幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一

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第7章 高校三年生の夏と俺たち

第21話 ダブルデート(前編)

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 瞬く間に日々は過ぎて今日はダブルデート当日。
 やっぱり今日も暑い。

ゆうちゃんと宗吾そうご君、どんな感じかな」
「二人とも常識人だからなー。俺たちみたいにはっちゃけてないだろうな」
「まるで私たちが非常識みたいな物言い!」
「違うのか?」
「そうだけどね」

 待ち合わせの駅前まで暑い中二人して歩く。
 優たちは15分前に先に到着しているらしい。
 もう少し早く家を出るべきだったか。

 駅前が見えてくると、音符を象ったオブジェの下で誰かが手を振っている。
 女性にしては高い170cm近くの長身。
 出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいるモデル体型。
 ショートに切りそろえたボーイッシュな茶髪。
 間違いなく優だ。隣には宗吾もいる。
 距離が近くて仲良さそうだな。

「お待たせ、優ちゃん!」
「遅くなって悪い」

 二人揃って待ち合わせ場所についた俺達。

「私達が勝手に早く来てただけだからいいわよ。ね?」
「そうだな。気にすんな」
「助かる。しかし……」

 二人の様子を窺うと何やら視線を送りあっている。
 照れくさそうにしていて微笑ましい。

「視線で通じあっててラブラブだな」
「優ちゃんにも春が来たんだねー」

 反応が見たくて二人でからかってみる。

「確かに宗吾君みたいないい人そうそう居ないけど……」
「俺も優さんみたいな人はそうそう。いや、二度と……」

 お互い褒めまくり。感性があうのだろうか。

「友達の恋模様って見てて楽しいよねー」
「人の恋路は蜜の味だっけ。わかった気がするな」

 お互いニヤニヤしているのがわかる。 

「あんたたちはすっかり長年連れ添った夫婦ね」

 少し呆れつつもやはり嬉しそうな優である。

「夫婦かー。あと半年くらい?期待してるからね」
「受かったらな」
「十分射程圏内だし、大丈夫だよー」
「いやいや油断は禁物だ」

 最近の百合はプロポーズを催促してくるようになった。
 嫌な気持ちじゃないけど浮かれてるな。
 
「半年?来年の二月くらいか。なんかあるのか?」

 怪訝な様子の宗吾。そりゃそうだよな。

「半年後には人生の墓場に行く覚悟を決めなきゃいけないんだよ」

 直接言うのは少し恥ずかしくて誤魔化す。

「人生の墓場って……えーと。プロポーズでもするつもり?」

 少し考えた後、優はすぐに思い至ったらしい。

「イグザクトリィ!さすが優ちゃん!」

 何故かノリノリの百合はサムズアップ。

「あんた達、進むのが異常に速いと思ってたけど、もう婚約かー」
「何かまずい?」
「まずくないけど大学にいる内に結婚してそうね」
「学生結婚?それもいいかも」
「俺は独り立ちしてからの方がいいな」
「実家通いだと籍入れても一緒に暮らせないよね」
「そういうこと。急ぐことはないだろ?」
「そうだね」

 二人で話し合いを進めていたところ。

「ほんと、あんたたちは……。気が早いんだから」
「見てて面白いけどさ」

 何やら笑われている気がする。

「優たちはどうなんだ?付き合って少し経つだろ」
「まだまだイチャイチャしたい頃じゃない?」

 二人の間に流れる初々しい空気を見逃す俺たちではない。

「イチャイチャって。いいお付き合いはしてると思うけど……」
「二人みたいなバカップル的なのはちょっとなあ」

  二人して微妙に渋い顔だ。

「優ちゃんたちもバカップルしてもいいんだよ?」
「そうそう。遠慮するなよ」

 ちょっと煽ってみる。

「あー、もう。とにかく行きましょ?」

 羞恥心がどうやら限界を突破したらしい。
 話を逸らされてしまった。

「しかし優の奴がこんな風にデレデレしてるなんてな」
「何よ。悪い?」

 不機嫌さを装っているものの、笑顔が誤魔化し切れてない。
 いや、全く初々しいことで。

「優ちゃんがほんと乙女乙女してるー!」
「宗吾の奴も、幸せいっぱいです!ってツラしてるな」

 二人して目一杯からかってみるも。

「それ以上言うなら今日のダブルデートはなしよ?」

 う。それは困る。

「悪い悪い。からかい過ぎた」

(なあ修二しゅうじ。今日はこのノリが続くのか?)
(俺たちとダブルデートの時点で諦めてくれ)
(もう好きに弄ってくれ)

 珍しく拗ねた様子の宗吾に少し驚きだ。

(優の事大事にしてやってくれよ。百合に続いて付き合い長いしな)
(なんだよ。妹をお願いします的な台詞は)
(あいつ頼られタイプだからな。甘えるのは苦手なんだよ)
(恋人の前で「付き合い長いですムーヴ」かよ)
(いやいやそういうわけじゃなくてだな)
(冗談。優さん、確かに弱音吐くの苦手なタイプだなーとは思うし)
(なら大丈夫だな)
 
 優と俺の付き合いは百合に続いて長い。
 別の中学に行ってからそこまで話さなくなったけど。
 小学校の頃は三人で遊んだことも多かったのだ。

 最寄り駅までさっと移動して、まずはファミレスで腹ごしらえ。

「ほい。百合は何にする?」

 メニューをぽんと渡すと、

「じゃあ、私はチーズハンバーグセットで」

 逆さになったメニューを見て俺も。

「俺はチキンステーキセットにするかな」

 ぱぱっと注文を決めてしまう。

「百合。この季節のパフェとかどうだ?奢るぞ」
「いいの?じゃあ、こっちもお願い♪」

 視線を感じると、隣の宗吾と優がびっくりしていた。

「百合は相変わらず注文早いけど。修二君もそんなに早かった?」
「百合に付き合ってると慣れて来たな」
「修ちゃん、ひどいー」
「冗談だって。あ、二人はごゆっくり」

 隣のカップルに配慮が足りなかったかと思い直す。

「ああ。どうする?優さん」

 メニュー表を横向きにして二人で眺めている。
 そうか。これが普通のカップルという奴か。

「そうね。紫蘇ポン酢ハンバーグ定食も良さそうなんだけど……」

 どう?と視線で宗吾に尋ねている。

「俺もそうしようかなー。あ、優さん。デザートもつけない?」

 白玉あんみつを指差して提案している。
 定食も和風、デザートも和風が好きな優の事だ。
 確かに好みにあってそうで、宗吾はきちんと彼女の事を見ているんだな。

「うーん。でも、今月少し節約しなきゃだし」
「なら俺が奢るからさ」
「宗吾君の気持ちは嬉しいけど、あんまり厚意に甘えるのは……」
「じゃあ、次に食べる時に優さんが奢ってくれればいいから」
「そうね。じゃあ、お言葉に甘えるわね」

 人の好意に甘えるのが苦手な優に対してはなかなかいいプレーだ。

(優ちゃんと宗吾君、お似合いだね)
(ああ。優が甘えられるくらいがちょうどいいだろうしな)
(でも、付き合いたて(?)の恋人ってこんな風なんだね)
(そだな。俺たちの時とは全然違うよな)

 二人の様子を見ていると、お互いに配慮しつつ距離を測りつつ。
 そんな様子が感じられて、普通のカップルという奴が少しわかった気がした。

「二人とも何さっきからジロジロ見てるの?」
「ああ、悪い。普通のカップルってどういうのかなって思ってな」
「あなたたち、付き合い立てですっごく進んでたものね」
「なんで知ってるんだ?」
「なんかねー。百合が凄くノロケ話して来たのよー」
「あー。優ちゃん。そこは秘密秘密!」
「言い出してどうも気になるな。後で教えてくれよ」
「わかったわよ。後で、ね」

 からかわれた意趣返しか、百合に向けて悪い笑顔をしている。

「ちょ、ちょっと。私は変なこと言ってないからね?」

 珍しく慌ててる百合。こいつは何を言ったんだか。

「優さん、普段はこんな感じで喋るんだな」

 何やら納得した顔の宗吾だ。

「うん?ああ、俺たちへはこんなんだけど。恋人への対応とは違うだろな」
「普段はもっと落ち着いた感じ。優さんもやっぱり同い歳の女性なんだな」
「大事にしてやってくれ」
「ああ、大事にするさ」

 こうして、楽しくしゃべりながら昼食の一時を楽しんだのだった。
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