異世界の都合と俺の都合  ―ケモノミミ少女と歩む異世界冒険譚―

昼行灯

文字の大きさ
32 / 53
♯3

二度目の土下座とアッパー

しおりを挟む
「――申し訳、ありませんでした~~~~!」

 本日二度目。
 時間にして一時間も経っていないというのに、またしても、海斗は女性の『土下座』を拝んでいた。

 海斗から、自分がイズナを泣かせた原因だと聞かされたアルフ。 
 彼女は、カウンターを跳び越さんばかりの勢いでこちら側に回り込んできた。

 かと思ったら、両者の前に駆け寄り、頭を床に打ち付けんばかりに膝を折ったのだ。

「ま、まさか、考え事をしながら奥に下がったせいで、お客様を傷つけていたとは露知らず、おまけに先ほどからの無礼の数々、心より謝罪します! なにとぞ、なにとぞ、平にご容赦を!」

 どこか芝居がかっているように見えなくもないが、どうやら本人は心から反省しているようだ。
 肌や服が汚れるのも構わず、床に膝をついて、額をぐりぐりと擦り付けながら謝意を示すアルフ。

「ア、アルフさん、気にしないでください。勘違いしたのはお互い様なんですからっ。ね?」

 そんな彼女に、イズナは慌てて土下座をやめさせようとした。

「いいえ、それとこれとは話が違います。お客様に対して不快な思いを――ましてや泣かせるなんて、宿の主って以前に、ヒトとして失格だよ!」
「「…………」」

 だが、本人が許すと言っているのに、アルフはまったく頭を上げる気配がない。
 そんな彼女に、困り果てた様子のイズナは、海斗に助けを求めるような視線を向けてきた。

「ふぅ……まったく」

 やれやれとため息をつきながら、海斗はアルフの前に立った。

「店主、もうそれくらいで十分なのではないか?」
「そういうわけには――」

「いや、もういい。これ以上、お前の『自己満足』に付き合ってやる気はない」

「「……………………はい?」」

 アルフの言葉を遮ったかと思うと、とんでもないこと口走る海斗。
 それに、女性二人の声が重なった。

「ちょ、ちょっと、カイト!」

 慌ててイズナが止めに入るが、海斗は構わず続けた。

「そもそも、このような小さな宿に、そこまでの接客など始めから期待していない」
「っ!」

 途端、アルフの身体がピクリと反応した。

「つまり、お前がなにかやらかしたところで、それは想定の範囲内だ。別に一つや二つの失敗があったところで、特に気にしたりなどしない。むしろ、それでいちいち大げさに頭を下げられても、こっちはいい迷惑だ」
「カイト! もうそれくらいで――」
「お前は黙ってろ」
「え~……」

 ピシャリと言い放ち、海斗はさらにアルフへ追い討ちを掛けていく。

「理解したか? この宿に、俺たちは最初からさほど期待などしていない。雨風がしのげるのであれば、たとえこのような家畜小屋以下のボロ宿でも、金を払って使ってやろうというのだ。ゆえに、無駄な時間をとらせるな。何度も繰り返すが、迷惑だ」
「――(ぶちっ)」

 言いたい放題の海斗。
 そんな彼の目の前で、床に顔を伏せながら、アルフの身体がプルプルと震えていた。

「………………………………かい」
「なに?」
「言いたいことは、それだけ、かい?」

 顔を伏せたままで、ドスの効いた声を出すアルフ。
 ゆらりと幽鬼のように立ち上がったと思ったら、拳をボキボキと鳴らしてニッコリとした微笑が海斗を捕らえた。

「うちが、家畜小屋以下、だって?」
「………………(だらだら)」

 ここにきて、海斗はようやくやりすぎたと悟った。
 しかし、時既に遅し。背後から般若のようなオーラを噴出しながら、アルフは海斗に身を寄せてきた。

「私のことは、いくらでも悪く言ってもらって構わないけどねぇ…………」
「あ、あのっ、カイトは――」

 イズナが間に割って入り、声を上げたが。

「この宿を侮辱されるのは、さすがに勘弁ならならないねぇ……だから――」

 イズナをゆっくりと押し退け、聞く耳持たずといった様子で拳を引き絞るアルフ。

「覚悟はいいんだろうねぇ。お・きゃ・く・さ・まぁぁぁぁぁぁ!!」

 直後、海斗の脳天を突き抜けるようなアッパーカットが炸裂した。

「ぐえ……」

 あごを打ち抜かれたため、潰されたヒキガエルみたいな声しか出てこない。
 ロビーの天井を見上げながら、綺麗な弧を描き、宙を舞って、一回転しながら床に叩きつけられる海斗。

「ふん」

 一つ鼻を鳴らし、腕を組んで仁王立ちするアルフ。
 海斗は、ビクビクと震えながら床にキスをしてしまった。
 おまけに脳がグラグラと揺れて意識が朦朧としてくる始末だ。

「お、おまっ、客に暴力とか、ありえ、な、い……」

 先日から引き続き、またしても海斗はパタリと気絶してしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...