番弟子か。この様子だと今後も肩書きが増えそうだ。そう考えるとなんだかわくわくしてきた。
「そうだ。よかったら僕にミスリルナイフの使い方教えてよ」
「別にかまわないが。いきなりどうした?」
「僕も兄さんの一番弟子になりたいから。本当は大剣がいいけど、魔法との兼ね合いが難しいからナイフの方がいいかなって」
「わかった」
兄さんの口角が上がっている。その表情になんとなく嫌な予感がした。
その後、船がアファルータ共和国に到着するまでナイフの鍛練が続いた。兄さんの指導は予想通りスパルタだった。抗議したら「ルカには負ける」と返されて面食らった。
たしかにほんの少しだけ、僕の指導は厳しかったかもしれない。寝ながら魔法発動はやりすぎだったかも。
居心地の悪さに鍛練の手を止め、兄さんとお揃いのミスリルナイフを見つめる。さすが総ミスリルだ。刃が猛省を促すように鋭く光っていた。
アファルータ共和国の土地を踏んだ瞬間、開放感に満たされて走り出しそうになる。
兄さんもラウリア王国の時に同じ気持ちになったのだろうか。恐ろしくて聞けそうにない。
夏真っ盛りだというのに、爽やかな風が通り過ぎて肩の力が抜ける。過ごしやすい気候は、人々に癒しと活力を与えるのかもしれない。
アファルータ共和国最大の港町は、穏やかな気候を享受して活気に溢れていた。
「海と山に囲まれた港町か。歩いているだけでも楽しいね」
「そうだな。だが人が多いから気をつけないといけない」
「さすが東大陸の玄関口。ここで冒険者生活はできそうにないね」
「そのほうがいいな。人が多すぎるギルドは避けよう。情報を集めたらすぐに移動しないと」
「賛成。しばらく宿屋暮らしかぁ」
ラウリア王国の王都で事件に巻き込まれたからね。流石にしばらくはのんびり過ごしたい。
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