異世界の都合と俺の都合  ―ケモノミミ少女と歩む異世界冒険譚―

昼行灯

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♯4

異常事態

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 アルフの宿で厄介になってから、もうすぐ一週間が経つ。
 その間に、海斗は異世界の知識をイズナから学び、徐々にこの世界の環境に適応しつつあった。

 そんな折、イズナはノルンのギルドから、緊急の依頼があると呼び出しを受けて出かけていた。

 街の外壁付近に、複数体のクリーチャーが同時に目撃されたという情報がギルドに入ったらしい。
 最初は噂程度の情報だったが、事実、壁の外円を警備していた帝国軍人が、その目でクリーチャーの存在を確認したという。

 しかもその数――実に、約二百体。

 これは、かなりの非常事態であった。

 そのせいで、世界線の運行は完全にストップ。
 いかにクリーチャーを寄せ付けないスレイプニルであっても、彼らのすぐ近くを通ることはできない。
 どのような不足の事態を招くか分からないからだ。
 もし万が一にも乗客に被害が出れば、世間からの非難は必須。
 世界線を運営する本部『ザ・ワールド』は、ノルンからスレイプニルを出すことも、逆に外から入ることも今は禁止している。

 それは現状、ノルンが陸の孤島となっている事を意味していた。

 物流の要である世界線が動かなければ、物資も入ってはこない。そしてクリーチャーの脅威から逃げることも不可能。

 文字通りの八方塞りであった。
 
 クリーチャーの目撃情報が出たのは今から五日前。存在がはっきりと確認されたのは、三日前である。
 ちょうど、海斗達がノルンへ入るのと入れ替わるようにして、彼らは現れたことになる。

 今にして思えば、かなりタイミングが良かった。
 もし仮に世界線が停止した直後にデッドフォレストから出ていたらと思うと、ぞっとする。下手をすればクリーチャーの大群に正面から遭遇していた可能性があった。
 それを思えば、僥倖としかいえない。

 しかし、悠長に事を構えてもいられなかった。

 街の政府は、この事態をかなり重く見ている。
 今はまだ良いが、この状況がさらに一週間、一ヶ月と続けば、物資はあっという間に消費されていく。
 そうなれば、住民の生活もままならなくなるだろう。

 最悪、一部の者が暴徒化する恐れすらある。

 よって、政府は軍の出動、ならびにギルドへ、緊急の依頼を発注。
 
 内容はもちろん――

『クリーチャーの撃退、および、掃討』である。

 一刻も早く彼らを駆逐せねば、街の機能が麻痺してしまう。

 事態は、かなり緊迫していた。



「はぁ……どこもかしこも、食料がみ~んな売り切れ。日用品も品薄状態のうえ、どこの店も大行列……これは、本当にまいっちまうねぇ」

 店のカウンターで愚痴を漏らしていたのは、宿の主であるアルフだ。それを海斗は、カウンター近くのテーブル席に腰掛けて聞いていた。

 彼女はここ数日、食糧や飲料水、日用品を購入するために、朝から晩まで街中を奔走していた。
 しかし、今アルフが言ったように、どこの店に行っても、商品はほとんど品切れか品薄状態である。
 それでもアルフは、ほうぼうを走り回り、何とか食料や日用品を獲得したようだ。

「……買えたはいいけど、この量じゃ一週間もつかも怪しいねぇ……」
「……なら、俺たちはここから出て行かないといけないわけか?」
「新規の客を受け入れるのは無理でも、あんたらからはもう金を受け取っちまってるんだから、今更追い出すようなことはしないさね」
「そうか、それを聞いて安心した。金を払った分は、しっかりともてなしてもらうからな」
「払ったのはあんたじゃないじゃないけどね……」
「それはそれ、これはこれだ」
「はぁ~~、もうそれでいいよ」

 アルフは海斗に突っ込むこともなく、神妙な面持ちでため息をつく。
 それは現状の深刻さを物語っているかのようだった。

「それにしても、イズナちゃん遅いねぇ……もうじき日が暮れちまうよ?」
「……ああ、もしかしたらギルドも立て込んでいるのかもな」

 このような緊急事態なのだ。
 ギルドのほうも、ヒトが溢れかえっている可能性は非常に高いだろう。

「あんたは一緒に行かなくてもよかったのかい?」
「……最初は行こうかと思ったが、あいつにここで待っているように言われたからな。それに俺が行ったところで、何をどうしたらいいのかさっぱり分からん。下手をすればあいつの邪魔にしかならんと思い直した」
「ま、そうかもしれないけどねぇ……でも、あの子けっこう可愛いから、変な奴にちょっかいかけられてないか心配だよ……」
「さぁな、そのあたりはわからん……というかこの非常事態にナンパなんてしてる輩がいたら、むしろ見てみたいもんだな」
「……それもそうだね」

 と、海斗達がどうでもいい会話をしている時だった。

「た~、ただいま~~……」

 ひどくぐったりした様子のイズナが、扉を開けて中に入ってきた。

「お疲れさん。その様子じゃあ、ギルドの方も今はかなり大変みたいだねぇ」
「ええ、そりゃあもう、入り口からヒトがごった返してて、中に入るだけで一日分の体力を持っていかれた気分でしたよぉ……」

 イズナはゆらゆらと身体を揺らしながら、海斗がいる席まで歩いてくると、ドカッとイスに腰かけた。
 そこにアルフが水をもって、イズナに差し出した。
「ありがとうございます」と言って、イズナは水を一気にあおった。

「ギルドにヒトが溢れるのは、まぁ仕方ないねぇ。今はギルドがどう動くか気になっている連中もいるだろうし、自分勝手な奴らは、ギルドの人員を使って物資をかき集めてる、なんて噂も聞いているからねぇ」
「それはまた、ギルドもいい迷惑だな」

 己の生活の糧くらい、己でどうにかしろと、海斗は言いたくなった。
 だが、それだけ追い詰められている状況であることも、今のアルフの言葉からは読み取れてしまった。

 結局、外にいる外敵をどうにかしないかぎり、この状態は改善されないのだ。

「でも、やっぱりみんな、切羽詰ってる、って感じだった。外の状況を知りたいっていうヒトがほとんどだったし、この街は大丈夫なのか? ってギルドの職員に詰め寄ってるヒトもいたよ……」
「……だがしかし、世界線がとまったとはいえ、まだ数日だ。なぜみんなして、そこまで不安に駆られている?」

 政府や軍が動くにしても、もう少し時間がかかるだろう。それこそ手続きやらの面倒な手順を踏むとなれば、二、三日でどうにかできるとは思えない。

 対応を急いで欲しいと思う、住民の気持ちは海斗も分からないではない。
 しかし、それにしても街の住民が感じている不安感や焦燥はそうとうなものだ。
 時間的な猶予がそこまであるとはいえないが、それでも海斗は焦りすぎている気がした。

「それはそうよ。いいカイト、まず街の付近、しかも外壁部分にまでクリーチャーが近付いてくるのはかなり『異常』なの。それに数百なんていう聞いたこともない数……はっきり言って、『前代未聞』よ」
「そうだねぇ……過去にも数回だけ、この街の外壁付近にもクリーチャーが出たっ、て話しはあったけど、今回くらいはっきりと大群が押し寄せてきたなんてのは、さすがに私も聞いたことがないねぇ……」
「というより、ほとんどのヒトが、こんな事態に直面すること自体、初めてだと思うわよ?」
「……そこまでか」

 イズナやアルフの言葉、さらにはその表情から、ことの深刻さが伝わってくる。
 女性陣二人の重たい空気に感化されたように、海斗の表情もまた、険しいものへと変わっていく。

「外からの救援や、援護は頼めないのか? イズナ、その辺のこと、ギルドでなにか聞けなかったのか?」
「……ダメ、そのあたりの情報はギルドにもなかったわ」
「……ひとつも、か?」
「うん、そう。私も気になって、そのあたりのことは訊いてみたのよ……でも、全然そういった情報は入ってきてないそうよ」
「…………」

 ……おかしくないか?

 政府がクリーチャーの討伐を依頼したのなら、そのあたりの情報もあってしかるべきだ。
そもそも、このような事態はイズナで言うとことの『前代未聞』。
 しかも街の機能がいつストップするかもわからない非常事態だ。
 それでいて、外部に救援を求めていない、などということはないはずだ。
 それともこの街の政府は、自分たちの力だけで、この事態を解決できる自信があるということなのか……もしくは、救援を断られた?

 あるいは、


 ――『救援を要請できない』理由でもあるのか……


「……どういうことだ?」

 海斗は小さく呟く。

 見れば、アルフは顎に手を当て、表情が険しくなっている。
 イズナも、どこか浮かない感じだ。

 やはり二人とも、街への救援が来るか来ないのか、その情報が一切ないことに大なり小なり疑問がある様子だ。

 しかし、

「考えるだけ、今は無駄か……」
「カイト? どうかした?」
「いや、なんでもない」

 思考を巡らせるにしても、情報がなさすぎる。ここでいたずらに頭を悩ませても時間の無駄。
 せめて情報を集めるなり動いていたほうがいくらか建設的であろう。

 それより、救援の件よりまずは、

「救援のことも大事だが、イズナ、お前がギルドに呼ばれた理由は? やはり、前線に出て討伐に参加しろ、っていうことか?」
「そう、その通りよ……それで、その……」

 イズナは海斗から少し目を逸らすと、どこか緊張した様子で口を開いた。

「カイト……少しだけ、話があるの」
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