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111.お兄様はやっぱり、この世界のヒーローだと思います

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学園に通い始めてから、あっという間に五か月が過ぎ、あっという間に夏休み。魔力の道も少しずつ広がってきたようで、平民の方々くらいにはなっていると、リック様に昨日アーサーのお母様の治療に行った時に言われたわ。お母様もかなりお元気になられて、近頃は公爵様とお庭を散歩できるようになったと喜んで見えたわ。例のケブリック王国からみえたお二人はブロッサの魅了入りのクッキー(ピゴくん用)を勝手に食べて?いまはおとなしくなっているわ。ピゴくんが魅了をちょっと食べるのを我慢して二人が食べたいって言うから仕方なくおすそ分けしたんですって…。ばれたら大変なことにならないかしら、ブロッサが本当に知らなかったかはともかくとして、ブロッサに聞かずに勝手に食べたからいいのかしら?ただ一回食べただけだから、ケブリック王国に帰る頃にはすっかり魔法は解けているってブロッサは言っていたからたぶん大丈夫よね。

ルーサ様のご両親の治療もアーサーのお母様の治療の後に毎回行くんだけど、あと一か月後には、サーシャが魔力を取りに瘴気の洞窟付近に現れるから王家の要人の皆様がぴりぴりしているとルーサ様が教えてくれたわ。ルーサ様のご両親も、ルナのご両親も流石魔族というべきか、回復力がすごくてすでにほとんど完治だそうです。だから昨日で治療は終了。そこでお礼にと、以前ルーサ様に頂いた念話ができるブレスレットに、転移魔法の機能を魔法でつけて下さったわ。流石、魔族の王様ね。これはきちんと行きたいところを明確に言って、行きたいと言わない限り勝手に転移したりしないから安心していいよと言ってくださったわ。ブローサ様の時に思っただけで転移して怖かった話をしておいて良かったわね。

そして今日、ふと、魔道具をしまっておく棚を開けたら、アーサーとデートした日にも使ったお兄様作の変装用魔道具の横に、アーサーと選んだお兄様への懐中時計のプレゼントの箱を見つけたの。これずっとここにあったのね。すっかり忘れていたわ。渡さないと…。私は急いでアーサーとお兄様とお茶をすることにしたわ。
「お兄様、お兄様の好きなリンゴジュースとジャムの入ったクッキーですよ。」
「マリーありがとう。」
「お兄様、もうだいぶ前になるんですけど、お兄様へのプレゼントを渡すタイミングを逃してしまいまして、今日お渡ししますね。」
「えっ、ありがとう。マリーすごく嬉しいよ。なんだろう。開けてもいいかい?」
「もちろんです。アーサーと選んだんですよ。」
「うわぁ、可愛いね。懐中時計だね。イルカたちが僕たちみたいだ。青い空に青い海、そして三頭のイルカ。素敵だよ。大事にするね。」

「はい、なくさないように、道具鞄に付けておいてくださいね。そして、ちゃんと、お食事は魔道具に夢中でも食べてくださいね。」
「ああ、約束するよ。」
お兄様がすごく嬉しそうで私も嬉しいわ。あら、お兄様が珍しく真面目な顔をしたわ。どうしたのかしら?
「マリー、アーサー、お願いがあるんだけど、僕のお願いを聞いてくれる?」
「なんでしょう?お兄様?」
「僕は世界中の人を幸せにするのが夢なんだ。その第一歩の結界の魔道具は無事にできたでしょ。次は何をしようかと思っていたんだけど、ルーサ殿や、ルナ、そのご両親と話をしているうちに僕のやるべきことがはっきりしてきたんだ。」
「それはなんですか?」
「霧の谷を住みよい国にすることだよ。」
「魔族の国を?」
「そう、魔族の国をだよ。」
「でも、魔族の方は多くの魔力があって、沢山の魔法が使えるのにどうして、そのような厳しい生活をしているのですか?」

「そう思うでしょ。僕もそう思っていたんだよ。聞いてびっくりしたよ。魔族の国には三千人ほどしかいないんだって、その中でも上手に魔法を使えるのはたったの十人ほどなんだって。」
「なんですって?魔族なのに?」
「びっくりでしょ。でもこのことは秘匿とされているから、フラワー王国でも知っているのは国王陛下だけ、王太子殿下もご存じないそうだよ。もっと言うと、魔族同士でも内緒にしているんだって、アーサーみたいに怖がられちゃうからね…。」
「そんな大事な話をここでしていいのですか?」
「いいみたいだね。さっき念話でルーサ殿のお父上に聞いたら好きにしていいと言われたからね。」
「お兄様が念話?」
「マリーと同じブレスレットをもらったんだよ。」
「なるほど、いつの間にそんなに仲良くなられたのですか?」
「最初はルナが一人では会いに行きづらいというからついて行って、そのうち魔道具の話になっていつの間にかルーサ殿のお父上…魔族の王様と仲良くなっちゃたの。」
「そうですか。お兄様はやはり、この世界を救うヒーローだったのですね。」

「マリーの話は難しくて僕には時々理解できないけど、ヒーローはマリーの中ではカッコいいのかな?」
「もちろんです。私だけではありません。すべての方が憧れるのです。」
「ふーん、なんかすごいんだね。それでお願いなんだけど、学園を卒業したら、僕の代わりにこのブラックリリー公爵家を二人で守ってくれないかな?僕は魔族の人たちの魔力暴走を止めれる魔道具を作ってあげたいんだ。多くの魔族の人は赤ちゃんの時に自分の魔力暴走で母親と一緒に死んでしまうんだって、それもどうにかしてあげたい。あちらには僕の何倍もすごい魔力暴走のお友達が沢山いるみたいなんだ。」
「お兄様はもう決めているんでしょう?」
「まだ、父上には言ってないよ。でも困っている人が沢山いるんだ、僕のできることで苦しまなくてすむならできることはなんでもしたいんだよ。」
「そうですね。私もお兄様の気持ちは分かります。でも、お兄様のお家はここです。ルーサ様のお父様にでも転移陣を頼んで、毎日帰って来てくれるなら私はいいですよ。アーサーはどう?」

「僕もマリーと同じことを思っていたよ。ここがアーサーの家だ。僕たちは三人いつまでも一緒だろ?それだけは忘れないって約束してくれるなら僕はアーサーが人間の為だろうが魔族の為だろうがみんなの幸せのために頑張ることに文句はないよ。ずっと、協力するよ。マリーもでしょ。」
「もちろんよ。協力するわ。でもお父様はお兄様がブラックリリー公爵家を継がないって聞いたらショックを受けるかもしれないわ。」
「それは大丈夫だと思うよ。だって前から僕は魔力暴走しちゃうから継がないよって言っていたし、魔道具作りの旅に出るって言った時も好きにしなさいって言われているから。うちにはしっかりした次男がいるから安心しなさいってね。」
あらら、アーサーがまた泣いちゃったわ。
「分かったよ、マルク。僕の方が少しだけ年上のはずだけど、次男の僕がこの家のことは守るよ。」
「ありがとうアーサー。」

この後お兄様が言う通りお父様は全く反対せずに、魔族の皆さんのために頑張りなさい。私は父としてマルクのことを誇りに思うと言っていたわ。そして、アーサーにもマルクとマリーに挟まれて苦労を掛けるがよろしく頼むぞって言っていたわ。お兄様はともかく、私は別に皆様に苦労なんてかけていないわよね?

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