異世界の都合と俺の都合  ―ケモノミミ少女と歩む異世界冒険譚―

昼行灯

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♯1

耳と尻尾

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 イズナは、頭を海斗に突きつけるように「どうぞ!」と声を上げて差し出した。

「では、遠慮なく確認させてもら――」

 ふと、海斗はイズナの耳に触れるか触れないか、ギリギリの所で手を止める。

「……殴るなよ?」
「な、殴らないわよ! ……たぶん」
「おい!」
「い、いいからっ、早く確認しなさいよ!」
「…………」

 いまいち信用していいものかどうか。
 しばらく迷ったが、おそるおそる、海斗は彼女の耳に触れた。

「ひゃっ?! ふぅ、う、うぅ~ん」

 途端、イズナの口から甘い声が漏れた。

「おいっ、変な声を出すな!」
「し、仕方ない、じゃない……じゅ、獣人の耳は、あ、っんん! ――び、敏感、なのよ!」

 イズナは、頬を真っ赤に染めながら、身体を震わせ、刺激に耐える。
 彼女自身が言い出したこととはいえ、その姿は、なんとも律儀というか、健気というか。
 
「はぁ……はぁ……んんっ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 しばらくすると、イズナの呼吸がどんどん乱れてきた。

「はぁ、はぁ、――ま、まだ~?」
「待て、もう少し」
「――そ、そろそろ、はぁ、はぁ、んん……わ、わかった、でしょ? ……ひゃふん!」
「あと、ちょっと……」

 海斗は執拗に、イズナの耳をいじくり回した。全体を撫で回したり、引っ張ったり、握ったり、たまに内側をくすぐってみたりもした。
 そのたびに、イズナの身体はビクンと反応し、頬の紅潮は顔全体から首筋にまで広がっていった。
 髪の毛を掻き分け、耳の付け根を重点的に確認するが、一向に継ぎ目が見つからない。

「なぜだ、なぜこれだけ探してなにもないんだ……」
「あ、当たり、前、でしょ! あぁ、いやっ…………はぁ、はぁ、んん~…………だ、って、これ、ホンモノ、だもの」
「……ありえない」
 
 しかし、いくら確認しようと、『それ』がたしかに、イズナの頭から生えたものだということ以外、わからなかった。

「……ありえないだろ。普通に考えて」

 そう、ありえないはずだ。

 なぜなら――海斗のいた世界に、このような耳の生えた人間は存在しない。否、存在はしていないが、認知はされている。
 それをより正確に表現すならば、以下のとおりとなる。

  アニメ、ゲーム、漫画やおとぎ話といった二次創作物。
  人々が空想上の生物とする、狼男や猫娘、コボルトやリザードマンといった多種多様な種族の総称。
  
 その名も――《獣人》

「……………」

 海斗は依然として、身体を震わせるイズナに気づくことなく、一心不乱に耳をいじり続けた。
 だが、さすがに限界がきたのか、ついにイズナのからギブアップ宣言が上がった。

「……もう、いい、加減に……してよぉ……」

 その声に濡れた響きを感じ取った海斗は「ハッ!」と我に帰った。

 そうして、しばらく弄くりましていた彼女の耳から、ようやく手を離した。
 イズナは腰が抜けたのか、ペタンとその場でへたり込んでしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁぁぁ……」

 再び荒い呼吸を繰り返すイズナ。露出した肌は完全に朱に染まりきっており、なんとも色っぽい姿である。
 彼女は息を整えると、とろんとした視線をこちらに向けてきた。

「……もう……いい?」
「あ、ああ……問題ない。ちゃんと、確認は、できた……」
「そう。よかった」
「……ああ」

 なぜだかとても気恥ずかしくなり、視線をあさっての方向に向ける。海斗は、とても彼女を直視することができなかった。
 先ほどまでの怒りも、完全になりを潜めてしまったようだ。

 そこで海斗は、先だって繰り広げられた自分たちの会話を思い出す。
 途端、片手で顔を覆うと天を仰ぎ、イズナには聴こえないよう、小さく嘆いた。

「――完全に子供の口喧嘩ではないか……」

 稚拙極まりない両者の言い分。売り言葉に買い言葉。普段の海斗ならば鼻で笑って一蹴するような幼稚な言動の数々。
 それを、なんのためらいもなく自分の口から出てきた事実に、海斗は頭を抱えたい衝動に駆かられた。
 いくらなんでも、もう少し冷静に対処できなかったのか、と自分の不甲斐なさを悔やむ。

 海斗は、穴があったら入りたいという心境を、これでもかと味わった。

「――ねぇ」

 と、絶賛後悔中である海斗の足元からイズナが声をかけてきた。
  そちらへ視線を向けると、依然として地面に座り込んだイズナが目に入った。

「つぎ、尻尾の、確認、しないと……」

 まるで、酒にでも酔ってしまったかのようなイズナの様子に気を取られ、海斗は咄嗟に言葉の意味を理解できなかった。

 しかし、彼女の言葉を何回か頭の中で反芻するうちに、そういえば「尻尾の付け根も確認する」ことになっているのを思い出した。

 我ながら、頭の回転が鈍っているな……。

 だがふと、海斗は脳裏になにか引っかかるものを感じた。

「……うんしょ、っと」

 ゆっくりとした動作で立ち上がるイズナ。
 
「なぁ、そういえば尻尾の確認はどうやって――」
  
 するつもりなんだ、と続けようした海斗は硬直し、言葉を失った。

「うん? あぁ、ちょっと待っててね……」
 
 そう口にするイズナはこちらに背を向け、その手は少女の腰に巻かれたベルトの金具を外しにかかっていた。

「なっ! おい、一体なにをして――」
 
 言いかけ、気づく。
 ――尻尾の確認をする、その前にイズナは、こうも言っていた。

 『今度は尻尾の付け根だって見せてあげるから!!』と――。

 それは、
  
 ――ベルトの金具が外され。

 すなわち、

 ――ローライズの短パンから、ベルトが引き抜かれていく。

 彼女は、

 ――ベルトが完全に引き抜かれ、その手から地面に落ちた。

 尻尾を、

 ――前のボタンが外され、ファスナーを降ろす。
  
 その付け根を、
  
 ――後ろ(尻尾を外に出すための穴部分)のボタンも外す。
  
 見せるために、
  
 ――そのままパンツのふちに手をかけて。
  
 パンツを、
 
「ま、まて! それ以上は――」


 ――――下着ごとずり降ろした。


「――――――――……」

 開いた口が塞がらない、とはこういう時に使うのだろう。
 イズナは下半身丸出しで、形のよいお尻を、海斗に向かって突き出してきたのだ。
 
「どう? ちゃんと、ホンモノ、でしょ……?」

 イズナはいまだに正気が戻らないのか、酩酊状態のまま、さらにお尻を近づけくる。

 「いや、そんなことよりも――」

 と、海斗が口を挿もうとすると、イズナは恨みがましそうにこちらを睨みつけ、頬を膨らませた。

「む~、そんなことってなによ……こっちは真剣なのよ」

 真剣に下半身を露出しているというのか。やはりこいつはホンモノのバカだ……。

「ええい、しかたない! すぐに終わらせれば、なにも問題あるまい!」
 
 どこか言い訳めいた弁明を自ら口にする海斗。
 実際のところは問題ありまくりなのだが無視した。
 海斗はイズナの肌に触れないよう、慎重に彼女のお尻に向かって顔を近づけていくと、尻尾の付け根をじっくり観察した。
 その際に、イズナの女性的な部分を見てしまないように、海斗は細心の注意を払った。

 この光景だけを見れば、周りからはさぞ変態的な行為に映ったことだろう。
 ――まぁ実際、こんな深い森の中に、そうそう人などいようはずもないのだが。
 
「――やはり、これもか……」

 尻尾のサイズが大きいため、付け根全体を見ることはできないが、断定していい。
 間違いなく、彼女自身から、この尻尾は生えている。

「……一体どういうことだ?」

 耳といい、尻尾といい、ただのできのいいアクセサリーだと思っていたはずなのに。
 いつの間にかイズナのお尻まで拝みながら。
 その挙句、彼女の主張が正しく、海斗の主張が間違っていた、という結果に終わっている始末。

「なんなのだ、これは――――っ!」

 海斗は髪を掻き毟りながら叫ぶ。
 イズナは顔だけを海斗に向けて、

「うるさいわね……でも、これでわかったでしょ」
「くっ」
「それで、あたしに言うことは……?」

 お尻を丸出しにしたまま勝ち誇る彼女の笑みに、海斗の表情が悔しさで歪む。

「くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………す、すぅ、すまな、かった……」
「うんうん。謝るときは、きちんと謝らないとねぇ」
 
 納得はいかなったが、いたしかない。約束は約束だ。
 いくら海斗でも、自分で口にしたことを簡単に反故にするほど非常識ではないつもりだ。

 それよりも、

「――貴様っ、いつまで人に自分の臀部を見せている!」
「……『でんぶ』?」
「ケツのことだ! このアホウが!」
「あぁ『でんぶ』って、お尻のことなのね…………………………おし、お尻?」

 イズナの視線が、ゆっくりと、自分の下半身に向けられ――固まった。

「…………………………………………………………………………」
「理解したか?」
「い、い、い――」

 イズナの瞳が潤み、三度その顔と肌が真っ赤に染まる。
 さらに言えば、その頭からはモクモクと湯気が上がっており――、

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 少女の絶叫が、森に木霊することなった……。
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