お父さんですけど、頭に『義理の』って付くんだから別に恋しても結婚しても許されるもんねっ!

昼行灯

文字の大きさ
5 / 22

翼持つ者と、娘の嫉妬

「さて、あなたで今日の儀式も最後です。それでは、石碑に触れてください」
「はい……」

 レオと同様、緊張した面持ちで石碑に触れるアイリ。
 俺もその背中に、真剣な眼差しを送る。

「っ!」

 アイリが石碑に触れた。
 すると、今日だけで何度も目にした青い光が石碑から溢れ、辺りを照らす。
 
 しばらくすると、光は収束していき、いで【啓示の書】がひとりでに開く。

「さて、あなたは一体、どんな【天賦】を授かっているのでしょうか……」
「……(ごく)」

 アイリの緊張が、背中を見てるだけで伝わってくる。
 そして、祭壇の女性は、ゆっくりと【啓示の書】に目を落とし、

「あなたの【天賦】は…………」

 静寂に包まれる教会の中、アイリの【天賦】が読み上げられる。

「【勇者】ですね…………え? あ、ゆうしゃ? って………………………………うぉえぇっっ?!」


 その瞬間、女性は奇声を上げ、教会内部にいる者達は、何が起きたのかと騒然となる。

 そして俺は、アイリの【天賦】が読み上げられた瞬間、自分の耳を疑ってしまった。

「え? え……?」

 そんな中、アイリ一人だけが、きょとんとした表情を浮かべ、可愛らしく小首を傾げていた。

 教会の中が喧騒に包まれ、何が起きたのか理解ができていない者と、あまりの状況に頭が付いていけていない者とで、それぞれ反応が別れている。

 ちなみに、俺は後者だ。
 隣にいるオズとレオも、俺と同じように口をポカンと開けて、アイリの後ろ姿を見つめている。

「【ゆうしゃ】……ん~……? 【ゆうしゃ】って、何?」

 そして俺の娘は、頭に疑問符を浮かべながら、終始、首をこてんと傾けていたのであった…………


 ・・・・・・


 儀式が終わってから、俺達は祭壇で進行を勤めていた女性に呼び出され、教会裏手の応接室へと赴いていた。


「さて、わざわざご足労頂き、大変申し訳ありません」

 そう言って向かいのソファに座る、銀髪の女性。
 儀式の最中に素っ頓狂な声を上げた人物とは思えない、落ち着いた物腰。
 表情には微笑を常に湛え、まるで何を考えているのか、腹の底が見えてこない。

「…………」

 こういう手合いを、俺は良く知っている。
 昔はそういった輩に色々とめられたりして、何度死に掛けたことか……

 まぁ、もうそいつらに会うことはないだろうがな。

「さて、それではこの場にお呼び出しさせて頂いた理由をご説明する前に、私の『正体』をお教えいたしましょうか」

 正体?

 と、俺が疑問を投げ掛ける暇もなく、彼女は立ち上がり、手を頭上に掲げて、

「擬態、解除……」

 呟くのと同時に、彼女の衣服が光に解けて、素肌が露わになる。

「っ! 見ちゃダメです!」
 
 ぐさっ!

「ぎゃぁああああああ――っっ!!」

 あ、愛する娘に、目潰しされた!

「お父さんが見る女性の肌は、私だけで十分です!」
「な、何言っちゃってんの、アイリさん……」

 目に激痛が走る中、娘のとんでも発言を聞かれて、俺は力なく突っ込みを入れた。

「あらあら、仲がよろしいのですね、お二人とも。ふふ……」
「笑い事じゃありません! お父さんの前で、いきなり裸になる、なん、て…………」
「ど、どうしたアイリ……?」

 声を荒立てていたアイリの様子が変化したことに気付き、俺は問いかけた。

 すると、

「『天使』、様……?」
「なに……?」

 瞬間、俺の意識が切り変わる。
 アイリの言葉と共に、目の前に現れた異形の魔力。
 そのあまりの大きさに、俺の警戒心が一気に膨れ上がった。

「アイリ、下がれ!」
「え、ちょっと! お父さん?!」

 俺はすぐさまアイリを背後へと庇うように立ち上がり、娘によって潰されえた視界を、『急速に』回復させた。

「ふふ、流石は『救世《きゅうせい》の英雄』様……動きが素早い」

 そこにいたのは、純白のワンピースを身にまとい、背中に二対の翼を生やした、『天使ような』何かであった。

「貴様、何者だ?」
「それを、今から名乗ると仰っているのですが……まぁ、人の子が私達を警戒するのは、当然なのかしらねぇ」
「……」
「そんなに睨まないで下さい。私は『レシエル』……人の子に、運命の予言を与える者です」
「何が目的だ……?」
「……それも、今からご説明します。ですから、その『懐に忍ばせた物』を抜くのは、やめていただけませんか? 言っておきますが、『それで』私に切り掛かっても、手傷を負わせることはできませんよ?」
「ちっ…………」
 
 レシエルと名乗った女性は、柔和な笑みを浮かべたまま、こちらの行動を見透かしたかのような発言をする。
 そんな彼女に、俺は警戒心を剥き出しにして、睨みつけた。

「はぁ……話が進まないですね……では、私が何もしない証拠として、今着ている衣服を全て脱ぎ、手足を縛れば、話を聞いていただけますか?」
「っ?!」
「ほう、レシエル殿には、羞恥心はないのかな?」
「ここで時間を無駄に浪費するよりは、その方がいいのかと……それで信用していただけるのであれば、肌を人間に晒すことぐらい、どうということもありませんので」
「むふ……」

 相手は得たいの知れない存在。
 例え全裸になったからといって、決して安全とは言えないだろう。

 しかし、相手の肌――筋肉の動きから、俺は対峙する者の動きを先読みできる。
 衣服の上からでもそれは可能だが、素肌を見せてくれるのであれば、その精度は格段に跳ね上がる。

 魔法を使おうが、体術を使おうが……俺なら相手より『先』に動ける自信があった。

 例え懐の武器が効かずとも、逃げるだけならば策はある。

 少なくとも、この場でアイリに危害を加えられるのだけは、絶対に阻止せねばならない……!

「そういうことなら、さっそく脱いでもらおうか」
「え?!」
「分かりました、では、そのように……」

 と、そう言って彼女が、自分の服に手を掛けた瞬間、

「――だめぇぇぇぇぇぇぇ――っっ!!」

 背後にいたアイリが、俺の背中からくるりと一回転して前に出ると、流れるような動きで指を二本立て、父の目玉へ向けて突き出してきた。

 ――っていうか、また?!

 ぐさっ!

「ぎゃぁああああああ――っっ!!」

 本日二度目。
 俺はまたしても、愛娘から目潰しを食らう羽目に!

「レリエルさん! 服を着てください! 私達の前で……ていうか私の『旦那様』の前で、ハレンチな真似をしないでください!!」
「あ、あら……あらあらあら」

 あまりのアイリの剣幕に、レリエルが動揺しているのが分かった。

「お父さんも! なんでぽっと出て来た女の人に、服を脱げとか言っちゃってるんですか?! 浮気ですか?! さっそく浮気なんですか?!」
「ちょ、落ち着けアイリ! 今はそんなことを言っている場合じゃ……!」
「そんなこと?! お父さん! これは由々しき事態ですよ! 浮気は男の甲斐性なんて言いますが……私は許しません! 私の全てはお父さんのもの……ですが、お父さんの全ても、私のものなんです!」

 徐々に熱を上げていく娘の怒声に、俺はたじたじになってしまう。

「昨日の夜、お父さんは言いました! 『俺の全てを持って行け』と! あの言葉を聞いた時、私は嬉しかったんです……ああ、お父さんは私の気持ちを受け入れてくれたんだ、と……なのに、なのに~~~~っ!」

 ぐわし!

「ぐえ!」

 アイリの細い指が、俺の首に絡まってくる。

「浮気をするどころか! 私の前で、赤の他人にストリップショーをさせるなんて~~~~っっ!!」
「あがががががががががっ!」

 首を絞められたまま、俺は体をガクガクと揺さぶられる。
 その細い腕のどこにそんな力があるというのか……?!

「もう! もう! もう!!」
「やめで! じぬ! おどうざん、じんじゃう!」
「うわ~ん! お父さんの、ばか~~~~っ!」

 泣きたいのはこっちだ!
 ていうか、マジで放してくれ我が娘よ!
 このままじゃお父さん、ヘブンに旅立っちゃう!

「ふふ、仲のいい親娘おやこですねぇ……」

 そこ! のほほんと見てないで助けろ!

 目潰しから回復した視界に、頬に手を添えて微笑むレリエルの姿が映った。
 彼女はこちらに、慈愛にも似た視線を送ってきている。

「ふふふ……」

 ふふふ、じゃねぇ!

 この状況の何処にも、微笑ましいものなんかない!

 しかも、俺はそろそろ酸欠になりかけてくる始末であった。

「お父さんが見る裸は私だけなの! エッチなことを考える相手も私じゃなきゃダメなの! エッチするのも私とだけなの! 絶対なの~~!!」

 そんな中……アイリの口から飛び出す、数々の問題発言に、俺はもう何度目かも分からない頭痛を覚えるのであった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))