【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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番外編

ダンジョンへ④ボス部屋

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 夏の強い日差しが砂浜を照り付けている。ここはダンジョンの地下二十一階、海辺のゾーンだ。地下二十五階まで、ひたすら砂浜を真っ直ぐ進み地下へ続く階段を目指さなければならない。
 砂浜は踏み込むと足が沈んでしまい、思ったよりも前に進まない。これは時間がかかりそうだ。
「走りにくいね」
「コツがいるからな。ゆっくり進もう」
「いや、ここはあえて走り抜けよう。砂を動かすから気をつけて」
 兄さんが頷いたのを確認し、足元の砂を固める。これで足場は確保できた。

「これは」
「ドロップ品は基本無視して走るよ」
「なぜそこまでする必要が?」
「靴に砂が入って面倒だから」
 兄さんに魔力を使ってまでやることではないだろうという顔をされたけど、僕が走り始めると何も言わずついてきてくれた。

 作戦は大成功だ。冒険者がいる時も砂を固めて移動したが、皆魔物との戦闘に夢中で、ペースが早すぎて怪しまれるということもなかった。
 時折ホホジロザメのような魔物が海から飛び出して襲ってきたが、兄さんが全て対処してくれた。ドロップ品はキャビアで、さすがに狙いすぎだと苦笑する。
「これも前世にあった食材か?」
「うん。これで世界三大珍味が揃った」
「味も同じなのか?」

 そう言われると気になってきた。一口味見をすると、前世で食べたキャビアそのものだった。しっとりとした舌触りと濃厚な旨みを感じる。
「全く同じ。兄さんも食べる?」
「酒が飲みたくなるからやめておく」
 兄さんらしい返しにしばらくの間笑ってしまった。


 数日後、僕たちは地下二十五階にあるボス部屋の前にいた。
 海辺の階層は特に苦労することなく進めた。地下に行くほど冒険者が少なくなってスムーズに移動できたくらいだ。
「なんで指定場所がボス部屋の中なのかな。倒すの大変そう」
 このボス部屋にはミノタウロスが二体と、グレーターミノタウロスが一体出現する。金級パーティーでも無傷で突破するのは難しいだろう。
「ミノタウロスを任せてもいいか? グレーターは俺がやる」
「いいけど。支援がなくても大丈夫?」
「自分の実力を試してみたくて」
 兄さんの好戦的な顔すごくかっこいい。心配だけどギリギリまで見守ることに決めた。

 ボス部屋の扉を開けると、ミノタウロスたちが中央で仁王立ちしていた。離れているはずなのに、ものすごい威圧感だ。
 二本のツノは鋭く、太い腕は掠っただけで何メートルもふっとびそうだ。巨躯を支える脚も筋肉の塊で、あれが一踏みしてきたらと思うとゾッとする。
 ミノタウロスよりもさらに体が大きいグレーターミノタウロスは、見るからに重そうな戦斧を軽々と振り回している。

 二体のミノタウロスに魔法を当てて注意をこちらに向ける。すると、狙い通り二体とも僕に向かって突進してきた。巨体がぶつかる直前に土属性魔法で壁を作る。衝撃音が響いた直後、ミノタウロスの雄叫びが聞こえた。

 その隙にミノタウロスの背後に回り、遠距離から魔法を当てる。
 ダンジョンモンスターは討伐してしまえば素材をドロップするので、損傷を気にする必要はない。しかも、ここは人目がない閉鎖空間だ。属性を気にすることなく魔法を撃つことができるから地上より楽かもしれない。
 遠距離でちまちま魔法を当てていたら、ミノタウロスたちがドロップ品に姿を変えた。

 ドロップ品を回収しながら兄さんに注目すると、グレーターミノタウロスと激しい戦闘を繰り広げていた。
 グレーターミノタウロスが振るう斧を、兄さんが受け止め押し返す。反撃しようと兄さんが接近したら、グレーターミノタウロスが斧を横に振って牽制する。刃が風を切る音が遠く離れたこちらまで届いた。
 兄さんは後ろに跳んで刃を避けたが、十分に距離を取ることができなかった。その隙を見逃さず、グレーターミノタウロスが斧を振りかぶった。
 巨大な斧が振り下ろされるより早く、兄さんがグレーターミノタウロスに接近し、脇腹を斬りつけた。悲鳴のような雄叫びと共に鮮血が噴き出す。

 兄さんはなぜか悔しそうな顔をしながら、グレーターミノタウロスと距離を取った。直後、怒り狂ってめちゃくちゃな軌道を描く斧が兄さんを襲う。
 しばらく斧の猛攻が続いていたが、やがてグレーターミノタウロスの動きが鈍くなった。おそらく血を流しすぎたせいだろう。
 兄さんがそれを見逃すはずもなく、グレーターミノタウロスの背後に回り込み、太ももを切断した。たまらず前のめりに倒れたグレーターミノタウロスは、背中から心臓に刃を突き立てられドロップ品となった。

 丸太のように太いグレーターミノタウロスの脚をいともたやすく両断したのに、兄さんは納得いかない様子で大剣を素振りし始めた。
「兄さんお疲れ様」
「ああ。ルカがミノタウロスを引きつけてくれたおかげで楽に戦闘できた」
「その割に悔しそうだけど」
「胴体を切断したかった」
 言いたいことはわかるけど、言葉だけ聞くと猟奇的だ。

「太ももを切断できるだけですごいと思うよ」
「脚だと一撃で絶命させられないからな。精進しないと」
 兄さんのストイックなところ見習わないとなぁ。今でも十分強いのにひたすら上を目指す姿勢は、男として純粋に憧れる。
「僕も魔法攻撃がグレーターミノタウロスの胴体を貫通できるように頑張る!」
「いいな。一度ボス部屋を出て再戦してみるか」
「いいね、賛成!」

 兄さんと一緒に出入り口の扉へ歩き出した瞬間、足元の魔法陣が光った。
「あ」
 本来の目的を忘れていた。どうやら強制的に呼び出されたようだ。
「ルカ!」
 兄さんに抱き寄せられた状態で、身体が宙に浮く感覚に襲われた。

 真っ白な光が落ち着いたと思ったら、見たことのない空間に立っていた。オフィスのような内観は、この世界にある建物よりも近代的なのに懐かしさを覚えた。
「ルカ、平気か?」
「僕は大丈夫。それよりここは」
「ダンジョンマスターの部屋だ」
 声のした方向に顔を向けると、黒目黒髪の男性が立っていた。中肉中背、ぼさぼさの髪と目の下の濃いクマが気だるい雰囲気を醸し出している。その表情はなぜか引き攣っていた。

「お前らさすがに脳筋すぎないか?」
 その一言で全て察した。彼がここのダンジョンマスターで、前世が日本人のアキラだ。
 僕たちに対する第一印象が良くない気はするけど、挽回できるだろうか。ひとまず大剣を構えた兄さんを落ち着かせながら、同郷の男に笑いかけた。
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