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29.ほんの少しだけ、二人にさせて……
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アーサーが私を抱きしめてきたのを見て、サリーが気を利かせてお兄様に、
「マルク様お部屋を出ましょう。」
と言ってくれた。お兄様はじたばたしていたけど、サリーに引きずられて出て行った。サリーありがとう。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ二人にさせて。
「アーサー、私、頑張ったのよ。いまでも信じられないけど、夢で見た通りの薬ができたのよ。」
「うん、すごく頑張ったね。」
「ほんとに、めちゃくちゃ頑張ったの。」
「うん。」
アーサーは私の頭を撫でながら、私をソファーの方に連れてきてくれた。そして、アーサーの膝の上にちょこんと乗せてくれた。アーサーは背が高いし、騎士の朝練にも最近まで参加していただけあって筋肉もすごい。はっきり言ってカッコいい。私も他の令嬢より、少し背は高い方だと思うんだけど、アーサーのそばでは小さく見える。
「あのね。カサブランカ公爵領の花園は本当にカサブランカの花が、どこまでも、どこまでも、咲いているの。真っ白な絨毯みたいだったのよ。アーサーにも見せてあげたかったわ。そこにアーサーにも話した夢と同じテーブルだけあるように見える研究室があって、瓶も夢と全く同じだったの。不思議でしょ。」
「本当に不思議だね。」
「それからね。まぼろしの薬は海水じゃなかったの。普通の塩水でもなくて、涙だったの。」
「涙…。」
「ええ、涙。」
「悲しいだけの涙でもだめで、嬉しいだけの涙でもだめなの。私はみんなに幸せになって欲しいって思って。色んな人の色んな気持ちを想像して、悲しかったり、苦しかったりしても、それを乗り越えて、みんな幸せになってって思ったの。最後は幸せな涙を流せるように。」
「うん、素敵だね。」
「そう思ったら、眩しいくらいに光って、カサブランカの花が涙の液体に溶けて、淡いピンクの液体になったの。」
「そうだったんだね。疲れただろ?」
「ええ、すごく疲れたわ。でもすごく嬉しかったの。これでみんなを助けられるかもしれないものね。」
「まぼろしの薬はマリーの気持ちそのものなんだね。」
アーサーはずっと、私の頭を優しく撫でながら、カサブランカ公爵領での話を聞いてくれた。心が落ちつくわ。
「マリー、明日からも大変だと思うから今日はゆっくり休もうね。」
うんって言わなきゃいけないのに、私はまだ離れたくなくて、自分で決めたことなのに明日からまたしばらく会えなくなると思うと淋しくて、我慢できなくて言ってしまった。
「アーサー。私、アーサーと離れたくない。」
言ってもアーサーを困らせるだけなのに。
アーサーがぎゅって私を抱きしめてくれた。アーサーの胸のどきどきがはっきり聞こえる。恥ずかしいのに嬉しくて、照れくさいのにほっとする。何とも言えない気持ち、私のすべて。そんな言葉が浮かんだ。
「マリー、僕もだよ。本当は何処にも行かせたくないんだ。ずっと僕の隣にいて欲しい。そしてマリーのすべてを独り占めしたい。でも、マリーの願いもすべて叶えたいんだ。マリーは平民街のみんなを助けたいんだろう。きっとそうしないとマリーは後悔すると思うんだ。だから僕はどんなに淋しくても我慢するよ。その代わり、必ず僕のところに帰って来てね。」
アーサーの言う通りだ。私は自分にできることを全力でやらないと絶対に後悔する。以前の私なら、ゲームのように、ヒロインがなんとかしてくれると考えていたかもしれない。でも今は違う。
ここはゲームの中の世界とは明らかに違うって知ってるから、私もゲームの中のマリーとは全然違うし、アーサーもゲームの中のアーサー様とは全く違うから。ゲームの中のアーサー様は泣かないし、とっても無口。それにもう少し細身だし、たぶん腹巻きだってやってない。
だけど、私のアーサーは泣き虫だけど、頑張って沢山私に気持ちを伝えてくれる優しい人。見た目も細マッチョで結構がっしりしていて、お揃いの腹巻きまでしてくれるちょっと困った可愛らしい人。
私も、アーサーも、みんなこの世界で生きている。そして、平民街でも多くの人が生活し、今まさに、はやり病で苦しんでいる。やっぱり、自分にやれることは全力で頑張らないと後悔するわ。
「アーサーありがとう。アーサーの言う通りだと思うわ。私にちゃんとできるか不安だけど、やらなきゃ私、絶対に後悔すると思う。淋しいけど全力で頑張ってくるから私のこと待っていてね。」
私はアーサーにぎゅっと抱きついた。アーサーはやっぱり泣き出して、私の頭の上にぽろぽろと、涙が落ちてきた。
「マルク様お部屋を出ましょう。」
と言ってくれた。お兄様はじたばたしていたけど、サリーに引きずられて出て行った。サリーありがとう。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ二人にさせて。
「アーサー、私、頑張ったのよ。いまでも信じられないけど、夢で見た通りの薬ができたのよ。」
「うん、すごく頑張ったね。」
「ほんとに、めちゃくちゃ頑張ったの。」
「うん。」
アーサーは私の頭を撫でながら、私をソファーの方に連れてきてくれた。そして、アーサーの膝の上にちょこんと乗せてくれた。アーサーは背が高いし、騎士の朝練にも最近まで参加していただけあって筋肉もすごい。はっきり言ってカッコいい。私も他の令嬢より、少し背は高い方だと思うんだけど、アーサーのそばでは小さく見える。
「あのね。カサブランカ公爵領の花園は本当にカサブランカの花が、どこまでも、どこまでも、咲いているの。真っ白な絨毯みたいだったのよ。アーサーにも見せてあげたかったわ。そこにアーサーにも話した夢と同じテーブルだけあるように見える研究室があって、瓶も夢と全く同じだったの。不思議でしょ。」
「本当に不思議だね。」
「それからね。まぼろしの薬は海水じゃなかったの。普通の塩水でもなくて、涙だったの。」
「涙…。」
「ええ、涙。」
「悲しいだけの涙でもだめで、嬉しいだけの涙でもだめなの。私はみんなに幸せになって欲しいって思って。色んな人の色んな気持ちを想像して、悲しかったり、苦しかったりしても、それを乗り越えて、みんな幸せになってって思ったの。最後は幸せな涙を流せるように。」
「うん、素敵だね。」
「そう思ったら、眩しいくらいに光って、カサブランカの花が涙の液体に溶けて、淡いピンクの液体になったの。」
「そうだったんだね。疲れただろ?」
「ええ、すごく疲れたわ。でもすごく嬉しかったの。これでみんなを助けられるかもしれないものね。」
「まぼろしの薬はマリーの気持ちそのものなんだね。」
アーサーはずっと、私の頭を優しく撫でながら、カサブランカ公爵領での話を聞いてくれた。心が落ちつくわ。
「マリー、明日からも大変だと思うから今日はゆっくり休もうね。」
うんって言わなきゃいけないのに、私はまだ離れたくなくて、自分で決めたことなのに明日からまたしばらく会えなくなると思うと淋しくて、我慢できなくて言ってしまった。
「アーサー。私、アーサーと離れたくない。」
言ってもアーサーを困らせるだけなのに。
アーサーがぎゅって私を抱きしめてくれた。アーサーの胸のどきどきがはっきり聞こえる。恥ずかしいのに嬉しくて、照れくさいのにほっとする。何とも言えない気持ち、私のすべて。そんな言葉が浮かんだ。
「マリー、僕もだよ。本当は何処にも行かせたくないんだ。ずっと僕の隣にいて欲しい。そしてマリーのすべてを独り占めしたい。でも、マリーの願いもすべて叶えたいんだ。マリーは平民街のみんなを助けたいんだろう。きっとそうしないとマリーは後悔すると思うんだ。だから僕はどんなに淋しくても我慢するよ。その代わり、必ず僕のところに帰って来てね。」
アーサーの言う通りだ。私は自分にできることを全力でやらないと絶対に後悔する。以前の私なら、ゲームのように、ヒロインがなんとかしてくれると考えていたかもしれない。でも今は違う。
ここはゲームの中の世界とは明らかに違うって知ってるから、私もゲームの中のマリーとは全然違うし、アーサーもゲームの中のアーサー様とは全く違うから。ゲームの中のアーサー様は泣かないし、とっても無口。それにもう少し細身だし、たぶん腹巻きだってやってない。
だけど、私のアーサーは泣き虫だけど、頑張って沢山私に気持ちを伝えてくれる優しい人。見た目も細マッチョで結構がっしりしていて、お揃いの腹巻きまでしてくれるちょっと困った可愛らしい人。
私も、アーサーも、みんなこの世界で生きている。そして、平民街でも多くの人が生活し、今まさに、はやり病で苦しんでいる。やっぱり、自分にやれることは全力で頑張らないと後悔するわ。
「アーサーありがとう。アーサーの言う通りだと思うわ。私にちゃんとできるか不安だけど、やらなきゃ私、絶対に後悔すると思う。淋しいけど全力で頑張ってくるから私のこと待っていてね。」
私はアーサーにぎゅっと抱きついた。アーサーはやっぱり泣き出して、私の頭の上にぽろぽろと、涙が落ちてきた。
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