幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一

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第5章 幼馴染とバレンタインデーを過ごしてみた

第11話 バレンタインデーにはお泊りデート

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 二月七日。冬真っ盛り。
 バレンタインデーまであと七日だ。

 さすがに今日は身を切るような寒さで太ももが少し冷たい。
 制服がスカートなのが少し恨めしい。
 
「修ちゃん。もう少しでバレンタインデーだね」

 登校路を歩きながら、右隣の修ちゃんに話を振ってみる。

「ああ。ひょっとして、今年は本命チョコくれたりするか?」

 予想通りの答えが返ってきた。

「これまでもある意味本命チョコだったんだけど?」

 言っても仕方がないことだけど。

「今年は正式に恋人になったわけじゃんか」

 正式に、か。少し笑いそうになってしまう。

「どうした?」

 そんな私の様子を不審に思ったのか修ちゃんが心配そうな声。

「なんでもない。それより、今回はいつもより気合い入れて作るからねー」

 これまでも毎年、バレンタインデーには手作りのチョコを送っていた。
 それは義理なのか本命なのか自分でもはっきりしないもので。
 その度に私自身の気持ちについて考えつつも先送りにしていたのだった。
 でも、今年は違う。
 めいっぱいの気持ちを表現したチョコレートを送ってあげたい。

「なんか、ビックリするようなチョコを作って来そうだな」

 私の様子が伝わったのだろうか。修ちゃんが苦笑していた。

「本当にビックリするようなのを作ってくるから首を洗って待っててね?」

 せっかくなら修ちゃんも驚くくらいのものを作ってあげよう。

「首を洗ってって……恋人に対する台詞じゃねえだろ」

 ツボに入ったのか修ちゃんがゲラゲラ笑っている。

「ふふ。クリティカルヒットだったようだね、修ちゃん」

 内心、上手いこと言った私、と思っていたのでガッツポーズ。

「チョコは期待しとくな。それと、当日はデートしないか?」

 バレンタインデート。私も少し考えて切り出すのを迷っていた。

「私も考えてたんだけど。ちなみにどこ?」

 ゲーセンだろうか。
 カラオケだろうか。
 意外な方向でオシャレな喫茶店?
 数駅先だけど遊園地かも。
 人口100万の地方都市の中心地にある私達の街。
 都市自体がコンパクトなので、狭い中に割と多くの娯楽がある。

「ホテル、とかどうだ?」
「え?」

 予想外の場所が出て来たので私はビックリ。
 確かに当日は金曜日だから、お泊りは出来るけど。
 でも、修ちゃんとお泊りとか初めてだし。
 しかも、お泊りということはたぶんエッチな事も込みだよね。
 というより、普通のホテル?それともラブホ?

「ら、ラブホテルは十八歳未満は駄目だって」

 つい、とんでもない事を口走ってしまった。ああ。

「ふーん。そうか。俺はホテルとしか言ってないのになー」

 悪い笑みを浮かべてニヤニヤしている修ちゃん。
 元はと言えば先日初体験を済ませたせいだ。
 だから、つい、ホテルと言われてそっちも考えてしまった。

「も、もしの話。修ちゃん、意地悪だよう」

 でも、本気の意地悪じゃないから性質が悪い。
 恥ずかしいけどこういうじゃれ合いだって悪い気分じゃない。

「冗談はおいといて。一度、ふたりっきりでお泊りとかよくないか?」

 う。確かにそれは最近時々考える事だった。
 修ちゃんとの距離は歩いて数分とは言っても、同じ夜を過ごす事は出来ない。
 ちっちゃい頃は時々お互いの家で寝泊まりした事があった。
 でも、今だとお互いの両親に気を遣うのが少し疲れそう。

「う、うん。結構、いいかも」

 ビジネスホテルならその辺りは考えなくてもいい。
 あとはお父さんたちの許可が得られるかだけど。

「こっちは父さんも母さんも外泊OKだって」

 一瞬、心を読まれた?なんて勘違いをしそうになる。
 ただ、お泊りならお父さんたちの許可が必要なのは当然か。

「わ、私も聞いてみるね。たぶん大丈夫だと思うけど」

 毎朝迎えに来てくれる修ちゃんの事をお母さんたちは全面的に信頼している。
 たぶん大丈夫。

「じゃ、じゃあ予約しとくな。ツインかダブルどっちがいい?」
「あ、えーと。どっちがどっちだったかな。覚えてなくて」
「ツインがベッド二つ。ダブルが大きなベッドが一つだと」
「そ、そっか。ちょっと考えさせて?」

 私の寝相はあまり良くない。昔から呆れられるくらい。
 だから、ツインの方が無難かもしれない。
 でも、ダブルでくっついて寝るのも体験してみたい。
 お互いの顔を見ながら寝物語とか最高にロマンチックだ。
 どうせ滅多にない機会だし。

「ダ、ダブルでお願いします」

 気がついたら何故か敬語だった。

「そ、そうか。実は俺もダブルを言おうか迷ってた」

 頭をかきながら、微妙に照れくさそうだ。

「も、もう。だったら、ダブルでどう?って言ってくれればいいのに」

 でも、言わなかった理由も想像がつく。

「だって、男の方からダブル言ったら、なんかエロい事連想されそうだろ」

 だよね。そうだと思ってた。

「修ちゃんが別にがっついてないのはわかってるから」

 だって、初体験の時にあれだけ私の事を考えてくれてたのだ。

「理解してくれて助かる」
「あ、でもね。私もね。もしされても嫌じゃないから」

 少し遠回しだっただろうか。
 でも、雰囲気が盛り上がったなら私だってしたいとは思う。

「了解。心に留めておくよ」

 こうして、バレンタインデー当日はお泊りデートとなったのだった。

「夕食までどうする?隣駅のホテルだし、適当にぶらつくのでもいいけど」

 隣駅の様子を思い浮かべる。
 中心部にある最寄り駅から一駅程度なだけあって、そこそこ店があったはず。
 娯楽施設はあんまりないし、スイーツ辺りがいいかも。

「甘いもの食べながらおしゃべりとかどう?」
「おしゃべりメインなら喫茶店でもいいんじゃ?」
「だって、最近甘いものあんまり食べてないし」
「デートの時、微妙に控えてたよな」
「うん。せっかくだし、バレンタインデーは解禁日にしようかなって」

 少し、少しだけど。
 修ちゃんと恋人同士になってから、デートで色々なものを食べ歩きしたり。
 そんな事が増えたせいか、体重が増えているのだ。
 今の内は大丈夫だけど、油断していると危険だと本能が告げていた。

「よし。じゃあ、学校終わったら家戻って。そっから出かけるか」
「うん!楽しみ!」

 バレンタインデーというのに別に特別な意味がないのはわかっている。
 でも、何故か子どもの頃から、そういう記念日みたいなのが好きだった。
 非日常が楽しめるからだろうか。とにかく、今年はいつもより楽しいのは確実。

 期待に胸を膨らませながら、帰り道を歩いたのだった。
 ちなみに、両親からの許可は予想以上にあっさり出た。

「大丈夫だと思うけど、避妊だけはちゃんとしときなさいよ」
「少し寂しいけど、修二君なら安心か」

 そんな言葉が印象的だった。
 やっぱり、お父さんは少し寂しかったんだ。
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