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♯3
二度目の土下座とアッパー
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「――申し訳、ありませんでした~~~~!」
本日二度目。
時間にして一時間も経っていないというのに、またしても、海斗は女性の『土下座』を拝んでいた。
海斗から、自分がイズナを泣かせた原因だと聞かされたアルフ。
彼女は、カウンターを跳び越さんばかりの勢いでこちら側に回り込んできた。
かと思ったら、両者の前に駆け寄り、頭を床に打ち付けんばかりに膝を折ったのだ。
「ま、まさか、考え事をしながら奥に下がったせいで、お客様を傷つけていたとは露知らず、おまけに先ほどからの無礼の数々、心より謝罪します! なにとぞ、なにとぞ、平にご容赦を!」
どこか芝居がかっているように見えなくもないが、どうやら本人は心から反省しているようだ。
肌や服が汚れるのも構わず、床に膝をついて、額をぐりぐりと擦り付けながら謝意を示すアルフ。
「ア、アルフさん、気にしないでください。勘違いしたのはお互い様なんですからっ。ね?」
そんな彼女に、イズナは慌てて土下座をやめさせようとした。
「いいえ、それとこれとは話が違います。お客様に対して不快な思いを――ましてや泣かせるなんて、宿の主って以前に、ヒトとして失格だよ!」
「「…………」」
だが、本人が許すと言っているのに、アルフはまったく頭を上げる気配がない。
そんな彼女に、困り果てた様子のイズナは、海斗に助けを求めるような視線を向けてきた。
「ふぅ……まったく」
やれやれとため息をつきながら、海斗はアルフの前に立った。
「店主、もうそれくらいで十分なのではないか?」
「そういうわけには――」
「いや、もういい。これ以上、お前の『自己満足』に付き合ってやる気はない」
「「……………………はい?」」
アルフの言葉を遮ったかと思うと、とんでもないこと口走る海斗。
それに、女性二人の声が重なった。
「ちょ、ちょっと、カイト!」
慌ててイズナが止めに入るが、海斗は構わず続けた。
「そもそも、このような小さな宿に、そこまでの接客など始めから期待していない」
「っ!」
途端、アルフの身体がピクリと反応した。
「つまり、お前がなにかやらかしたところで、それは想定の範囲内だ。別に一つや二つの失敗があったところで、特に気にしたりなどしない。むしろ、それでいちいち大げさに頭を下げられても、こっちはいい迷惑だ」
「カイト! もうそれくらいで――」
「お前は黙ってろ」
「え~……」
ピシャリと言い放ち、海斗はさらにアルフへ追い討ちを掛けていく。
「理解したか? この宿に、俺たちは最初からさほど期待などしていない。雨風がしのげるのであれば、たとえこのような家畜小屋以下のボロ宿でも、金を払って使ってやろうというのだ。ゆえに、無駄な時間をとらせるな。何度も繰り返すが、迷惑だ」
「――(ぶちっ)」
言いたい放題の海斗。
そんな彼の目の前で、床に顔を伏せながら、アルフの身体がプルプルと震えていた。
「………………………………かい」
「なに?」
「言いたいことは、それだけ、かい?」
顔を伏せたままで、ドスの効いた声を出すアルフ。
ゆらりと幽鬼のように立ち上がったと思ったら、拳をボキボキと鳴らしてニッコリとした微笑が海斗を捕らえた。
「うちが、家畜小屋以下、だって?」
「………………(だらだら)」
ここにきて、海斗はようやくやりすぎたと悟った。
しかし、時既に遅し。背後から般若のようなオーラを噴出しながら、アルフは海斗に身を寄せてきた。
「私のことは、いくらでも悪く言ってもらって構わないけどねぇ…………」
「あ、あのっ、カイトは――」
イズナが間に割って入り、声を上げたが。
「この宿を侮辱されるのは、さすがに勘弁ならならないねぇ……だから――」
イズナをゆっくりと押し退け、聞く耳持たずといった様子で拳を引き絞るアルフ。
「覚悟はいいんだろうねぇ。お・きゃ・く・さ・まぁぁぁぁぁぁ!!」
直後、海斗の脳天を突き抜けるようなアッパーカットが炸裂した。
「ぐえ……」
あごを打ち抜かれたため、潰されたヒキガエルみたいな声しか出てこない。
ロビーの天井を見上げながら、綺麗な弧を描き、宙を舞って、一回転しながら床に叩きつけられる海斗。
「ふん」
一つ鼻を鳴らし、腕を組んで仁王立ちするアルフ。
海斗は、ビクビクと震えながら床にキスをしてしまった。
おまけに脳がグラグラと揺れて意識が朦朧としてくる始末だ。
「お、おまっ、客に暴力とか、ありえ、な、い……」
先日から引き続き、またしても海斗はパタリと気絶してしまったのだった。
本日二度目。
時間にして一時間も経っていないというのに、またしても、海斗は女性の『土下座』を拝んでいた。
海斗から、自分がイズナを泣かせた原因だと聞かされたアルフ。
彼女は、カウンターを跳び越さんばかりの勢いでこちら側に回り込んできた。
かと思ったら、両者の前に駆け寄り、頭を床に打ち付けんばかりに膝を折ったのだ。
「ま、まさか、考え事をしながら奥に下がったせいで、お客様を傷つけていたとは露知らず、おまけに先ほどからの無礼の数々、心より謝罪します! なにとぞ、なにとぞ、平にご容赦を!」
どこか芝居がかっているように見えなくもないが、どうやら本人は心から反省しているようだ。
肌や服が汚れるのも構わず、床に膝をついて、額をぐりぐりと擦り付けながら謝意を示すアルフ。
「ア、アルフさん、気にしないでください。勘違いしたのはお互い様なんですからっ。ね?」
そんな彼女に、イズナは慌てて土下座をやめさせようとした。
「いいえ、それとこれとは話が違います。お客様に対して不快な思いを――ましてや泣かせるなんて、宿の主って以前に、ヒトとして失格だよ!」
「「…………」」
だが、本人が許すと言っているのに、アルフはまったく頭を上げる気配がない。
そんな彼女に、困り果てた様子のイズナは、海斗に助けを求めるような視線を向けてきた。
「ふぅ……まったく」
やれやれとため息をつきながら、海斗はアルフの前に立った。
「店主、もうそれくらいで十分なのではないか?」
「そういうわけには――」
「いや、もういい。これ以上、お前の『自己満足』に付き合ってやる気はない」
「「……………………はい?」」
アルフの言葉を遮ったかと思うと、とんでもないこと口走る海斗。
それに、女性二人の声が重なった。
「ちょ、ちょっと、カイト!」
慌ててイズナが止めに入るが、海斗は構わず続けた。
「そもそも、このような小さな宿に、そこまでの接客など始めから期待していない」
「っ!」
途端、アルフの身体がピクリと反応した。
「つまり、お前がなにかやらかしたところで、それは想定の範囲内だ。別に一つや二つの失敗があったところで、特に気にしたりなどしない。むしろ、それでいちいち大げさに頭を下げられても、こっちはいい迷惑だ」
「カイト! もうそれくらいで――」
「お前は黙ってろ」
「え~……」
ピシャリと言い放ち、海斗はさらにアルフへ追い討ちを掛けていく。
「理解したか? この宿に、俺たちは最初からさほど期待などしていない。雨風がしのげるのであれば、たとえこのような家畜小屋以下のボロ宿でも、金を払って使ってやろうというのだ。ゆえに、無駄な時間をとらせるな。何度も繰り返すが、迷惑だ」
「――(ぶちっ)」
言いたい放題の海斗。
そんな彼の目の前で、床に顔を伏せながら、アルフの身体がプルプルと震えていた。
「………………………………かい」
「なに?」
「言いたいことは、それだけ、かい?」
顔を伏せたままで、ドスの効いた声を出すアルフ。
ゆらりと幽鬼のように立ち上がったと思ったら、拳をボキボキと鳴らしてニッコリとした微笑が海斗を捕らえた。
「うちが、家畜小屋以下、だって?」
「………………(だらだら)」
ここにきて、海斗はようやくやりすぎたと悟った。
しかし、時既に遅し。背後から般若のようなオーラを噴出しながら、アルフは海斗に身を寄せてきた。
「私のことは、いくらでも悪く言ってもらって構わないけどねぇ…………」
「あ、あのっ、カイトは――」
イズナが間に割って入り、声を上げたが。
「この宿を侮辱されるのは、さすがに勘弁ならならないねぇ……だから――」
イズナをゆっくりと押し退け、聞く耳持たずといった様子で拳を引き絞るアルフ。
「覚悟はいいんだろうねぇ。お・きゃ・く・さ・まぁぁぁぁぁぁ!!」
直後、海斗の脳天を突き抜けるようなアッパーカットが炸裂した。
「ぐえ……」
あごを打ち抜かれたため、潰されたヒキガエルみたいな声しか出てこない。
ロビーの天井を見上げながら、綺麗な弧を描き、宙を舞って、一回転しながら床に叩きつけられる海斗。
「ふん」
一つ鼻を鳴らし、腕を組んで仁王立ちするアルフ。
海斗は、ビクビクと震えながら床にキスをしてしまった。
おまけに脳がグラグラと揺れて意識が朦朧としてくる始末だ。
「お、おまっ、客に暴力とか、ありえ、な、い……」
先日から引き続き、またしても海斗はパタリと気絶してしまったのだった。
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