幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一

文字の大きさ
15 / 50
第6章 猫の与助と私達

第15話 猫の具合が悪い件

しおりを挟む
「曇かあ……今日は寒そう」

 自室から窓を眺めればどんよりとした雲。
 寒気がベッドに入ってきて、ぶるるっと震える。
 エアコン、エアコン、と。

「もうちょっと寝ていたいなあ……」

 三月になって多少暖かくなって来たけどまだまだ寒い。
 ギリギリまで寝て……んん?

(閃いた!)

 これは、古から続くお約束シチュエーション。
 『寝ている主人公を幼馴染が起こしに来る』だ!
 閃いたらさっさと行動。お母さんのラインに

【修ちゃん来たらモーニングコールを待ってる、って言っといて?】

 少し待つと。

【あんたねえ……修二しゅうじ君に悪戯でも思いついたのね】
【そういうこと】
【修二君はあなたを甘やかしてるけど。甘えすぎないようにね?】
【それはわかってる】

 ちょっとした朝のじゃれ合い。

【ならいいわ。伝えとくわね】

 さっきまで布団から出たくないと思っていたけど、今はワクワクしている。
 きっと、修ちゃんはまず部屋の外から起こしに来るだろう。
 反応が無かったら部屋に来るはず。
 無反応なら、ベッド脇まで来るだろう。
 そこを、ガバっと起きてハグするのだ。
 きっと修ちゃんは大慌てするに違いない。
 あわあわする修ちゃんを見て楽しむのだ。

 修ちゃんが来るまで後15分くらいかな。
 意識が落ちないように、ぼんやりとしたまま布団をかぶる。
 なんか、似たような言葉大昔にあったような。
 でも、どっちでもいいか。
 まどろんだまましばらく待っていると小さくインターフォンの音。

(よし、来た!)

 二階へ続く階段をトン、トン、と上がる音が聞こえる。
 この足音を聞くのも何度目なのかな。
 
「~~~~」
「~~~~」
「~~~~」

 階下からお母さんとお父さんと修ちゃんの話し声が聞こえる。
 何を言ってるかわからないけど、きっと伝えてくれただろう。

「仕方ないなあ。百合の奴」

 少し大きめの声が聞こえてきた。
 トン、トン、と三階に上がる足音が聞こえてくる。
 もう少し、もう少し。

「百合。朝だぞ。起きろー」

 当然聞こえているけど狸寝入り。

「おーい、起きろー」

 それでも狸寝入りを決め込む。

「起きないなら入るからなー」

 うんうん。早く早く。

「おばさんから許可はもらってるからなー」

 そうそう。

「はあ、ほんと……」

 何故だかため息をつきつつの声。
 ギィと私の部屋の扉が開く。

 ちら、と薄目で様子を窺う。
 ドアを開けてすぐのところに修ちゃんが立っている。
 表情に不機嫌さはなくて、仕方ないなといった顔。
 生暖かい目とも言えるかもだけど、こういう表情が好きだったり。

 でも、改めて見ると筋肉がしっかりついていて。
 修ちゃんは男の子で私は女の子なことを実感する。
 大胸筋で興奮するというのが最近ようやくわかったりも。

「おーい、起きろー。百合。狸寝入りなのはわかってるぞー」

 さすがにそれくらいはお見通しか。
 でも、無視を決め込む。

「要するにベッドまで来いってことか?」

 よくわかっている。
 でも、私の罠までは見抜けないだろう。

 タン、タン、と足音が少しずつ近づいてくる。
 少しずつ、少しずつ、私の元へ。
 
(うん?)

 何か、言葉に出来ない違和感がある。
 ま、いっか。
 数十秒待って、ようやく私の枕元に修ちゃんが到達。
 
(とらえ……え?)

 ガバっと跳ね起きようとしたところ、逆に抱きしめられていた。
 予想だにしない展開に顔が真っ赤になっているのを感じる。

「あの、えーと……」

 ど、どういうこと?

「さすがに、百合の事だから何か罠仕掛けてるのはわかるさ」
 
 抱きしめられてるから顔は見えないけど、きっとドヤ顔をしてるんだろう。

「うう~~~~」

 すっかり罠にはめたつもりだったのに。悔しい。
 でも、それくらいわかってくれているのが嬉しい。
 何より抱きしめられているのが嬉しい。

「今回は私の完全敗北」
「Win-Winって奴だろ?」
「バレンタインの事、根に持ってる?」
「さあ」
「ま、いっか」

 こうして、二人で抱きしめあっていたのだった。
 ちなみに、不審に思って部屋に来たお母さんに一部始終を見られていた。

「もう。二人とも本当に仲がいいのね」
「僕としては少し複雑な気分だなあ」
「……」
「……」

 食卓で私達は縮こまっていた。
 交際しているのは両家公認。
 とはいえ、あの現場を見られたのは恥ずかしすぎる。

 結局、朝ごはんを食べ終えるまでたっぷりからかわれてしまった。
 今度からは「起きるのが遅くても心配しないで」って言っておこう。
 
◇◇◇◇

「最近、少し暖かくなってきたよね」
「でも、まだまだ寒いけどな」

 マフラーを二人で巻いてくっついての登校。
 バレンタインデーのプレゼントを使って時々やっている。
 幸せ。
 道行く人の視線はあえてスルーすることにする。
 何も見えない、何も見えない。

「ホワイトデー。またデートしない?」
「いいけど。また、滅茶苦茶気合入れてくるだろ」
「それはもう」

 ホワイトデーは本当はお返しの日らしいけど、知らない。
 バレンタインデーだって聖なる日でもなんでもないのだし。
 
「どんどん百合に毒されてる気がするな」
「私がいないと生きていけない?」

 ちょっと返事が楽しみ。

「ま、まあ。居ないと困るかな」
「ありがと。私も修ちゃんが居ないと困る」

 バレンタインデーの日以来、もっと彼の事が好きになってるのを感じる。
 こういうのは中毒なんていうのかな。

 少し歩いたところで与助が出てきて、足首にごろごろとすり寄って来た。
 
「あー、よしよし。与助は今日もかわいいねえ」

 かがんで喉をさすってあげるとゴロゴロと気持ちよさそうな声を上げる。
 ちなみに、与助は私が昔見た時代劇からつけた適当な名前だ。
 でも、後で知ったのだけど与助は実はメス。
 もう少し女の子らしい名前にしてあげれば良かった。
 
 でも、なんだかいつもより元気がない。
 どことなくフラフラしてる気もするし。

「大丈夫かな?与助」
「んー。ちょっと心配だな」

 話し合っていた所、コテンと倒れる与助。
 え?ど、どういうこと?

「え、えーと。病院?救急車?」

 自分自身、パニックになっているのがわかる。
 猫を救急車に乗せても仕方がない。

「落ち着け、百合。ちょっと今調べるから……」

 スマホをタップして何やら調べている修ちゃん。
 気ばかり逸る私と違って冷静だ。
 それを見て、私も幾分落ち着きを取り戻した。

「すいません。XXX動物急病センターですか?」
「はい……はい……」

 何やら動物急病センターという施設の人と話しているらしい。
 動物の救急病院みたいなもの?
 
(私もやれることをやらなくちゃ)

 マフラーで与助を包み込んで抱き上げる。
 処置としていいかはわからないけど。
 フニャ、と鳴き声にも力がない。
 なんとか生きていて欲しい。

「百合。タクシー呼んでくれ」
「あ、うん。わかった……」

 こうして、大慌てで私達は動物病院に与助を連れて行ったのだった。

 学校には、体調不良ということで欠席の連絡。
 二人でなんとか与助の状態を伝えて、しばらくの間待ったのだった。

肺炎はいえんですね」

 それがお医者さんの診断だった。
 猫も肺炎ってなるんだ。

「え、えーと。与助は大丈夫なんですか?」
「重篤ではなかったので、大丈夫ですよ」

 その言葉にようやく私達はほっと一息ついたのだった。
 ああ、でも。咄嗟の行動だったけど、治療費とか。
 与助を今後どうするかとか、色々考えなくちゃ。

「でも、良かったな。与助が無事で」
「うん。本当に……」

 気がついたら、目から涙が出ていた。
 こんなに心が苦しくなるのは久しぶりだ。

 私一人じゃなくて本当に良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

処理中です...