お父さんですけど、頭に『義理の』って付くんだから別に恋しても結婚しても許されるもんねっ!

昼行灯

文字の大きさ
9 / 22

緊急討伐クエスト

しおりを挟む
 俺はリゼさんに、この家を訪ねていた理由を説明した。

「【クラン】の新設? なにそれ面白そう!」
「「……」」

 見事な食い付き。リゼさんの予想通りの反応に、俺とオズは僅かに苦笑してしまう。
 瞳をキラキラとさせて、さながら子供のようにうきうきした仕草を見せるリゼさん。とても四十手前とは思えない姿だ。

「ね、ね! それってワタシも参加しちゃだめ? いいでしょ? いいわよね! いいに決まってるわよね!」
「いやお前、自分の仕事はどうするんだよ? 月に一度は最低でも『領主に呼ばれる』ってのに」
「そんなの向こうの都合じゃないの! ワタシはね、もっと家庭でこの腕を振るいたいの! それを毎回毎回! いい迷惑だわ!」

 リゼは、その背負ったケースから想像できるとおり、料理系の【天賦】を持っている。
 しかもそれは、ただの【料理人】などとは格が違う。【マスターコック】という【天賦】である。
 卓越した調理の腕はもちろん。絶対的な味覚に、優れた嗅覚。食材の目利きに間違いはなく、未知の食材であっても、例えそれが劇毒物でもおいしく調理してしまう。まさしく、料理人というカテゴリーにおいては、究極の存在である。

 それ故に、彼女は地元領主、果ては王家からも依頼が出るほどの人物なのだ。

 しかし、彼女はそれで家族との時間が減っていることに、前々から不満を口にしてはいるが。

「でも、それで稼げてるってのは、否定できないだろ?」

 瞬間、オズの表情が少しかげったことに、俺は気が付いた。
 そして妻であるリゼさんが、もちろんそんなオズの様子を見逃すはずもなく。

「ワタシは、たまたまこの【天賦】を持っていただけで……それに、別にオー君の収入が少ないわけじゃないし……」
「いいや、俺達が不定期な収入で食っていけてるのは、間違いなくお前のお陰だよ。俺なんかじゃさっぱりだ。ほんと、家主としては恥ずかしい限りだな、はは」
「む~~~っ」

 と、リゼさんが頬を膨らませて、オズにじとっとした視線を向け始める。

「恥ずかしくないもん……」
「うん? リゼ?」
「オー君は、カッコいいもん……ワタシが好きになった旦那様だもん」
「う……お、お前な……ユーマがいる前で……って、お前もなにニヤニヤしてんだよ」
「別にぃ……」

 と言ってはみるが、俺は目の前の光景が面白くてしかたなかった。
 それと同時に、背中がかなりかゆくもなる。

「オー君、すっごく強いもん……街の人がオー君の実力を知ったら、絶対に引っ張りだこだもん」
「いやいや、それはお前の買いかぶりだって」
「そんなことないもん!」
「うお?!」

「もん、もん」と口癖のように繰り返していたリゼさんが、ここにきて一番大きな「もん」を繰り出した。
 頬は高潮し、瞳には薄っすらと雫が見える。

「オー君は自分のこと過小評価しすぎ! ワタシはオー君がすごい人だって知ってるもん! ワタシ知ってるんだからね! オー君が【グランド】からの勧誘を断ったの!」
「わ、分かった! 分かったから落ち着け! 客人がいる前で興奮するなって! それと、その話はしないでくれ。頼むよ」
「むう~~~~っ!」

 頬を空気でぱんぱんにするリゼさん。正直可愛すぎて、笑いを堪えるのに俺は必死だった。
 妻を宥めようと焦っているオズの姿もまた、見ていて微笑ましくもある。

 正直、この歳で、しかも子供までいる夫婦が、まるで付き合いたてのバカップルのごとくイチャイチャしている姿が見られるとは。

 この村に来た直後は、想像もしていなかった。

 俺はもう、30を過ぎた辺りから、誰かとお付き合いをして、自分が結婚するなんて想像はしなくなった。
 というより、俺はアイリを想い、親になるための努力に心血を注いだ。だから、こういった色恋沙汰からは、かなり遠ざかってしまったのだが。

 しかし、後悔などしていないし、これからもしないであろう。

 ただ、最近になって娘が俺と結婚するなどと言い張っていることだけは、どうにかせねばと頭を悩ませてはいるのだが……

 とはいえ、そんなことをこの二人に相談できるはずもなし。

 俺は二人の姿を見つめながら、「結婚か……」と小さく呟いた。


 ――すると、


「す、すまない! オズとユーマはいるか?!」


 オズたちの間に漂う、少量の辛い空気と、極上の甘い雰囲気が破られる。
 その原因へ全員が顔を向けると、酷く慌てた様子の中年男性が、家の扉を開けて呼吸を荒くしていた。

「ん? グンターじゃねぇか。どうした、そんなに息切らして」

 彼は、村のクランに正式に加入しているメンバーの一人で、名前はグンター。
 俺とオズは彼から仕事を斡旋してもらうことが多いため、顔を合わせる頻度はそれなりに多い人物である。

「た、大変なことが起きて……む、村の外に、はぁ、はぁ……街道から! かなりの数が……っ!」
「落ち着けって。それじゃ何がなんだかさっぱりだ」

 要領を得ないグンターの説明に、オズはまずは彼を落ち着けようと水を差し出した。
「ああ、すまない」と言って、グンターはオズから差し出された水を一気に煽る。
 それで少しは落ち着いたのか、グンターは改めて説明を再開した。

「実は、村の外から伝令があったんだ。この村に【ロックボア】の群れが向かってるって……数はざっと、――30」
「っ……! おいおい、入れ食いじゃねぇか」
「うそ、まじで! ロックボアって言ったら、市場じゃ一匹3万はする高級食材じゃない!」
「ああ、その通りだ。だが、性格は極めて凶暴な上に、生半可な攻撃じゃ傷一つ付かない頑丈がんじょう頑強がんきょうな体だ。しかもデカイ」

 グンターは顔を青褪めさせて、興奮した様子のリゼにロックボアの生態を説明する。

【ロックボア】――体長1.5メートルから2メートル。体を岩のような外皮で覆い、外敵から身を守っている。
 性格は先にグンターが口にした通り凶暴であり、目線があった途端に突進をかましてくる。
 巨石が激突してくるようなものなので、大怪我だけではすまない。
 毎年このモンスターによって死者が出ているくらいなのだ。
 
 そして、リゼさんが口にしたように、このモンスターは高級食材としても知名度が高い。
 良質な肉が取れることで有名で、しかしその捕獲の難しさから市場に出回ることは少なく、美食家の間では話題の食材なのだ。

「そこでだ。オズ、ユーマ。二人には今からで悪いが、ロックボアの討伐に参加してほしい! 【クラン】のメンバーだけじゃ、とてもじゃないが対処できない! 頼む!」
「なるほど……にしても、数が30ねぇ……ユーマ、どう思うよ?」

 と、ここにきてオズが、俺に水を向けてきた。

「……そうだな。ロックボアは集団で行動することは少ないモンスターだ。しかもこの近辺に生息しているモンスターじゃない……それが30匹も群れを成しているとなれば……十中八九、何処かで捕獲され、運んでいる途中で逃げ出した、って線が濃厚だろう」
「ってことは……」
「ああ、これはその業者の後始末を、俺達が押し付けられた格好になるな」
「かぁ! やってられねぇな!」
「そういうわけにもいかん。あれがこの村で暴れ回ってみろ。何人死ぬか分からんぞ」
「だよなぁ……ああ、くそ!」

 オズは髪を掻き毟り、苛立たしげにテーブルに拳を叩き付けた。

「オズ、ユーマ。今回の【ロックボア】討伐に関しては、【クラン】でしっかりと報酬を払う。むろん、村長も礼はするという話だ。ただ働きをさせることはない。だからどうか!」
「分かってるよ。俺だってここには愛する妻も息子もいるんだ。むざむざそんな畜生共に家庭を壊されてたまるかってんだよ」
「それには俺も同感だ」
 
 家には今も、家事に勤しむアイリがいる。
 娘との平和な生活を、『たかがロックボア程度』のモンスターに犯されるなど、断じて許すわけにはいかない。

「おお! それじゃ!」
「ああ、俺とユーマは、この討伐クエストに参加する。【クランマスター】にも、そう伝えておいてくれ」
「それはもうしてある。二人が断ることはないと思ってたからな」
「お前、準備がいいな」
「そのせいで、大分慌てることにはなったがな……と、こんな場合じゃない。すぐに向かうぞ!」
「「応!」」

 俺とオズは、勢いよく椅子から立ち上がった。

「二人とも、気をつけてね。ちゃんと無事に帰ってこないと、許さないから!」
「大丈夫だよ。なんてたって、こっちには【英雄】がいるんだからな」

 そう口にしながら、オズは立て掛けてあった愛用の槍を手に取る。
 俺の武器は家にあるため、一度戻らねばならない。

「うん! そこは心配してない! でも、『あんまりやりすぎる』んじゃないからね!」

 リゼさんは、そう言って笑いながら俺達を見送ってくれた。
 信用されている証拠だろう。

 俺とオズは家を出るなり、全速力で駆け出した。
 まずは俺の家まで、武器を取りにいかねばならない。
 
「なぁ、ユーマ……ちょっと提案なんだがな……」

 と、不意にオズが、俺に向かって何か言いづらそうに口を開いた。

「おう、どうした?」
「……さっきの【クラン】新設の話だがな……もしあれを実現させて、アイリちゃんをそこに組み込むつもりなら……」

 そこで、オズは真剣な表情で、こう口にした。

「今回の【ロックボア】の討伐に、アイリちゃんも参加させるべきだと、俺は思うぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...