農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

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はじまりの夏

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「夏のダンスまつり?」

 メト(前世で言うトマトのことだ)をかじりながら、グロウがそんな事を教えてくれる。
「そう。夏のダンスまつり。男がエスコートして、三回キャンプファイヤーみたいなものの周りを回るんだよ。で、ラストダンスに一緒に踊れたものは結ばれる、なんて言われてる」
「へー……こっちにもそういうのあるんだね」
「へーじゃねぇよ!そこはオードを誘おうって気になれよ!」
「あ」
「あって……ああもう、本当にお前ってそういうところ鈍いのな」

 コモシ(これは前世のとうもろこしだ)の手入れに夢中になっていて途中聞いていなかったが、たしかにこれはチャンスかも知れない。
 二人の秘密も出来たことだし、もしかしたらチャンスが……?

「いや、ないでしょ。僕、この間までオードちゃんに嫌われてると思われてたんだよ?」
「それは全面的にお前が悪い」
「すみません……」
 そりゃまともに会話もしないわ、顔は見ないわじゃ嫌われてると勘違いされてもおかしくない行動だと思う。
 けれど二人の秘密で少しは点を稼げたと思うんだけどなぁ、多分。

「でもエスコートを申し込むって、どうやるのさ?」
「単純に一緒に踊ってくれませんかって誘えば良いんだよ」
「本当に? 適当言ってない?」
「言ってない言ってない。実際俺はそうしたわけだし」
「ふーん、じゃあ間違ってないのかー……って、え!?」
「なんだよ」
「グロウ、恋人いたの!?」
「いちゃ悪いか?」
「悪くないけどどこの物好きって、おっと! ちょっと、メトを粗末に扱わない!」
「お前が失礼なことを言うからだろうが! てかお前、なんでそんなにさっきからコモシの収穫ばっかしてるんだ? メトだっていっぱいなってるっていうのに」
「ああ、それは――」

「おーい!」

 説明をしようとしたところで丁度件の二人がやってきて、大きくこちらに向けて手を降っている。
 それに向けて控えめに手を振りながらあんなオードちゃんも可愛いなぁと思っていたら、脇腹にグロウの肘が突き刺さった。

「デレデレしてねーで説明しろよ」
「ああ、雑貨屋と酒場にコモシも納品することになったんだ。今日はその打合せ」
「聞いてないんだが?」
「言ってないもんね?」
 二人でそんな会話をしているうちに、女の子たちが近くまでやって来る。
 オードちゃんはいつものオーバーオールに半袖のパーカー。キョウはふわりとした白いトップスにショートパンツを履いていた。
「暑いねー。夏真っ盛りって感じ。ふたりは作業着で暑くないの?」
「暑いけどコレが一番だから。Tシャツに作業着が一番汚れても洗いやすいし」
「そうそう。汚れも目立たないしな」
「二人ってファッションとかそういうの興味なさそうだよねー……」
「わ、私も人のこと言えた義理じゃないけど……」
 そう言ってもじもじとオーバーオールのポケットに手を突っ込んで身体をくねらせる姿が可愛くて、キョウちゃん、グッジョブとか思ってしまう。
「オードは良いの! オードのそれはトレードマークなんだから! で、二人で何の話してたの?」
 そう言って開いていた木箱をひっくり返すと、キョウはおもむろに座り込もうとする。土にまみれたそれは泥まみれで、座ったらせっかくの服が汚れてしまいそうだった。
「わわっ! 待って待って、今敷布持ってくるから!」
「えー、気にしなくてもいいのに」
「良いから待っててー!」
 そういうとダッシュで家に戻ると、適当なTシャツを見繕って木箱にかぶせる。
「ふぅ……。はい、どうぞ」
「適当な布って……まさかのTシャツ!? ノルズくんってば本当に面白いんだから!」
 あははとお腹に手を当てて笑い出す二人に困惑して、え、え、と助けを求めるようにグロウに目を向ければ、こちらも爆笑中。
「な、面白いやつだろ? ふたりのどっちか、是非こいつのこと貰ってやってくれよな」
 意味がわからなすぎて一人困惑していると、笑いからいち早く戻ってきた具rぷがそう二人に声を掛ける。
「そうね、毎日が面白くなりそう」
 まだ笑いが収まらないのかヒィヒィ言いながらそういうのはキョウである。
「二人共、あんまり悪乗りしちゃノルズくんが可愛そうだよ?」
 と、こちらもまだヒィヒィ言っているオードちゃんである。

 そんなに面白いことをした覚えはないんだけれどもと首をひねるばかりの僕にはさっぱりで、困惑するばかり。

「ふぅ……。やっと笑いが収まったわ。で、何の話だったっけ?」
「ああ。夏のダンスまつりで誰をエスコートしたいのか聞いてたんだよ、こいつに」
 息を整えてそうキョウが言うと、グロウがそんな説明をする。
「ああ、夏のダンスまつり……って、え!? エスコートしたい相手がいるの、ノルズくん!?」
 そう大げさに驚くのはオードちゃんで、いや、したいのはあなたですと心の底から言いたくなる。
 これ、眼中にもないですって言われてるようなもんなんだけどなぁと心の中で凹んでいると、何故かキョウが手を差し出した。
「エスコート、うけてあげるわよ?」
「へ?」
「だから、エスコート! 私、毎年お父さんとばっかりで嫌だったし、え、エスコートしたいって言うなら仕方ないから私が受けてあげるわ!」
「……え?」

 これはここで手を取っておかないと、多分キョウが大恥をかくっていう場面であって。
 つまりここでの選択肢は一つしか選べなくて……?

 ちらりとグロウの方を伺えば、すいと視線をそらされた。見捨てられた!

「ほら、早く手!」
「あ、はい!」
「上からじゃなくて下から! そう、そっとちゃんとそっと私の手を取るのよ」

 そうして、僕のエスコートの相手はなぜかキョウちゃんに決まってしまい。
 オードちゃんはと言えば、ただそのやり取りをニコニコと見ているだけなのであった……。
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