異世界の都合と俺の都合  ―ケモノミミ少女と歩む異世界冒険譚―

昼行灯

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♯4

竜機兵 ― ドラグーン ―

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「どうしたんですか、アルフさん?」
「思い出したんだよっ、この街にゃ最強の防衛手段があったってことに!」
「「防衛手段?」」

 イズナと海斗の声が重なり、二人で首をかしげた。

 見ればアルフは、カウンターから身を乗り出していた。
 海斗は、少し落ち着け、と思いながらも、アルフが口にした防衛手段に興味を引かれた。
 
「そう! その名も――『竜機兵ドラグーン』!」
「……どらぐーん?」
「っ!? 『竜機兵』!? ああ、そうでした! たしかに、結界ではなく防壁で街を守護しているなら、一機はいるはずでしたね!」

 アルフから出てきた『竜機兵』の名前を聞いた途端、イズナは歓喜の声を上げた。

「一機どころか、この街に存在している『竜機兵』は二機だよ!」
「二、二機!? それはさすがに過剰戦力じゃないでしょうか……」
「でも、これで希望の目は見えたよ。あいつらがいれば、クリーチャーの群をどうにかできるはずさ!」
「そうですね!」

 女性陣が二人して話を進めるなか、海斗は一人ぽつんと取り残されてしまった。
 イズナたちの様子から、優れた戦力がこのノルンに存在することはなんとなく想像がつく。だが、詳しい内容が全く分からない。

 ……とりあえず、

「イズナ、『どらぐーん』とはなんだ?」

 海斗はイズナに、『竜機兵』について訊ねることにした。

「あ、ごめん、カイトは知らないんだったわね」
「ああ」
「なんだい? あんた『竜機兵』も知らないのかい? ……前から思ってたんだけど、あんた少しものを知らなさすぎじゃないかいねぇ?」

 と、アルフが訝しげな視線を海斗に向けてきた。
 だが、異世界から来た海斗が、この世界の知識を持っていないのは仕方ない。

 とはいえ、そのことをアルフに説明することもできない。

 結局、いつもように嘘で誤魔化すしかなかった。

「まぁ、俺の住んでいた場所じゃ、ろくに外の知識なんて入ってこなかったからな。だから、どうしても知らないことが多いんだ。その辺は目を瞑ってくれ」
「……別に責めようってわけじゃないんだけどねぇ……ん~……まぁいいかい! 細かいことは!」

 アルフが大雑把な性格で助かった。ここで深く追求されると、ボロが出るかもしれない。海斗自身はそれを問題視をしていないが、イズナのほうはなにか思うところがあるようで、しきりに隠したがっている。

 ゆえに、この件は己の判断だけで外に情報を漏らすのは控えるべき、と海斗は判断していた。

「そ、それより、『竜機兵』についてよね!」
「とと、そうだったね。話の腰を折って悪かったね」
「いや、問題ない」

 慌ててイズナが会話を修正した。
 以前から、イズナは海斗が渡界人であることを周囲に隠すため、言動に気をつけている。ときたま、ぽろっと単語が口を突いて出てこようとしたのは、一度や二度ではないので、イズナに隠し事は難しいのでは、と海斗は常々思ってはいるが。
 それでも、努力はしているようだ。

 しかし、今はイズナの抜けっぷりよりも先の『竜機兵』に関することである。

「まず少し謝っておくね。実は、『竜機兵』に関しては、存在は知られてるけど、詳細は機密扱いになってるの。だから、どういう理屈で動いているのかは知らないのよ……」
「それでもかまわない。分かる範囲で教えてくれ」

 イズナたちの話から察すにかなり強力な兵器のようだ。それなら、軍事機密扱いであっても不思議ではない。存在の秘匿はなく、技術的な部分のみを隠しているようだ。

「わかったわ。あたしが知っている限りの話になるけど、
『竜機兵』はヒトの形を模した兵器で、対空戦闘から地上戦を得意としているの。
 唯一苦手なのは水中なんだけど、それを補って余りある戦力を持っているわ。
 具体的に言うと、『竜機兵』一機で、軍隊の一個大隊に相当する戦力だそうよ。
 あたしも一回だけ、戦闘を遠巻きに見たことがあったけど、あれは戦闘行為っていうよりは、一方的な蹂躙って感じだったわね……」
「なるほど……」

 単体で一個大隊クラスの戦力。日本なら旧日本軍約千人分と対等に渡り合える計算になる。ここは異世界であるため、正確な数字ではないかもしれないが。

「末恐ろしい兵器だな……」

 それが、この街には二機も存在するというのだから、なるほど、イズナが過剰戦力と言った理由が理解できた。

 しかし今回に限って言えば、

「だが、こちらが有利である事実は、確かだな」
「そうだね。こっちは最低限の戦力さえ投入すれば、被害はぐっと下がるはずさ」

 横からのアルフの言葉に、海斗は頷いた。

 確かに、それだけでたらめな戦力が味方であるなら、これ以上ないほどに頼もしい。人的被害は、格段に少なくなるのは間違いない。
 しかもこちらは空を飛んでいるのだ。
 戦場におけるアドバンテージは圧倒的と言っていい。

「ヒトがクリーチャーをまともに相手にするのは、相当な力量が必要よ。並みの軍人なら、数人がかりで一体を相手にするのがやっとでしょうね」
「ちなみに聞くが、イズナならどうなんだ?」
「……一対一なら、なんとか相手はできるけど……さすがに今回は乱戦になるから、きっと、そこまで期待できる戦力にはなれないわね……」

 ……それでも戦えてしまえるあたり、やはりイズナは『人間』とは違うんだな、と海斗は胸中で思った。

「イズナ、もしかして森で俺を助けた時も、『俺がいなければ』あの場を簡単に切り抜けられたんじゃないか?」
「それは――!」

 海斗は、今のイズナの言葉から、彼女自身はそれなりに戦闘に自身があることを読み取った。
 であれば、デッドフォレストでヴァイスリザードに遭遇した時も、海斗さえいなければ、あのようにイズナが窮地に立たされることはなかったのだろう。

「なら、あの時やはり、俺を放っておいたほうが、よっぽど――」

 ダン! 海斗の言葉を受け、イズナが拳をテーブルに叩き付けた。見れば、少しだけヒビが入っている。

「二度と、そんなこと言わないで……次に同じことを言ったら、本気で怒るから……」
「…悪かった」
「うん、反省してね……」
「ああ……助けてもらっておいて、今の発言は『お前に失礼』だったな……」
「……違う……違うよ、カイト……」

 イズナは眉を下げ、悔しそうに下唇を噛んだ。

「あなたは、もっと自分を………………」

 紡がれる言葉は小さく、海斗の耳には届いていない。
 イズナがなぜそんな表情をするのか分からない海斗は、首を傾げてしまう始末だ。
 
 そんな一部始終を見ていたアルフからは、特大のため息が漏れ出ていた。

「はぁ~~~~っ、この男は、なんでここまで鈍感なのかねぇ……」

 アルフは腰に手を当て、呆れた様子で海斗にジト目を向けてくる。

 ……なんだ? 俺はなにか問題のあること言ったのか?

「あたし、お風呂入ってくる……」
「あ、おい、イズナ……」

 ふらりと立ち上がると、イズナは静かにロビーから立ち去った。

 あたりは微妙な空気に包まれたまま、海斗はアルフから放出されるプレッシャーに居心地の悪さを感じていた。
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