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90.【アーサーside】~ブラックリリー公爵家の人々~
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【アーサーside】
僕は二歳の誕生日パーティーで魔力暴走を起こし、ブラックリリー公爵家に連れて来られた。クライム殿はアーサーは何も悪くないんだよと優しく何度も言ってくれた。私のことをお父様だと思って呼んでくれると嬉しいとも言ってくれた。それなのに僕は、クライム殿の言葉を素直に信じることができなかった。僕が悪くない訳がないと思っていたから。それに優しくされたことがなかったからか、どうしたらいいのかも分からなかった。逆に化け物の僕に近づいて平気なのかとはらはらした。ブルサンダー公爵家では、僕が人に近づくことは危険だからと許されなかったから。
いまではもちろん、ブラックリリー公爵家の人が言っていたことはすべて本当だと分かるし、全員信じているけれど、お父様と呼ぶ機会を逃した僕はずっとクライム殿と呼んできた。メリー夫人に対してはもっと時間がかかってしまった。どうしても母上を吹き飛ばしてしまったトラウマから、女の人が近づいてくると吹き飛ばしてしまいそうで怖かったんだ。でも、そんな僕のことを察して、いつも遠くから見守ってくれていたのは知っていたし、とても嬉しかった。その気持ちすら、いまだに伝えられていない。
マルクとは同い年だから兄弟だと思えばよいと言われて、本当の兄弟のように育ててもらった。クライム殿はマルクを紹介してくれた時に、マルクの魔力は僕と同じで非常に多いけど、僕より魔力のコントロールがかなり下手で、魔力暴走の天才なんだよと笑って言っていた。だから毎日何回も魔力暴走をおこしているけど、ブラックリリー公爵家ではなんの問題も起こらないようにしているから、安心して暮らせばいいんだよとも言われた。だけどその時は全く信じられなかった。もちろんすぐに事実だと分かったけど…。
マルクといるのは本当に楽しかった。マルクはたしかに魔力量が多くてコントロールがずば抜けて下手だった。魔法の練習という名の遊びを次から次へと考えて色々やって楽しかった。その結果、たしかに毎日が魔力暴走だったけどクライム殿の魔力防御魔法のおかげでこの邸の中では誰も怪我せず、物が壊れることもなかった。
マルクがろうそくに火をつける練習をしたことがあった。ろうそくとろうそくの間は一メートルくらいずつは開いていたと思う。それが十本立っていた。これだけ空いていればマルクでもできるだろうと思って安心して僕も見ていた。だけど、マルクの火魔法は強烈過ぎて、一瞬ですべてのろうそくが溶けてしまった。それでも壁も床もなにも燃えなかった。乳母のケイトは壁の前でため息をついて平気な顔をしてあきれていた。
本当にこれが日常なんだと思ってびっくりした。すべてがブラックリリー公爵家ではこんな感じだった。マルクは天使のような顔で、
「また失敗しちゃったね。ケイトをびっくりさせちゃったかな?びっくりさせていたらごめんね。」
って毎回言っていたし、ケイトも、
「びっくりなんてしませんよ。ケイトはマルク様が上手にできたらびっくりすると思います。」
なんて言っていたんだから。
その後マルクは必ず僕にも同じことをやらせて、僕ができると手を叩いて喜んでくれるんだ。アーサーは天才だって、嬉しかった。それから何度もケイトと一緒にマルクにやり方を教えたんだけど、出来るようになる前に、ろうそくが全部なくなっちゃったんだよね。
クライム殿の遊び方も豪快で、二歳の僕ですら、ちょっと異常じゃないかと思ってしまった。マルクが高い高いしてって言ったら、二階くらいの高さまで魔法で飛ばして、わざと急降下させるんだ…。ちょっと見ていて怖かった。マルクは喜んでいたけど僕は遠慮した。ケイトはアーサー様の感覚が普通ですよと小さい声で教えてくれた。ここの皆様がおかしいのですとも言っていた。たしかにメリー夫人もマルクの急降下を見ても微笑んでいたからブラックリリー公爵家では普通のことらしい。ケイトは年は取っているけど魔力量とコントロールはクライム殿も褒めていたからすごいのだと思う。メリー夫人も魔力量とコントロールは素晴らしいらしい。
こんな感じで一か月が過ぎた頃、妹が生まれたとマルクに教えてもらった。一緒に見に行こうと誘われたけど、僕は断った。だって僕はまだ二歳で完璧に魔力をコントロールできない。ほとんどの人が僕の魔力を感じて怖がっていたのを知っていたし、敏感な人は失神してしまう人もいた。だから赤ちゃんなんてとんでもないと思ったんだ。結局マルクが大騒ぎして訳の分からないまま、赤ちゃんのマリーに会うことになったのだけれど。
僕にとってマリーは、命と同じなんだと思う。マリーに出会っていなかったら、そんなことを考えると怖くて心が暗闇に吸い込まれそうになる。僕はブルサンダー公爵家で生まれてすぐに五歳年上の兄上を魔力暴走で怪我させたらしい。二歳の自分の誕生日では母上を壁まで吹き飛ばしてしまった。僕はみんなが言う通り生まれてきてはいけなかったんだ。僕は化け物だ。赤ちゃんのマリーに会うまでは本気でそう思っていた。
僕は二歳の誕生日パーティーで魔力暴走を起こし、ブラックリリー公爵家に連れて来られた。クライム殿はアーサーは何も悪くないんだよと優しく何度も言ってくれた。私のことをお父様だと思って呼んでくれると嬉しいとも言ってくれた。それなのに僕は、クライム殿の言葉を素直に信じることができなかった。僕が悪くない訳がないと思っていたから。それに優しくされたことがなかったからか、どうしたらいいのかも分からなかった。逆に化け物の僕に近づいて平気なのかとはらはらした。ブルサンダー公爵家では、僕が人に近づくことは危険だからと許されなかったから。
いまではもちろん、ブラックリリー公爵家の人が言っていたことはすべて本当だと分かるし、全員信じているけれど、お父様と呼ぶ機会を逃した僕はずっとクライム殿と呼んできた。メリー夫人に対してはもっと時間がかかってしまった。どうしても母上を吹き飛ばしてしまったトラウマから、女の人が近づいてくると吹き飛ばしてしまいそうで怖かったんだ。でも、そんな僕のことを察して、いつも遠くから見守ってくれていたのは知っていたし、とても嬉しかった。その気持ちすら、いまだに伝えられていない。
マルクとは同い年だから兄弟だと思えばよいと言われて、本当の兄弟のように育ててもらった。クライム殿はマルクを紹介してくれた時に、マルクの魔力は僕と同じで非常に多いけど、僕より魔力のコントロールがかなり下手で、魔力暴走の天才なんだよと笑って言っていた。だから毎日何回も魔力暴走をおこしているけど、ブラックリリー公爵家ではなんの問題も起こらないようにしているから、安心して暮らせばいいんだよとも言われた。だけどその時は全く信じられなかった。もちろんすぐに事実だと分かったけど…。
マルクといるのは本当に楽しかった。マルクはたしかに魔力量が多くてコントロールがずば抜けて下手だった。魔法の練習という名の遊びを次から次へと考えて色々やって楽しかった。その結果、たしかに毎日が魔力暴走だったけどクライム殿の魔力防御魔法のおかげでこの邸の中では誰も怪我せず、物が壊れることもなかった。
マルクがろうそくに火をつける練習をしたことがあった。ろうそくとろうそくの間は一メートルくらいずつは開いていたと思う。それが十本立っていた。これだけ空いていればマルクでもできるだろうと思って安心して僕も見ていた。だけど、マルクの火魔法は強烈過ぎて、一瞬ですべてのろうそくが溶けてしまった。それでも壁も床もなにも燃えなかった。乳母のケイトは壁の前でため息をついて平気な顔をしてあきれていた。
本当にこれが日常なんだと思ってびっくりした。すべてがブラックリリー公爵家ではこんな感じだった。マルクは天使のような顔で、
「また失敗しちゃったね。ケイトをびっくりさせちゃったかな?びっくりさせていたらごめんね。」
って毎回言っていたし、ケイトも、
「びっくりなんてしませんよ。ケイトはマルク様が上手にできたらびっくりすると思います。」
なんて言っていたんだから。
その後マルクは必ず僕にも同じことをやらせて、僕ができると手を叩いて喜んでくれるんだ。アーサーは天才だって、嬉しかった。それから何度もケイトと一緒にマルクにやり方を教えたんだけど、出来るようになる前に、ろうそくが全部なくなっちゃったんだよね。
クライム殿の遊び方も豪快で、二歳の僕ですら、ちょっと異常じゃないかと思ってしまった。マルクが高い高いしてって言ったら、二階くらいの高さまで魔法で飛ばして、わざと急降下させるんだ…。ちょっと見ていて怖かった。マルクは喜んでいたけど僕は遠慮した。ケイトはアーサー様の感覚が普通ですよと小さい声で教えてくれた。ここの皆様がおかしいのですとも言っていた。たしかにメリー夫人もマルクの急降下を見ても微笑んでいたからブラックリリー公爵家では普通のことらしい。ケイトは年は取っているけど魔力量とコントロールはクライム殿も褒めていたからすごいのだと思う。メリー夫人も魔力量とコントロールは素晴らしいらしい。
こんな感じで一か月が過ぎた頃、妹が生まれたとマルクに教えてもらった。一緒に見に行こうと誘われたけど、僕は断った。だって僕はまだ二歳で完璧に魔力をコントロールできない。ほとんどの人が僕の魔力を感じて怖がっていたのを知っていたし、敏感な人は失神してしまう人もいた。だから赤ちゃんなんてとんでもないと思ったんだ。結局マルクが大騒ぎして訳の分からないまま、赤ちゃんのマリーに会うことになったのだけれど。
僕にとってマリーは、命と同じなんだと思う。マリーに出会っていなかったら、そんなことを考えると怖くて心が暗闇に吸い込まれそうになる。僕はブルサンダー公爵家で生まれてすぐに五歳年上の兄上を魔力暴走で怪我させたらしい。二歳の自分の誕生日では母上を壁まで吹き飛ばしてしまった。僕はみんなが言う通り生まれてきてはいけなかったんだ。僕は化け物だ。赤ちゃんのマリーに会うまでは本気でそう思っていた。
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