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クラン協会
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「アイリ、お前はいつまで俺にくっついているつもりだ……」
「何を言ってるんですか。ずっと、ですよ~……えへへ」
えへへ、って子供かお前は……いや、俺にとっては昔も今も、そしてこれからだってアイリは子供なんだが……
俺とアイリは【ラクス】の街の中央に程近い場所にある、【クラン協会】へと到着した。
白亜の外壁が多いこの街にあって、少々異彩を放つ建物。
赤いレンガで覆われた外壁に、丸いドーム状の屋根。周囲の景観とはミスマッチな外観ではあるが、これは【クラン協会】が定める建築様式であるため、どこに行っても同じ建物にしかならない。
一目でここが【クラン協会】だと分かるように、このような措置を取っているとか。
「今は外だからいいが、中に入ったら離れるんだぞ」
「え? 今回は入ってもいいの?」
「……さっきの件もある。また面倒ごとに巻き込まれても困るからな」
「ふ~ん……そっかそっか。心配してくれてるんだ。やっぱりお父さんは優しいね……好き。愛してます」
甘々にとろけた表情を浮かべて、俺に体重を預けてくる愛娘。
しかしながら、その顔はどう考えても父親に向けるそれじゃない。
このまま建物の中に入ってもいいものか……
「やっぱり待っててもらおうかなぁ……」
「え~! 何でですか?!」
親娘の間で、いきなり「愛してる」発言を飛ばすアイリさん。
いや、これが『家族』としての「愛してます」なら、もちろん問題はないんだがな……目を若干ハートにして、体を摺り寄せてくるのは流石に悪い意味で目立ちすぎるだろ。
……とはいえ、さっきのようなろくでもない連中に絡んでこられても困る。
俺のアイリはお世辞抜きに可愛いからな。
「はぁ~……アイリ、頼むから、できればこの中では普通にしててくれ。そばにいるのは一向に構わない。でもな、腕を組んでいるのは流石に、一般的な親娘の距離じゃないだろ?」
「え~。普通ですよこれくらい~」
「お前、誕生日を迎えるまではこんなことしてこなかっただろうが」
「それは私とお父さんが実の親娘だと思ってたからです。でも私たちに血の繋がりはありません。つまり、私たちは家族は家族でも、父と娘というだけではなく、夫と妻の間柄でもあるのです。お父さんだって、私の想いを全て受け入れてくれるって、言ったじゃないですか」
「いや、あれはだな」
「ふふふ……お父さ~ん。すりすり」
聞いてくれよ、俺の話を。ぶつ切りにしないでもらえますか。
俺の言葉を完全無視して、ベタベタと全力で甘えてくるアイリ。
周囲からの刺さるような視線を受け止め、俺はいたたまれない気分になってきた。
というか、俺とアイリの見た目で、かつ、ここまで露骨な距離感で接している俺達は、周りから一体どんな目で見られていることやら。
聞いてみたい気もするし、聞きたくない気もする。
まぁいずれしろ、公共の場でいちゃつく俺達は、はたから見れば迷惑な二人組みであることは確実か。
はぁ~……全く、どうしてこうなってしまったのやら……
昔のアイリは、とても気難しくて、なかなか俺に懐いてくれなったんだがなぁ。
なんてことを考えてながら、結局アイリは俺と腕を組んだまま、建物の中に入った。
それと同時に向けられる奇異の視線に耐えながら、憔悴状態の俺と、にっこり顔のアイリは、奥に見える受付カウンターへと向かった。
内部は清潔なロビーに待合用の椅子が並び、インクとペンが置かれたテーブルが壁際に沿って設置されている。
この大陸とは別の大陸には、【ギルド】とよばれる【冒険者】達による互助組合が存在し、そこでは酒場や食事処、宿などを提供しているところもあるとか。
そこと比べると、【クラン協会】は随分と事務的な印象を受ける内装をしているといえよう。
【ギルド】の方も、依頼を請けた報酬で生計を立てているあたり、【クラン】と似たようなものだが、あちらは俺の勝手なイメージだが、多少粗野な印象がある。
ただ、酒場で同じ【冒険者】たちと、仕事やどうでもいいことで騒ぐといったことができるというのは、多少の魅力を感じる。
俺は、どうもそういったバカ騒ぎに参加する前に、腰を据えて落ち着いてしまった感があるからな。
「【クラン協会】へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付にいたのは、ショートの赤髪に金色の瞳を持った、【獣人】の女性だった。
頭からぴょこんと生えたケモノ耳に、カウンター越しにも確認できる、細くしなやかな長い尻尾。おそらく猫系の獣人だろう。
彼女はシックなギャルソンスタイルの衣服に身を包み、営業スマイルを向けてきた。
「ああ、実は【クラン】を新設したいと思っていてな。その手続きに」
「【新規クラン】の立ち上げ、でございますね。畏まりました。では、こちらの用紙に必要事項を記入していただきまして、書き終わりましたら、もう一度受付までお持ちください。その際に、ご身分証になるものや、新設における費用もご準備いただけますよう、お願いします」
「了解した」
「記入はロビーにあるテーブルをご利用ください…………それと、僭越ながら申し上げさせていただきますが……他の方たちのご迷惑になりますので、カップルでの触れ合いは、できるだけお控えくださいませね……」
「……よく言って聞かせる」
「はい、よろしくお願いいたします」
猫の受付譲に、やんわりと注意されてしまった。
「アイリ、聞いていたな」
「……仕方ありませんね。私も、いちゃつくなら存分に、がいいですから、この場では我慢します」
そう言って、しぶしぶ俺の腕を開放するアイリ。
少し名残惜しそうな顔をするが、素直に俺の後ろについて、テーブルまでついてくる。
「そうふくれるな。これが終われば、街での観光が待ってるんだぞ」
「っ、そうでした! では、なるべく早く終わらせてください! 一分でも、一秒でも早くです!」
「はいはい。分かったから大きな声を出すのはやめなさい。笑われてるぞ」
という俺の言葉に反応し、周囲を見渡したアイリが、自分たちに向けられている生暖かい視線に気づく。
先ほどの猫獣人な受付譲も、「こほん」と咳払いをして苦笑いを浮かべた。
「~~~~~っ」
そんな周りからの反応を受けて、アイリは真っ赤に顔を染める。
俺は「やれやれ」とため息をつくと、書類に必要事項を記載していく。
氏名や住んでいる村の住所。それと、クランに所属するメンバーの名前、その者たちの住所も、紙に記入していく。
それと、【クラン】の形態……ありえいにいえば、どのような目的で立ち上げられる【クラン】なのかを記載する。
俺たちの場合は、基本は討伐系に。しかしそれ以外にも、あらゆる仕事を請けることができると記載。
完全に討伐系だけに限定してしまうと、あとあと困ることになるだろう。
仕事はできるだけ、幅広く請けられるように設定しておく。
俺は記入欄に漏れがないかを確認し、視線を上から下になぞる。
「よし」
問題はないように思える。
あとは、これを受付に提出し、【クラン協会】の認可証を貰えれば、晴れて【クラン】の新設は終了である。
「書けたぞ。これで問題はないか?」
「お預かりします…………はい、問題はありませんね。では、【クランマスター】はユーマ様で登録します。失礼ですが、ご身分証をご提示ください。それと、所属メンバーの方達のご身分証もあれば、同時に提示をお願いします」
「ああ、では村の【住民票】で頼む」
住民票には、俺たちの名前と今の住所が記載されている。
ただし、この住民票には、【天賦】の記載が義務付けられてはいないのだ。
もしここでアイリ……とついでに俺……【天賦】が明らかになると、【協会】内はパニックになるだろうからなぁ……
一応、【天賦】を得てからの経験年数は記載義務があるため、そこは確認できるようになってはいるが。
「はい、お預かりします。こちらで複写を行いますので、少々お待ちください」
そういって、俺とアイリ、そして【クラン】を立ち上げるのに協力してくれた者たち……オズ、リゼ、レオの三名分の書類も提出した。
結局、オズの一家は全員が俺の【クラン】に所属することが決定した。
リゼさんの元々の仕事はどうするのかと訊いたら、「ユー君の【クラン】を通して請ければ問題ないわよ!」と、仰っていた。
どうしても、【クラン】に入るといって聞かなかったので、家族全員で入ることになったのだ。
そこのことについては、息子であるレオも納得済みだ。
「お待たせしました。では最後に、300,000ゼリィ頂きます。これは当方がしばらくの間、新設された【クラン】へ依頼《クエスト》を斡旋する手数料だと思ってください」
「分かっている。では、これを。ちゃんとあるとは思うが、念のため確認してくれ」
「畏まりました。しばらくお待ちください……」
そうして、時間にして五分も掛からず。
「はい、確かに。では、すぐに認可証をお持ちしますので、しばらくロビーの席に腰掛けて、お待ちください」
受付譲である獣人が、建物の奥に消えていく。
それから少しして、彼女が戻ってきた。
俺の名前が呼ばれ、すぐさま受付へと向かう。
「こちらが認可証になります。記載されているお名前に間違いがないか、お確かめください」
渡されたのは、真っ白な下地に俺の名前が記載され、【クラン協会】のシンボル……力の獅子と知恵の梟がシルエットになったもの……が刻印された、掌より若干大きいサイズのカードだった。
俺は自分の名前のスペルを確認し、間違いがないことを確認した。
「……大丈夫のようだ。これで問題ない」
「はい。それでは最後に、そちらの認可証に、【クラン名】を記載してください。左上の空白部分です。そこを記入していただき、カードから承認魔術が発動することで、一切のお手続きが完了となります」
「名前、か……」
それは考えていなかったな。
【クラン】を作ることにばかり頭がいっていたせいで、名前などまるで決めていない。
「…………」
「あの、ユーマ様? もしや、【クラン名】を考えていなかったのですか?」
「あ、ああ。実はその通りでな。すまない、すぐに決めるから、少し待ってくれ」
とは言ったものの、名前などすぐには出てこない。
適当な名前では、あとあと後悔することになるだろうしなぁ……
でも、この受付譲をあまり待たせるのも申し訳ない。
う~ん。どうしたものか……
「ねぇお父さん……もし決まらないのなら、私が決めてもいいかな?」
「え? あ、ああ。別に構わないぞ」
「うん。それじゃ、ね……」
『マーテル』
そう、アイリは小さく呟いた。
しかし、
「ア、アイリ……さすがにその名前は……」
この名前は、世界に多大なる影響力を及ぼす、【マグナ・マーテル教会】と同じ……
さすがに、【勇者】であるアイリが所属する【クラン】が名乗るにしても、不遜だと誹《そし》りを受けてしまうかもしれない。
だが、アイリはこんな言葉を続けた。
「ねぇ、お父さん……【マーテル】ってね、お母さん、って意味もあるんだって」
静かに言葉を紡ぐ彼女の唇。
その表情は、先ほどまでの子供っぽさがウソのように、落ち着いたものだった。
「私、この【クラン】に集まる人たち皆が、家族みたいな人たちで……それを受け止めてくれる存在になるなら、【マーテル】……お母さんって名前が、一番しっくりくると思うの」
「……」
アイリ……もしかしてお前、『本当の』母親に……
いや、これを考えるのはよそう。
今は俺が、彼女の『親』なのだ。
「分かった。アイリがそう言うなら、この名前でいこうか」
こうして、俺たちの決めた【クラン】の名前に、受付譲は目を丸くして驚愕の表情を浮かべたが、特別何も言うことなく、最後に、
「いい名前ですね……どうか、女神様のご加護があらんことを、祈っておりますよ」なんて言葉を掛けてくれた。
もし他の人物なら、顔を歪めて俺たちの非常識ぶりを露骨に指摘したかもしれない。
だが、この人は随分と、心大らかに俺たちが決めた【クラン名】を祝福してくれた。
――こうして、俺達はクランを立ち上げた。
その名は、【クラン・マーテル】。
ここから、俺たちの新しい道が始まるのだろう。
――……しかし、その前に。
「それじゃお父さん! 用事は終わったんだから、さっそく街でデートしましょう! デート! デート!」
先ほどまでの雰囲気を完全にぶち壊して、俺の腕をがっちりホールドして引きずって行くアイリ。
そんな光景に、またしても周囲では苦笑いが浮かび、猫の受付譲も、
「ふふ……それでは、いってらっしゃいませ~」
なんて冗談交じりの台詞を飛ばされ、俺達は【クラン協会】をあとにしたのだった。「」
「何を言ってるんですか。ずっと、ですよ~……えへへ」
えへへ、って子供かお前は……いや、俺にとっては昔も今も、そしてこれからだってアイリは子供なんだが……
俺とアイリは【ラクス】の街の中央に程近い場所にある、【クラン協会】へと到着した。
白亜の外壁が多いこの街にあって、少々異彩を放つ建物。
赤いレンガで覆われた外壁に、丸いドーム状の屋根。周囲の景観とはミスマッチな外観ではあるが、これは【クラン協会】が定める建築様式であるため、どこに行っても同じ建物にしかならない。
一目でここが【クラン協会】だと分かるように、このような措置を取っているとか。
「今は外だからいいが、中に入ったら離れるんだぞ」
「え? 今回は入ってもいいの?」
「……さっきの件もある。また面倒ごとに巻き込まれても困るからな」
「ふ~ん……そっかそっか。心配してくれてるんだ。やっぱりお父さんは優しいね……好き。愛してます」
甘々にとろけた表情を浮かべて、俺に体重を預けてくる愛娘。
しかしながら、その顔はどう考えても父親に向けるそれじゃない。
このまま建物の中に入ってもいいものか……
「やっぱり待っててもらおうかなぁ……」
「え~! 何でですか?!」
親娘の間で、いきなり「愛してる」発言を飛ばすアイリさん。
いや、これが『家族』としての「愛してます」なら、もちろん問題はないんだがな……目を若干ハートにして、体を摺り寄せてくるのは流石に悪い意味で目立ちすぎるだろ。
……とはいえ、さっきのようなろくでもない連中に絡んでこられても困る。
俺のアイリはお世辞抜きに可愛いからな。
「はぁ~……アイリ、頼むから、できればこの中では普通にしててくれ。そばにいるのは一向に構わない。でもな、腕を組んでいるのは流石に、一般的な親娘の距離じゃないだろ?」
「え~。普通ですよこれくらい~」
「お前、誕生日を迎えるまではこんなことしてこなかっただろうが」
「それは私とお父さんが実の親娘だと思ってたからです。でも私たちに血の繋がりはありません。つまり、私たちは家族は家族でも、父と娘というだけではなく、夫と妻の間柄でもあるのです。お父さんだって、私の想いを全て受け入れてくれるって、言ったじゃないですか」
「いや、あれはだな」
「ふふふ……お父さ~ん。すりすり」
聞いてくれよ、俺の話を。ぶつ切りにしないでもらえますか。
俺の言葉を完全無視して、ベタベタと全力で甘えてくるアイリ。
周囲からの刺さるような視線を受け止め、俺はいたたまれない気分になってきた。
というか、俺とアイリの見た目で、かつ、ここまで露骨な距離感で接している俺達は、周りから一体どんな目で見られていることやら。
聞いてみたい気もするし、聞きたくない気もする。
まぁいずれしろ、公共の場でいちゃつく俺達は、はたから見れば迷惑な二人組みであることは確実か。
はぁ~……全く、どうしてこうなってしまったのやら……
昔のアイリは、とても気難しくて、なかなか俺に懐いてくれなったんだがなぁ。
なんてことを考えてながら、結局アイリは俺と腕を組んだまま、建物の中に入った。
それと同時に向けられる奇異の視線に耐えながら、憔悴状態の俺と、にっこり顔のアイリは、奥に見える受付カウンターへと向かった。
内部は清潔なロビーに待合用の椅子が並び、インクとペンが置かれたテーブルが壁際に沿って設置されている。
この大陸とは別の大陸には、【ギルド】とよばれる【冒険者】達による互助組合が存在し、そこでは酒場や食事処、宿などを提供しているところもあるとか。
そこと比べると、【クラン協会】は随分と事務的な印象を受ける内装をしているといえよう。
【ギルド】の方も、依頼を請けた報酬で生計を立てているあたり、【クラン】と似たようなものだが、あちらは俺の勝手なイメージだが、多少粗野な印象がある。
ただ、酒場で同じ【冒険者】たちと、仕事やどうでもいいことで騒ぐといったことができるというのは、多少の魅力を感じる。
俺は、どうもそういったバカ騒ぎに参加する前に、腰を据えて落ち着いてしまった感があるからな。
「【クラン協会】へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付にいたのは、ショートの赤髪に金色の瞳を持った、【獣人】の女性だった。
頭からぴょこんと生えたケモノ耳に、カウンター越しにも確認できる、細くしなやかな長い尻尾。おそらく猫系の獣人だろう。
彼女はシックなギャルソンスタイルの衣服に身を包み、営業スマイルを向けてきた。
「ああ、実は【クラン】を新設したいと思っていてな。その手続きに」
「【新規クラン】の立ち上げ、でございますね。畏まりました。では、こちらの用紙に必要事項を記入していただきまして、書き終わりましたら、もう一度受付までお持ちください。その際に、ご身分証になるものや、新設における費用もご準備いただけますよう、お願いします」
「了解した」
「記入はロビーにあるテーブルをご利用ください…………それと、僭越ながら申し上げさせていただきますが……他の方たちのご迷惑になりますので、カップルでの触れ合いは、できるだけお控えくださいませね……」
「……よく言って聞かせる」
「はい、よろしくお願いいたします」
猫の受付譲に、やんわりと注意されてしまった。
「アイリ、聞いていたな」
「……仕方ありませんね。私も、いちゃつくなら存分に、がいいですから、この場では我慢します」
そう言って、しぶしぶ俺の腕を開放するアイリ。
少し名残惜しそうな顔をするが、素直に俺の後ろについて、テーブルまでついてくる。
「そうふくれるな。これが終われば、街での観光が待ってるんだぞ」
「っ、そうでした! では、なるべく早く終わらせてください! 一分でも、一秒でも早くです!」
「はいはい。分かったから大きな声を出すのはやめなさい。笑われてるぞ」
という俺の言葉に反応し、周囲を見渡したアイリが、自分たちに向けられている生暖かい視線に気づく。
先ほどの猫獣人な受付譲も、「こほん」と咳払いをして苦笑いを浮かべた。
「~~~~~っ」
そんな周りからの反応を受けて、アイリは真っ赤に顔を染める。
俺は「やれやれ」とため息をつくと、書類に必要事項を記載していく。
氏名や住んでいる村の住所。それと、クランに所属するメンバーの名前、その者たちの住所も、紙に記入していく。
それと、【クラン】の形態……ありえいにいえば、どのような目的で立ち上げられる【クラン】なのかを記載する。
俺たちの場合は、基本は討伐系に。しかしそれ以外にも、あらゆる仕事を請けることができると記載。
完全に討伐系だけに限定してしまうと、あとあと困ることになるだろう。
仕事はできるだけ、幅広く請けられるように設定しておく。
俺は記入欄に漏れがないかを確認し、視線を上から下になぞる。
「よし」
問題はないように思える。
あとは、これを受付に提出し、【クラン協会】の認可証を貰えれば、晴れて【クラン】の新設は終了である。
「書けたぞ。これで問題はないか?」
「お預かりします…………はい、問題はありませんね。では、【クランマスター】はユーマ様で登録します。失礼ですが、ご身分証をご提示ください。それと、所属メンバーの方達のご身分証もあれば、同時に提示をお願いします」
「ああ、では村の【住民票】で頼む」
住民票には、俺たちの名前と今の住所が記載されている。
ただし、この住民票には、【天賦】の記載が義務付けられてはいないのだ。
もしここでアイリ……とついでに俺……【天賦】が明らかになると、【協会】内はパニックになるだろうからなぁ……
一応、【天賦】を得てからの経験年数は記載義務があるため、そこは確認できるようになってはいるが。
「はい、お預かりします。こちらで複写を行いますので、少々お待ちください」
そういって、俺とアイリ、そして【クラン】を立ち上げるのに協力してくれた者たち……オズ、リゼ、レオの三名分の書類も提出した。
結局、オズの一家は全員が俺の【クラン】に所属することが決定した。
リゼさんの元々の仕事はどうするのかと訊いたら、「ユー君の【クラン】を通して請ければ問題ないわよ!」と、仰っていた。
どうしても、【クラン】に入るといって聞かなかったので、家族全員で入ることになったのだ。
そこのことについては、息子であるレオも納得済みだ。
「お待たせしました。では最後に、300,000ゼリィ頂きます。これは当方がしばらくの間、新設された【クラン】へ依頼《クエスト》を斡旋する手数料だと思ってください」
「分かっている。では、これを。ちゃんとあるとは思うが、念のため確認してくれ」
「畏まりました。しばらくお待ちください……」
そうして、時間にして五分も掛からず。
「はい、確かに。では、すぐに認可証をお持ちしますので、しばらくロビーの席に腰掛けて、お待ちください」
受付譲である獣人が、建物の奥に消えていく。
それから少しして、彼女が戻ってきた。
俺の名前が呼ばれ、すぐさま受付へと向かう。
「こちらが認可証になります。記載されているお名前に間違いがないか、お確かめください」
渡されたのは、真っ白な下地に俺の名前が記載され、【クラン協会】のシンボル……力の獅子と知恵の梟がシルエットになったもの……が刻印された、掌より若干大きいサイズのカードだった。
俺は自分の名前のスペルを確認し、間違いがないことを確認した。
「……大丈夫のようだ。これで問題ない」
「はい。それでは最後に、そちらの認可証に、【クラン名】を記載してください。左上の空白部分です。そこを記入していただき、カードから承認魔術が発動することで、一切のお手続きが完了となります」
「名前、か……」
それは考えていなかったな。
【クラン】を作ることにばかり頭がいっていたせいで、名前などまるで決めていない。
「…………」
「あの、ユーマ様? もしや、【クラン名】を考えていなかったのですか?」
「あ、ああ。実はその通りでな。すまない、すぐに決めるから、少し待ってくれ」
とは言ったものの、名前などすぐには出てこない。
適当な名前では、あとあと後悔することになるだろうしなぁ……
でも、この受付譲をあまり待たせるのも申し訳ない。
う~ん。どうしたものか……
「ねぇお父さん……もし決まらないのなら、私が決めてもいいかな?」
「え? あ、ああ。別に構わないぞ」
「うん。それじゃ、ね……」
『マーテル』
そう、アイリは小さく呟いた。
しかし、
「ア、アイリ……さすがにその名前は……」
この名前は、世界に多大なる影響力を及ぼす、【マグナ・マーテル教会】と同じ……
さすがに、【勇者】であるアイリが所属する【クラン】が名乗るにしても、不遜だと誹《そし》りを受けてしまうかもしれない。
だが、アイリはこんな言葉を続けた。
「ねぇ、お父さん……【マーテル】ってね、お母さん、って意味もあるんだって」
静かに言葉を紡ぐ彼女の唇。
その表情は、先ほどまでの子供っぽさがウソのように、落ち着いたものだった。
「私、この【クラン】に集まる人たち皆が、家族みたいな人たちで……それを受け止めてくれる存在になるなら、【マーテル】……お母さんって名前が、一番しっくりくると思うの」
「……」
アイリ……もしかしてお前、『本当の』母親に……
いや、これを考えるのはよそう。
今は俺が、彼女の『親』なのだ。
「分かった。アイリがそう言うなら、この名前でいこうか」
こうして、俺たちの決めた【クラン】の名前に、受付譲は目を丸くして驚愕の表情を浮かべたが、特別何も言うことなく、最後に、
「いい名前ですね……どうか、女神様のご加護があらんことを、祈っておりますよ」なんて言葉を掛けてくれた。
もし他の人物なら、顔を歪めて俺たちの非常識ぶりを露骨に指摘したかもしれない。
だが、この人は随分と、心大らかに俺たちが決めた【クラン名】を祝福してくれた。
――こうして、俺達はクランを立ち上げた。
その名は、【クラン・マーテル】。
ここから、俺たちの新しい道が始まるのだろう。
――……しかし、その前に。
「それじゃお父さん! 用事は終わったんだから、さっそく街でデートしましょう! デート! デート!」
先ほどまでの雰囲気を完全にぶち壊して、俺の腕をがっちりホールドして引きずって行くアイリ。
そんな光景に、またしても周囲では苦笑いが浮かび、猫の受付譲も、
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