お父さんですけど、頭に『義理の』って付くんだから別に恋しても結婚しても許されるもんねっ!

昼行灯

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守ることとは……

「……アイリを、ロックボアの討伐に参加させる? お前、本気で言っているのか?」

 オズからの提案に、俺の声は冷気を宿す。
 だが、オズはそれでもなお俺を真っ直ぐに見つめてくる。
 大抵の奴なら、俺がこれだけ剣呑な視線を向ければ、逃げ出したりもするのだが……この辺りはやはり、こいつオズも相当にしたたかという事であろう。

「もちろんだ。いいか。アイリちゃんが【勇者】だと判明した今、彼女は間違いなく面倒事に巻き込まれる。遅かれ早かれ、確実にな」
「それは、俺だって分かっている」

 故に、俺は【クラン】の新設を計画し、こうしてオズの下まで相談に赴いたのだ。
【クラン】での仕事を俺とこなしていく過程で、アイリに世間を知ってもらい、自立心を養ってもらう、これが第一の目的。
 そして第二に、世界を転々とし、面倒な奴らにアイリの居所を突き止められないようにすること。
 後者はただの時間稼ぎでしかないが、この村にずっと居続ければ、娘を利用とする連中が大挙して押し寄せてくるだろう。

 そうなれば、村にだって迷惑が掛かる。
 
 俺は少なくとも、この村に恩義を感じているのだ。
 よそ者……しかも子供を連れたまだガキだった俺を、快く迎え入れてくれたこの村。
 それを、恩を仇で返すような真似は、したくない。

「――だが、それにしたっていきなりロックボアの相手をさせられるわけないだろ! あれはランク『D』のモンスターだぞ!」

 この世界で、モンスターは人間に限らず、あらゆる種族と敵対する存在として認識されている。むろん、性格がおとなしく、無害なモノも多いのだが……それでも毎年モンスターによる被害は後を絶たない。
 
 そして、モンスターにはその危険性をランクで区分けしており、最下層で『F』。最上級のモノともなれば、『S』ランクに該当する。
 これは単純な戦闘力だけでランク付けされるわけではなく、その凶暴性、特異な能力を有している場合も、ランクは上がる。
 
 今回のロックボアは、ランク『D』――刃物を容易には通さない硬い外皮をもっており、性格は好戦的。訓練を受けた兵士でも、単独で戦闘を行った場合、命を落とす例だってある危険な奴だ。
 もし岩のような外皮がなければ、まだランクは下の部類だったのだろうが、そんなたらればの話に意味はない。

 今は、

「お前は俺の娘を、いきなりとんでもない危険エリアに連れて行けと言うのか?!」
「ユーマ、俺だってお前の気持ちが分からないわけじゃない。本当なら、もっと手軽な相手であった方が良かったと、俺だって思う……でもな」

 オズはそこで一度言葉を途切れさせ、一呼吸、間を入れた。

「アイリちゃんは、そんじょそこいらにいる戦闘系の【天賦】なんて霞むほどの力を持った【神級天賦】……しかも、その筆頭――【勇者】なんだぞ。その影響力は、『同じ【神級天賦】のお前』なら、嫌ってほどに知っているだろっ」
「っ……」

 知っている。

【神級天賦】を持つ者は、この世界のバランスに大きな影響を及ぼす存在だ。
 俺もかつては、この内に宿る『力』でもって、世界に大きな影響を及ぼした過去がある。
 
 しかし、それは本当に過去の話だ。

 俺という存在は、もう世間の表舞台から消えた。
 それゆえに、俺は今もこうして、村の中で静かに娘と暮らせているのだ。

 だが、その平穏は、きっと破られる。

 俺の愛する娘が、【勇者】なんてでたらめな存在であるが故に、世間はきっと、俺たち親娘おやこを放っておくことはない。
 今はこの村だって静かなものだが、おそらく数日中には村全体にアイリが【勇者】だという話が広まるだろう。
 そうなったとき、娘と俺はどうなるのか。
 追い出されるようなことはないと信じたい……なにせ俺のような得体の知れない者でも受け入れてくれた、懐の深い村だ。そこはきっと大丈夫だと思うが、どうしたって騒ぎにはなってしまうだろう。

 その騒ぎが周辺の村にも伝染すれば、アイリという存在が公になるのは明白だ。

 そもそも、【天啓の儀】によって判明した【天賦】は、国に報告する義務がある。
 それにはまだしばらく時間は掛かるだろうが、数日中にもでも、国は【勇者】という規格外の存在が現れたことを知るだろう。

 そうなれば、いつまでこの平穏な生活を続けられるのか……

「世界はアイリちゃんを放っておかないぞ。そうなった時、力をただ持て余しているだけの女の子なんて、格好の餌食だ。正直言って、お前だけでアイリちゃんを守れとは思えない」
「そんなことは……!」

 ない、と口にしようと思うも、俺の喉はそれ以上の言葉を吐き出すことなく、沈黙してしまう。

 ……そうだ。俺は、国に一度、『負けてる』んじゃないか……

「すまん。でも、分かってくれ。俺だってアイリちゃんが心配なんだよ。彼女は俺にとっては姪みたいなものだしな。だからこそ、世間の荒波に揉まれることが確実に分かっているなら、彼女を鍛えなきゃいけない。それは『知』に関しても、『武』に関してもだ」
「オズ……」
「アイリちゃんは【勇者】だ。戦う者だ。世間はそうして彼女を見るぞ。それでもしいきなり、『S』クラスのモンスターを相手にして来い、なんて言われてみろ、どうなると思う?」
「……」

 俺は思考する。
 アイリがもし、『S』クラスのモンスター、仮に竜族《ドラゴン》の討伐を依頼されたら……

 娘は、責任感が強く、それでいてお人好しだ。
 竜族ドラゴンはその危険性もさることながら、高い知能を持っている。そんな厄介な相手が、人里を襲っていると聞かされ、尚且つ、自分がそういったモンスターの相手ができるほどの力を持っているとするならば……

「アイリなら、きっとその依頼を請けるだろうな……それがもし、自分の命を犠牲にしかねない、危険なものだとしても……」
「理解しているなら、俺が言いたいことも、分かるよな?」
「…………ああ」
「……悪い」
「いや、いい。今回の件に関しては、お前のほうが正しい……だが」
「おう、なんだ?」
「一発は殴らせろ」
「……手加減は?」
「なしだ」
「お前、本当に親バカだよな……」


 ・・・・・・


「アイリ、いるか?」

 自宅に戻った俺は、挨拶もそこそこに娘の姿を探す。

「あ、お父さん。おかえりなさい。オズおじ様との相談は終わったの? って、あら、おじ様、いらしてたんですね。……でも、頬が腫れてますけど、大丈夫ですか?」
「よう、アイリちゃん。これは、まぁ……気にしないでくれ。少しぶつけただけだから」
「そうですか。それでしたら、濡れタオルを持ってきますから、そこに座って待っててください。お父さんは、お茶でも出してあげて」

 言うなり、アイリはそそくさと奥に引っ込んでしまった。

「はぁ……アイリちゃん、いい子だよなぁ」
「もちろん。俺の自慢の娘だからな」
「で、お前はお茶を出してはくれないのか?」
「適当に井戸から水を汲んで勝手に飲め」
「うわぉ、俺ってばお客様だぜ?」

 なんてやりとりをしていると、

「はいオズおじ様、濡れタオルです。近くの川の水で湿らせてますから、結構冷たいと思いますよ」
「おう、ありがとなアイリちゃん」

 オズはアイリからタオルを受け取り、俺が殴った頬に押し当てた。

「はぁ……沁みる」
「ふふ、オズおじ様でも、そうやって怪我なさることもあるんですね。私、少し驚いちゃいました」
「まぁ、今日は仕方ないさ。『自分で受け入れた』わけだし、今回は甘んじるさ」
「うん?」

 オズの言っていることがよく分からないといった様子で、首を傾げるアイリ。

「あ、お父さんってば、お茶も出さないで! もうっ! おじ様、少し待ってください、今ハーブティーでも……」
「アイリ、少し大事な話がある。そこに座りなさい。それと、今日は急ぐのでな、お茶はなしだ」
「え?」

 と、俺の真剣な表情に、少しだけ困惑したような顔をするアイリ。しかし、素直に俺の正面の椅子へ腰掛け、姿勢を真っ直ぐにこちらを見つめてくる。

「そう緊張しないでいい。実はな、今日オズの家に行っている間に、【クラン・ソル】から緊急の討伐クエストが発注されてな……」

 俺は、グンターから聞いた話を、そのままアイリにも聞かせる。
 この村に、ロックボアの群れが向かっていることを……

 俺は声に若干の緊張を含ませながら、次の言葉を吐き出した。

「それで、俺とオズも参加することになった。で、ここからが重要なんだが……今回の討伐には、アイリ――お前にも一緒に来てもらうことにした」
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