【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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番外編

ダンジョンへ③珍しい食材

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 調査が順調に終わり、ルギケネの街に帰ってきた。
 調査中に人目を盗んで壁に書かれた手記の内容を話していたので、兄さんは冷静に詳細を聞いてくれた。
「つまり、前世が日本人だった人物に会うため、フランディン共和国のダンジョンに行きたいということだな」
 兄さんが複雑な顔で話を整理する。この様子だと、説得するのは骨が折れそうだ。

「ダンジョンにはトラウマがあるけど、どうしても気になって」
「そこまでして日本人に会いたいのか?」
「あ、いや。この世界では手に入らない地球の調味料がどうしても欲しくて」
「日本人に会うのは二の次ということか?」
「うん。もちろん話はしたいし、仲良くなれたらいいなと思うけど、そこまで重要ではないかな」
 僕としては留学先に日本人がいたから話しかけてみようくらいの感覚だ。兄さんに微妙なニュアンスが伝わらないのがもどかしい。

「それならいい。久しぶりのダンジョンだから鍛練に気合いが入る」
「兄さんありがとう!」
 兄さんに抱きつき、固く引き締まっている身体を一通り触る。
「いきなり撫で回してきてどうした?」
「鍛練に気合いが入るって言ってたけど、これ以上強くなってどうするつもり?」
「ダンジョンでは何が起こるかわからないからな。とりあえず全ての魔物を両断できるくらい強くならないと」
 前も思ったけど、兄さんより強い人ってこの世界に何人くらいいるのだろう。冷静に考えると魔法のサポートがあったとはいえ、単独でドラゴンの片目を潰すってかなり凄いことではないだろうか。
 これ以上強くなる必要があるのかは置いといて、兄さんは僕のために強くなると言ってくれた。それなら僕が言えることは一つだけだ。

「僕も兄さんに負けないよう頑張るね!」
 兄さんの胸に頬を擦り付けると、張りのある筋肉に頼もしさを覚えた。
「ルカはこれ以上強くなる必要はないと思う」
「それを言うなら兄さんだって」
 おかしいな。お互い頑張ろうという会話の着地を想像していたのに裏切られてしまった。
 僕たちはしばらくの間、抱き合いながら相手の強さを褒め称えるという不毛な戦いを繰り広げるのであった。


 夏の二の月。やっとフランディン共和国のダンジョンに到着した。本当はもっと早く挑戦したかったが、いろいろあって遅れてしまった。
 まず、春の繁忙期が忙しすぎてルギケネ支部の面々に半泣きで引き留められてしまった。そして繁忙期が終わった後も話の流れでリフケネ支部に顔を出すことになり、何件か討伐依頼を受けていたら春が終わった。最終的に商船の直通便で西大陸に向かうはずが、クラーケンが五体も出たせいで迂回路になり予定がずれ込んだ。

「ルカ、大丈夫か?」
「ちょっと怖いけど平気。とりあえず今日は地下十階を目標に頑張ろう」
「ああ」
 初めてのダンジョンで酷い目に遭ったから緊張しているけど、今回は大丈夫だろう。仮に前世の記憶持ちの魔物が現れても、ダンジョンマスターがいるから保護されているだろうし。

 フランディン共和国には五つの難関ダンジョンがある。いずれも最下層に到達した冒険者はおらず、全容が解明されていない。
 僕たちが今回挑戦するダンジョンは、その中で三番目に攻略が難しいとされている。最終到達地点は地下四十六階。各階に安全地帯はあるが、階層によっては広過ぎて一週間かけても踏破できないこともある。
 ちなみにダンジョンマスターであるアキラが指定した階は地下二十五階で、待ち合わせ場所として考えるとなかなかしんどい。

「地下十五階までは地図があるから気が楽だね」
「そうだな。油断しすぎないように気をつけて進もう」
 地下十五階までは石造りの通路で、冒険者ギルドが地図を発行している。銀貨八枚で販売していてダンジョンに挑戦する冒険者のほぼ全員が購入しているという。
 さらに未発見の通路や部屋を報告したらギルドから多額の報奨金がもらえるらしい。そのおかげで正確な地図が作成でき、ダンジョン地図の販売は冒険者ギルドがほとんど独占しているとか。


 入り口の魔法陣に乗ると地下一階に飛ばされた。最短ルートで地下二階を目指す冒険者パーティーがほとんどで、地図を見なくても彼らについていけば問題なく進めそうだ。
「一応、魔物も倒しておく?」
「やめておこう。ゴブリンの群れは面倒だ」
 地図によると地下一階からゴブリンの群れが出てくるらしい。前衛と後衛が連携して攻撃してくるところに高難易度ダンジョンであることを感じる。
 魔物を全て無視して地図に従うと、特にトラブルもなく地下十階の安全地帯にたどり着けた。

 安全地帯では複数の冒険者パーティーがテントを設営していた。ほとんどが五名以上の構成で、僕と兄さんの二人だけというのはかなり目立つ。絡まれても面倒なので、焚き火や水場から遠い場所にテントを張った。
「大きめのテント買って正解だったね」
「そうだな」
 この前の遺跡調査後、一人用のテントで寝るのが寂しいからという理由で購入したけどすごく快適だ。結界と防音の魔法をかけたら二人の世界だし、無限収納から食事を出す時に見られる危険もない。

「ルカ」
「兄さん」
 向かい合わせで座っていると、兄さんが軽く唇を重ねてきた。ここがダンジョンだということを忘れ、いつもの習慣で口を軽く開いてしまった。それに気づいた兄さんが舌を滑り込ませてくる。肉厚の舌を迎えると、お互いの舌先が触れ合い、甘い痺れが突き抜ける。舌先が触れ合ったまま、兄さんが腕を回す。僕はより身体を密着させ、舌全体を重ねた。
「んんっ」
 兄さんがキスしたまま僕を優しく押し倒した。粘膜同士が音を立てて絡み合い、飲みきれなかった唾液が口の端を伝う。
 やっと唇が離れたと思ったら、兄さんが熱っぽい目で僕を見下ろす。その視線に全身がさらに熱くなった。

「すまない。歯止めがきかなくて」
「ごめん。僕も」
 ここはダンジョンで、安全地帯であっても何が起きるかわからないため、最後まですることはできない。
 キスしてる時はすっかり頭から抜けていた。いつ地下二十五階に到着するか、今の時点ではわからない。安全地帯にいる間は、狭い空間で兄さんと二人きりだ。
 思いもよらないところで二人用テントのデメリットが判明した。我慢できるか不安になってきたけど、我慢するしかない。

 食事が終わり、寝る時間になった。抱き合って寝たらいろいろ爆発しそうなので、背中合わせで寝ることにした。
 兄さんの体温に初めはドキドキしたけど、ダンジョンの疲れもあってすぐに眠ってしまった。


 翌日、兄さんとほぼ同時に起床した。目を合わせると昨日の出来事を思い出して顔が熱くなり、笑ってごまかす。
 朝食を早めに済ませ、安全地帯を出た。地下十五階を目指してひたすら歩みを進める。
「予定通り今日中に到着できてよかったね」
「そうだな。明日から広い階層に入るが、この調子なら大丈夫そうだ」

 ここのダンジョンは、地下十六階から二十階までは森の階層。地下二十一階から二十五階が海辺の階層になっている。共通点はとにかく広いことだ。
 僕たちはドロップ品が目当てではないから、そこまで時間はかからないだろう。下の階に行く階段は複数箇所にあるため、探索もそこまで難しくないはずだ。
 地下十六階以降は、確実に安全地帯で寝泊まりできる保証がない。二人並んでテントに寝るのも最後かもしれないと思うと名残惜しくなり、兄さんと何回もキスを交わして抱き合って眠った。


 森の階層は思ったよりさくさく進めた。現在、僕たちは地下十七階でオークとコボルトの集団を倒しまくっている。
「さすがに多すぎない?」
「集落とはいえ規模が大きすぎるな。ルカ、離れてくれ。一気に終わらせる」
 急いで距離を取ると、兄さんが大剣に魔力を込めて振り回した。具体的な状態を口にするのが憚られるくらいオークとコボルトの集団が斬られていく。
 ダンジョンでは夜通し結界を張ったり、探知の魔法を常時発動しているため、少しでも僕の魔力を温存させようと兄さんが率先して倒してくれた。

「オークとコボルトか……」
「兄さんどうしたの?」
「ちょっと木を確認してくる」
 兄さんは何かを探しているようで、集落周辺にある木の根元を注意深く観察している。魔物の生態はよくわからないが、オークとコボルトの組み合わせに何かあるのだろうか。

「ルカ!見てくれ」
 兄さんが嬉しそうな顔でこちらにやってきた。両手には鶏卵くらいの大きさの黒い塊が握られている。
「これは?」
「オーク茸だ」
 この世界で初めて聞く食材名だ。でも、すごく見覚えがある。兄さんに一つ手渡してもらい、香りで確信した。
「トリュフだ、これ」
 まさかこの世界にもあるとは思わなかった。これは香りが飛ぶ前に急いで無限収納にしまったほうがよさそうだ。兄さんと手分けして探すと、オーク茸あらため黒トリュフが十個も見つかった。

「前世にもあったのか?」
「高級食材だったよ。こっちではどういう扱いなの?」
「こちらも同じ扱いだ。冬から春にかけてオークの集落やコボルトの集落の周辺で発見されることが多い。このダンジョンでは夏でも採れるみたいだな」
 ダンジョンマスターの趣味だろうな。僕がその立場になったら絶対、世界三大珍味はそろえる。
「兄さん、詳しいね」
「まあな」
 まだ見ぬフォアグラとキャビアに思いを馳せて、先を急いだ。

 地下十八階、十九階と続き、地下二十階に到達した。地下へ続く階段を探すため広大な森を歩く。
 上の階層で気づいたが、地下への階段は探知の魔法で見つけることができる。不自然に魔力の流れが途絶えているため、探知が全く反応しないところを目指せばいい。
 目的地へ真っ直ぐ向かっていると、兄さんが手で動きを制止してきた。兄さんの目線を追うと、鳥の魔物がどっかりと座っていた。

 兄さんが「動くな」と指示したので、じっと見守ることにする。兄さんは音を立てず鳥の魔物の死角に回り込むと、一瞬のうちに距離を詰め首を刎ねた。首が地面に落ちる前にドロップ品に変わった。
「フォアグラだ!」
「この魔物は肝に魔力を貯めることで強力な風魔法を放ち攻撃してくる。少しでも近づくと不可視の刃が飛んで非常に危険だが、死角に回って一撃で首を刎ねれば問題ない。野生の鳥が魔物化して繁殖したと言われているが、その生態は不明なことが多くてな。さすが高難易度ダンジョンだ。珍しい種類の魔物が多数生息していて倒しがいがある」
 兄さんが目を輝かせて解説してくれた。心なしか普段より早口になっているような。

「兄さんって魔物の生態とか調べるの好き?」
「ああ。文字を覚えたのも魔物図鑑がきっかけだしな」
 一方的に話しすぎたと思ったのか、兄さんが照れた様子で頬をかいた。
「もっと教えて!兄さんの解説聞くの楽しい!」
「そうか?」
「うん!」
 それから兄さんは嬉しそうにダンジョン内にいる魔物の生態を教えてくれた。初めて知ることが結構あって興味深い。
 純粋に魔物のことが聞きたかったのもあるけど、話題を振ったのは兄さんの楽しげな顔が見たかったからだ。それを知られたら拗ねられる気がするから黙っておくことにした。
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