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はじまりの夏
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その日、僕はせっせと山登りをしていた。
目的は一つ。
温泉卵を作るためだ。
グロウが何気なく言った、『オードちゃんお大好物は温泉卵』という単語は聞き過ごせなかった。
これを納品の時に毎日一個ずつプレゼントしたらどうだろうか?
そんな事を考えて今、山を登っている。
今まではそんな時間、朝にはなかった。
けれどもグロウが開発してくれた自動鶏卵採取装置でその手間が減った上に、水やりもグロウが作ってくれた自動水撒き機のおかげで作物の手間も格段に減ったおかげである。
本当にグロウ様。持つべきものは手先の器用な大親友である。
えっちらおっちらと登って、温泉にたどり着く。あとはここで十分ほど卵を茹でれば完成、というわけだ。
待つ間あたりを見回して、たけのこがあるのを発見したので今度取りに来ようと思っているとふと気づく。
オードちゃんだ。
滝の流れる革を見て、ぼんやりとしているのが見えた。
声を掛けるかかけまいか迷っていると、十分が経ってセットしていたタイマーがジリリとなる。
急いで温泉卵を引き上げると、そこには目をまんまるに見開いたオードちゃん。
ですよね。知ってました。
ここでじゃあこれで!なんてされるわけもなく。
「お、おはようございます」
「お、おはようノルズくん」
ほらぁ、沈黙が降りてきたぁ!
これ、あの日と同じやつだ。
僕が海で凹んでキョウちゃんと砂まみれになったあの日とおんなじやつだ!
「の、ノルズくんはここによく来るの?」
でも今日話しかけてきてくれたのは、オードちゃんの方で。
それに救われた気持ちになりながら、僕は口を開く。
「い、いや。今日始めてきたんだ。温泉があるって言うから入ってみたくて。つ、ついでに温泉卵でもって思ったら、いつの間にかオードちゃんがいてびっくりしたよ」
「あ、そうだったんだ。ご、ごめんねー、驚かせちゃって! 別にそういうつもりじゃなかったんだけど」
「こ、こっちこそ、なんかその……ごめんね」
「え、なんでノルズくんが謝るの!?」
「お、オードちゃんから謝られたから、つい!」
「……ついって! もう、ノルズくんは本当に面白いなぁ。今日はいつになく話してくれるし、私、嫌われてるのかなって思ってたよ」
「ま、まさか! ありえないよ!!!」
むしろ大好きだもん!!!
「そ、その!」
少しでもその思いを伝えたくて、僕なりに勇気を振り絞って。
「この温泉卵、じつはオードちゃんにって思って! だ、だ、大好きだって聞いたら!!!」
だ、大好きって言っちゃった! などと心の中では舞い上がるも、別に自分が大好きだといったわけじゃないじゃないと自分に冷静にツッコミを入れる。
そうでもしないと今こうして温泉卵を差し出せないのだ。
いらないって言われるのが怖くって、ありがとうって言われたらどうなるのか自分でもわからなくて。
そう、なんにもわからなくて。
「……私のため?」
「う、うん!」
「こんな朝早くから?」
「う、うん! あ、でもちゃんとあとから納品には行くからね!」
「うん、そういうところはきちんとしてる人だってちゃんとわかってるから大丈夫だよ」
「よ、よかったぁ……。仕事サボって何やってるんだって思われるのかと思った……」
「ぷっ」
「へ?」
「あはははははは!」
声を上げて、大声でオードちゃんが笑い出す。
僕は何が悪かったのか、なにが良かったのかもさっぱりわからなくて混乱するばかりで。
「ご、ごめんね。なんでもないの。私、ここには良い思い出しかなくって、ずっとそればっかり考えてたんだけど……ノルズくんのおかげで更新しちゃったかもしれない!」
「更新!? え、僕そんなにいいことしたっけ!?」
「うん。わたしにとってはとっても。ありがとう、すごく嬉しいよ」
「ほ、本当に?! これから毎日持ってくから! あ、それともここで渡す?」
「毎日くれるの? どうしよう、すごく嬉しいよ! この時間なら私は雨の日以外はここに居るから、ここでがいいな。お父さんに見られるとうるさいから」
「え? 見られたらいけないの?」
「いけないわけじゃないけど、なんだか二人の秘密って感じでわくわくしない?」
二人の秘密。
ふたりの、ひみつ……!
「うん!!!」
「あ、なんか大げさだったかな?」
「ううん! いいよ、二人の秘密! 僕も毎日ここに来て温泉卵作るから、その後も会えるしね!」
「う、うん?」
「嬉しいよ! オードちゃんと毎日二回も会えるなんて!」
「う、うぅん?」
「オードちゃん!」
「は、はい!」
「二人の秘密、頑張ろうね!」
「う、うん」
若干引かれ気味だったとノルズが気づくのは、オードと別れてから三十分後のことである。
目的は一つ。
温泉卵を作るためだ。
グロウが何気なく言った、『オードちゃんお大好物は温泉卵』という単語は聞き過ごせなかった。
これを納品の時に毎日一個ずつプレゼントしたらどうだろうか?
そんな事を考えて今、山を登っている。
今まではそんな時間、朝にはなかった。
けれどもグロウが開発してくれた自動鶏卵採取装置でその手間が減った上に、水やりもグロウが作ってくれた自動水撒き機のおかげで作物の手間も格段に減ったおかげである。
本当にグロウ様。持つべきものは手先の器用な大親友である。
えっちらおっちらと登って、温泉にたどり着く。あとはここで十分ほど卵を茹でれば完成、というわけだ。
待つ間あたりを見回して、たけのこがあるのを発見したので今度取りに来ようと思っているとふと気づく。
オードちゃんだ。
滝の流れる革を見て、ぼんやりとしているのが見えた。
声を掛けるかかけまいか迷っていると、十分が経ってセットしていたタイマーがジリリとなる。
急いで温泉卵を引き上げると、そこには目をまんまるに見開いたオードちゃん。
ですよね。知ってました。
ここでじゃあこれで!なんてされるわけもなく。
「お、おはようございます」
「お、おはようノルズくん」
ほらぁ、沈黙が降りてきたぁ!
これ、あの日と同じやつだ。
僕が海で凹んでキョウちゃんと砂まみれになったあの日とおんなじやつだ!
「の、ノルズくんはここによく来るの?」
でも今日話しかけてきてくれたのは、オードちゃんの方で。
それに救われた気持ちになりながら、僕は口を開く。
「い、いや。今日始めてきたんだ。温泉があるって言うから入ってみたくて。つ、ついでに温泉卵でもって思ったら、いつの間にかオードちゃんがいてびっくりしたよ」
「あ、そうだったんだ。ご、ごめんねー、驚かせちゃって! 別にそういうつもりじゃなかったんだけど」
「こ、こっちこそ、なんかその……ごめんね」
「え、なんでノルズくんが謝るの!?」
「お、オードちゃんから謝られたから、つい!」
「……ついって! もう、ノルズくんは本当に面白いなぁ。今日はいつになく話してくれるし、私、嫌われてるのかなって思ってたよ」
「ま、まさか! ありえないよ!!!」
むしろ大好きだもん!!!
「そ、その!」
少しでもその思いを伝えたくて、僕なりに勇気を振り絞って。
「この温泉卵、じつはオードちゃんにって思って! だ、だ、大好きだって聞いたら!!!」
だ、大好きって言っちゃった! などと心の中では舞い上がるも、別に自分が大好きだといったわけじゃないじゃないと自分に冷静にツッコミを入れる。
そうでもしないと今こうして温泉卵を差し出せないのだ。
いらないって言われるのが怖くって、ありがとうって言われたらどうなるのか自分でもわからなくて。
そう、なんにもわからなくて。
「……私のため?」
「う、うん!」
「こんな朝早くから?」
「う、うん! あ、でもちゃんとあとから納品には行くからね!」
「うん、そういうところはきちんとしてる人だってちゃんとわかってるから大丈夫だよ」
「よ、よかったぁ……。仕事サボって何やってるんだって思われるのかと思った……」
「ぷっ」
「へ?」
「あはははははは!」
声を上げて、大声でオードちゃんが笑い出す。
僕は何が悪かったのか、なにが良かったのかもさっぱりわからなくて混乱するばかりで。
「ご、ごめんね。なんでもないの。私、ここには良い思い出しかなくって、ずっとそればっかり考えてたんだけど……ノルズくんのおかげで更新しちゃったかもしれない!」
「更新!? え、僕そんなにいいことしたっけ!?」
「うん。わたしにとってはとっても。ありがとう、すごく嬉しいよ」
「ほ、本当に?! これから毎日持ってくから! あ、それともここで渡す?」
「毎日くれるの? どうしよう、すごく嬉しいよ! この時間なら私は雨の日以外はここに居るから、ここでがいいな。お父さんに見られるとうるさいから」
「え? 見られたらいけないの?」
「いけないわけじゃないけど、なんだか二人の秘密って感じでわくわくしない?」
二人の秘密。
ふたりの、ひみつ……!
「うん!!!」
「あ、なんか大げさだったかな?」
「ううん! いいよ、二人の秘密! 僕も毎日ここに来て温泉卵作るから、その後も会えるしね!」
「う、うん?」
「嬉しいよ! オードちゃんと毎日二回も会えるなんて!」
「う、うぅん?」
「オードちゃん!」
「は、はい!」
「二人の秘密、頑張ろうね!」
「う、うん」
若干引かれ気味だったとノルズが気づくのは、オードと別れてから三十分後のことである。
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