幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一

文字の大きさ
35 / 50
第10章 夫婦になった二人

第35話 夫婦になって変わった事

しおりを挟む
 金曜の夜というのは社会人にとっては憩いのひとときらしい。
 特に堀川家ほりかわけでお義父さんたちと同居することになってからそれをよく感じる。
 露骨にお義父さんの機嫌がよいのだ。

 朝早くて夜遅いことも多い大変な仕事。
 でも、業界の中では週休二日をきちんととれるのは恵まれているとか。
 それでも、開発が佳境に入ると休日返上なことも珍しくないらしくて、大変だ。

 大学生である俺たちにとっても、金曜日の夜はひときわ解放感がある。
 サークル活動はともかく、難しい講義についていくのは疲れるし、解析学や代数学などの数学系科目はとりわけ疲れる。

 だから、翌日二日が休みである金曜はやっぱり解放感があって、ベッドでごろごろと本を読んでいる。漫画やラノベを読むこともあれば、読み物系の面白いノンフィクションを読むこともある。

しゅうちゃん、どしたの?」

 スマホ片手に同じくごろごろしている百合ゆりがじいっと見つめてくる。
 何を考えているんだろう?そんな感じだろうか。

「なんか、百合と当然のようにこうしてるのがちょっと不思議な気がしてさ」

 もちろん、友人として、そして恋人になってからも長く一緒に過ごしてきた。
 それでも恋人の時は夜を一緒に過ごさないのが当然。
 逆に今は夜をこうしてだらだら一緒に過ごすのが当然。

 パジャマに浮き出る身体のラインがとか、綺麗だなとかそんな事は恋人になった後も時折思っていた。ただ、ムラムラ来てる……というのも何だが、そうじゃない時はごろごろとお互い好きなことをしているのがとても落ち着く。

「確かにちょっと不思議かも?修ちゃんのこと見ててもなんか自然な感じ」

 同じことをこいつも感じていたらしい。
 目と目を見合わせているのに不思議とあんまり恥ずかしくない。

「だよな。恋人の時は、こんな状態だったら気分盛り上がること多かったけど」

 もちろん、何も感じないわけじゃない。
 スマホ片手に何やらニヤニヤしているのもかわいらしい。
 それに、百合のことを愛しく思う気持ちだってある。
 ただ、こうしてて落ち着くというのがやっぱり不思議だ。

「今から気分盛り上げる?」

 にやっと口角を釣り上げてのお誘い。

「それも捨てがたいけど……ちょっと聞きたいことがあったんだよ」

 なんだかんだ言ってお誘いのままに雰囲気が盛り上がってしまえば、
 まあ俺も若い男性だし色々してしまいそうだ。
 ただ、今日はちょっと違う気分だった。ゆっくり話したいというか。

 なんとなく髪の毛をそっと撫でてみると、嬉しそうに目を細める百合。
 これが夫婦の距離っていうやつなんだろうか?

「それで、こうして私を甘やかして、何を聞きたいの?」

 こうして優しく髪を撫でてやると機嫌が二倍くらい良くなる。
 顔を胸板にこすりつけて来て、完全に甘えモードだ。

「百合はさ。俺と夫婦になって一番変わったことってなんだと思う?」

 特に深い意味はない問いだ。
 ただ、結婚してしばらく経って、百合がどう思っているのか知りたかった。
 幸せでいてくれるのは疑っていないけど。

「ん-……やっぱりこうして夜を過ごすのが当たり前になったこと?」

 やっぱり真っ先に思い浮かぶのがそれか。

「やっぱそうか。一緒に寝るのがなんかもう当然になってるよな」

 別にエッチなことをするとかいうのじゃなくて。
 お互い眠くなったらなんとなく消灯して、手を繋いで。
 なんとなく近くに相手を感じたいときは抱き合って寝て。
 それが「当然」に感じることがやっぱり少し不思議だ。

「恋人の時は、もっといたいなーって思ってても家に帰らなきゃだったし」
「お泊りしたいなーとかよく思ってたな」

 だから、時々お泊りできた日は特別だった。
 それが今や当然のことになっている。

「あとは……修ちゃんに甘え放題なこと?」

 ほんのり頬を赤らめながらも、はっきり言ってくれる。
 こういうのを言ってくれるところがまた可愛いんだ。

「俺としても百合が甘えてくれるのはすっごい嬉しいけどな」

 強いて言うなら、可愛がるという感覚が近い。
 理性をオフにして思う存分肌を寄せてくれるのは男冥利に尽きる。

「修ちゃんは昔から私にめちゃくちゃ甘かったからね」

 高校生の頃か、中学生の頃か、小学生の頃か。
 いつを思い出しているのやら。

「手のかかる子ほど可愛いっていうだろ?」

 ちょっと上手いことを言ってみたくなった。

「私が結構勉強教えてあげてるの、もう忘れた?」

 ぷくっと頬を膨らませて拗ねたフリ。

「冗談だ冗談。ほんとそれは助かってる」

 以前よりはマシとはいえ頭が遥かに良い百合に色々教えてもらえるのは助かる。

「私も旦那様・・・の勉強見てあげられるの好きだけどね」

 旦那様を強調するってことは。

「普段自堕落な分、勉強くらいはってことか?」

 なんとなくそう思った。

「だって。お嫁さんらしいことあんまりできてないし……」
「そういうのは了解済みだって言ってるだろ?」
「それでも、お嫁さんとしては旦那様に色々してあげたいわけですよ、ええ」

 なんて言いつつ目を閉じて唇を近づけてくる。
 お互い舌を差し入れて感触を楽しむのももう何度目だろう。
 しかし、やっぱりこういうことすると興奮してくるのはどうしようもなく。

「ちょ、修ちゃん。首筋、ダメ。本当にダメだから」
「それはフリだよな。押すなよ、押すなよ、みたいな?」
「わかってて言ってるでしょ。本当に首筋を優しく触れられるの弱いの!」

 こういうじゃれあいっていうかスキンシップのバリエーションも増えて来た。
 首筋だったり脇腹だったり、頬をつついてみたり。

「俺だけ気分盛り上がるのも違うだろ?というわけで、堪えてくれ」

 ちょっといじめっ子の気分である。

「もう。嫌じゃないから抵抗できないのが悔しいんだけど……!」

 というわけで、しばらく首筋をいじめてるとだんだん吐息が荒くなっていく。
 顔もだいぶ上気してきたし。

「そろそろ、いいか?」

 合図はないけど、期待に満ちた目でこくりと頷いてくれる。
 週末ということもあって時間をかけて楽しんだのだった。

◇◇◇◇

 行為を終えてお互いパジャマに着替えてのピロートーク。

「夫婦になって変わったこと、ほかにもあったかも」
「お?なんかあったか?」
「こうして雰囲気でエッチな流れになること」
「ま、まあ。百合が可愛いからしたくなるのも自然なわけだし……」

 この流れなら百合も望んでいるだろうなというのがなんとなくわかる。
 それも夫婦になって変わった事かもしれない。

「夫婦の夜の営みってもっと卑猥なのを想像してたけど……結構普通だよね」
「まあな。いや、もっと卑猥なのしてほしいなら別だけど」
「アブノーマルなのはなしにして欲しいな」
「俺もそうだよ。単に聞いてみただけ」

 しかし、他に夫婦になって変わったこと……なんかあるだろうか。

「あ、もう一つあったぞ!」
「なになに?」
「お互いに「ただいま」とか「おかえり」とか言うようになったこと」

 夫婦だからと言って四六時中一緒にいるわけじゃない。
 ただ、今の堀川家が俺たちの家で。
 先に俺が帰ってきてたら「おかえり」。
 逆に先に百合が帰ってきてたら「ただいま」の言葉がかえってくる。

「確かに!そういうのもなんだかいいよね」
「探せば、夫婦になって変わったことほかにもいろいろありそうだな」
「私は苗字変わったのも大きいかな。手続き、色々大変だったよ……」
「あれな。通帳とかキャッシュカードも旧姓使わせてくれたらいいんだけどな」

 結婚して、姓が変わるせいでの手続きは百合は本当面倒そうだった。
 まあ、百合でなくても面倒くさくてキレたくもなるというもの。

「でも、まだ「池波さん」だと慣れないね」
「そりゃなあ。すぐ慣れろってのが難しいだろ」
「でも、修ちゃんの旦那さんなんだ!って実感して嬉しいけど」

 ぐいっとくっついてくる。

「とにかく。夫婦になって良かったってことでここは一つ」
「それはそうだよー。もし修ちゃんが先に死んだら、一生独身でいるからね?」
「いやいや、それ言うなら俺の方もだよ。再婚とかきっとする気起きないって」

 俺たちは新婚なのに一体何を言っているんだか。

「じゃあ、お互い100歳まで元気でいること!約束しよっ?」
「80歳までならともかく、100歳とかハードル高くないか?」
「最近、アンチエイジングとか流行ってるし、いけるいける!」

 ノリで言ってるだけなのに、百合が言うと不思議と実現できる気がする。

「しかし……こんなこと語り合ってるから、周りから変な目で見られるんだろうな」
「仕方ないよ。私と修ちゃんの関係はなんか少し変だし」
「ま、そうだな。少し変同士だし」

 お互いクスクスと笑って。

「そろそろ本当に寝よっか」
「ああ。お休み」

 電気を消していつものように二人で手を繋いで寝たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...