お父さんですけど、頭に『義理の』って付くんだから別に恋しても結婚しても許されるもんねっ!

昼行灯

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天賦 ―てんぷ―

「う、う~ん……」
「あ、気が付いた?」
「あれ、アイリ……ああそうか、俺は、寝てたのか……」
「寝て? う~んと、少し違う気もするけど……」

 寝ぼけまなこの俺は、後頭部に柔らかい感触を覚える。
 それが、アイリの膝枕だというのはすぐに気が付いた。
 心配そうに俺を見下ろしてくるアイリに、俺は笑みを返す。

「実はな、さっきまで変な夢を見てたんだ」
「……へぇ、それってどんな夢だったの?」

 俺の言葉に、アイリは一瞬の間を入れ、問い掛けてきた。
 その問いに俺は苦笑を浮かべ、頬を掻きながら答える。

「それがおかしくてな……俺がアイリに、『結婚してほしい』って告白されるんだよ。我ながら子煩悩すぎると、呆れてしまったな……」
「ふ~ん……」

 と、俺の言葉に、アイリが不機嫌そうに目を細め、次いで頬をぷくっと膨らませる。

「む~……夢って……私の一世一代の告白を、夢だなんて……ひどいわ……」
「は……?」
「それに……さっきは急に頭を打ち付け始めて、私をすっごく心配させたし、これはもう、お仕置きが必要ね」
「え? あの、アイリ?」

 不機嫌そうな表情から一転。
 何かいたずらを思いついたように笑うという、アイリにしては珍しい表情を浮かべたと思ったら……

「ふふ、唇がふやけちゃうまで、いっぱいキスしましょうか」
「っ!!?」

 アイリは、小さな唇をきゅっとすぼませると、「ん~」と顔をぐいっと近づけてきた。

「待て……待て待て待て!!」
「ダメ、待たない♪」

 ぶっちゅ~~~っ!

「むうううううう~~~~~っっ?!!」

 夢オチなどという、甘い逃げ道は存在しておらず……
 そしてどうやら、アイリは本気で俺との結婚を望んでいるのだと、いやが上にも思い知らされる結果となった。

 ――その後、本当に唇がふやけるまでがっつりとキスされてしまった俺。
 娘からの熱烈な愛情表現に、脳が茹ったように熱くなってしまい、平常心や理性がぐらぐらになってしまう。

 もう誕生日パーティーどころではなく。

 俺はその日、自宅の風呂は利用せず、近くの川で冷水をぶっかぶって、頭を冷やすことにしたのだった……


 ・・・・・・


 翌朝。

「ふぁ~……うっ……ふぁ、ふぁ……ふぁっくしょいっ!」

 昨夜、冷たい水を浴びた俺は、あくびをした後、朝から盛大なくしゃみをかました。

「うわ、大きなくしゃみ」
「ずずず~……、あ、ああ……おはよう、アイリ」

 後ろを振り返ると、そこには寝巻き姿で、三つ編みを解いたアイリがいた。

 鼻をすすり、アイリから声を掛けられたことで、俺は思わず微妙な顔をしてしまう。

 昨日の今日で、娘にどんな顔をして接すればいいのか分からない。
 本当なら、別の意味で気まずい雰囲気なると思っていただけに、俺も、どう対処するのが正しいのやら……

 だってまさか、親娘おやことしての血の繋がりがない、と告白した瞬間に、逆に娘から愛の告白をされるなんて、誰が想像できるよ。

 少なくとも、俺はできなかった。
 というか、それができる父親がいたら、むしろ会ってみたいくらいだ。

 と、俺はそんな感じで、娘について頭を悩ませていたのだが……

「おはよう、『お父さん』」
「??」

 お、あれ?
 お父さん? 

 昨日は終始、『あなた』と呼んでいたのに……いきなり呼び方が元に戻っている。
 何度も、お父さんと呼びなさい、と言っても聞いてくれなくて、半ば諦めかけていたのだが……

「ん? お父さん、どうしたの? あ、もしかして風邪引いた? 昨日、夜に水浴びしてたでしょ。今の時期はさすがにまだ川の水も冷たいんだがら、無茶したらダメよ……熱とか、出てない?」

 額に触れてきたアイリに、俺は思わずドキリとして彼女から離れてしまう。
 なんとも情けない姿を晒しているなと、自分自身に呆れてしまう。

「い、いや、それは大丈夫なんだが……その、昨日は何度言っても『お父さん』、って呼んでくれないのに、今朝は普通だったから、気になってな……」
「ああ、なるほど。実は、昨日寝る前にね、少し考えたてみたの」

 そう言ってアイリは、顎に人差し指を当てる仕草をした。
 あれは、アイリが真剣な話をするときの癖である。

「わたし、昨日はお父さんと血が繋がっていないって聞いて、すっごく舞い上がっちゃってたなぁ、って思う」
「う、うむ」

 今まで父親だと思っていた人物が、実は他人だと知ったら、普通はショックを受けると思うんだが……
 まぁ、昨日はその反応を見て、むしろ俺の方がショックを受けたんだがな。

 娘に超絶嫌われていたのかと考えてしまい、血涙を流しかけたくらいだ。

 だってそうだろ?

 血が繋がっていないことをあそこまで喜ばれたらさ。
 嫌いな相手と血の繋がりがなくてよかった、って思われたんだと考えるのが当然だろ?

 だがアイリは、俺を嫌っているどころか、むしろ異常なほどの好意を持っていた。
 それ自体は大変嬉しいことなのだが、まさか俺を『男として』好きだなんて……いくらなんでも予想の斜め上を行き過ぎだ。

「でも、お父さんだって、急に結婚だなんだって言われても、色々と心の整理が付かないと思ったし、とりあえず呼び方は元に戻しておこうかなって……だから、しばらくはこれまで通り、お父さん、って呼ぶことにするわ」
「そ、そうか……でもなアイリ。そもそも、俺とお前が結婚するというのは、色々と無理があると思う……」
「あ!」
「っと。どうしたアイリ?」

 俺の言葉を喘ぎって、アイリは何かを思い出したように声を上げた。

「お父さん! 今日は教会で【天啓てんけいまじ】だったわ! 早く準備しなきゃ!」
「え? あ、ああ! そうだった! 急ぐぞ、アイリ!」
「はい!」

 そうだ。今日はアイリの今後が決まる、重要な儀式の日だった。
 昨日のドタバタのせいで、すっかり忘れていたぞ。

「お父さん、朝食は軽めに、サンドウィッチで済ませちゃうからね」
「おう。頼む」

 俺達は朝食をほとんど飲み込むように食べ、家を出る為の準備を進める。
 これから行われる儀式で、遅刻は厳禁なのだ。

「アイリ、まだか!?」
「もうできるわ! 先に外で待ってて!」
「急げ! これ以上経つと、走る羽目になるぞ!」
「分かってる!」

 という、親娘らしい会話に、俺は少し安堵を覚えたのだった。


 ・・・・・・


【天啓の儀】とは、この世界に産まれた者の潜在的な能力……【天賦てんぷ】を見定める為の儀式である。

【天賦】は、個人がそもそも持っている資質を、明確に名称として提示し、その人物が持つ能力を可視化できるようにしたものである。

 例えば、戦士、騎士、魔術師、僧侶、探検家といった役職がそうだ。
 他にも、鍛冶師、料理人、医師、商人など、果ては奇術師や受付譲、宿屋の主人、なんてものもあったりする。

 そして、各々に判明した【天賦】には、神より祝福が与えられ、能力にプラス補正が掛かるようになっている。

 戦士なら筋力が増強され、騎士なら剣術を操る能力が飛躍的に向上する。
 魔術系統の役職なら、分野ごとに得意とする魔術の威力が上がったり、といった具合だ。

 そんな感じで、この世界に生きる者の大半は、自分の持つ【天賦】にあった職業に就き、生涯を歩んでいくことになる。

 故に、とても重要な儀式なのだ。

 成人を迎えた者は、すべからくこの儀式を受けなくてはならない。

 しかし、儀式の開始時間には厳しい決まりがあり、遅刻すると、儀式を1年間、受けられなくなってしまうのだ。
 そうなると、その1年間は【能無し】となってしまい、無能者と蔑まれてしまうことになる。

 その為、俺達は朝の準備もそこそこに、家を出ることにした。

【天啓の儀】は、太陽が丁度真上に昇る時間に執り行われる。

 教会までの距離はそこまで離れてはない。
 今から出れば、歩いても十分に間に合うであろう。

 ……ただ、俺はこの時、予想もしていなかった。

 この儀式を境に、まさか娘が、世界のいざこざに巻き込まれることになろうとは……

 それにともない、俺自信も、己の過去と向き合うことになるとは……

 全く、考えてもいなかったのだ。
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