農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

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はじまりの夏

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 ダンスパーティーの当日。

 着飾った各々のメンバーがキャンプファイヤーのようなものを囲い、談笑していた。
 今はまだ音楽も鳴っておらず、皆の声だけが聞こえてくる。

「じゃーん! この人が俺の恋人、マリンです。よろしくな、ノルズ」
「マリンと申します。噂によればグロウの親友だとか。以後、お見知りおきを」
「あ、いえ。こちらこそいつもグロウにはお世話になってます。よろしくお願い致します」
「って、お見合いかよー! なんでそんなに固くなってるんだよノルズ! ほら、まつりだぜ? パーティーだぜ? 盛り上がっていこうぜー!!!」
「あなたは盛り上がり過ぎだわ、グロウ。少し落ち着いて」
「お、おう……。なんかすんません」
 どうやら早速尻に敷かれているようだ。
 そんな二人を見つつ、僕の周りにはキョウちゃん、オードちゃんも一緒に集まっている。

 今朝は大変だったのだ。
 農作業をしていたら、キョウちゃんがやってきてじっと作業の間僕の様子を監視されていた。
 その目からはまだかまだかというオーラが出ていて、正直怖かったです。

『今日も元気だね。美味しく育ってね』と僕がメトに話しかければじっと見られ、『今日は元気がなさそうだね。暑くなりそうだから水をちょっとだけ多めにあげるね』といえばじっと見られ。
 とにかく落ち着かなかった。
 リニアのブラッシングを終えてすべての作業を完了した辺りでグロウとオードちゃんも現れて、本当ならこの時間に大体集まるのだと教えられて、正直驚愕した。
 だってキョウちゃんはそれよりもずっとずっと前から僕の家にいたのだから。

 それからグロウが持ってきたスーツに着替えさせられて、広場に集まって。
 人の多さにおののく僕の背をグロウが押しながら、町長や町の皆さんに挨拶をして回った。
 その中にはカノンさんや見知った人もいたり、初めて会う人もいていちいち神経がすり減って。僕の心はもうクタクタだった。

「もう、なーに? エスコート役のノルズがそんなんじゃ私が大変になっちゃうじゃない! ほら、しゃきっとしてしゃきっと!」
「そ、そんな事言われてもー……」
「まあまあ、キョウ。ノルズくんは春に越してきたばかりだから、色々と大変だったんだよ。はい、ジュース。コレでも飲んで一息一息」
 オードちゃんが女神に見えた。本当に。
「つ、疲れたならベンチで休む? ほら、あそこ開いてるから。行きましょう?」
 そう言ってキョウは僕の腕を引いてベンチに座らせてくれて、隣に自分も座る。
 その反対側には当然のようにオードちゃんが座ってくれて、なんだか癒やされる一時だ。
「両手に花だな、羨ましいこって」
「あら、私という花だけでは不服?」
「俺には一輪の花だけで十分さ」
 誰だお前は。
 突っ込みたくなる気持ちを抑え、ベンチの前でいちゃつくグロウとマリンさんを見ていると、町長の声が聞こえてきた。
「えー、本日は収穫の神へ捧げるダンスパーティーにお集まりいただき、ありがとうございます。さあ、みんなで踊って飲んで、食べて祝いましょう!」
 その合図とともにわーっと会場がざわめき始める。
「収穫の神に捧げるダンスパーティー?」
「あら、知らなかったの? これはそういう意味合いを持ったお祝いなのよ。さ、少しは休めたでしょう? 踊りに行きましょう!」
「って、うわぁ! 待って待って、急に引っ張らないで!」
 キョウが僕の腕を持って、会場へと飛び出していく。
 ダンスパーティーと言っても格式張ったものではないらしく、各々に好きなようにいろんなダンスを踊っていた。
 僕らは手をつないでキョウの赴くまま、揺れたり跳ねたり回ったり。
 なんだかんだで楽しくなて、僕もそれに合わせて踊る、踊る。
 そんなこんなをしているうちに一曲目が終わって小休止となり、元のベンチに戻るとオードちゃんがジュースを持って待っていてくれた。

「二人共、楽しそうだったね」
「そう? でも飛んだり跳ねたりするのは楽しいわね。ゆっくり踊るよりも、私にはこっちのほうが性に合ってるもの。ついてこれるあんたもなかなかよ、ノルズ」
「まあ流石に体力はついてきたからね。三曲まであるんだっけ? 踊りきれるかなー?」
「そ、そこは最後に――」
「あのね!」
「へ?」
 キョウが何かを言いかけた時、オードが口を挟む形で言葉を遮った。
 何事かと二人でオードの方を見やれば、真っ赤な顔をしてプルプルと子鹿のように震えるオードちゃん。こんな姿、初めて見た。

「に、二曲目は私とどうかな、ノルズくん!」

 はて、空耳が聞こえたのだろうか? それとも幻聴? なんか今、オードちゃんから誘われたような気がしたんだけども。

「わ、私はお父さんとしか踊ったことしかないからゆったりめのダンスしか知らないし、間に挟むには丁度いいかなって! だから、どうかな?」
 今度は真っ直ぐに目を見て言われて、これが幻聴ではないのだということを悟る。
 僕、今オードちゃんから誘われてるんだ。
「ぜ、是非!!!」
「え!? ちょ、ちょっノルズ!」
 キョウの声が聞こえた気もするけれども、僕は今それどころではなくて。
 そんなことよりも、今、言わなければいけないことがあって。
「オードちゃん、僕と踊ってください!!!」
 そう言って頭を下げて目一杯、オードちゃんの方に手を伸ばして。
 手汗が酷い気がする、今すぐ拭いたい。でも、手を撮ってもらえるまでそれは出来ない。
「……はい」
 そっと、僕の手にふれるオードちゃんの柔らかな手。
 思わずその瞬間にバッと顔を上げて、
「ありがとおおおおおお!」
 叫んでしまった。

 周りからは何だなんだと好奇の目に晒されるけれども、今はなんにも気にならない。
 そんなことよりオードちゃんと踊れる、それだけが僕には嬉しいから。

「……そういうことなんだ、オード」

 だから、キョウが呟いたその言葉も耳にも入らなかった。
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