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廃村の亡霊編
慟哭と憎悪の囚われビト 2
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「(シャーロットさん!)」
アリアと名乗った少女の足元で気を失っているのは、紛れもなく、森精霊のシャーロットだった。
「(くそっ、俺がずっと感じていた気配は、彼女のものだったのか!)」
よく知る気配が感じられるな、とは思っていたが、まさかここにシャーロットがいるなどとは考えてもいなかった。
だがそれよりも重要なのは、彼女がどうしてここにいるのかということ。
そして、シャーロットがアリアという、黒い魔力を放出している存在に捕らえられていることだ。
「ふふ、物珍しかったから、すぐに落とさないでここまで連れて来てはみたけれど、やっぱり耳が長いのって気持ち悪いわね……」
「っ……」
アリアは気絶しているシャーロットの耳をそっと撫でながら、そんなことを口にした。
ぐったりと横たわるシャーロットは、一向に目を覚ます気配がない。
「くっ……その子から離れなさい!」
天馬の表情が更に険しくなり、今すぐにでも飛び出して行きたい衝動に駆られる。
だが、アリアは飄々とした態度を崩さず、笑みを浮かべるばかりであった。
「ふふ、ようやく喋った。あなたってすごく綺麗だけど、ず~っと怖い顔してるんですもの。もっと笑顔でいた方が、魅力が増すと思うわよ?」
「そんなことはどうでもいい! それよりも、その子に何かしたら……!」
天馬の様子の変化に、背後のアリーチェは訝しむように顔を出した。
「えっ?!」
と、シャーロットの姿を見つけて、思わず声が出てしまう。
「へぇ……そちらのお嬢さんも、可愛い声を出すのね……『欲しくなっちゃいそう』だわ……」
「アリーチェさん、私の後ろに隠れてて……! それと、絶対に彼女からの声に応えてはいけませんよ!」
先程から、天馬は彼女と言葉を交わすたびに、体の内側から何かが引っ張られるような、異様でおぞましい感覚に襲われていた。
「あら、残念。それにしても、あなたの魂、なかなかに強情ね。私とここまで面と向かって話しているのに、全然剥がせる気配がしないわ。と言っても、あなたの魂に触れたら、私が『取り込まれちゃいそう』だから、いらないけど」
「どういう意味ですか……?」
天馬は眉をひそめ、声が硬くなる。
『取り込まれる』? 天馬には、彼女が何を言っているのか分からず、首を傾げてしまう。
「あなたの魂って、とても眩しいの。私達にとっては、まるで近くに太陽でもあるみたい……触れられたら、その瞬間にでも消滅しちゃいそうなほど……眩しくて、大きすぎる」
「…………」
そのことを聞いて、合点がいった。
つまり先刻、アリーチェを襲った腕だけの亡霊が、天馬に触れられそうになった瞬間に逃げ出したのは、このためだったのだ。
「だから、あなたの魂はいらない、といより、私じゃ落とせない。本当に残念だわぁ……」
言葉とは裏腹に、そこまで残念がっているようには見えない。
軽い口調と仕草で、こちらの神経を逆撫でしてくるようなアリアの言動は、天馬を苛立たせた。
「でも、あなたの後ろにいる彼女のことは、すっごく欲しい……どうかしら? この森精霊の女の子とそっちの女の子、交換しない?」
「っ?!」
アリアの言葉に、アリーチェが震えたのが分かった。
天馬は自分の手を背後に回し、震える彼女の体をぐっと自分の背中に押し付ける。
アリーチェも、天馬の衣服をしっかりと握ってきた。
「お断りします。その子も、そしてこちらの子も、私にとってはかけがえのない大切なひと達です……決して、あなたにあげることなど絶対にできない……!」
「ふ~ん……そう。私は、そっちの子を渡してくれるなら、あなたも、そしてこの森聖霊の子も、無事に帰してあげるつもりだったんだけど……そう、私の好意を無碍にするの……残念だわ。本当に、残念……」
アリアはくるりと向きを変えると、再び安楽椅子に腰掛けた。
すると、
バタン!
「「っ?!」」
突如、階下で扉が閉まる音がした。
「それじゃ、その考えが変わるまで、私とここで過ごしましょうか。ふふふ……」
こちらにチラリと視線を向けてきたアリアは、口端を歪めて、そんなことを言ってきた。
家全体に、彼女の魔力が張り巡らされたのが分かる。
今下手に外へと出ようとすれば、彼女の魔力に絡め取られて、天馬はともかく、アリーチェとシャーロットは無事では済まないだろう。
こうなると、妙な行動はできない。
「アリアさん、でしたか。あなたに、お伺いしたいことがあります……」
「あら、何かしら? 嬉しいわね。あなたから話し掛けてくれるなんて」
「……」
「ふふ、そんな警戒しないでちょうだい。私は、今は純粋に話がしたいだけ。質問があるのでしょう? いいわよ。何でも聞いてくれて構わないわ」
「では、率直にお聞きします? 村の中に溢れている霊魂を、この土地に『縛っている』のは、あなたですか?」
「……ふふ、どうして、そう思うのかしら?」
アリアは視線だけをこちらに向けて、瞳を細めた。
「最初は、この村に溢れている彼等は、この世への未練や、生者に対する憎悪だけで、現世に留まっているのかと思っていました」
「ふむふむ。それで……?」
「ですが、それは一部……ほとんどの者たちは、何かをこちらに求めているかような意思を感じました。そして、その一部というのは、きっと、この『村の住人』ではない、どこか別の場所から流れてきた怨霊です」
「ふふ、村の者でないと確証しているようだけど、その根拠は?」
「明らかに村の規模と感じられる霊魂の数が一致しません。確実に『多すぎます』」
この村の規模は、精々が100から150程度の人数が住める規模の小さな集落だ。
だというのに、ここに留まっている亡者の数は、明らかにそれ以上の数がいる。
「へぇ、そんなことまで分かるなんて……あなた、何者なのかしら?」
「さぁ? わたし自身も、よく分かりません。さて、それでは質問に答えてください。この村に留まっている哀れな霊たちを閉じ込めているのは、あなたですか?」
「ふ、ふふ……」
「?」
突如、顔を手で覆って、隙間から嗤いを漏らし始めるアリア。
怪訝に思った天馬は、彼女の様子に顔を顰めてしまう。
「哀れ? あの『クズ共』が、哀れ? ふ、ふふふ……あははははっ、あはははははははははははは――っっ!!!」
「「っ?!」」
突然の耳障りな嗤い声に、天馬とアリーチェは目を見開いた。
「哀れ?! 私を『売った』あの下衆共の、どこが哀れだというの?!」
豹変したアリアに、天馬とアリーチェは絶句してしまう。
「ええ、そうよ! あの者達を村にずっと縛りつけて、昇天させないようにしているのはこの私よ!! 醜い見た目を与えて、ずっとずっと苦しむ姿を見続けてきたの!! だって当然じゃないの!! あいつらは私を――魔物への生贄として捧げたのよ!!!」
「なっ……?!」
アリアの激情に彩られた告白に、天馬は言葉を失った。
背中のアリーチェも、身を竦ませて怯えているのが分かる。
「私達はね、魔物が村を襲いに来るって知っていたの。予兆があったからね。で、最初は冒険者や国の兵士に助けを求めたけど、お金のないこの村に来てくれる者はいなかった。かといって逃げることもできない。この村以外を知らない皆に、新しい生計を立てる目処なんて付かなかった……それで、この村の連中は、何をしたと思う?」
「…………」
アリアの魔力が、大きすぎる憎しみのせいで、蛇のようにとぐろを巻いて噴出している。
「あいつらはね……私を……魔物の下へ生贄として送ったのよ!!! 自分達が助かりたいがために! 私を魔物への献上品にして! それで村を存続させようとしたのよ!!!!」
アリアは、自分の身に起きた全ての出来事を吐き出してきた。
「私は村の集会場に呼び出されて、そこで、よりにもよって自分の両親に気絶させられたのよ……気が付けば、村の外に私は一人、服も何も身に付けていない状態で放置されていたわ……」
「っ?!」
それは、つまり……
天馬の脳裏に、ある人物の記憶が甦る。
「どこで買ってきたのか……高価な鉄製の鎖で、私を地面に繋ぎ止めていたわ。よっぽど逃げられたくなかったのね……」
天馬は、その時の光景と、かつてマルティナが魔物から受けた仕打ちとの記憶が被り、唇を強く噛んだ。
「私は唖然としたまま、冷たい鎖の感触を味わったわ。ねぇ。想像できる? 実の両親に頭を殴打されて、果ては裸にされて外に放り出される気分……」
「……」
想像などできるはずがない。
少なくとも、幸福な家庭で育った天馬には……慰めすら口にすることもできない。
「それから程なくして、奴らは現れたわ。ゴブリン、オーク、あとは狼の群れだったかしらね……数は一杯。とにかく一杯……一目見ただけで、ざっと数十はいたわ。そいつらが、一斉に私に群がった……」
「っ」
アリアは、安楽椅子に腰掛けたまま、どこか遠くを見つめるような表情を浮かべていた。
「私ね、処女だったの。男のひととの経験なんてなくて、それでも、魔物達はおかまいなしに私の体を貪ったわ。秘所から血が流れたのを見た連中は、大いに興奮していたわね」
まるで他人事のように語るアリアの様子に、天馬は心が鷲掴みにされるような苦しさを覚える。
「(それじゃ、まるで……)」
同じ経験をしたマルティナのことを思い出し、天馬は自分の腕を、強く握った。
「痛くて、苦しくて、痛くて、苦しくて……快楽とは程遠い暴虐の中に晒されて、私は、泣いて叫んで助けを呼んだわ。でも、来てくれるはずなんてない。それはそうよね。だって、『そういう意図』で、私を魔物の元に送ったんだから……」
アリアの瞳は、まるで感情と呼べるものが感じられなくなっていた。
先程までの激情も鳴りを潜めて、ぐらぐらと煮えたぎる憎悪のみが彼女の周りを包んでいる。
「陵辱がどれだけ続いたのかは分からない。日が昇って、日が沈んで、また昇って……永遠にも思われた苦痛は、私の心が壊れることで終わるのかと思った……けど、終わりはもっと直接的に訪れたわ……」
アリアは、こちらに首を動かして、その黒く濁った眼差しを向けてくる。
「私の反応がなくなって、つまらなくなったのからね? 魔物達は、私を生きたまま、本当の意味で食い散らかし始めたわ」
「っ?!!」
「最初は腕を、次に脚を……胸を、腸《はらわた》を、そして最後に、頭を……その時にね、自分が食べられていくのを、空で眺めていたの。だから、きっといつの間にか死んでいたのね……」
「ぐぅ……」
天馬は吐き気を催した。
咄嗟に口を押さえて、胃袋からあがってくるものを必死に堪える。
しかし、背後のアリーチェは、彼女の話に耐えられなくなり、
「おええええ……っ!」
天馬から離れて、その場で嘔吐してしまっていた。
「骨も綺麗に食べ尽くした魔物達は、村に向かったわ。当然よね。村娘一人をいくら強姦して、あげく食べ切ったからって、彼等が満足するはずもない。だから、結局、村の連中が私一人を生贄にしたことに、なんの意味もなかったのよ」
「……そんな」
アリアの表情から、徐々に笑みが消えていく。
こちらに向けられる彼女の表情は、まるで能面のようである。
「あなたは『見た』のでしょう? この家の周りが、本当はどうなっているのかを……それなら、この村の者たちが、どんな末路を辿ったのかは、知ってるわよねぇ?」
「……っ」
アリアの言うとおりだ。
確かに、天馬は白い花が咲く庭の、『本当の姿』を見た。
そこにあったのは……『夥しいまでの、死体の山』だったのだ。
「でもね、肉体を失った私は、村の連中が殺されるだけでは赦せないほどに、深い深い憎しみ囚われていた」
そこで、再び立ち上がったアリアは、気絶するシャーロットの体を、首の後ろを掴んで軽々と持ち上げた。
「だから、彼等の死後、その魂をこの村に縛り付けてやったのよ。とても醜い、己の内心を現すような姿にしてあげたわ。皆は悲壮な叫びを上げて私に赦しを願ったけど、冗談じゃないわ……」
シャーロットの首に、アリアの指が食い込む。
「助けて欲しいと願った私の声を無視しておいて、自分達は助けてくれ? 赦してくれって? ふざけているとしか思えないじゃない? ねぇ?」
「あ、あが……」
「っ……」
気絶しているシャーロットの表情が苦悶に歪められる。
「それからしばらく経つと、今度は生きているものにも憎悪が向くようになってきた……それと、生への羨望かしらね……時たま、この村に迷い込んでくる旅人とかがいるんだけど……彼らは私の力で魂を肉体から剥がして、村の連中と同じように亡者にしてやったわ。だって、ひとがのうのうと生きているだけで、私の憎悪は膨れ上がっちゃうんだもの……ねぇ、だからさ~」
メキメキメキ。
「あ、あ……」
「そっちの女の子、ワタシに、チョウダイ……ふふ、フフフフ……」
いよいよ、シャーロットの首から嫌な音が聞こえてきて、天馬の顔に焦りが浮かんでくる。
そして次第に、アリアの顔が、徐々に変貌していく。
瞳は空洞のようになり、その奥に赤い光が見え、弧を描く口元は、大きく裂けていった。
「ネェ、チョウダイ? チョウダイ? ソノ子、ワタシにチョウダイよ。でないと、このエフルの首を、ヘシ折るワヨ」
「くっ!」
「ネェ~、ハヤク~」
それはできないと、天馬は唇を固く結んだ。
しかし、このままではシャーロットが殺されしまう。
どうしたらいいのか分からず、脳をフル稼働させて打開策を思案する天馬の後ろから、不意に、アリーチェが前に出た。
「お姉さま、ごめんなさい。私……約束、破るわ……」
「なっ、アリーチェさん! 何をしているんですか?!」
天馬の制止も聞かず、アリーチェはアリアに近付いて行ってしまう。
「針……1000本も飲まなくてはいけないわね」
アリーチェは、天馬の顔を見ずに、俯きながらそんなことを口にした。
その背中が、小刻みに震えていることに、天馬は気付く。
「(まさか?!)」
アリーチェは、シャーロットを救うために、自分を……
「ダメです! アリーチェさん!」
「ふふ、動カナイデ……」
ギギギギギ……
「あ、あぐ……」
天馬が動こうとした瞬間、シャーロットの首に、更に指を食い込ませるアリア。
その行為に、天馬は動けなくなってしまった。
「大丈夫よ、お姉さま……私……楽しかった。お姉さまに会えて、良かったって思ってる。出会ってまだ、そんなに経たないけど、お姉さまのこと……大好きでした!!」
「ダメ……ダメです、アリーチェさん……それだけは、絶対に……」
天馬の声が震える。
後悔が全力で全身を苛む。
やはりここに、彼女を連れて来るべきではなかった。
こんな村に、皆を案内するべきではなかった!
悔恨の念が後から後から湧いてくる。
「フフフ、イイワ。ソノ怯エナガラモ健気ニ立ツ姿……アア、壊シタクテ、ゾクゾクスルワ!!」
より歪んだ表情で嗤い声を上げるアリアは、もう既に、ひととしての姿からは掛け離れた、悪魔のようですらあった。
いや、比喩ではなく、今の彼女は、まさしく悪魔……ひとに害を成す、悪霊なのだ。
「フフフ、ソレジャ、コッチニイラッシャイ……」
アリアは、シャーロットを掴んでいる手とは別の手で、アリーチェを手招きする。
「…………」
それに従い、アリーチェはゆっくりとアリアに近付いていく。
「イイ子ネ。ト、ソコデ止マリナサイ……」
アリーチェは、アリアから1メートルほど手前で制止を掛けられ、立ち止まる。
「ネェ、魂ヲ無理ヤリ剥ガサレルノッテ、スッゴイ激痛ヲ伴ウッテ、知ッテル?」
「ひ……」
「フフフ、イイワァ。ソノ表情……デモ、流石ニマダマダ足リナイワネ……アア、ソウダ。コウシマショウ」
いいことを思いついたと言わんばかりに、アリアは笑顔で指を立てた。
「アナタノ四肢ヲ、コレカラ一本ズツ、捻ジ切ッテアゲル……ソウスレバ、キットイイ悲鳴ヲ上テクレルワヨネェ~?」
「ひぃ!」
「なっ?!」
彼女は、今、何と言った?
手足を、捻じ切る?
正気じゃない!
「ソノ間ニ、アナタノ名前ヲ聞イテアゲル。ソレヲ聞カナイトネ、魂ヲ支配デキナインダモノ。ダカラ、痛イカモシレナイケド、頑張ッテ答エテネ。ソウスレバ、苦痛ハスグニ終ワルカラ……」
「あ、ああ……」
「アナタガチャントコッチ側ニ来タラ、ソノ時ニコノエルフヲ返スワ。文句、ナイワヨネェ?」
「(あるに決まってるだろうが!!)」
しかし、身動きが取れない天馬には、現状を打開することができない。
自分の無力さに、天馬は奥歯が砕けそうなほどに噛み締めた。
しかし、
「ハァ、サスガニ実体ノアル肉ヲ掴ンデイルノハ疲レチャッタ……イッタン置イテオキマショウカ……」
「っ?!」
アリアは、シャーロットの体を無造作に足元へと転がした。
しかし、すぐに駆けつけられる距離ではない。
天馬がまだ妙な動きをすれば、シャーロットは無事では済まないだろう。
「(でも……これなら!)」
天馬はある策を瞬時に脳内で思い付く。
ただ、それには……かなりの無茶が必要だが。
「ソレジャ、マズハ右腕カラ貰ッチャオウカシラ」
アリアは左手を真っ直ぐに突き出すと、掌から、常人でも可視化できるほどの黒い魔力を、触手のようにアリーチェに伸ばした。
「ひ……ぁ、ぁぁ……」
カチカチと歯が鳴るアリーチェ。
徐々に迫ってくる黒い触手に、過去に味わったことのない恐怖と嫌悪が生まれる。
そして、いよいよその魔の手が、アリーチェに触れようとした時……
「――っ!!」
天馬は、動いた。
その体に、【戦女神】のスキルを発動させながら。
「ッ?!」
驚きの表情を浮かべるアリアだが、咄嗟に足元のシャーロットにも、黒い触手を伸ばして、牽制しようとする。
しかし、
「エ?」
何故か、触手は見えない『何か』に阻まれて、シャーロットにまで届かなかった。
「無駄ですよ!」
天馬は、アリアがシャーロットから手を放した瞬間、【聖域】を彼女の周囲に展開させたのだ。
「クゥ! コノ、小娘!」
しかし、今度はアリーチェに全力で触手を伸ばし、彼女に絡みつかせようとしてくる。
しかし、間一髪、アリーチェと触手の間に、天馬は割って入ることができた。
しかし、
「っ!」
触手は、アリーチェを庇った天馬の左腕に絡み付き……
ボキ! ギチギチ、ゴキッ……ボギュン!!
「あ、ああ、あ……お姉さま……」
アリーチェが目を見開き、声を震わせる。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!」
天馬は、声にならない叫びを上げた。
激痛が左肩から脳天まで達し、視界が真っ赤に染まる。
そして、ゴトン、という音を立てて、天馬の左腕が、床に転がった。
次の瞬間、天馬の左肩から、夥しい量の血が噴き出したのだった……
アリアと名乗った少女の足元で気を失っているのは、紛れもなく、森精霊のシャーロットだった。
「(くそっ、俺がずっと感じていた気配は、彼女のものだったのか!)」
よく知る気配が感じられるな、とは思っていたが、まさかここにシャーロットがいるなどとは考えてもいなかった。
だがそれよりも重要なのは、彼女がどうしてここにいるのかということ。
そして、シャーロットがアリアという、黒い魔力を放出している存在に捕らえられていることだ。
「ふふ、物珍しかったから、すぐに落とさないでここまで連れて来てはみたけれど、やっぱり耳が長いのって気持ち悪いわね……」
「っ……」
アリアは気絶しているシャーロットの耳をそっと撫でながら、そんなことを口にした。
ぐったりと横たわるシャーロットは、一向に目を覚ます気配がない。
「くっ……その子から離れなさい!」
天馬の表情が更に険しくなり、今すぐにでも飛び出して行きたい衝動に駆られる。
だが、アリアは飄々とした態度を崩さず、笑みを浮かべるばかりであった。
「ふふ、ようやく喋った。あなたってすごく綺麗だけど、ず~っと怖い顔してるんですもの。もっと笑顔でいた方が、魅力が増すと思うわよ?」
「そんなことはどうでもいい! それよりも、その子に何かしたら……!」
天馬の様子の変化に、背後のアリーチェは訝しむように顔を出した。
「えっ?!」
と、シャーロットの姿を見つけて、思わず声が出てしまう。
「へぇ……そちらのお嬢さんも、可愛い声を出すのね……『欲しくなっちゃいそう』だわ……」
「アリーチェさん、私の後ろに隠れてて……! それと、絶対に彼女からの声に応えてはいけませんよ!」
先程から、天馬は彼女と言葉を交わすたびに、体の内側から何かが引っ張られるような、異様でおぞましい感覚に襲われていた。
「あら、残念。それにしても、あなたの魂、なかなかに強情ね。私とここまで面と向かって話しているのに、全然剥がせる気配がしないわ。と言っても、あなたの魂に触れたら、私が『取り込まれちゃいそう』だから、いらないけど」
「どういう意味ですか……?」
天馬は眉をひそめ、声が硬くなる。
『取り込まれる』? 天馬には、彼女が何を言っているのか分からず、首を傾げてしまう。
「あなたの魂って、とても眩しいの。私達にとっては、まるで近くに太陽でもあるみたい……触れられたら、その瞬間にでも消滅しちゃいそうなほど……眩しくて、大きすぎる」
「…………」
そのことを聞いて、合点がいった。
つまり先刻、アリーチェを襲った腕だけの亡霊が、天馬に触れられそうになった瞬間に逃げ出したのは、このためだったのだ。
「だから、あなたの魂はいらない、といより、私じゃ落とせない。本当に残念だわぁ……」
言葉とは裏腹に、そこまで残念がっているようには見えない。
軽い口調と仕草で、こちらの神経を逆撫でしてくるようなアリアの言動は、天馬を苛立たせた。
「でも、あなたの後ろにいる彼女のことは、すっごく欲しい……どうかしら? この森精霊の女の子とそっちの女の子、交換しない?」
「っ?!」
アリアの言葉に、アリーチェが震えたのが分かった。
天馬は自分の手を背後に回し、震える彼女の体をぐっと自分の背中に押し付ける。
アリーチェも、天馬の衣服をしっかりと握ってきた。
「お断りします。その子も、そしてこちらの子も、私にとってはかけがえのない大切なひと達です……決して、あなたにあげることなど絶対にできない……!」
「ふ~ん……そう。私は、そっちの子を渡してくれるなら、あなたも、そしてこの森聖霊の子も、無事に帰してあげるつもりだったんだけど……そう、私の好意を無碍にするの……残念だわ。本当に、残念……」
アリアはくるりと向きを変えると、再び安楽椅子に腰掛けた。
すると、
バタン!
「「っ?!」」
突如、階下で扉が閉まる音がした。
「それじゃ、その考えが変わるまで、私とここで過ごしましょうか。ふふふ……」
こちらにチラリと視線を向けてきたアリアは、口端を歪めて、そんなことを言ってきた。
家全体に、彼女の魔力が張り巡らされたのが分かる。
今下手に外へと出ようとすれば、彼女の魔力に絡め取られて、天馬はともかく、アリーチェとシャーロットは無事では済まないだろう。
こうなると、妙な行動はできない。
「アリアさん、でしたか。あなたに、お伺いしたいことがあります……」
「あら、何かしら? 嬉しいわね。あなたから話し掛けてくれるなんて」
「……」
「ふふ、そんな警戒しないでちょうだい。私は、今は純粋に話がしたいだけ。質問があるのでしょう? いいわよ。何でも聞いてくれて構わないわ」
「では、率直にお聞きします? 村の中に溢れている霊魂を、この土地に『縛っている』のは、あなたですか?」
「……ふふ、どうして、そう思うのかしら?」
アリアは視線だけをこちらに向けて、瞳を細めた。
「最初は、この村に溢れている彼等は、この世への未練や、生者に対する憎悪だけで、現世に留まっているのかと思っていました」
「ふむふむ。それで……?」
「ですが、それは一部……ほとんどの者たちは、何かをこちらに求めているかような意思を感じました。そして、その一部というのは、きっと、この『村の住人』ではない、どこか別の場所から流れてきた怨霊です」
「ふふ、村の者でないと確証しているようだけど、その根拠は?」
「明らかに村の規模と感じられる霊魂の数が一致しません。確実に『多すぎます』」
この村の規模は、精々が100から150程度の人数が住める規模の小さな集落だ。
だというのに、ここに留まっている亡者の数は、明らかにそれ以上の数がいる。
「へぇ、そんなことまで分かるなんて……あなた、何者なのかしら?」
「さぁ? わたし自身も、よく分かりません。さて、それでは質問に答えてください。この村に留まっている哀れな霊たちを閉じ込めているのは、あなたですか?」
「ふ、ふふ……」
「?」
突如、顔を手で覆って、隙間から嗤いを漏らし始めるアリア。
怪訝に思った天馬は、彼女の様子に顔を顰めてしまう。
「哀れ? あの『クズ共』が、哀れ? ふ、ふふふ……あははははっ、あはははははははははははは――っっ!!!」
「「っ?!」」
突然の耳障りな嗤い声に、天馬とアリーチェは目を見開いた。
「哀れ?! 私を『売った』あの下衆共の、どこが哀れだというの?!」
豹変したアリアに、天馬とアリーチェは絶句してしまう。
「ええ、そうよ! あの者達を村にずっと縛りつけて、昇天させないようにしているのはこの私よ!! 醜い見た目を与えて、ずっとずっと苦しむ姿を見続けてきたの!! だって当然じゃないの!! あいつらは私を――魔物への生贄として捧げたのよ!!!」
「なっ……?!」
アリアの激情に彩られた告白に、天馬は言葉を失った。
背中のアリーチェも、身を竦ませて怯えているのが分かる。
「私達はね、魔物が村を襲いに来るって知っていたの。予兆があったからね。で、最初は冒険者や国の兵士に助けを求めたけど、お金のないこの村に来てくれる者はいなかった。かといって逃げることもできない。この村以外を知らない皆に、新しい生計を立てる目処なんて付かなかった……それで、この村の連中は、何をしたと思う?」
「…………」
アリアの魔力が、大きすぎる憎しみのせいで、蛇のようにとぐろを巻いて噴出している。
「あいつらはね……私を……魔物の下へ生贄として送ったのよ!!! 自分達が助かりたいがために! 私を魔物への献上品にして! それで村を存続させようとしたのよ!!!!」
アリアは、自分の身に起きた全ての出来事を吐き出してきた。
「私は村の集会場に呼び出されて、そこで、よりにもよって自分の両親に気絶させられたのよ……気が付けば、村の外に私は一人、服も何も身に付けていない状態で放置されていたわ……」
「っ?!」
それは、つまり……
天馬の脳裏に、ある人物の記憶が甦る。
「どこで買ってきたのか……高価な鉄製の鎖で、私を地面に繋ぎ止めていたわ。よっぽど逃げられたくなかったのね……」
天馬は、その時の光景と、かつてマルティナが魔物から受けた仕打ちとの記憶が被り、唇を強く噛んだ。
「私は唖然としたまま、冷たい鎖の感触を味わったわ。ねぇ。想像できる? 実の両親に頭を殴打されて、果ては裸にされて外に放り出される気分……」
「……」
想像などできるはずがない。
少なくとも、幸福な家庭で育った天馬には……慰めすら口にすることもできない。
「それから程なくして、奴らは現れたわ。ゴブリン、オーク、あとは狼の群れだったかしらね……数は一杯。とにかく一杯……一目見ただけで、ざっと数十はいたわ。そいつらが、一斉に私に群がった……」
「っ」
アリアは、安楽椅子に腰掛けたまま、どこか遠くを見つめるような表情を浮かべていた。
「私ね、処女だったの。男のひととの経験なんてなくて、それでも、魔物達はおかまいなしに私の体を貪ったわ。秘所から血が流れたのを見た連中は、大いに興奮していたわね」
まるで他人事のように語るアリアの様子に、天馬は心が鷲掴みにされるような苦しさを覚える。
「(それじゃ、まるで……)」
同じ経験をしたマルティナのことを思い出し、天馬は自分の腕を、強く握った。
「痛くて、苦しくて、痛くて、苦しくて……快楽とは程遠い暴虐の中に晒されて、私は、泣いて叫んで助けを呼んだわ。でも、来てくれるはずなんてない。それはそうよね。だって、『そういう意図』で、私を魔物の元に送ったんだから……」
アリアの瞳は、まるで感情と呼べるものが感じられなくなっていた。
先程までの激情も鳴りを潜めて、ぐらぐらと煮えたぎる憎悪のみが彼女の周りを包んでいる。
「陵辱がどれだけ続いたのかは分からない。日が昇って、日が沈んで、また昇って……永遠にも思われた苦痛は、私の心が壊れることで終わるのかと思った……けど、終わりはもっと直接的に訪れたわ……」
アリアは、こちらに首を動かして、その黒く濁った眼差しを向けてくる。
「私の反応がなくなって、つまらなくなったのからね? 魔物達は、私を生きたまま、本当の意味で食い散らかし始めたわ」
「っ?!!」
「最初は腕を、次に脚を……胸を、腸《はらわた》を、そして最後に、頭を……その時にね、自分が食べられていくのを、空で眺めていたの。だから、きっといつの間にか死んでいたのね……」
「ぐぅ……」
天馬は吐き気を催した。
咄嗟に口を押さえて、胃袋からあがってくるものを必死に堪える。
しかし、背後のアリーチェは、彼女の話に耐えられなくなり、
「おええええ……っ!」
天馬から離れて、その場で嘔吐してしまっていた。
「骨も綺麗に食べ尽くした魔物達は、村に向かったわ。当然よね。村娘一人をいくら強姦して、あげく食べ切ったからって、彼等が満足するはずもない。だから、結局、村の連中が私一人を生贄にしたことに、なんの意味もなかったのよ」
「……そんな」
アリアの表情から、徐々に笑みが消えていく。
こちらに向けられる彼女の表情は、まるで能面のようである。
「あなたは『見た』のでしょう? この家の周りが、本当はどうなっているのかを……それなら、この村の者たちが、どんな末路を辿ったのかは、知ってるわよねぇ?」
「……っ」
アリアの言うとおりだ。
確かに、天馬は白い花が咲く庭の、『本当の姿』を見た。
そこにあったのは……『夥しいまでの、死体の山』だったのだ。
「でもね、肉体を失った私は、村の連中が殺されるだけでは赦せないほどに、深い深い憎しみ囚われていた」
そこで、再び立ち上がったアリアは、気絶するシャーロットの体を、首の後ろを掴んで軽々と持ち上げた。
「だから、彼等の死後、その魂をこの村に縛り付けてやったのよ。とても醜い、己の内心を現すような姿にしてあげたわ。皆は悲壮な叫びを上げて私に赦しを願ったけど、冗談じゃないわ……」
シャーロットの首に、アリアの指が食い込む。
「助けて欲しいと願った私の声を無視しておいて、自分達は助けてくれ? 赦してくれって? ふざけているとしか思えないじゃない? ねぇ?」
「あ、あが……」
「っ……」
気絶しているシャーロットの表情が苦悶に歪められる。
「それからしばらく経つと、今度は生きているものにも憎悪が向くようになってきた……それと、生への羨望かしらね……時たま、この村に迷い込んでくる旅人とかがいるんだけど……彼らは私の力で魂を肉体から剥がして、村の連中と同じように亡者にしてやったわ。だって、ひとがのうのうと生きているだけで、私の憎悪は膨れ上がっちゃうんだもの……ねぇ、だからさ~」
メキメキメキ。
「あ、あ……」
「そっちの女の子、ワタシに、チョウダイ……ふふ、フフフフ……」
いよいよ、シャーロットの首から嫌な音が聞こえてきて、天馬の顔に焦りが浮かんでくる。
そして次第に、アリアの顔が、徐々に変貌していく。
瞳は空洞のようになり、その奥に赤い光が見え、弧を描く口元は、大きく裂けていった。
「ネェ、チョウダイ? チョウダイ? ソノ子、ワタシにチョウダイよ。でないと、このエフルの首を、ヘシ折るワヨ」
「くっ!」
「ネェ~、ハヤク~」
それはできないと、天馬は唇を固く結んだ。
しかし、このままではシャーロットが殺されしまう。
どうしたらいいのか分からず、脳をフル稼働させて打開策を思案する天馬の後ろから、不意に、アリーチェが前に出た。
「お姉さま、ごめんなさい。私……約束、破るわ……」
「なっ、アリーチェさん! 何をしているんですか?!」
天馬の制止も聞かず、アリーチェはアリアに近付いて行ってしまう。
「針……1000本も飲まなくてはいけないわね」
アリーチェは、天馬の顔を見ずに、俯きながらそんなことを口にした。
その背中が、小刻みに震えていることに、天馬は気付く。
「(まさか?!)」
アリーチェは、シャーロットを救うために、自分を……
「ダメです! アリーチェさん!」
「ふふ、動カナイデ……」
ギギギギギ……
「あ、あぐ……」
天馬が動こうとした瞬間、シャーロットの首に、更に指を食い込ませるアリア。
その行為に、天馬は動けなくなってしまった。
「大丈夫よ、お姉さま……私……楽しかった。お姉さまに会えて、良かったって思ってる。出会ってまだ、そんなに経たないけど、お姉さまのこと……大好きでした!!」
「ダメ……ダメです、アリーチェさん……それだけは、絶対に……」
天馬の声が震える。
後悔が全力で全身を苛む。
やはりここに、彼女を連れて来るべきではなかった。
こんな村に、皆を案内するべきではなかった!
悔恨の念が後から後から湧いてくる。
「フフフ、イイワ。ソノ怯エナガラモ健気ニ立ツ姿……アア、壊シタクテ、ゾクゾクスルワ!!」
より歪んだ表情で嗤い声を上げるアリアは、もう既に、ひととしての姿からは掛け離れた、悪魔のようですらあった。
いや、比喩ではなく、今の彼女は、まさしく悪魔……ひとに害を成す、悪霊なのだ。
「フフフ、ソレジャ、コッチニイラッシャイ……」
アリアは、シャーロットを掴んでいる手とは別の手で、アリーチェを手招きする。
「…………」
それに従い、アリーチェはゆっくりとアリアに近付いていく。
「イイ子ネ。ト、ソコデ止マリナサイ……」
アリーチェは、アリアから1メートルほど手前で制止を掛けられ、立ち止まる。
「ネェ、魂ヲ無理ヤリ剥ガサレルノッテ、スッゴイ激痛ヲ伴ウッテ、知ッテル?」
「ひ……」
「フフフ、イイワァ。ソノ表情……デモ、流石ニマダマダ足リナイワネ……アア、ソウダ。コウシマショウ」
いいことを思いついたと言わんばかりに、アリアは笑顔で指を立てた。
「アナタノ四肢ヲ、コレカラ一本ズツ、捻ジ切ッテアゲル……ソウスレバ、キットイイ悲鳴ヲ上テクレルワヨネェ~?」
「ひぃ!」
「なっ?!」
彼女は、今、何と言った?
手足を、捻じ切る?
正気じゃない!
「ソノ間ニ、アナタノ名前ヲ聞イテアゲル。ソレヲ聞カナイトネ、魂ヲ支配デキナインダモノ。ダカラ、痛イカモシレナイケド、頑張ッテ答エテネ。ソウスレバ、苦痛ハスグニ終ワルカラ……」
「あ、ああ……」
「アナタガチャントコッチ側ニ来タラ、ソノ時ニコノエルフヲ返スワ。文句、ナイワヨネェ?」
「(あるに決まってるだろうが!!)」
しかし、身動きが取れない天馬には、現状を打開することができない。
自分の無力さに、天馬は奥歯が砕けそうなほどに噛み締めた。
しかし、
「ハァ、サスガニ実体ノアル肉ヲ掴ンデイルノハ疲レチャッタ……イッタン置イテオキマショウカ……」
「っ?!」
アリアは、シャーロットの体を無造作に足元へと転がした。
しかし、すぐに駆けつけられる距離ではない。
天馬がまだ妙な動きをすれば、シャーロットは無事では済まないだろう。
「(でも……これなら!)」
天馬はある策を瞬時に脳内で思い付く。
ただ、それには……かなりの無茶が必要だが。
「ソレジャ、マズハ右腕カラ貰ッチャオウカシラ」
アリアは左手を真っ直ぐに突き出すと、掌から、常人でも可視化できるほどの黒い魔力を、触手のようにアリーチェに伸ばした。
「ひ……ぁ、ぁぁ……」
カチカチと歯が鳴るアリーチェ。
徐々に迫ってくる黒い触手に、過去に味わったことのない恐怖と嫌悪が生まれる。
そして、いよいよその魔の手が、アリーチェに触れようとした時……
「――っ!!」
天馬は、動いた。
その体に、【戦女神】のスキルを発動させながら。
「ッ?!」
驚きの表情を浮かべるアリアだが、咄嗟に足元のシャーロットにも、黒い触手を伸ばして、牽制しようとする。
しかし、
「エ?」
何故か、触手は見えない『何か』に阻まれて、シャーロットにまで届かなかった。
「無駄ですよ!」
天馬は、アリアがシャーロットから手を放した瞬間、【聖域】を彼女の周囲に展開させたのだ。
「クゥ! コノ、小娘!」
しかし、今度はアリーチェに全力で触手を伸ばし、彼女に絡みつかせようとしてくる。
しかし、間一髪、アリーチェと触手の間に、天馬は割って入ることができた。
しかし、
「っ!」
触手は、アリーチェを庇った天馬の左腕に絡み付き……
ボキ! ギチギチ、ゴキッ……ボギュン!!
「あ、ああ、あ……お姉さま……」
アリーチェが目を見開き、声を震わせる。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!」
天馬は、声にならない叫びを上げた。
激痛が左肩から脳天まで達し、視界が真っ赤に染まる。
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次の瞬間、天馬の左肩から、夥しい量の血が噴き出したのだった……
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