上 下
26 / 123

26.まぼろしの薬作り二日目

しおりを挟む
カサブランカ公爵領の朝食はとてもとても美味しかった。ふわふわのパンケーキにしゅわって口の中で溶けちゃう生クリームをつけて、ナッツの粉末を少しかけるの。すごく美味しかった。キャラメルソースをかけて食べるのも最高だったわ。もう二枚くらい食べたかったのに、サリーにじろって睨まれて、分かってますって、腹八分でしょ!


作業がしやすいシンプルな服に着替えて、今日もシルバーとルドと三人で馬車に乗った。
「昼頃には馬車に乗って帰り始めないといけないから、ルドもマリーもそのつもりで頼むね。一応帰ってからも研究が続けられるように、カサブランカの花と瓶は持って帰れるように用意しておくよ。」
「シルバーありがとう。」
「焦らなくてもいいんだよ。涙ってことが分かっただけでもすごいことなんだからね。」

シルバーは気が利くし、優しいわ。流石攻略対象者になるだけのことはあるわ。その隣のルドを見ると、真剣な表情で昨日私が作った濃いピンクの液体が入っている瓶を眺めている。
「なぁマリーこれすごいぞ。昨日ティースプーンに一杯だけ飲んだだけで、体の疲れが吹っ飛んで、魔力量も一気に満タンになったんだ。もらってもいいか?」

「シルバーが良ければ、私はいいわよ。ルドには実験体みたいなことをさせて、ものすごく申し訳ないと思っていたから喜んでもらえたなら嬉しいわ。」
よく考えたら私、王族を実験体にしていたのよね…。
かたんと音がして馬車が止まった。着いたのね。

早速、私たちは研究室に入った。私は今日作ろうとしている魔法の涙について二人に説明した。
「色々な涙を想像してみようと思ってるの。嬉しい涙、ほっとした時の涙、痛い時の涙、恐怖で流す涙とか…。」
シルバーは大きく頷いて、
「うん、頑張ってね。僕は持って帰る分の準備をしておくよ。」
「ありがとうシルバー。」

ルドも、
「さぁやろう。俺は味見役だ。」
そう言って笑顔で頷いてくれている。美味しくないのにありがとう。さぁ頑張るわよ!

「「うーん、難しいなぁ~……。」」
ルドとハモってしまった。色々と試した結果分かったこともある。
楽しいこと、嬉しいこと、ほっとすることなど心が明るい気持ちになる涙は液体がものすごく薄いピンクになる。逆に怖かったり、痛かったり、辛かったり、淋しかったり、心が暗い気持ちの時の涙はとても濃い色のピンクになる。

「ルド、味はどう?」
「うーん、これが一番近いかな。色も一番近いと思うぞ。」
「確かに見た目はこれが近いと思っていたんだけど、味と見た目は比例するのね。」
「マリーこれは、なんの涙なんだ?」
「これは、家族愛かな。アーサーがお兄様に家族だよって言われた時の、嬉しいんだけど今までの色んな切ない気持ちや、ほっとした気持ち、そんな色々な気持ちが混ざっている一言では表現できない涙かな。」

「なるほど、家族愛か、じゃあこれだけ、悲しいとか、嬉しいとか、そんな単純な涙ではないんだな。」
「うん、もっと色々な感情が入ってる感じ。」
少し前に研究室に戻ってきたシルバーが、
「じゃあ今度はマリーが思うままに気持ちを込めて涙を作ってみたらどうだろう?」

「私の気持ち…分かった…やってみるわ。」
私は色々な人の顔を思い出したり、想像してみた。ゲームの中のマリーや、アーサー、お兄様、お父様、お母様、サリー、友達、前世の私の大切な人たち…まだ会ったことないけど、はやり病で苦しんでいる人たち、その家族、恋人…私はみんなに幸せになって欲しい。悲しい涙を乗り越えて嬉し涙に変えて欲しい。そう思った瞬間今までより強い光を放ち、淡いピンクの液体が完成した。

「夢で見た色だわ。」
「俺が飲んだのもこの色だと思う。味も…間違いないこの味だ。これだ、まぼろしの薬だ!」
「で、できた。よかった。あれ、体に力が入らない。」
「マリーしっかりしろ。大丈夫か!」
「ルド、早く濃いピンク色の液体をマリーに飲ませて。」
「ああ、そうだな。ほら、マリー飲め。すぐ回復するから、頑張れ。」

「うっうっ。」
ごくん。あれ、体がすごく元気になったわ。カサブランカの花のおかげね。
「ありがとう。もう大丈夫みたい。心配かけてごめんね。」
「俺こそ、悪かった。休憩しながらやるべきだったな。」

「そうだよ。ルドは配慮が足りないんだよ。反省して、大体どうして飲ませながらやってあげないの。昨日だってすごく疲れててもマリーは頑張っていたでしょ。本当にだめだなぁ。あきれちゃうよ。」
ルドは一応王太子殿下なんだけど、王太子殿下に向かってそんなに言って大丈夫なのかな?何か、シルバーが、サリーみたいに、がみがみがみがみ言い出したわよ。そうじゃなくて、一番大切なこと!言い忘れるとこだった!

「二人ともありがとう。夢で見た通りの薬ができたわ。」
「「マリーおめでとう。」」
「二人が私を信じて協力してくれたおかげよ。」
「ここからは俺が頑張る番だな。」
「えっ?何のこと。」

「一秒でも早く苦しんでいる人に飲ませたいだろう。」
「それはそうだけど…。」
「ルドはね、王太子殿下の力を使うって言ってるんだよ。」
「そういうこと、マリーも見てれば分かるさ。とりあえず、シルバー会話と映像の魔道具はあるか。」
「もちろんだよ。ちょっと待っててね。」
さっぱり分からないけど、見てれば分かるのね。二人とも私よりすごく優秀だから大丈夫ね。
それにしても、いったい何が始まるのかしら?


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,964pt お気に入り:16,126

激レア種族に転生してみた(笑)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:923pt お気に入り:872

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92,910pt お気に入り:3,190

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,465pt お気に入り:1,357

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,907pt お気に入り:3,767

処理中です...