異世界の都合と俺の都合  ―ケモノミミ少女と歩む異世界冒険譚―

昼行灯

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プロローグ

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 目覚めた海斗の目に飛び込んできたのは、耳と尻尾の生えた少女だった。
 尖った耳が頭の上でピコピコ動き、柔らかそうな毛並みの尻尾が左右に揺れている。

 ……なんだ、これは?

 少女は海斗のすぐ脇にしゃがみ込むと、警戒する様子もなく顔を覗き込んできた。

「ねぇ、大丈夫?」

 どうにも意識がはっきりしない。まるで頭にぼんやりと靄がかかっているみたいな感覚だった。

「……ここは……どこだ?」

 少女は海斗の様子に首をかしげると、どこか歯切れ悪く返答した。

「え~と、ここは第七九四番危険区域にある森林エリア、かな……」

 七九四なくよか、覚えやすくていいな。
 などと益体もない感想が頭の中に浮かんだ。
 どうやら、彼の頭がきちんと仕事をしてくれるのは、まだしばらく先のようだ。

「ちょっと、もしも~し? あたしの声、ちゃんと聞こえてる?」
「……ああ、聞こええているぞ……それで……お前は、誰だ……?」
「あたしは『イズナ』――ってそれより! ここは危険区域なのよ! こんなところで寝ていたら、その辺のクリーチャーに喰い殺されちゃうわよ!」

 喰い殺される。とても穏やかではないワードが出てきた。
 海斗の表情筋がピクリと反応し、霞がかった意識が次第に鮮明になってくる。
 思考が徐々に戻ってきたことを確認し、ゆっくりと体を起こす。

 ――パキッ!
 
「いつっ!」

 途端、身体から嫌な音がした。
 硬い地面に寝転がっていたせいか、首や体の関節が軋み、痛みを訴えた。
 海斗は首を手で押さえながら、ぐるりと周囲を見渡す。

「――なんだ……ここは?」

 どこまでも広がる鬱蒼と茂る草木。
 空を見上げれば、見たこともない鳥の群れが、悠然と蒼穹の中を飛び回っている。
 上げていた視線を下に戻し、森の奥に目を凝らす。
 しかし、薄暗い闇が広がるばかりで、その先を見通すことができない。

 さらに海斗は、白のTシャツに紺色の半ズボンというラフな格好――いつもの就寝スタイル――であり、靴なども履いていない。
 そのうえ、寝起き直後のためか髪はボサボサである。

 なにがどうなっているのかまったく理解できない。
 さっきまで、海斗は自分の部屋で寝ていたはずである。
 それがなぜ、いきなりこんなジャングルのような場所にいるのか。

 ベタではあるが、試しに頬を思いっきりつねってみる。
 ……とても痛かった。
 紛れもなく、彼の痛覚が正常である証拠。

「……夢ではない、か」

 思考が状況に追いつかず、海斗は身体から気持ちの悪い汗が噴き出してくるのを感じた。
 しかし、焦ったところで事態は解決しない。
 海斗は一つ深呼吸をすると、

「おい、そこのお前――」

 現状を把握するべく、身体ごと視線をイズナに向ける。
 すると、まるで初対面とは思えない、横暴な態度と口調で質問を繰り出したのだ。

「答えろ。ここは……一体、どこだ?」

 海斗の問いに対し、少女は落ち着いた様子で答えた。

「……え~と、ここは王都と帝国のちょうど国境沿い――第七四九番危険区域……その南西部にある、森林エリア
 ――通称『デッドフォレスト』よ」

 眼前の少女は『お前』呼ばわりされたことをまったく気にした様子はない。
 よほど心が広いのか、はたまた天然なのか。

「おうと? ていこく?」

 訊いてみたはいいが、少女の言葉には聞きなれない単語がいくつも含まれていた。
 おかげで、海斗の疑問は解消されるどころか、むしろ増えてしまう。

 しかし、分からない事にいくら頭を使ったところで時間の無駄だ。
 海斗はすぐに思考を切り替えた。

 今度は、目の前でしゃがみ込み、今なおこちらに視線を向けてくるケモノ耳の少女を観察してみることにした。

 ……たしか、『イズナ』といったか。

 年のころは海斗よりも二つか三つ下といったところだろうか。
 不思議そうにこちらを見つめ返してくる赤い瞳。
 腰まで伸びた長い空色の髪の毛は手入されていないのかバサバサで、ところどころ跳ねてしまっている。
 そして体格はほっそりしているくせに、胸だけ、いささか自己主張がすぎるような気がしないでもない。

 服はオレンジ色のジャケットを羽織り、ローライズの短パンスタイル。太腿を惜しげもなくさらす格好で、足元にはかなり厳ついデザインのブーツを履いている。

 全体的に見て、とても活発な印象を海斗に与えた。
 そして、なにより目を引くのは、彼女の頭と後ろで依然フサフサ動いている――
 ケモノ耳に尻尾の存在である。

「作り物、か……?」

 それにしてはよくできている。
 あまりにもリアルな動き。まるで少女の頭から自然に生えているのでは、と錯覚しそうなほどの精巧さ。
 海斗は、ゆっくりとした動作でイズナの頭に手を伸ばすと――

「え、なに?」

 おもむろに『それ』を握った。

「~~~~~~っ!」

 と、イズナの身体がビクッと反応した。

 そのことに気づかないまま、海斗はイズナのケモノ耳をゆっくりと撫でてみたり、引っ張ってみたりと、執拗にいじくり回した。

「あっ、あぁ、あぁぁぁ……」

 とてもよい触り心地だった。柔らかい毛並みが肌をくすぐり、手のひらに感じる人肌の温もりは、とても作り物とは思えない。
 これを作った者は、さぞケモノ耳への愛と造詣が深い人物に違いない。

「な、な、な……――」

 などと、感心していると、イズナが体を震わせ、顔を真っ赤にしている。
 目尻には涙をためて、海斗の顔を睨みつけていた。
 イズナは、海斗の手を払いのけると、勢いよく立ち上がり、

「なにすんのよ! このヘンタイ――!!」

 強烈な右ストレートを、海斗の顔面にお見舞いした。

「ぐっはあああああああああ!」

 そのまま吹っ飛ばされ、勢いに乗った海斗の体は地面を数回にわたりバウンドする。
 その勢いのまま、ガリガリと土を削り、ようやく停止した。

 その手のプロも裸足で逃げ出すような一発KOに、海斗は、再び意識を刈り取られたのだった。
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